表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/334

217.破壊力が強すぎる

ドレッド共和国がある大陸の端っこ、その海岸で火の妖精に「次に会う時は雷の妖精の記憶が戻ったあとかもな!」と見送られてから数日が経った。


わたしとディルは今、スズメのお母さんであるカイス妖精信仰国の王妃様が乗っていた帆の無い大きな船に同乗させてもらい、カイス妖精信仰国に向かっているところだ。


「うーん! 潮風が心地いいね!」


空は快晴、海は穏やか、風はそこそこ、丁度いいお天気のなか、わたしは船の上で海を眺めながら歩いていた。


影芝居の為に練習して歩けるようになってから、歩くのが好きになった。それに、どういう原理か知らないけど、この船は帆も無いし、外輪も無いのに、物凄いスピードで海を進んでいるお陰で、風が気持ちいい。


 やっぱり、こうやって腕を振って足を動かして歩くのは気持ちいいね! 人間だった頃は歩くのが億劫に感じることも多かったけど、今はなんだか散歩が趣味になりそうだよ!


そんなことを思いながら意気揚々と歩いていたら、急にわたしの真横に誰かの足が「ダンッ」と降ってきた。突然の出来事に、わたしは目を真ん丸にして「きゃあ!」と飛び跳ねる。


「あ、あぶなかった・・・ぺちゃんこになるところだったよ・・・」


わたしは頬を膨らませながら上を見上げて、足の持ち主を睨む。知らない女の人だった。いや、確かカイス妖精信仰国の魔法師団?とかいう団体の1人・・・だと思う。うん、皆お揃いの白いローブを着てるから間違いない。


「ちょっと! 危ないでしょ!? ちゃんと前を向いて歩いてよ! あと少しずれてたら大変なことになってたよ!?」


足元からビシッと指を差して注意する。魔法師団の女の人は、わたしを見下ろして目を見張ったあと、顔を真っ青にして床に頭を擦り付けた。


「も、ももも、申し訳ございません! どうかお許しを・・・いえ! この身を海に投げ捨てて償います!」

「え!? いやいや! いいから! そこまでしなくていいから! うえぇ!? ちょちょ!柵から身を乗り出さないで!?」


わたしが女の人のローブを掴んで「許すから!今後気を付けてくれればいいから!マジでやめてー!」と何度も叫んだ結果、女の人は不満気な顔で「気を付けます」と言って去っていく。


・・・というようなやり取りを、船に乗ってから何度か繰り返している。


 ホント、疲れちゃうよ。歩くのは心地いいけど、カイス妖精信仰国の人達は何故か前方不注意気味だし、注意したら大袈裟に謝ってくるし・・・色々と面倒臭い。散歩、諦めようかな。


「ハァ」と溜息を吐いて、俯きながらトボトボと歩いてたら、コツンと頭を何かにぶつけた。前を見ると、ディルの手があった。しゃがんでわたしを見下ろしている。


「ちゃんと前を向いて歩かないと危ないぞ」


ディルはそう言いながらわたしを手のひらに乗せて、肩に乗せる。


「前を向いて歩いてないのは他の人達だよ。もう何回も踏まれそうになってるんだから・・・」

「あ~・・・それでか、最近やたらと下を見ながら歩いてる人が多いなと思ったんだよ。さっきなんて女の人がそのまま壁に激突してたぞ。楽しそうに歩いてるから何も言わなかったけど、本当に踏まれたら笑い事じゃなくなるから、悪いけどもう普通に飛んでくれないか?」


ディルがわたしの頭をクリクリと撫でながら申し訳なさそうに言う。


 しょうがない。散歩は人が少ない夜にしよっと。


「・・・はーい」

「何だ、その微妙な間は・・・」


特にすることも無いからディルの肩に乗ったまま寛いでたら、ディルはわたしを肩に乗せたまま、船上にあるスズメの部屋に向かった。ちなみに、わたしの部屋でもある。そして、ディルの部屋もわたしの部屋でもある。この機会にスズメとはもっと仲良くなりたいと思って、たまにスズメの部屋でも寝てるんだよね。


「ディルがスズメの部屋に行くなんて珍しいね? 何しに行くの?」

「さっき、スズメがソニアのことを探してたって魔法師団に教えてもらったんだ。俺がスズメの部屋に行くんじゃ無くて、ソニアをスズメの部屋に連れていくんだよ」

「そうなんだ。昨日はスズメの部屋で寝てたんだけど・・・何かあったのかな?」


ディルがコンコンとスズメの部屋の扉をノックして、「俺だ。ディルだ。ソニアを探してるって聞いたから連れて来たぞー」と大きな声で言う。すぐに扉が開かれて、相変わらずドレス姿に違和感しかないスズメが顔を出した。


