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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第1章 暇な妖精と忙しい少年

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19.孤児院の子供達と

「院長さーん!戻ったわよー!」


赤レンガの立派な教会の隣に併設された孤児院の扉を、ジェシーが院長さんを呼びながら開けた。


 オシャレな建物だなぁ・・・。


わたしは今、マリちゃんの手のひらの上に座っている。いや、座らされている。

ディルがわたしの入った革袋の開け口を再び閉じようとしたところ、マリちゃんが「ソニアちゃんが可哀想だよ」と眉を寄せて「おいで」と言いながらわたしを鷲掴みにして自分の手のひらの上に乗っけたのだ。すぐに周囲の人達にバレると思ったけど、可愛い女の子が持っていて違和感が薄れたのか、意外と周囲の人達に注目されて騒がれることはなかった。


 人形か何かだと思われてたのかな? 普通に動いてたんだけどな。


「ジェシーさんにマリちゃん、おかえりなさい。お城の方はどうでしたか?」


奥から優しそうな白髪のご年配女性が現れた。この人が院長さんらしい。


「王様に会ったよ」


マリちゃんがわたしわたしを手のひらに乗せたまま院長さんのもとまで駆け寄る。


「まぁ!国王様自ら!?」

「えぇ、私も驚いたわよ。あの宰相様が対応してくださるのかと思ったら、凄く豪華な謁見の間に案内されて、国王様が自ら謝罪してくださったのよ?」


 そっか。王様はちゃんと王様として被害者たちに謝罪したんだね。少し見直したよ。


「王様、全然偉そうじゃなかった」

「真摯に向き合ってくださったんですね」

「シンシ?」


マリちゃんが首を傾げる・・・と同時に体も傾ける。


 ちょちょ・・・落ちる落ちる!


マリちゃんの手のひらの上に乗っていたわたしは、コテンと手のひらの上で転がった。


「あら?マリちゃん。可愛いお人形さんですね」


院長さんがずいっとわたしに顔を近付ける。目が合った。


「ううん、お人形さんじゃないよ。妖精さんだよ」

「ふふっ、そうなのね。大事にするんですよ」

「うん!」


院長さんは明らかにマリちゃんの言葉を子供が言う冗談だと思っている反応をしている。


 何か誤解されてない?でも、ここでわたしが喋りだしたら院長さん腰を抜かしちゃわないかな? そっとしておこう。わたしは人形。小さな人形のソニアです。


「えっと、俺もいるんだけど・・・」


ジェシーの後ろからディルが気まずそうにスッと出て来た。


「・・・その子は?新しい子ですか?」

「ディル君、放置しちゃってごめんなさいね。院長さん、実は地下牢に居た時にね・・・」


ジェシーは院長さんに地下牢で妖精(わたし)と会ったこと、わたしが連れていかれて暫くした後に、宰相様と一緒にディルとわたしが助けに来てくれたことを説明した。


「それで、お城からの帰り道でマリちゃんが急に走り出したと思ったら、そこにソニアちゃんが・・・あ、妖精さんのお名前ね。ソニアちゃんが居たから連れて来たってわけよ」

「ソニアちゃんが飛んでるのが見えたから・・・」


マリちゃんがそう言いながらわたしの頭を撫でてくれる。


「そうね、お陰でこうして会えたけど、危ないから勝手に離れたりしたら駄目だからね。また地下牢に行きたくはないでしょう?」

「うん・・・ごめんなさい」


ジェシーが「良い子ね」とマリちゃんを撫でる。わたしを撫でるマリちゃんをジェシーが撫でている。ふと院長さんを見ると、わたしを見てフリーズしていた。


 あら、もう妖精だってバレちゃった。


「院長さん、改めまして、わたしはソニアだよ☆」


わたしはパチッとウィンクした。驚かせない為に少し控えめなウィンクだ。


「え・・・あ!すみません!妖精様だとは知らず失礼なことを・・・!すぐに奥でお茶をご用意致しますのでどうぞ中に上がってください!・・・あぁ緑の大妖精様、そして空の大妖精様! この素敵な出会いに感謝致します!」


院長さんが感極まった表情でペコペコと頭を下げながらわたしを中に案内しようとする。


 なんか、凄い敬われてない? ちょっと目がこわいんだけど。


「お茶とかはいいから、それよりも地下牢に居た子供達のところに案内してくれない?わたし達は子供達と遊ぶために来たんだからね!」


わたしが腰に手を当ててそう言うと、院長さんは目から涙を零しながら「あぁ!」と勢い良く口を開く。


「それは・・・! なんと慈悲深い! 大変助かります!今あの子達は教会の上にある空き部屋を整えて、そこで生活しています!」

「そしたら私が案内するわね、院長さんは少し休んでいて?1人で大人数の子供達の世話をしてるんだもの。疲れてるでしょう?」


院長さんは「ありがとうございます」とお礼を言って、わたしをチラチラと見ながら奥の部屋に入っていった。わたし達は一度外へ出て教会側の入り口から入り、2階に続く階段を上がる。


「何か院長さんのわたしに対する態度変じゃない?」

「一応院長さんも教会の人だからね・・・ほら、この部屋よ」


 え、なに?教会と妖精って何か関係あるの? もしかして神様扱いされてる?


