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218.ビリビリアターック!!

「リリリリリ!!」


そこまでうるさくは無いけど、確実に誰の耳にも届くような鋭い警報音が鳴る。ディルが警戒するように素早く腰に下げていた魔剣に手を当てて、スズメが床に無造作に置かれていた杖を拾う。そしてわたしは「なになに!?」と頭に手を当てながら素早くディルの後ろに隠れる。


 まさか、無法海域に入って早々に海賊と出くわしたの!?


コンコン


そんな呑気なノック音が聞こえた。


「スズメ、わたくしです。ヒバリです。ソニア様はいますか?」


スズメが扉を開けると、ニッコリと柔らかい笑みを浮かべたヒバリが、後ろに数人の魔法師を連れて立っていた。


 随分と余裕そうな雰囲気だけど、そんなに切羽詰まった感じじゃない?


わたしがそーっとディルの後ろから姿を出すと、ヒバリはわたしの格好を見て「ぶぷぁ!!」と吹き出した。


「その格好、とてもお可愛らしいですわ。ソニア様」

「あ、どうも」


ヒバリの余裕そうな態度に、ディルも魔剣から手を放して強張った体を解すように息を吐く。


「警報は聴こえていましたわよね。見せたいものがあるのです。こちらへどうぞ」


わたしとディルとスズメはヒバリに案内されるまま、甲板に出る。


「あちらをご覧ください」


そこには、たぶん海賊らしき船が二隻、大砲を撃ち合って戦闘をしている風景が遠くの方に見えた。


「海賊同士の抗争です。この無法海域では頻繫にあのようなことが起きます。もし、これから先にあそこに見えるような海賊船を目撃したら、魔法師団の誰かに報告をして、ソニア様には避難して頂きたく存じます」


その言葉に、わたしではなくディルが真面目な顔で頷いて、口を開いた。


「それで、あの海賊船はどうするんですか?」

「素通りします。わざわざ首を突っ込む必要も無いでしょうから」

「確かにそうだな。じゃあ、ソニア。一応部屋に戻って姿を隠して・・・」


(ニャー!!)


「え?」


突然、猫さんの鳴き声が聞こえた。キョロキョロと周囲を見回すけど、猫さんの姿なんて見当たらない。


「どうしたんだ? ソニア」

「いや・・・なんか猫さんの鳴き声が聴こえた気がしたんだけど、気のせいだったみたい」


(ニャーニャー!!)


「っ!?」


 気のせいじゃない!? 確かに聴こえる! しかも・・・


「頭に直接・・・これってテレパシー?」


不思議と鳴き声の主の居場所が分かった。遠くに見える二隻の海賊船の片方だ。鳴き声からは助けを求めるような焦りの感情が伝わってくる。


「あの海賊船に猫さんがいる・・・」

「え? あそこにか?」


ディルが身体強化をして遠くを睨むけど「見えないぞ?」と首を傾げる。スズメとヒバリは「ソニア様がそう言うならそうなのでしょう」と頷く。


「鳴き声が聴こえるの・・・頭に直接・・・」


(ニャー!!)


 かなりピンチみたい・・・。


「ごめん! ディル! わたし助けに行く!」

「はぇ!? マジか! ちょ・・・」


ビュンと飛び出す。後ろでヒバリが「スズメ!」と叫び、スズメが「分かっていますわ!」と杖に跨って飛び出して、ディルが「俺も連れてけ!」と杖にしがみついて二人して海にボチャン!と落下しているけど、構ってる余裕はない。


大砲で撃ち合ってるだけかと思ったら、船の上でも剣を交えて戦っていた。ロープかなんかを使って船から船へと渡っているみたいだ。たくさんの荒くれものが血を流しながら甲板の上で戦っているのを、わたしは上から見下ろす。


 猫さんはどこ?


(ニャーニャー!!)


 居た!!