「ソニア様。良かったですわ。お話があって、もう一度探しに行こうかと思っていたところだったのです」

「そうなの? 今朝の内に話してくれればよかったのに・・・」


 普通に「おはようスズメ」「おはようございますソニア様」ってやり取りしたよね? その時に話せば良かったのに。


「先ほど魔法師団長から、もうじき無法海域に入ると報告がありました。出港する時にお母様が説明していたと思いますが、もう一度改めて説明を、と思ったのですわ。・・・ソニア様、お母様が説明していた無法海域のこと、覚えてますか?」

「・・・・・・うん」


そーっと目を逸らしながら返事をする。ディルが「説明中におっきな欠伸してたもんな」とわたしの頬を突く。


 だって、ディルが聞いてるから別にわたしが聞かなくてもいいかなって思ってたんだもん。


「・・・もう一度説明致しますので、中にどうぞ。あ、ディル様もご一緒に」

「俺も入っていいのか? その・・・男だぞ?」

「構いませんわ。寮でも異性のわたくしがディル様のお部屋に入っていましたし」

「それもそうだな。今更気にするようなことじゃないな」


スズメが「どうぞ」と扉を大きく開けて、ディルが「おじゃまします」と中に入って・・・動きを止めた。そして、信じられないものを見たように大きく目を見開く。


「え・・・きったない!! なんだこれ、めっちゃ散らかってるじゃん! 想像してた王女様の部屋じゃない!」


ディルが失礼なことを言うので、わたしは肩から飛んでディルの顔の前で腰に手を当てて「めっ」と叱る。


「王女様だからって煌びやかな部屋なわけないでしょ? 普通の女の子と同じ部屋だっていいじゃない!」

「普通の女の子の部屋でも無いだろ! いや、女の子の部屋なんてネリィの家くらいしか入ったことないけど! たぶん普通の女の子でもここまで散らかってないぞ!」


ビシッと部屋中を指差すディル。足の踏み場がないくらいに床に色々な物が置かれてるけど、別に散らかってるわけじゃない。ただ物を置いてるだけだ。


「これのどこが散らかってるというのです? 大妖精であるソニア様も散らかっていないと言ってましたわ」

「スズメもソッチ側かよ・・・。ハァ。もう、このまんまでいいから話を始めてくれ。船を降りる時に後悔しても知らないからな」


ディルは仕方なさそうに肩を竦めてその場で胡坐をかく。わたしはふわりと飛んで、スズメの私服が無造作に置かれているベッドの上に座り、スズメは足で床にある物を退けながら、椅子まで移動して座る。


「無法海域とは、その名の通り法が無い、通用しない海域のことですわ」


スズメは昨日の夜から置いてあった紅茶をクピッと一口飲んで、真面目な顔で話し出す。ディルが「よくこんな環境で真面目な話ができるな」と呆れた。


「その理由としては、その海域がどこの国にも属していないからなのですわ。なので、法律がありません」

「へぇ~・・・って、そんなことで無法海域なんて物騒な呼び名になるの?」


 この世界の海こわっ・・・国際法とか無いの? 無いんだろうな。


「いえ、それだけでは無く、とても穏やかな海域なのです。他にもどこの国にも属していない海域はあるのですが、どこも荒れている海域で、凶暴な魔物がいたり、天候が酷かったりと、まともに航海できるような海域でなないのです」


 あ、そこ、わたし達通ったことあるかも。ブルーメから土の地方に行く時に。あの時は凄い悪天候なうえに、滅茶苦茶な数の魔物に襲われたもん。ディルも微妙な表情してるよ。


「というわけで、法律が無く、素人でも頑張れば航海可能なこの海域では、海賊がたくさんのさばっているのです」

「確かに危険だね。でも、迂回すればよくない?」

「迂回すると、倍は日数が掛かります。大丈夫ですわ。この船に乗っている魔法師団が海賊如きに負けるハズがありませんし・・・」


言いながらディルを見る。


「俺もいるからな。ソニアは絶対に俺が・・・」

「わたくしとディル様でお守りしますわ」

「あ、うん。そうだな。2人で守るよ」


ディルとスズメはお互いを見合って「フッ」と笑ったあと、優しい目でわたしを見てくる。


 わたしも守られてばかりじゃないからね! 戦ったりとかは相変わらずこわいけど、2人が傷つく方がこわいもん。


「そういうわけですので、もし警報が鳴ったら、ソニア様は身を隠してくださいませ。海賊が妖精に対してどのような反応をするのか予測出来ませんので」


 同じ海賊のマイク達には「姉御」って言われて慕われてたんだけどね。全部がそんな優しい海賊なわけないもんね。


わたしは手を挙げて「はーい」と返事する。話はそれで終了だったみたいで、スズメは欠伸を嚙み締めるように目を細めて「暇ですわね」と呟いた。


 そうなんだよね。する事が無いんだよね。ディルは光の盾の魔石と魔剣の魔石を同時に発動させる特訓をしてるみたいだけど、わたしとスズメはする事が無い。ちなみに、スズメはお母さんのヒバリから大妖精様(わたし)の相手をするように命令されているらしい。


