206.友情と冒険と恋の物語
まだ誰もいないホールで演劇のリハーサルを終えたわたしは、今、演者の皆に囲まれて見下ろされている。別にお説教されている訳じゃない。
「ソニアさん。台詞覚えたんじゃ無かったんですか?」
「もうすぐ本番だけど、どうすんだコレ?」
バネラとカーマが腕を組んでそんなことを言ってくるけど、別にお説教されているわけじゃない。それに、台詞はちゃんと覚えてる。
「前半はまぁまぁ良かったんだけどね~。ちょっと拙い感じだったけど、ソニアさんの可愛さで誤魔化せてたもーん」
「そうだな。でも、終盤は酷い棒読みだったぞ。まぁ、それはそれで可愛かったから、俺はいいと思うけど」
マイとディルが眉をひそめて仕方なさそうに言うけど、別にお説教されているわけじゃない。それに、棒読みになるのも仕方ないと思う。
「だって、演技とはいえ『好き』とか『愛してる』とか言うのって恥ずかしいじゃん! 逆にディルはどうして恥ずかしげもなく言えるの!? わたしよりも恥ずかしい台詞多かったよね!?」
「俺だって恥ずかしくないわけじゃないぞ。でも、本番の前の・・・じゃなくて、演劇なんだから我慢して表に出さないようにするんだよ」
「出来るなら既にしてるよ!」
両手をブンブンと振って「わたしにはこれが限界なの!」と頬を膨らませて皆を見上げる。
「だいたい・・・ソニアちゃんの台詞はディルの長ったらしい愛の告白に『ワタクシも貴方を愛してます。好きです』って返すだけじぇねぇか」
カーマがボソッと言ったその言葉に、バネラが「そうなんですよね」と考え始める。
「私もそこはあっさりしすぎてる気がしてたんです。本番までもう少しですけど、少し台本を変えてみてもいいですか?」
「いいんじゃないか? 出来れば台詞でソニアの演技の下手さをカバーしてくれよ。何だったら俺も台詞考えるの協力するし」
「ウチも協力するよ~!」
まずいよ! このままじゃ恥ずかしい台詞が更に増えちゃう! こういう時に庇ってくれそうなスズメはリハーサルを終えて早々に「お母様をホールに案内してきますわ」って出て行っちゃったし!
台本を囲んで真剣な眼差しで話し合いを始めてしまった皆を、わたしをぽけーっと見ていることしかできない。
わたしが足を引っ張ってるのは間違いないからね・・・。
「妖精様。皆はああ言っていますけど、あの妖精様が演劇に参加してくれていることに感謝しているんですよ」
そう言って学園祭実行委員の・・・誰だっけ? 名前は思い出せないけど女子生徒が慰めてくれる。その女子生徒に本番用の衣装に着替えさせて貰って、本番前に一応歩く練習をしていると、同じく衣装に着替えたバネラに新しく台詞が足されたわたし用の台本を返された。
「だいぶ台詞増えちゃいましたけど・・・どうせ台本を床に置いてカンニングしながら演技するんですから関係ないですよね?」
有無を言わせない圧の強い笑顔で言われる。もはやプロの脚本家の雰囲気だ。プロの脚本家なんて見たことないけど。
「・・・バネラは将来脚本家にでもなりたいの?」
「いいえ? 別にそんな将来は考えてないですよ?」
「急になんですか?」と不思議そうに首を傾げるバネラ。
「そうなの? じゃあ何を目指して学園に来てるの?」
「私は幼馴染のマイちゃんが学園に入学したからついてきただけです」
バネラはそう言ったあと、ステージの上でディルと戦いの演技の最終確認をしているマイをチラッと見て、わたしに顔を近付けて小さな声で付け足す。
「強いて言うなら、将来はお嫁さんになりたいです」
幼馴染で想い人のマイちゃんの?・・・って質問は野暮だよね。でも、色んな人の将来の夢を聞いたけど、お嫁さんだって立派な将来の夢だよね。欲望に忠実なバネラと、なんだかんだ押しに弱そうなマイなら、そんな未来も想像出来る。
ゴーンゴーン・・・
