193.わたしがやらなきゃ
「いけー! クワ五郎!」
寮のエントランスのど真ん中で、マドカ君が大きなクワガタを掲げてそう叫ぶ。
「・・・って、それクワガタと違うよ! なにその黒光りしたカサカサしてる虫!もしかしてそれって・・・」
マドカ君が鷲掴みにしている虫は、まさにゴキブリと呼ばれているソレと同じ特徴をしていた。
「それって、ゴキブリじゃん! わぁ! 初めて見たー!」
人間だった頃にわたしが住んでた地域にはいなかったんだよね~。一回くらい見てみたいなって思ってたけど、まさか妖精になってから見ることになるなんて!
「この虫、ゴキブリってぇのか? 初めて見た虫だったから捕まえて来たんだけど、どんな虫なんだ?」
初めて見た虫を、よくもまあそんな鷲掴みに出来るよね。毒とかあったら大変だよ。
「わたしもネット・・・じゃなくて、人から聞いただけで実際に見るのは初めてなんだけど、ゴキブリはとてもすばしっこいらしいよ」
「そんなのとっくに知ってるぜ! そのすばしっこいのを俺の見事な反射神経で捕まえたからな! 他に何か変わった特徴とか無いのかよ?」
他にもって言われても・・・人間だった頃にSNSで拡散されていたのを見てしまっただけだし・・・。
「わたしもこれ以上は・・・」
「なぁ教えてくれよ!」
「いや、だから・・・」
「僕も気になるー!」
「ちょっと・・・」
「「早く早く!!」」
わたしに顔を近付けてしつこく聞いてくるマドカ君とノルン君。
・・・・・・あぁん! もうっ!
「っ知らないよ! わたしも見るの初めてだって言ったでしょ!? そんなに気になるなら自分で確かめてみればいいじゃん!」
我儘を言う子供に怒るように、結構大きめに怒鳴った・・・つもりだったんだけど、2人は怖がるどころか、「そうだな!」と明るく返事をする。
きっと、わたしの体がちっちゃいから威厳が無いんだ。そうだ。きっとそうだ。人間サイズだったらちゃんと大人として見られたハズ。
「よぉし! じゃあ、いけー! クワ五郎改めゴキ次郎!」
マドカ君は声高らかにそう叫んで、枝と草で作られた円の中に ゴキ次郎を放り投げる。そして、放り投げられたゴキ次郎は「自由だぁ!」と言わんばかりの勢いで円の中から飛び出していった。
「わぁ! 待てゴキ次郎!」
慌ててゴキ次郎を追い掛けるマドカ君。それを見て「やれやれ」と肩をすくめて見合うノルン君とわたし。
「きゃあああああ! なにこの気色悪い虫!」
「うわぁ! 何か黒い虫が動き回ってるぞー!」
たまたま近くを通っていた生徒達が驚き慌てふためく。そして・・・
「お前らいい加減にしろ!」
・・・と、何故かわたしを見ながら怒鳴る寮長さん。そこには大人の迫力があった。普通にこわい。
「あぁ! 寮長さん! ソニア師匠が怖がってるだろー! やめろよー! ソニア師匠はまだ8歳なんだぞ!」
ゴキブリを追い掛けていたマドカ君がわたしを庇うように前に出てくれるけど、マドカ君もノルン君も同じ様な年齢だよね?
「周りを見てみろよ! お前らが解き放った魔物に皆が怖がってるだろ!」
「あれは魔物じゃなくて虫だ! ゴキ次郎だ! なぁ!? ノルン!」
「いや、僕にもあれは魔物に・・・」
「見えねぇよなぁ! あんなちっちゃい虫にビビるなんて、皆は根性が足りないんだ!」
いや、普通はビビるものだと思うけどね。マドカ君達はまだ子供だから虫に抵抗が無いのかもしれないけど、大人に近付けば自然と触れなくなるんだよ。・・・いや、ノルン君はともかく、マドカ君は大人になっても普通にゴキブリとか手掴みにしてそう。
「こんなちっちゃいソニア師匠だってビビッてないってのにな?」
そう言ってわたしを見上げるマドカ君。
わたしの場合は、浮かんで安全圏から見下ろしてるからね。だから大して怖くないし、ビビッてもいない。正直、気持ち悪さで言ったらゲジゲジとかムカデとかの方が上だけど、それでも気持ち悪いことには変わりないもん。
人間だった頃に実家で遭遇したゲジゲジを思い出して嫌な顔をしていると、地を這っていたゴキ次郎が突然わたし目掛けて飛んで来た。
「へ? ・・・きゃあああああああ!!」
ゴキブリって飛ぶの!? 食べられるぅぅ!
