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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第5章 演じる妖精とドキドキ学園生活
217/334

216.【ナナカ】わけがわからないよ!

「それにしても、この馬車は凄いですね。フィーユ先生。どういう仕組みなんですか?」

「カイス妖精信仰国から試験的に使って欲しいと言われて貸し出されている馬車と馬なのですけれど・・・」


有り得ない速度で走る馬車の中、とくに激しい揺れも感じることもなく、ゆったりとしながらフィーユ先生の説明を聞く。


この馬車は、カイス妖精信仰国の研究達が動物・・・例えば馬でも魔石は使いこなせるのか、っていう実験の一環として試しに使って欲しいと貸し出されているらしい。闇の魔石を装着した馬を繋ぎ、馬車にはスライムの魔石を応用したクッションを車輪付近に付けて衝撃を緩和してるんだとか。


「まさかナナカ君がくるみ村への同行を願うとは思いませんでしたよ。出発直後に連れて行ってほしいと馬車の前に現れた時は本当に驚きましたよ」

「ハハハ・・・その件はすみません。窓から見えて、慌てて止めに入ったので・・・」

「こう言っては失礼かもしれませんけれど、ナナカ君は平和主義というか、事なかれ主義で、こういったことに自分から首を突っ込むことは無いと思っていました。何故同行しようと持ったのですか?」


フィーユ先生は半ば強引に同行した俺を責めるでもなく、ただ純粋に疑問を解決するように聞いてきた。


 同行しようと思った理由・・・ね。


「俺、学園を卒業したら外国で店を構えようか迷ってたんです。でも、ソニアさんやディル、それから火の大妖精様や火のドラゴンと、昔の俺では想像できないような経験をして、決心が出来ました。なので、お店を構える候補地というわけでもないですけど、卒業する前に外国をこの目で見てみたいと思ったんです。あっ、もちろん、ディル達の故郷を助けてあげたいとも思ってますよ!」


チラリと後ろの馬車を見ながら慌てて付け足す。そこには、くるみ村の皆の為に炊き出しをしようと思って、急遽詰め込まれた調理器具や食材なんかが入っている。もちろん、火の妖精に渡された蟹も。


・・・。


本当なら数日かかるらしいところを、たった半日でくるみ村に着いた。昼寝をしていた俺はフィーユ先生に「着きましたよ」と優しく揺さぶられて目を開ける。そして窓の外を見て、自分の目を疑った。


「あれって・・・雪ですか? 寝てる間に季節が変わったんですか?」


まともな建物が無く、崩壊した村の状態にも驚いたけど、それよりも季節外れの雪が積もってることに驚いた。


 というか、雪って初めて見た。俺の国では雪は降らないから・・・近隣の国では降るらしいけど、火の雲があるドレッド共和国付近では降らない。


「雪が降るような季節ではないハズですけれど・・・とにかく、馬車から降りて村の方達とお話しましょう」

「・・・そうですね」


フィーユに続いて馬車から降りると、ザクッっと足の裏に雪を踏んだ感覚がした。


 これが・・・雪。思わず屈んで手に取ってみようとしたら、正面から誰かの声がした。


「だから言ったじゃないですか。馬車はカイス妖精信仰国の物ですが、周囲にいる騎士達は護衛士と呼ばれるドレッド共和国の騎士で、中に居るのは恐らくドレッド共和国の者だと・・・少しは僕を信じてくださいよ」


王女様によく似た灰色の髪を鼻先まで伸ばした、思わず「前髪切ったら?」と言いたくなるような髪型の・・・たぶん年上の男性が、後ろで武器を持って立っているガタイのいい男達から俺達を庇うようにして立っていた。


「あなたは・・・驚きました。まさかくるみ村にヨーム様がいらっしゃるなんて・・・スズメ様からヨーム様は亡命したとお聞きしていたので・・・」

「ハハハ、さすがに前髪を伸ばしたくらいじゃバレますか。お久しぶりですフィーユ首脳代理。ですが、ここではただの研究好きの村人なので・・・そういうことでよろしくお願いします」