学園に鐘の音が響く。そろそろお客さんがホールに入ってくる時間だ。わたし達はステージに上がって幕の裏側でスタンバイする。
さてと、今のうちに新しい台本を確認しようかな。
そう思って台本を開きかけたところで、幕の隙間から観客席を覗いていたディルが気になることを言った。
「あっ、あれってスズメのお母さんじゃないか? うわぁ、めっちゃ似てる!」
「え!? わたしも見たい!」
わたしは後ろに誰もいないのを確認して、スカートが翻らないように注意しながらディルの頭の上に飛び乗って、幕の隙間から顔を覗かせる。
割と前の方の席にその集団は居た。今朝に見た白いローブの集団と、その先頭にキンケイ、ニッコク、スズメと、スズメによく似た灰色の髪と顔立ちの大人の女性が立っていた。ほぼ成人の3人の子供がいるとは思えないくらい綺麗でスタイルがいい。まさに絶世の美女だ。
「わぁお! すっごい美人さんだね!」
「ん? そうか? まぁ・・・そうだな」
なんか微妙な反応だけど、今まで見て来た人の中ではダントツだと思うんだけどな。
「え、なになにー!? 王女様のお母様が来てるのー!?」
「カイス妖精信仰国の王妃様ですよね? 私も気になります」
「美人さんっつたか? 俺にも見せろよ」
3人が興味深々にディルの後ろから観客席を覗こうとする。
「わぁ、確かに美人さんだけど・・・」
「本当なら感激するほどの美人なんですけどね・・・」
「ん~~・・・微妙にあっちの方が大きいか? でも形は・・・」
3人がわたしとスズメのお母さんを見比べながら微妙な顔をする。あんな美人さんと比べるなんてやめて欲しい。そして変な発言をしたカーマにマイが蹴りを入れる。
「お、おい! あんまり押すと・・・うわぁ!」
蹴りを入れられたことでバランスを崩したカーマが勢い良くディルの背中にぶつかる。ディルもバランスを崩すものの、なんとか踏みとどまった。でも、ディルの頭の上に座っていたわたしはその衝撃に耐えられず、ポーンっと幕の外に放り出されてしまった。
「えっ、うそぉ!?」
後ろでカーマが「クソッ、ギリギリ見えなかった!」と悔しそうにして、またマイに蹴られているけど、そんなことはどうでもいい。
「ぷぎゃっ」
ぺちゃり、とステージ上の幕の外に顔面から落下したわたしは、体を起こして女の子座りの状態で「いてて・・・」と顔を擦って血が出ていないことにホッと安堵する。
思ったよりも痛く無くてよかった・・・。
急に観客席がざわざわし始めた。不思議に思い視線を向けると、大勢がわたしに注目していた。どうやら、薄暗いホールでわたしのキラキラと光る羽はとても目立つらしい。スズメのお母さんが目を丸くして口をあんぐりと開けている。美人な顔がもったいない。
しまった! 早く戻らなきゃ!
恥ずかしくて慌てて飛ぼうとして、思いとどまる。
わたし、今スカートだったよ! 飛んだら皆に見えちゃう! 歩かなきゃ!
背後から大勢の人の視線を感じながら、幕の隙間から「頑張れ!」と応援しているディルのもとへと、よちよちと歩く。
応援するくらいならディルも幕の外に出て来て手伝ってよ! 自分は安全圏で見守ってるだけなんてズルい!
「何をしているのですかソニア様。・・・どうぞわたくしの手をお使いくださいませ」
いつの間にかステージの上まで登ってきていたスズメがわたし手を差し伸べてくれる。わたしは遠慮なくスズメの手の上に乗った。
助かったぁ・・・。危うく焦って転びそうだったよ。
スズメは観客席からスカートの中が見えないように気を付けながらわたしを持ち上げてくれる。
「ありがとうスズメ! お礼に頭を撫でてもいいよ!」
「え!? よろしいのですか!? では、遠慮なく・・・」
顔の前にわたしを近付けて、クリクリと優しく指で頭を撫でてくれる。やっぱりスズメに撫で方は心地良い。別にわたしが撫でられたかったわけじゃないよ? 本当だよ?