船の端っこの方で小さく丸くなっている黒猫が見えた。


「今助けるからね!!」


素早く黒猫のもとに降り立つ。運良く誰にも見つかっていない。わたしは小刻みに震える黒猫の背中をそっと撫でながら「助けにきたよ」と囁く。


「にゃ?」


黒猫がそーっとわたしを見て「にゃ!?」と勢い良く後ろに飛び跳ねた。明らかにわたしを警戒してる。


「だ、大丈夫だよ~。わたしは悪い妖精じゃないからね~・・・ほら☆」


ダメもとでウィンクしてみる。黒猫は大きく目を開けたあと、そろりそろりと近づいてきて、わたしの体に顔をスリスリしてきた。かわいい。そして臭い。でもかわいい。


 可愛いけど、今はそれどころじゃないよ。


黒猫は子猫にしては大きくて、大人にしては小さい。毛の色が綺麗な黒色で、なんだかディルに似ている気がする。


「なんだあの珍しい生き物は!?」


海賊の1人が、わたしと黒猫を指差してそう叫んだ。


 見つかった! 珍しい生き物ってわたしのこと? それとも黒猫のこと? ・・・わたしだよね。


「へへへ・・・こりゃやべぇな。おいてめぇら! 珍生物(かね)だ! 珍生物(かね)が落ちてるぜ!」


 わたしを金呼ばわりしないで!? まさか妖精をご存知ない!?


「うぉ!? なんだあのちっせぇ生き物は!?」

「おいどけ! あのちっせぇの(かね)は俺達のもんだ!」

「ふざけんな! こっちの船に乗ってんだから俺達のもんだろうが!」


 やばいやばいやばい! 今まで戦い合ってた海賊達が一斉に標的をわたしに変え始めた!


「しょうがない・・・こうなったら実力行使で・・・うひゃん!!」


軽く電撃で威圧しようと思ってたら、突然、黒猫に羽を咥えられた。そして海賊から逃げるように駆け出す黒猫。


「ちょっ・・・放してぇ! 羽はっ・・・羽はホントに駄目だからぁ!」


黒猫がわたしを振り回しながら走る。視界がぐわんぐわん回る。


 は、走るの下手くそか!!


ヨッタヨッタと走る黒猫。フォームは滅茶苦茶だけど、スピードはあるみたいで、海賊の足元を縫うように走り、辛うじて捕まっていない。


回る視界のなか、黒猫が見当違いの方向に逃げているのだけは分かる。視界に写る海賊の数が明らかに増えていってる。


「この・・・ちょこまかと・・・うらぁ!!」

「ぅにゃあ!!」


 へわっ!?


急に体が浮いた。黒猫が海賊に蹴飛ばされて、壁に体をぶつけているのが見える。投げ出されたわたしは、慌てて黒猫に近寄る。


「黒猫さん! 大丈夫!?」

「にゃ、にゃ~~」


 よかった・・・苦しそうにしてるけど、なんとか無事みたい。


黒猫を背に庇いながら、キッと蹴とばした海賊を睨もうとしたけど、わたしを取り囲む海賊は何十人もいて、誰が蹴とばしたのか分からない。


「へっへっへ・・・手こずらせやがって」


1人の海賊がナイフを片手に近寄ってくる。


 え? そのナイフなに!? 金とか言ってたから捕まえて売ったりするんじゃないの!? そんな大きなナイフで刺されたら死んじゃうよ!? わたしの身長よりも長いよね!?


「お前は生け捕りじゃあ!」


そう言いながら、ナイフを振り下ろしてくる馬鹿な海賊。


「ひぃ!! ビ、ビリビリアターック!!」


咄嗟に体に超高圧電流を纏わせて突撃する。咄嗟のことだから、技名も適当だ。


 あっ、しまった! 死んじゃうかも・・・相手が。


そう思った時にはもう遅い。わたしは止まらない。止められない。焦る頭が視界をスローモーションにする。わたしの体が海賊に届くその瞬間、もの凄いスピードで上からディルが降って来て、海賊を蹴とばした。そして、超高圧電流を纏ったわたしの体は、ディルにぶつかる。


「ディル!!!」


バチバチィン!!


 あ、ああ・・・わたしの電撃が・・・ディルに・・・。やっちゃった・・・。


さっき海に落下して、水浸しのディルに電流が走る。それを見るわたしの目から涙が流れてくる。


「ぐっ・・・だ、大丈夫だ。なんとも・・・あれ? ホントになんともないぞ?」


 ・・・!?