「・・・ええ、分かりました」


どうやら、この男はフィーユ先生の知り合いみたいだ。そして王女様の知り合いでもあるらしい。髪色からしてカイス妖精信仰国の人っぽいしね。


「ジェイクさん達は除雪作業に戻っていいですよ。この方は僕の知り合いで、恐らくソニアさんの知り合いでもあるでしょうから。・・・あっ、デンガさんも除雪を手伝ってあげてください。マリさんなら大丈夫です。代わりの要員が来ましたから」


村人達に次々と指示を出した男。除雪に向かったガタイのいい男達を見て、フィーユ先生が護衛士達に視線を向ける。


「あなた達も除雪を手伝ってあげてください。ここでは護衛も必要ないでしょうから」

「はっ!」


護衛達も除雪に向かい、この場は灰色の髪の男とフィーユ先生と俺だけになった。


「それでは・・・申し訳無いですが、フィーユ先生には怪我人の治療をしてもらいたいです。聖女と呼ばれた貴女のことです。村を助ける為に来たのでしょう?」

「さすがですね。その通りですよ。話は移動中で構いませんので、怪我人のところへ案内してください」


「こっちです」と村の中を進む男。俺とフィーユ先生はその後ろをついていく。村では男達が必死に除雪している横で、子供達が雪で遊んでいた。


「リアン! 雪って凄いわね! 冷たいわ!」

「うん! 頑張ってるマリさん持っていってあげたいです! あ、お姉ちゃん、雪は汚いから食べちゃっダメって大人達が言ってましたよ!」

「え!? そうなの!? 美味しそうなのに・・・」


 姉弟かな? お姉ちゃんの方は俺と歳が近そうだね。


雪ではしゃいでいる村の姉弟を見ていたら、灰色の髪の男と話をしていたフィーユ先生がそんな俺を見て「フフッ」と笑った。


「混ざってきてもいいのですよ? ナナカ君」

「え!? いや、俺は大丈夫です! 遊ぶために来たんじゃ無いですから!」


 もしかして羨ましそうに見てたのかな? 確かにちょっとだけ羨ましくはあるけど。


「そういえば、そちらの少年は?」

「この子はディル君のお友達で、村の為に炊き出しをしたいと食材などを持って一緒に来てくれているのです。この子の炒飯は火の大妖精様のお墨付きですよ」

「それは・・・凄いですね。あとでドレッド共和国でのソニアさん達のことも聞きたいです。あっ、僕はこの村で魔石や妖精について研究しているヨームです。よろしくお願いします」


 ヨームさんがそう言って握手を求めて来たから、俺も「ナナカです。よろしくお願いします」と握り返してると、耳元でフィーユ先生が「スズメ様のお兄様ですよ」とこっそり教えてくれた。


 言われて見れば・・・確かに長い前髪からチラチラと見える目元は王女様にそっくりだ。雰囲気もどことなく似てる気がする。・・・というか、王女様のお兄様ってことは、王子様だよね? 何か事情があるのかな?


「ナナカさんには後ほど村の中央の瓦礫や雪が無い広場で炊き出しの準備をしてもらいたいです」

「あ、はい! 任せてください!」


 それにしても、村の現状を見れば見るほど不思議だ。ここでいったい何があったんだろう?


フィーユ先生とヨームさんの話に聞き耳を立てる。どうやら、事前にフィーユ先生から話を聞いていた通り、ミリド王国の攻撃にあってたらしく、火の魔剣を持たされた凶暴な魔物に村が襲われて、炎が燃え広がったから、スノウドラゴンという雪を自在に生み出すドラゴンに雪を降らして貰って消火した・・・って。


 ・・・いや、わけがわからないよ。


「あ、ちょうどあそこにシロちゃんとミカモーレさんがいますね。彼らが村を消火してくれたオードム王国騎士団長のミカモーレさんと、その家族でスノウドラゴンのシロちゃんですよ」