ふとスズメのお母さん達の方に視線を向けると、スズメのお母さんはさっきよりも更に大きく目と口を開けて驚愕の顔をしていて、後ろの白いローブの集団も似たような表情をしていた。キンケイとニッコクだけは誇らしそうに微笑んでいる。
「では、わたくしはこのままナレーションを始めますわね。皆さんは素早く立ち位置に戻ってくださいませ。程よい緊張感を持って、頑張りましょう」
スズメはそう言ってわたしをディルに渡し、ステージ横にあるスタンドマイクならぬ、スタンド魔石の前に移動した。
「ちょっとしたハプニングはありましたけど、本番はこれからです。皆さん練習の成果をお客さん達に見せてやりましょう」
バネラの言葉に、皆が気合の入った表情で頷く。
わたし、歩く練習ばっかりで演技の練習なんてほとんどしてないんだけどね。
・・・。
「「皆さん長らくお待たせいたしました。今回の学園祭メインイベント、演劇影芝居『勇者物語』の始まりです」」
スズメのナレーションで、幕が上がる。物語の最初はお姫様役が登場するので影芝居だ。わたしは白い薄い布の後ろで、ディルとカーマと同じ影の大きさになるように位置を調節して立つ。そして、更に後ろに光の玉・・・ではなく、光の壁を出した。この方が均等に発光して影が綺麗になるんだよね。
わたしが光を出した瞬間、観客席から驚きの声が聞こえて来た。どうやら、さっきチラッと見えたちっちゃな妖精の影がディルとカーマと同じサイズなのに驚いているみたいだ。
「「それは勇者達とお姫様の冒険と友情と恋の物語・・・まだ全ての大地が繋がっていた遥か昔、ある辺境の王国に、正義感の強い剣士の少年と、マイペースなお姫様、そしてその2人の良き友人の弓取りがいました」」
立ち位置よし! 台本よし! 頑張るぞっ!
演劇が始まった。
・・・。
「おいディル! こっちに旨そうな鳥がいるぜ! 今日の晩飯はこれで決定だな!」
「カーマ! そんなに早く走ったら姫さんが付いていけないだろ!」
「ワタクシのことは気にしないでくださいませ。ワタクシは何のしがらみも無く自由に駆け回っている貴方達を見ているだけで幸せです。それに、あまりはしゃいでしまって怪我をしてはお父様に怒られてしまいます」
・・・。
「きゃあ! 魔物がこんな街道近くの森に出るなんて・・・ディル、カーマ。助けてくれてありがとう」
「姫さんを助けるなんて慣れたもんだぜ? なぁ、ディル」
「そうだな。それに、落ちてた石で追い払っただけだ」
「そうなの・・・凄いのね。ありがとう。ディル、カーマ」
・・・。
「この花はソニアっていう名前で、花言葉は『祖国を想う』とか、『愛嬌』とかなんだ。色も姫さんの髪と同じだし、似合うと思うんだよな。どうだ? ちょっと変わった形だけど、嫌いか?」
「いいえ! とっても素敵なお花です!」
「そ、そうか! じゃあ、ちょっと集めて来るから待っててくれ!」
・・・。
「悪いね・・・お姫さん」
「きぁっ! 何をするんですか!? 放しなさい!」
「待て!盗賊! 姫さんを・・・」
「クソッ・・・俺は・・・・」
・・・。
無事、悪の親玉の手先の盗賊に攫われたお姫様役のわたしは、暗転と共に台本を持ってマイと一緒にステージ横に捌ける。妖精のわたしが下がると、ステージは影芝居から普通に演劇に切り替わる。
「ふぅ・・・なかなかの名演技だったんじゃない? わたし」
「そうだね~。まぁ・・・うん。最初に比べたら見違えるほど上達したと思うよ~」
そうでしょう。そうでしょう!