「よっしゃ! 捕まえた!」
マドカ君がわたしの目の前でガシッとゴキ次郎を捕まえた。・・・助かったぁ。
「よし! これで試合再開だ!」
そして、また床にゴキ次郎を解き放とうとするマドカ君を、わたしが止める前に寮長さんが大き目な声で止めた。
「ソ、ソウイエバ! ソノ、ゴキ次郎? トカイウ奴ヨリ、凄イ虫ヲ森デ見カケタナ~」
凄い棒読みで演技臭い・・・。そこまでしてわたし達を追い出したいか・・・。
思わずジトーっと寮長さんを見てしまうわたしと違って、マドカ君とノルン君は目を輝かせている。
「マジで!? どこ!? 森のどの辺だよ!」
「こ、これで僕もマドカ君に勝てる・・・?」
目を輝かせながらつま先立ちで受付の机に顎を乗せる2人に、寮長さんはサッと紙に地図を書いて渡した。
「ここだ。ここにちょっとした洞窟が・・・」
「へったくそな地図! わかんねーよ! 寮長が案内してくれよ!」
青筋を立てる寮長さん。後ろで成り行きを見守っていたわたしをチラリと見た。思わずコテリと首を傾げるわたしに、寮長さんは「仕方ねぇ」みたいな顔で溜息を吐いたあと、口を開く。
「案内してやる。その代わりに騒がず大人しくついてこい」
え、もしかして本当に凄い虫がいるの? 出鱈目だと思ってたけど、わたしもちょっぴり興味が湧いてきたよ。
「やったぜー!!」
「うん! やったー! ソニア師匠も一緒に行くよね!?」
「もちろん! わたしも気になるし、寮長さんがいるとはいえ、もう一人くらい大人がいた方が安心だもん! しっかりと引率してあげる!」
「「え・・・?」」
そこで急に静かになんないで?
「この前自分で子供だって言ってたじゃん」
「8歳・・・なんだよね?」
そういえば、そんなこと言った気がする。
「よ、妖精はね。大人にも子供にもなれるんだよ」
「マジか! 妖精ってすげー!」
マドカ君は簡単に信じてくれたけど、ノルン君は疑わし気な顔で見上げてくる。わたしは誤魔化すように皆の先頭に出て拳を上げて叫ぶ。
「よ、ようし! じゃあ、出発だよー! 皆わたしに続けー!」
「「おー!!」」
「おい! 案内するのは俺だ! 俺に続け! そして騒ぐなっつったろーが!」
受付の奥から小さいけど重そうな鞄を持った寮長さんが、周囲の目を気にしながらわたし達の前に出る。
もしかして、寮長さんって本当は持ち場から勝手に離れたら駄目なんじゃ・・・? まぁ、わたしには関係ないか!
「ふんふんふーん!」
鼻歌を歌っているのは、わたしじゃなくてマドカ君。手頃な枝を拾ってブンブンと振り回しながら寮長さんの後ろをついて行く。片手には未だにゴキ次郎が捕まっていた。そして、枝がたまにわたしに当たりそうになるからやめて欲しい。
学園にある森は全部で三区間に分けられている。
1つは、東の大きなホールの裏にある森で、キンケイとニッコクの隠れ家があり、カーマが隠れて演技の練習をしていたところ。
もう1つは、北の本校舎裏にある森で、ここは蛇などの危険な動物が生息しているので一部分が立ち入り禁止になっている。けれど、それ以外のところには虫がいっぱいいるのでマドカ君達の遊び場にもなっている。
最後の1つは、北の森と繋がっている西の森で、ここは北の森に比べて木が少いし、虫も少ないらしい。だからマドカ君達もここの森にはあんまり行かないらしい。
「西の森に来たのは久しぶりだね。マドカ君」
「だな~。本当にこんな木が少ないとこに凄い虫がいんのか~?」
マドカ君は木が少ないって言うけど、他の森が生い茂りすぎなだけで、わたしからすればここの森も普通に樹海なんだよね。
「ああ、もう少し奥に行ったら洞窟があるんだよ。前に夜の見回りの途中で見つけた」
「へぇ~、寮長って夜の見回りなんかしなきゃいけないのか。俺だったら怖くて無理・・・いや、別に怖くなんかねぇけど!? 普通に出来っけど!?」
誰も何も言って無いけど?