そこには、瓦礫を背に乗せ運んでいる白いドラゴンと、村の女性方と一緒に飲み水を男達に配るガタイのいい男性がいた。


 あのスノウドラゴン、なんだか火のドラゴンと似ている気がする。いや、たぶん気のせいだよね。火と雪だし。というか。村の皆に平然とドラゴンが混じってるのに違和感が無いのが、逆に違和感・・・わけがわからないよ。


「あの男性は他の男性達と一緒に除雪はしないのですか?」

「ああ、ミカモーレさんは女性ですから、女性達と一緒に行動してるんですよ」


 え、あのガタイのいい人って女の人なの!? どう見ても・・・。もう本当にわけがわからないよ。


フィーユ先生と一緒に首を傾げながら村の中を進んでいると、突然地面から鉄の手がズボッと出てきた。フィーユ先生と一緒にビクッと驚いていたら、そのまま鉄の人形? のような物が出て来て、俺達を見て動きを止めた。


 あれって・・・ゴーレム? ソニアさんがマドカ君達の昆虫と戦わせてた物で、あれの中に蟹を詰め込んで運んだりもしたよね・・・。それと同じ物?


「あ、ヨーム。お疲れ様」


 ゴーレムが喋った!?


ゴーレムの背中がガコンと開き、背の低い茶髪の男性が出て来た。


「コルトさん、いったい何をしてるんですか? 除雪を手伝ってあげてほしいと言ったハズですよね?」


 コルト・・・どこかで聞いたことがるような名前だ。どこだっけ?


「いや、村がこんな状態でしょ? せっかくだから、これを機に上下水道を作ろうかと思って土の中を掘ってたんだけど、自分の居場所が分からなくなっちゃって」

「ああ、旧セイピア王国では完備されていたというあの・・・確かに村の復興が終わってからだとやりにくいですね。まぁ、いいんじゃないですか? もし人手が欲しかったらデンガさんに手伝って貰ってください。土の適性があったハズです」

「え、デンガさんはマリさんが心配だからって動かなかったんじゃ・・・」

「助っ人が来たので大丈夫です。僕の知合いです」


ヨームさんはそう言ってフィーユ先生を見る。


「そっか。ならよかった。僕はこのまま地下を掘ってるよ」

「はい、地盤のことと、建物のある位置をちゃんと考えて掘ってくださいね」

「了解」


コルトさんと呼ばれた男性は再びゴーレムの中に入って、土の中に消えて行った。それを見ていたらフィーユ先生が恐る恐るとヨームさんに声を掛ける。


「あの・・・コルトさんと言いましたか? もしかして、鍛冶師のコルトさんですか?」

「そうですよ。さすがコルトさん、有名ですね」


 思い出した! コルトと言えば、世界一の魔剣を作る鍛冶師と言われている鍛冶国家オードム王国一番の鍛冶師だよ! とんでもなく凄い人だ! ・・・そんな凄い鍛冶師が何でくるみ村に!? わけがわからないよ!


もうこれ以上驚かせないでくれと思いながら、ヨームさんの後ろをついて歩いていると、目的地に着いたみたいだ。ヨームさんが「こっちです」と小さな小屋の扉を開ける。その小屋だけは何故か燃えていなく、無事だった。


「これは・・・地下ですか?」

「そうです。僕の研究施設兼避難施設なんですよ」


こんな辺境な村に似つかわしくない硬い雰囲気の地下に続く長い階段を降りて、いくつかある扉の一つを開けて入ると、そこにはたくさんの倒れた人達がいた。酷い火傷を負った人、腕が失くなった人、外傷は無いけど意識が無い人・・・思わず目を逸らしたくなるような現実が、ここにはあった。