代わる代わる演者がステージに立って演技をするなか、終盤まで出番の無いわたしは、裏方として急遽駆り出されたナナカ君と小声でお喋りしながら皆の演技を見守る。
・・・。
「負けた・・・あの盗賊はやっぱり強いな。こんなんじゃあ、姫さんを助けるなんて夢のまた夢だ」
「じゃあ、今よりももっと頑張って強くならねぇとだな。一緒に頑張ろうぜ」
「カーマ・・・ああ、そうだな」
コツンと拳を突き合わせるディルとカーマ。やけに距離が近い。
「なんか、あの2人顔が近すぎると思わない? ナナカ君」
「台本に書いてあるみたいですよ。ほら」
「えっと、息がかかるくらいの至近距離で、出来れば愛を囁くように・・・? うわぁ、絶対バネラの指示だよ」
・・・。
「ここの魔物はお前に任せて俺は先に行く!」
「任せろ! あの盗賊はお前しか相手出来ない!」
・・・。
「ディル!・・・起きろよ!・・・クソッ、体温が低すぎるのか! 待ってろよ! 俺が今助けてやる!」
・・・。
「・・・カーマ・・・別にいいんだけど、どうして一緒の寝袋で寝てるんだ?」
「ディル? 目が覚めたのか?」
「・・・ああ、そういうことか。悪い、こんな氷の大地で足を引っ張っちゃって・・・」
「気にすんな! でも、あとでデコピンだぜ?」
抱き合うディルとカーマ。観客席の方をチラリと覗くと、涙を堪えて感動している人もいれば、頬を染めて見入っている人もちらほらと・・・。
「ナナカ君はどう思う?」
「え? 普通に感動出来るお話だなって思いますけど?」
「・・・よかった」
「・・・?」
・・・。
ついに、わたしの最後の出番がやって来た。暗転と共に白い薄い布が張られて演劇から影芝居に移行する。
よしっ。まずは勇者と弓取VS悪の親玉の決戦を後ろから見守りながら、電気とかを使ったエフェクトで激しい戦いを演出するんだよね! 頑張るぞ!
・・・。
「一応聞くけど、姫さんを解放してくれる気はないんだよな?」
作り物の剣と盾を構えて台詞を言うディル。そして、お姫様を助ける為の決戦が始まった。
・・・。
「ディル・・・ごめん。俺はもう戦えそうにねぇ・・・」
「後ろに下がっててくれ、カーマ。姫さんを助けるためにここまで付き合ってくれてありがとな。嬉しかった。お前の気持ちには答えられないけど、その分も力に変えて姫さんを助けるから・・・絶対に死ぬなよ」
「こんな時に振るなよ・・・まぁ、そういうとこも含めて好きだぜ。ディル。あとは任せた。俺も姫さんのことは妹のように大切に思ってたんだ。必ず助けてやってくれ」
・・・。
「「・・・こうして悪の親玉との決戦になんとか勝利した勇者は、無事一命を取り留めた良き親友のカーマに見送られて、愛しのお姫様を連れて教会にやって来ました」」
スズメのナレーションの途中で、暗転と共にステージ上のセットが急いで変えられる。
ここからだ。ここからが問題なんだよ・・・。
わたしは台本を足元に置いて眺める。バネラの字で色々と追加で台詞が書かれている。
役目を終えてステージ横に捌けようとしていたバネラがすれ違い様にわたしの横で小声で呟いた。
「ソニアさん。自分の気持ちのままに読んでください。もしも追加で書いた台詞が理解できなかったら無視してもいいですから」
「え?」
まず、そのバネラの指示が理解できないよ・・・。
わたしが首を傾げていると、珍しく緊張した様子のディルがわたしを見て「コホン」と小さく咳咳払いした。わたしが光を出さないといつまで経っても暗転したままだ。心を落ち着かせる余裕も無く、わたしは光を出した。
・・・。
「姫さん・・・好きだ。俺と婚約してくれ」
陰から見守ってくれる所が好きだとか、人の言葉を素直に受け取って共感出来る所が好きだとか、他にも、照れた顔が可愛いとか、ずっと一緒にいたいだとか、恥ずかしい台詞をたくさん言ったディルが、最後にそんな簡単な台詞を言ってわたしの斜め前に跪く。