わたしの疑問を他所に、ジェシーが子供達が居るという部屋の扉を開けた。そこはわたしが思っていたよりもかなり広く、3歳~7歳くらいの子供達が20人前後居た。部屋の隅には大量の布団が積んである。


「あれ? 地下牢にこんな大人数居たっけ?」


 明らかに牢屋で見ていない子達がいるんだけど・・・。


「ほら、地下牢で話したでょう? アボン商会と繋がっていた孤児院があるって」

「うん・・・もしかしてそこに居た子達もこっちの孤児院に移されたの?」

「そうよ。・・・ほら!みんなー!注目ー!」


ジェシーが部屋中に響くくらいの大きな声で呼ぶと、各々自由に遊んでいた子供達が好奇心に満ちた瞳でわたし達の傍まで集まってくる。


「あ、妖精さんだ!」「わーなになに?」「可愛いー!」「マリちゃんおかえり!」「ジェシーお姉ちゃん遊んでー」「知らないお兄ちゃんがいるー」


子供達はわたし達を見上げて疑問に思ったことなどを遠慮なく言ってくる。その純粋な瞳に癒される。


 ちっちゃい子って可愛い・・・! まぁ・・・今は私の方がちっちゃいんだけど。


「今日は妖精さんと、このお兄ちゃんが遊んでくれるわよ!」

「俺はディルだ!今日はくたくたになるまで遊びつくすぞー!」


ディルはそう叫んだあと、「俺についてこーい!」と意気揚々に子供達と遊び始めた。小さい子を持ち上げてクルクル回したり、何人かを同時に相手して腕相撲をしたり、わたしが教えたジャンケンを教えたりしている。


 そういえば、子供以外の地下牢にいた人達はどこ行ったんだろう?


「ねぇジェシー。地下牢に居た他の人達は?・・・子供達の他にも何人かいたよね? 傭兵さんとか」

「あ~・・・他の人達は皆国から補償金が貰えたから、そのまま自分たちの帰るべき場所に帰っていったわよ。あの傭兵は暫く王都で身体を鍛えるって言ってたけど」


 王様、なんかお金で解決した感があるけど、それでいいのかな? 本人達がそれで満足してるのならいいのか。


「ジェシーは故郷に帰らないの? 確か、観光でこの国まで来て攫われちゃったんでしょ?」

「まぁ、故郷には家族のような人もいるし帰りたいけど、だからってあの子達を放っておくことはできないもの」


ジェシーはそう言いながら、昔を懐かしむような目で心配そうに子供達を見る。


「優しいんだね」

「子供が好きなだけよ。それに私も孤児だったの、仕事場で知り合った男に誘われてこの国に来たんだけど、泊まってた宿の人に聞いたらとっくの前にわたしを置いて帰ったって言うし、帰る場所がないのよ」

「そっか。とんでもない彼氏さんだね」

「彼氏じゃないわ」


 凄い眼光で睨まれた! お、おそろしい!


「何かあったら命がけで守るよ、とか言ってたんだよ?なのに私が攫われた時一目散に逃げていったわよ!もしかしたら必死に探してくれてるかも、とか思ったのに帰ってるし!酷いと思わない?」


割と酷い目に合ってるのに、ジェシーはもう吹っ切れてるみたいだ。文句を言いながらも表情はもう目の前の子供達を優しく見守っている。

 

 こんな良い女性、そこら辺の男が放っておかないよ!


「大丈夫だよ!ジェシーは素敵な女性だから、すぐにいい人が見つかるよ!」

「ふふっ、ありがとう。そうね、ディル君が大人だったら良かったのに」

「え、ディル?」


 確かに、整った容姿をしてるし、優しいし・・・。


「簡単にだけど、宰相様から事情を聞いたわよ?命がけでソニアちゃんを助けに来てくれたそうじゃない」

「そうだけど?」


わたしが首を傾げながらジェシーを見上げると、ジェシーは「フフッ」と揶揄うように笑いながら子供達と遊んでいるディルを見た。


「10年後のディル君はきっと、とんでもなくイイ男になってるわよ?」

「うーん・・・そうかも?」

「妖精のソニアちゃんには分からないわよね!」


 んー・・・心は人間なんだけどな。ただ目の前で子供達と遊んでいるディルの大人の姿が想像できない。


わたしがジェシーと話していると、下で休憩していた院長さんがやってきて、1人の男の子を呼び出した。院長さんが男の子に何か話すと、嬉しそうな顔で「お母さん!」と叫んで下の階に走って降りて行き、院長さんはそれを追いかけるように早歩きで部屋から出ていった。


 もしかして親御さんが迎えに来てくれたのかな。それは良かったんだけど・・・。


わたしは残された子達を見渡す。途端に部屋の雰囲気が重くなり、さっきまでの笑顔は無くなり、暗い表情で俯いてしまった。


 さっきまであんなに楽しそうだったのに・・・なんとかして皆に笑顔を戻してあげないと!そのために来たんだから!