 これが戦争・・・酷い。ドレッド共和国という平和な国も、元は戦争をきっかけに新しく出来た国だと授業で習った。でも、こんな景色は習わなかった。


「ジェシーさん・・・は、寝てしまいましたか。さすがにその体で走って避難をして、マリさんを心配しながらの徹夜は厳しかったみたいですね」


ヨームさんが部屋の隅で壁に寄りかかって寝ている1人の妊婦さんを見ながら言う。


「ジェシーちゃん・・・手紙でくるみ村にいることは知っていましたが、子を授かっていたのですね」


フィーユ先生が我が子を見るようなとても優しい目でその妊婦さんを見た。


「そういえばジェシーさんは前はドレッド共和国に居たと言っていましたね。・・・いえ、それよりもジェシーさんが眠ってるということは・・・」


ヨームさんがそう言いながら部屋の中央に視線を移す。その先で、のそりと1人の女の子が立ち上がった。その小麦色の髪の女の子は、虚ろな目で「次の人・・・」と小さく呟きながら歩き出す。そんな女の子を見て、フィーユ先生が「ヒュッ」と言葉にならない声を出した。


「ヨームさん! あの子は!?」

「彼女はソニアさんの姉妹のような存在の子供で、村で唯一治癒の魔石を扱えるマリさんです。何度も休むように言ったんですが、目を離すとああしてすぐに治療をしようとしてしまうんです。・・・お願いですフィーユさん。他の重傷者よりも先に、マリさんを癒してあげてください。僕は・・・他の何よりも、彼女のあんな姿を見るのが耐えられないんです」


ヨームさんが深く頭を下げた。きっと、彼にとってマリちゃんという子は大事な存在なんだろう。


「当たり前です! ここにいる誰よりも危ないのはあの子ではありませんか! 魔石を扱う魔気が体内から無くなることはありませんけれど、あまり酷使しすぎると脳に異常をきたすのですよ!?」

「・・・分かっています。ですから、早く癒してください」


フィーユ先生は駆け足でマリちゃんの方へ向かい、ポンっと肩に優しく手を置いた。


「・・・誰?」


マリちゃんは虚ろな目でフィーユ先生を見上げてそう言う。


「私はソニアちゃんの知合いで、ソニアちゃんにマリちゃんを手伝ってあげて欲しいと頼まれて来ました」

「ソニアちゃんが?」

「はい、そうです。もう大丈夫ですよ。私も治癒の魔石を使えます。あとは変わるので、ゆっくりとおやすみなさい」

「ソニアちゃんは・・・私の妹なの。それでね、ディルお兄ちゃんは私のお兄ちゃんなの。だから、2人の帰る場所は家族の私が守らないといけなくて・・・」


マリちゃんがそう言ってフルフルと首を振る。


 おかしい。マドカ君と変わらない歳に見える幼い子供が、こんな疲労困憊になるまで自分の意志で治癒を続けられるなんて・・・わけがわからない。優しすぎるし、周囲が見えていない。


「マリちゃん・・・このままじゃ、あなた自身が動けなくなっちゃいますよ。あなたも・・・誰かの帰る場所であることを知りなさい」


フィーユ先生がそう言いながらヨームさんを見る。ヨームさんは、いつの間にか前髪を分けていて、心配そうな瞳でマリちゃんをじっと見ていた。


「ソニアちゃんに誓って、あとは必ず私が治療しますので、マリちゃんはソニアちゃんとディル君と・・・それからヨームさんの帰る場所を守る為に、休みなさい」

「・・・うん。ヨーム、心配してくれて、ありがとう」


マリちゃんは、それだけ言い残して「すぅすぅ」と寝息をたてた。同時にヨームさんが「ふぅ」と安堵の息を吐いて、表情を和らげた。


「では、ナナカさん」

「あ、はい」

「炊き出しの準備をしますか」

「はい」


フィーユ先生がマリちゃんに治癒の魔石を当てて治癒しているのを横目に部屋を出て、地上に出る。そして、ヨームさんに案内されるまま小屋の裏手に来た。


「ここは・・・なんですか?」

「ここはパン屋ライラックという店があった場所で・・・あぁ、居ましたね」


ヨームさんが「ルテンさん!!」と叫ぶと、瓦礫の間から1人の女性が出て来た。


「あ、ヨームさん。丁度いい所に。マリちゃんに何か差し入れをと思って無事なパンが無いかダメもとで探してたんだけど、こんな物を見つけたよ。これ、ヨームさんのでしょ?」