台詞とはいえ、ディルに自分が褒められてるみたいでちょっぴり嬉しいな。照れくさいけど、もっと聞いていたい気持ちもある。
台詞を言い終わったディルは、教会の鐘のような形をしたお花を差し出した。作り物だけど、綺麗な黄金色をしている。わたしの髪の色そっくりだ。
影芝居の影を妖精と人間で同じサイズにするために少しずれた立ち位置にいるけど、ディルは真っ直ぐにわたしを見ている。
あっ、リハーサルの時は気が付かなかったけど、ディルの耳が薄っすらと赤くなってる・・・。そっか、ディルもやっぱり恥ずかしいんだ。
わたしは台本をチラッと目線だけ落しながら、口を開く。
「・・・たくさんの愛の言葉。とても嬉しいです」
ここから追加された台詞だよね・・・。えーっと・・・
「ディルと出会った当初は、平民ですが心置きなく話せる友人を見つけた、と思いました。そして、ワタクシにとって初めての友人でした」
実際のわたしも、ディルは妖精になってから出来た初めての人間の友達だったよね。
「それからディルの幼馴染のカーマも交えて、城で退屈な日々を送っていたワタクシの色々な我儘を叶えるように、たくさん遊んでくれました。魔物に襲われそうになったところを幾度も助けてくれましたし、逆にワタクシが2人に注意したり指導したりすることもありましたよね。その頃には2人は既にただの友人ではなく、親友、相棒・・・いえ、家族と似たような存在になっていました」
うんうん。理解できるよ。その気持ち。
「そして、ワタクシはディルがワタクシに想いを寄せていることに気が付いてしまいました。ディルがワタクシを見る瞳に、ワタクシがディルに対して感じているもの以上のものを感じたのです。初めは自信がありませんでしたが、ディルの態度や仕草を見ているうちに確信に変わりました」
わたしも、最初は本当にディルがわたしを? って思ってたけど、今なら確信を持てる。
「そう確信したワタクシは、ディルに失望されたくない、このまま想いを寄せて欲しいと思いました。想いに応えられるわけでもないのに、おかしいですよね?」
確かに・・・。
「それからは、ディルが他の女性とお話ししていたり、仲良さそうにしている所を見る度に、もうワタクシのことは好きじゃないのでは? あの女性の方が好きなの? と、今までに感じたことの無いモヤモヤとした気持ちが心を埋めるようになりました」
あれ? これって・・・。
「今まで感じたことの無い、不快とも怒りとも判別出来ないこの感情に、ワタクシは困惑しましたし、色々と理由を付けて納得しようとしましたが、できませんでした」
その気持ち、理解できる。そして、今ならその感情の正体も・・・。
「反対に、ディルに褒められたりする度に、まだ想いを寄せてくれていると、安心し、とても嬉しく思いました。それと同時に、何故か熱くなる顔と早くなる鼓動に、ワタクシはまた困惑しました。この気持ちはいったいなんだろう?・・・と」
そっか。そうなんだ・・・。
「そして今、ディルにたくさんの愛の言葉を贈られました。 もっと言って貰いたい、ワタクシ以外に言って欲しくない、ずっと一緒に居たい・・・そう思いました。今までなら困惑していた感情です。ですが、ワタクシは困惑はしていません」
恋情、嫉妬、愛情・・・。
わたしの中でモヤモヤと煙のように彷徨っていた感情が、今、形になった。
「ワタクシ・・・」
その先に続く台詞を見て、わたしの顔が熱くなり、人間と違って鳴るハズの無い鼓動が早くなる。
でも、もう大丈夫。わたしはこの感情を受け入れられる。今ならディルの想いに応えられる。
わたしは台本から視線を上げて真っ直ぐにディルを見る。ディルは何かを期待するような、恐れているような瞳でわたしをジッと見ていた。
「ディル、ワタクシは気が付きました」
わたしは気が付いた。やっと、気が付いた。
「わたしも、ディルのことが好き。大好き。恋してるの」
読んでくださりありがとうございます。
スズメ(あら? こんな台詞ありましたっけ?)