「そういえば、ソニア様はお着替えになりませんの?」


ベッドの上でスズメの私服にくるまってゴロゴロしてたら、不意にそんなことを聞かれた。ディルも「そういえば」と乗っかってくる。


「いつも他の国に行く時は服装変えてたもんな。カイス妖精信仰国にはその服で行くのか?」


今のわたしは、ノースリーブの白いワンピースに、中には短パンという、くるみ村を出た当初に着ていた服装だ。いつの間にか学園で着ていた制服が無くなっていたから、とりあえずコレに着替えてそのまんまだった。


「確かに毎回何だかんだ別の服に着替えてたね~。うーん、別にこのまんまでもいいんだけど・・・」


チラッとディルを見ると、期待するようなソワソワした雰囲気を感じた。


「あっ、じゃあディルが服を選んでよ! 選んでくれたら、着るからさ!」

「え!? 俺がか!?」

「うん! わたしの荷物(着替え)はスズメの部屋に持ってきてたハズだから・・・」

「これですわよね」


スズメがどこからともなくわたしの着替えが入った布袋を取り出して、わたしの前に置いた。ディルが「こんな散らかってるのに、よくどこにあるか分かったな」と呆れ半分、感心半分で言う。何度も言うけど、散らかってるわけじゃない。


わたしは自分の着替えが入った布袋を持って飛んで、ディルの前に落とすと、ディルは上手くキャッチした。そして、わたしと渡された布袋を交互に見て、困った顔になる。


「これ、開けて・・・いいのか?」

「え? 開けないと選べないでしょ? 何言ってるの?」

「そ、そうだよな。選べないよな・・・」


ディルはそう言って、何故かゴクリと唾を飲んで、じーっと布袋を見下ろす。


「ディル様」


スズメがひんやりとした低い声でディルの名を呼んだ。ディルのことを軽蔑するような、ジトリとした目で見ている。


 なに!? なんか分かんないけどこわい!


ディルはそんなスズメを見てバツの悪そうな顔になって、ガシガシと頭を掻いた。


「・・・そ、そんな目で見なくても分かってるって! ハァ・・・ソニア」

「なに?」

「この布袋さ。ソニアの着替えが入ってるんだろ?」

「うん」

「下着も入ってるんじゃないか?」

「・・・あぁ! そうだった!!」


 滅多に下着を変えないから忘れてたよ! ・・・違うからね!? 妖精は排泄しないし、体が汚れることもないから変えてないだけだからね!? 綺麗だからね!?


わたしはいそいそと布袋を回収してスズメに渡す。ディルに下着を見られるのはまだ恥ずかしい。


「じゃあ、スズメが選んで」

「わたくしがですの!?」

「うん。よっぽど変じゃなければ何でもいいよ」

「わ、分かりましたわ!」


スズメが妙に強張った顔で布袋の中を漁り始めると、ディルが「じゃあ俺は外で見張りでもしてるな」と出ていった。


そして一時間後・・・


「決まりましたわ! これですわ!」


暇すぎて光を使った新しい技を試していたわたしの前に、スズメが得意気な顔で服を置く。着丈の短い白いTシャツに、デニムっぽい生地のショートパンツだった。


 長考してたわりには凄いシンプルだね・・・。


「ど、どうでしょう!?」

「いいんじゃない? 着替えてみるね!」

「はい!」


スズメがクルッと後ろを向いて「どうぞ着替えてくださいませ!」と言う。


 別にスズメに見られても平気なんだけど・・・一緒にお風呂に入ったこともあるし。・・・まぁいいや。


早速、今着てるワンピースを脱いでそこら辺にポイして、スズメが選んだ服を着る。


 後ろに切れ込みがあって羽が出せるのはいいんだけど・・・おへそが出てるのがちょっと恥ずかしいかな? 人間だった頃もへそ出しコーデなんて試したことも無かったし・・・。


ついでに髪も結んじゃう。ポニーテールにして、マリちゃんとお揃いの青いリボンを結んだ。


「スズメ、着替えたよ~」


くるっと振り返るスズメ。わたしを見て、「ぐぷぁ!」と何かを吹き出すのを必死に両手で押さえた。もうこんな反応にも慣れたものだ。わたしは軽くスルーして、ディルにテレパシーを送る。


 ディル~! 着替え終わったから戻っておいで~!


ガチャン!


すぐに来た。


「ぐぷぁ!?」

「ディルまで!?」


スズメと同じように両手で口を押さえて、震えながら「破壊力が強すぎる」と小さく口から零す。グッと親指を立て合うスズメとディル。


 分からない。わたしには分からないよ。何がそんなにいいの!?


口を開けて2人を見ていたその時、「リリリリリ!!」とアラーム音みたいな音が船中に響いた。

読んでくださりありがとうございます。第6章の始まりです。(;゜д゜)ゴクリ…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