自分の体を見下ろして首を傾げるディル。ポカーンとするわたし。啞然とする海賊達。沈黙が流れる。


「え、ホントになんともないの?」

「あ、ああ。俺も流石にダメかと思ったけど、痛みすらない。むしろ気持ちよかった」

「え・・・こわっ」


 安心を通り越して、もはやこわいよ。いや、無事で本当に良かったんだけどね? 本当に。


「思ったよりも威力が弱かったのかもな。・・・それで、助けたかった猫ってのはその子か?」


ディルが優しい目で黒猫を見る。わたしが黒猫にしがみ付きながら「うん!」と返事をすると、ディルは上を見た。


「スズメ」

「分かっていますわ」


杖に跨っているスズメがゆっくりと降りてきた。スカートの中に短パンを履いてるあたり、流石だと思う。色々な方向で。


「突然、飛び出したソニア様もですが、ディル様も、水球で俺を運んでくれなんて・・・無茶を言いますわよね」


スズメはそう言いながらわたしと黒猫に杖を向ける。その瞬間、わたしの周りに水の膜が出来た。


「ソニア様、その中にいれば安全ですわ。動かないでくださいませ」

「わ、わかった!ありがとう!」


スズメは黒猫と抱き合うわたしを見てへにゃりとだらしない顔で笑ったあと、引き締めた顔を作って様子見をしていた海賊達を見る。


「ディル様、こいつらがソニア様のことを金呼ばわりしていたのが聴こえたのですが?」

「ああ、しかも、ソニアを蹴とばした挙句ナイフを振りかざしてた」

「・・・ほう」


 蹴とばされたのはわたしじゃなくて黒猫なんだけど・・・なんだか2人の雰囲気が怖くて言えない。


「死なせないからな」

「死なせませんわよ」


2人の低い声が重なる。わたしを背に、何十人もの武器を持った海賊達に向かい合い、それぞれ魔剣と杖を構えるディルとスズメ。明らかに不利な状況なのに、何故か2人が負ける気がしない。


「なんだか分からねぇが、身綺麗な女と、童顔の少年か・・・金が増えただけじゃねぇか!! うしろのちっせぇのと一緒に・・・ぶふぁあ!!」


叫んでいた男が吹き飛ぶ。早すぎて見えなかったけど、ディルが高速で蹴った・・・いや、スズメが杖を構えてるからスズメが何かしたのかな? まぁ、どっちでもいいけど。


「ディル様。ちゃんと手加減してくださいね? ソニア様の前ですわよ」

「スズメこそ。感情的になって加減を間違えるなよ」


「フッ」と不敵な笑みを浮かべるディルとスズメ。なんというか・・・そこからはもうあっという間だった。思わず嫉妬しちゃいそうな見事なコンビネーションで、海賊達は倒された。その頃にはヒバリが乗っているカイス妖精信仰国の船も近くまで来ていて、魔法師団によって残りの海賊達も全員倒された。


「2人とも、助けてくれてありがとう」

「にゃ~」


後始末をヒバリと魔法師団の人達に任せて、わたしはカイス妖精信仰国の船の甲板の上で、黒猫に跨りながら2人にお礼を言う。黒猫も心なしか感謝しているように見える。


「ぐふっ・・・猫とソニア様・・・可愛いすぎますわ・・・食べちゃいたい」

「・・・それにしても、何でその黒猫の声はソニアの頭に直接届いたんだ? というか、何であんな海賊船に猫がいたんだよ」

「分かんない」


 そんなこと聞かれても分かるハズがない。分からないことは考えるだけ無駄だ。わたしのちっちゃな頭では、いくら考えてもどうせ分からないんだから。


「まぁ、こうして無事に助けられたんだから良かったじゃん。ねぇ、デル」


わたしはそう言いながら、黒猫の頭を撫でる。黒猫は無反応だ。


「なんだよ、そのデルって・・・まさか黒猫の名前か?」


ディルがそう言って凄く嫌そうな顔をする。


「どことなくディルに似てるから、デルだよ」

「確かに。どこがとは言い難いですけど、ディル様に似ていますわね」

「・・・やめてくれ。なんか嫌な記憶を思い出す。それに、その黒猫まったく反応してないじゃん。既に名前があるんじゃないのか?」


 確かに・・・。やけに人に慣れてるしね。


試しに色んな名前で呼んでみたけど、一つも良い反応をしてくれなかった。


「とりあえず。この子はこの船で面倒を見よう。ちゃんとわたしがお世話をするから、いいよね? ね?スズメ」


ギュッと猫の首根っこを抱きしめて、ここぞとばかりに上目使いであざといポーズをする。


 ここで捨てて来なさいなんて言われたら困るからね。


案の定、スズメと、ディルまで相好を崩して了承してくれた。


 よしっ! 可愛い旅のお供ゲット!!

読んでくださりありがとうございます。

ディル「俺も連れてけ!」

スズメ「はぁ!? 無茶言わないでくださ・・・お、おも!?」ボチャン!!


スズメだけは空の魔石を使ってすぐに濡れた服や髪を乾かしました。

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