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1.緑の森

「新しい仲間が誕生したわ!!」


わたしの目の前で女の子が叫んでいる。

浅緑色の髪を後ろで三つ編みにした、可愛らしいとも大人っぽいとも言えるような女の子が、私の目の前で両手を上げて満面の笑みで叫んでいる。


 ・・・ここは、どこ?


わたしは状況が掴めず、キョロキョロと周囲を見渡した。

大きな木が沢山ある・・・さらに、わたしの後ろには周りの木の3倍以上はある巨大な木が堂々と真っ直ぐに上空に伸びている。


 まず、日本ではない。日本にはこんな高層ビル顔負けな巨大樹木が生い茂る森なんて無い。もしかしたら世界の何処かにはあるのかもしれないけど。


そして、何よりも気になるのが、目の前にいる女の子を含め、わたしを取り囲んでいる人達だ。皆さん、もれなく背中から羽を生やしていらっしゃる。鳥よりは虫っぽい形で、透明な薄い翡翠色の羽が左右に2枚ずつ生えている。虫のような形なのに嫌悪感とかは全くなくて、神秘的で、子供の頃にお母さんに読んでもらった絵本に出てくる妖精さんのようだ。


 ここは日本どころか地球でもない。そもそも、わたしは雷に打たれて死んだハズ・・・だよね?


「おはよう!!・・・・私の声、聞こえてる!?」


周囲を見渡してぽけーっとしていたわたしに、浅緑色の女の子がずいっと顔を近づけて話しかけてきた。思わずビクッと体が跳ねる。


 とりあえず、分からないことはこの女の子に聞いてみよう。何かしらは知ってるよね?


「えっと・・・あなたは?」

「私は()()()()!ここ、緑の森で一番偉いのよ!!」


 妖精!! 妖精さんみたいだなとは思っていたけど、本当に妖精だった!緑の妖精ということは、植物を操ったりとかできるのかな?


 ・・・あれ? そういえば、緑の妖精と名乗るこの女の子は「仲間が誕生したわ!」と言っていた。・・・ということはわたしも・・・?


「わたしも妖精?何の妖精なの??」

「えーっと・・・」


緑の妖精は顎に手を当てて考え込む。


ドコーーン!!


遠くの方で雷が落ちた音が聞こえた。雷で死んだわたしだけど、不思議とその音を怖いとかは思わなかった。


「・・・そう!アレよ!!アレの妖精よ!!」


緑の妖精は雷が落ちた方向をビシビシと何度も指差さして、どこか必死さを感じる表情で言う。


「アレって・・・雷?わたし雷の妖精なの?」

「カミナリ?・・・そうね!あなたはカミナリの妖精なのよ!!」


 雷で死んで、雷の妖精になった。なんということでしょう・・・

 そういえば、周囲の風景に気を取られて気が付かなかったけど、緑の森にいる皆は、髪や眼に羽、衣服までも緑系統なのに、わたしだけ違う。


わたしは肩から垂れ下がっていた自分の髪を手に取って観察する。

よく光を反射する黄金色の髪で、ちらりと見えた後ろの羽は透明な薄い黄色。そして服は白一色のノースリーブワンピースだった。羽が生えている背中は大きく開いてるっぽい。ちょっと恥ずかしい。


「ねえ、周りの妖精達は何の妖精?」

「ん?・・・・うわぁ! いつの間にこんなに集まってたの!?・・・ほら! あとで紹介してあげるから散りなさい!」


緑の妖精は、周りの妖精達を「しっしっ」と、この場から追い出していった。

 

 皆、羽を動かさずに飛んでるけど、どうなっているんだろう・・・あれ?今あの妖精その場でパッと消えなかった!?


「あの子たちは私の子供達よ、必要だったから創ったの」


 え!? つくった!?


目を丸くするわたしに、緑の妖精は「うーん」と首をひねる。


「・・・そうね、ここじゃなんだし移動しましょ!!ついてきてっ」

「えっ・・・?」


そう言って、緑の妖精はわたしの後ろにある巨大な木の頂上の方へと勢い良く飛んで行った。


「えっ、ちょっと、待って、どうやって飛ぶの?」


 わたしを置いてかないでぇ・・・


「ちょっとぉ・・・・」


 ・・・って、もう見えないし。うーん・・・わたしも妖精だし、飛べるよね?