女性は細い棒をヨームさんに手渡した。大きさは違うけど、王女様が持っていた杖に似ている。


「ああ、ありがとうございます。実は探してたんですよ」

「それはよかった。で? そこの横の子は誰?」


成人したばかり見える長い茶髪を後ろで纏めた女性は、俺を見て首を傾げる。ヨームさんは俺とフィーユ先生がドレッド共和国からソニアさんに事情を聞いて援助に来たことを説明して、「一緒に炊き出しを手伝ってあげてください」と言った。


「じゃあ行こうか。少年君。私はこのくるみ村でパン屋さんを構えてたルテンだよ。よろしくね」

「俺はナナカです。よろしくお願いします」

「うん! ヨームさんと違って正統派の爽やかイケメンだね。こんな状態だけど、くるみ村にようこそ!」


ヨームさんが「僕は広場に無事なテーブルなどを運んでいるので、2人は馬車から食材や調理器具を運んでください」と指示を出して、去っていった。俺とルテンさんも歩き出そうとしたところで、近くで声が聞こえた。


「疫病を蔓延させて亡ぼしてやるわ! そのミリド王国って奴ら!」

「え、そんなこと出来るんですか!? ・・・じゃなくて! 止めてください!! ソニア先輩はそんなこと望んでませんし、村の皆もそこまでは恨んで無いですって! 仙人掌の妖精も何か言ってくださいよ!」

「・・・疫病を蔓延させるなら、国が物理的に孤立してる今がチャンス」

「背中を押してどうすんですか!?」


緑、黄色、緑・・・3人の妖精が居た。飛んで前に進もうとする緑色の妖精をソニアさんに似た金髪の妖精が両手でがっしりと腰を掴んで止めている。もう一人の緑色の妖精は何もしてない。


「あれは?」

「あれは、緑の妖精のミドリさんと、ソニアさんのお仲間の虹の妖精のナナちゃんと・・・あと1人は知らない妖精だね。なんか取り込み中みたいだから、無視しよっか」

「え、いいんですか!? 無視なんかして・・・」

「いいのいいの。どうせ私達が絡んだところで何か出来るわけじゃないし、今は炊き出しっていう重大任務が優先だよ」

「そうですね・・・」


 わけがわからないよ・・・。


金髪の妖精が「お騒がせしました~、てへへ」とソニアさんによく似た笑顔で俺達を見ながら、緑の大妖精様を押して森の方へと去って行くのを尻目に、俺達は馬車の方へ向かう。向かう途中で、ルテンさんと色々な話をした。俺が作る炒飯のこと、ルテンさんが作っていたパンのこと・・・。


「へぇ! ナナカ君は外国で店を構えたいんだ! それならくるみ村に来るといいよ! 今はこんな状態だけど、前は凄く賑わってたし、これから復興したら、きっともっと凄い村になるからね。お客さんはいっぱいくるよ。あっ、でも、そしたら私のライバルが増えちゃうなぁ。話を聞いただけでもナナカ君の炒飯愛は凄いし、絶対美味しいハズだもん」

「あははっ。そしたら、一緒にお店を営んだらいいんじゃないですか? 正直、俺って炒飯しか取り柄がないので、レパートリーが無くて困ってたんですよね。専門店でもいいですけど、ルテンさんのパン屋さんと合体しても斬新でいいと思うんですよね~」


こうやって女の人と自分の好きなことについて語らうのは楽しくて、ついそんな冗談を言っちゃった。姉達と話すこともあったけど、俺は基本的に聞き役だった。


 ルテンさんはいい人だなぁ。なんてったって、我が強い姉達と違って俺の炒飯愛を馬鹿にしないし、ちゃんとこっちの話を聞いてくれる。


・・・。


ルテンさんと一緒に馬車へ行き、近くにいた護衛士の人達に手伝って貰って、調理器具や食材を広場に運び、簡単なスープや、持って来ていた魔石で冷凍していた白米と蟹を使って炒飯を作る。匂いに釣られて、村人達が集まって来た。