わたしはスッと高い位置に飛び上がる、ディルも部屋の中央に移動して皆を見回した。わたしが「すぅ」と息を吸っている間に、ディルが先に口を開いた。


「なぁ、みんな!俺の村に移住しないか!?」


 えぇ!? この雰囲気で勧誘!?・・・ちょっとは空気読んでよ!


「お前らは帰る場所がないから悲しいんだろ? だったら俺と一緒に村に帰ろう!」


俯いていた子供達が顔を上げてディルの方を興味深そうな、そして不安そうな瞳で見上げる。


 なるほどね、ディルなりに元気付けようとしてるのかな? 頑張れディル!


わたしは静かにジェシーのもとに戻る。ジェシーがそっと手のひらを差し出してきたので、とりあえずそこに座った。そしたら何故か頭を撫でられた。


「村に帰れば毎日が楽しい時間になる!俺にとってもお前らにとってもな!それにソニアも居るしな!」

「本当?村に行けば妖精さんに毎日会える?」


マリちゃんが首を傾げて期待の籠った目でわたしを見る。


「え? あっ、うん! 毎日・・・かは分かんないけど、沢山会えるよ!わたしもマリちゃんに会いたいし!」

「わたしも、たくさん会いたい!」


マリちゃんが笑った。


 たぶん・・・ね?ミドリちゃんが怒って森から出ることを禁止しなきゃいいけど・・・。とりあえず、精一杯謝んなきゃね。


「でも、お母さんとお父さんは・・・一緒じゃないよ」


小さな男の子がポツリと呟いた。それを聞いた何人かの子供達がまた俯いてしまう。


「村で暮らして大きくなったら、そのまま村に住んでもいいし、お母さんやお父さんを探しに行ってもいい。俺もそうするつもりだ」


お母さんお父さんと聞いてまた俯いていた子達がバッと勢いよく顔を上げた。


「『でも』じゃなくて『これから』だぜ!俺達はまだ子供だからな!これからのことは村で一緒に考えて、皆で楽しく暮らして大人になろう!」


もう俯いている子供は誰もいない、子供達は笑っている。わたしもニコリと笑ってディルに親指を立てる。ディルも笑顔を返してくれた。そしてジェシーはわたしの頭を撫でるのを止めてくれない。


 正直、親に売られた子達がそのまま両親の元に戻っても幸せになれるとは思えないし、探しに行って簡単に見つかるとも思えない。この辺りは時間が解決してくれるのを待つしかない・・・かな?

 頑張れ子供達! 辛い現実と向き合わなきゃいけないけど、これから先、幸せになれないわけではないんだから、自分の手で幸せを見つけるのだ。


「いいの?ソニアちゃん。その・・・村に移住するにしてもお金とかいるんじゃない?食料だってタダじゃないでしょ?」

「ま、そこら辺はコンフィーヤ公爵と王様に要相談かな?」


 最悪、ちょっと脅してもいいかも? いや、わたしのイメージが崩れちゃうからやめとこう。


「それより、子供達に笑顔が戻って良かった!」

「そうね、今はあの子達の笑顔が戻ったんだもの、さすがディル君ね」


ジェシーは羨ましそうにディルを見たあと、嬉しそうに子供達を見た。


「ジェシーも村に来る?・・・実際のところ、子供達だけ来ても面倒を見切れない気がするんだよね」


 でも、子供好きのジェシーがいれば面倒を見てくれそうだし、安心だよね!


「行くわよ・・・って言いたいところなんだけど、私1人が行ってもあんまり役に立たない気がするんだけど・・・」

「そんなことないよ! ジェシーが一緒の方が子供達も嬉しいよ!」

「そう言ってくれると嬉しいわね。そうね・・・考えておくわ」

「うん! 前向きに、ね!」


それから夕暮れまで、私もディルと一緒に子供達と遊んだ。女の子達とおままごとしたり、手遊びを教えたり。

ちなみに、おままごとではペット役だった。


「それじゃあ、わたしとディルは一旦城に戻ろうか」

「だな!」


わたしとディルは部屋を出て、教会の玄関付近まで移動する。ジェシーとマリちゃんもお見送りで一緒について来ている。


「じゃあねソニアちゃん、ディル君。村の件考えておくわね」

「うん、わたし達もお城で話をしたらまた・・・」


ガチャン!


突然教会の扉が勢いよく開かれた。

読んでくださりありがとうございます。おままごとでは「にゃー」と鳴いていました。

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