「むうぅ・・・・・!」「うりゃあああああ」「飛べーーーー!」


いくら頑張っても、ちっとも飛べない、背中の羽がパタパタと忙しく動くだけ。


「羽さん、ありがとう、でもね、そんなにパタパタしても飛べなきゃ意味がないんだよ」

「ねえ、何をしているんだい??」

「うわぁ!!」


 恥ずかしいとこ見られた!


わたしが背中の羽に労いの言葉をかけていると、突然目の前に赤珠のイヤリングをつけた可愛らしい男の子の妖精が現れた。


「初めまして、僕は莢蒾(ガマズミ)の妖精。君は??」


男の子は人の目を惹くような、とても愛らしい笑顔で自己紹介した。


 ガマズミって・・・確か、わたしの地元にあった植物の名前だった気がするけど、それと同じものなのかな?だとしたら他にも薔薇の妖精とか桜の妖精とかいるのかもしれない。薔薇の妖精かぁ、なんて素敵な響きだろう。いるのならぜひ会ってみたいね。


「・・・ちょっと!無視しないでくれるかな?僕は無視されるのが嫌いなんだ」

「・・・あ、ごめんなさい。色々と考えゴトをしてて、ハハハ・・・」


とりあえず、笑って誤魔化す。


「それで、君は?」

「わたしは、雷の妖精・・・らしい」

「カミナリ?」

「うん・・・」

「・・・・・・・」


莢蒾の妖精が「ふーん」と私の顔を除き込んでくる。


「えっと・・・・」


 近い!顔が近いよ!


「まぁ、いいや。・・・んで、その雷の妖精さんはここで何をしていたんだい?」


わたしは緑の妖精に置いて行かれたこと、飛ぼうとしても飛べないことを、無駄に羽をパタパタさせながら説明した。


「はぁ・・・あの妖精は相変わらずせっかちだなぁ」


再度「はぁ」と溜息を吐いた莢蒾の妖精は「仕方ないなぁ」という顔で、わたしに飛び方をレクチャーしてくれた。


「確かに羽が無ければ飛べないけど、動かす必要はないよ。疲れるだろう?」

「それじゃあ、どうやって?」

「うーん・・・ちょっとその場でジャンプしてみなよ」


言われるまま、その場でピョンっとジャンプしてみた。ジャンプしたまま地面に足が落ちない。


「飛べてる・・・・・」


 わたし、飛べてるよ! 羽は・・・動いてない!


わたしはそのまま左右上下とくるくると飛んでみた。


「うん、大丈夫そうだね」

「あっ、ありがとう!」

「それじゃあ、早く緑の妖精のもとへ行くといい。あの妖精のことだ、今頃ぷりぷりに怒っているかもしれないよ。」


 ぷりぷりって・・・・まあ、結構な時間ここでちんたらしちゃったからね。早く行かないと怒られるかもしれない。とりあえず今は上に急ごう。


「よし!したっけ行ってくるね」


わたしがそう言うと、莢蒾の妖精は軽く手を振ったあと、スッとその場で消えていった。


 さて、いきますかー。


巨大な木の頂上に着くと、今まで木に隠れて見えなかった森周辺の景色が見えるようになった。

現在地から少し離れたところに大きな川があって、そのずっと先の平原の向こう側に村らしきものがある、さらに奥には遠くて良くわからないけど、お城っぽい建物も見える。その方角の反対側には大きな山脈が連なっていた。


 やっぱり・・・異世界だよね。


「遅いじゃない!若葉が青葉になるくらい待ったわよ!」


羽をパタパタとさせ、手をブンブンと上下に振りながら緑の妖精は怒っていた。


 ぷりぷりと怒っている・・・・可愛い。


「なに人間の母親みたいな顔してるのよ。さっさとそこに座りなさいっ!」


緑の妖精はピシッと枝の先にある葉っぱを指差して「ほら早く!」と急かしてくる。


 こんな頼りない葉っぱに座っても大丈夫だろうか・・・まあ、最悪今のわたしは飛べるし・・・


言われるがままに、わたしは葉っぱの上にちょこんと正座する。


「変な座り方ね・・・まあいいわ」


緑の妖精はわたしを見て首を傾げたあと、近くにあった葉っぱの上に立って、腰に手を当てる。


「それじゃあ・・・なにから説明しようかしら?」

読んでくださりありがとうございます。本編開始です。

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― 新着の感想 ―
「したっけ」って何かと思って調べたら北海道の方言か ということはこのキャラは北海道出身? 特に出身地の描写がなかったから作者の方言の可能性もあるけど
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