「順番に並んでね~! いっぱいあるから焦らないでね~!」


ルテンさんがそう言いながら列を整える。俺はスープや炒飯をよそって村人達に渡していく。


「美味しいわね、ジェイクさん。海賊船にいた頃にウィックに食べさせられた魚料理とは比べ物にならないわよね!」

「そうだな。実はこの蟹ってのも食べたことあるんだけど、あの時は炭の味しかしなかったからな」


そんな話し声が聞こえた。海賊という言葉に驚いていると、列を整えていたルテンさんがそっと俺に近付いて小声で話した。


「そこにいる青い髪のジェイクさん。実は元海賊なんだよ。そうは見えないよね?」


 元海賊!? わけがわからないよ! この村はいったいどうなってるんだ!? 訳アリの王子様に、性別不明の外国の騎士団長に、雪を降らすスノウドラゴンに、世界一の鍛冶師に、治癒の魔石を使いこなす幼い子供に、元海賊に・・・それに緑の大妖精様まで・・・個性的ってレベルじゃないよね!?


「フフッ、そんなに驚かなくても、ジェイクさんも含めて、この村の人達は優しい人ばかりだよ。・・・だから、優しいナナカ君はこの村にすぐ馴染めると思うんだよね」

「え?」


ルテンさんは「さっきナナカ君が言ってたことなんだけど・・・」と前置きをして、そっと俺の腕に抱き着いて来た。


「一緒にお店を営むって話、本気にしてもいいよね? 私的には、早めに決めてその方向で新しいお店の設計を考えたいんだけど・・・」


 か、顔が近い・・・!


スープをよそう手を止めて、固まっていたら、前でスープを待っていたお婆さんが「ちょっと!」と声を掛けてきた。


「ルテンちゃん。常日頃から結婚出来ない、いい出会いが無いって嘆いてたけど、さすがに手を出すのが早すぎないかい? 確かにイケメンだけど、もうちょっと慎重になった方が・・・」

「そ、そそそ村長さん!? なんてこと言うんですか!? せっかくイイ感じだったのに!? ち、違うんだよ!? ナナカ君! 確かに結婚出来ないって言ってたのは本当だけど、下心だけで近付いたわけじゃないいし、ちゃんとナナカ君の話を聞いて、この子となら足並みをそろえてやっていけそうだなって思ったからで・・・」


ルテンさんが手をバタバタさせながら早口で言う。


「と、とにかく! そんな下心だけで自分の将来の夢を賭けるほど、私は馬鹿な女じゃないの! 本気なの!」


ルテンさんはそう言って、真剣な眼差しで俺を見つめる。何となく、噓は言ってないと思った。


 結婚はともかく、一緒に店を営むのは本気で考えてもいいかもしれない。この人となら・・・俺のお父さんとお母さんみたいに、協力してお店を切り盛りしていけそうだ。


俺はお玉とお皿を置いて、さっきまで握られていたルテンさんの手を両手で取って顔を近付ける。


「ルテンさん。共にお店を営みましょう。俺も、本気です」

「え、ひゃ・・・ひゃい」


ルテンさんは顔を真っ赤にして俺を見つめながら、コクリと頷いた。


「まったく・・・逆に口説かれちゃったわね。ルテンちゃん」


村長さんはそう言って肩を竦めながら、「早くスープをよそってちょうだい。後ろが詰まってるわよ」と言った。


 まずはくるみ村の皆に元気になってもらわないとだね。それから学園に戻って、ルテンさんと一緒にお店を構えるのを目標に勉強と料理の修行を頑張ろう。

読んでくださりありがとうございます。

現場を目撃していたネリィ(なるほど! ああやって男の人を口説くのね!)


これにて第五章はお終いです。次話から第六章です。

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