結構長い時間森の中を進むと、やっと目的の洞窟に着いた。
寮長さんは大袈裟に洞窟って言ってたけど、洞穴だよね。
「うわぁ! すげー! 本当に洞窟だぁ!」
「探検! 探検しようよマドカ君!」
わたしには洞穴にしか見えないけど、まだ子供のマドカ君とノルン君からすれば立派な洞窟なんだね。なら、わたしは何も言わないよ。
元気に洞穴もとい洞窟に突撃していくマドカ君とノルン君を微笑ましい気持ちで見ていたら、後ろから寮長さんに声を掛けられた。
「お前は行かなくていいのか? あいつらをしっかりと引率するんだろ?」
「あっ、そうだった!」
こんな洞穴ではしゃぐなんて男の子は可愛いなぁ・・・とか思ってる場合じゃなかった!
「こらー! 2人ともー! 師匠を置いていっちゃダメでしょー!」
・・・と、わたしも2人に負けず劣らずはしゃぎながら洞窟に入っていった。その瞬間・・・
ドシャアアアア!!
後ろから土砂が崩れるような音がしたと思ったら、一瞬で視界が暗くなった。
「え!? なんで暗くなったんだ!? ってか、今の音なんだ!?」
「ソ、ソニア師匠なんかした?」
「わ、わたしは何もしてないよ! ・・・とりあえず明るくするね!」
わたしは光の玉を出して、後ろを振り返る。
うわぁ・・・完全に土で出口が塞がれてるよぉ。
「ソ、ソニア師匠! こ、こっち!」
「ひっ!?」
マドカ君とノルン君の怯えたような声に、慌てて振り返る。
え・・・!? 大きな・・・ゴキブリ!?
狭い洞穴の奥に佇んでいたのは、立てばマドカ君とノルン君よりも頭一つ分くらいはありそうな・・・とても大きなゴキブリだった。その周囲から普通サイズのゴキブリやちょっと大き目サイズのゴキブリが土の中からうじゃうじゃと出てくる。
なにこれなにこれ! どうして!? なんでこんな状況に・・・!?
「うわ! ゴキ次郎!?」
未だにマドカ君の手に捕まっていたゴキ次郎が素早く抜け出して、目の前のゴキブリ達に合流する。
「逃げなきゃ!」
一番に冷静さを取り戻したノルン君が、片手でマドカ君の手を繋ぎ、もう片方の手でわたしを掴んで出口に向かって走る。だけど・・・
「なにこれ! 出口が土で塞がれてるよ!」
「はぁ!? なんでだよ!」
2人も気付いたみたいだ。そう。わたし達は大きなゴキブリ達と一緒に洞穴に閉じ込められている。
「寮長ー! 助けてくれー!」
「寮長さーん!」
マドカ君とノルン君が外にいるであろう寮長さんに必死に助けを求めるけど、返事は返ってこない。わたしもダメもとで体を電気にして通り抜けようとするけど、土は電気を通さない。
これって・・・嵌められた? 寮長さんに?
ようやくその結論に至った瞬間、背後でカサカサと耳をくすぐるようなゴキブリが動き回る音が聞こえてきた。
ヤバイ!
直感でそう思い、後ろを振り返りながら強力な電撃を放つ。
バチバチバチィ!!
「うわぁ! ソニア師匠なにしてんだ!?」
「ソニア師匠!?」
後ろの子供2人がわたしの電撃に驚いてるけど、それに構っている余裕は無い。何故なら、わたしの強力な電撃を食らったハズのゴキブリ達が今も元気に床を、壁を、天井を這い回っているから・・・。
「噓でしょ!? 人間でも死んでもおかしくない威力だったのに!? なんなのあの虫!」
後ろの2人に影響が出ないギリギリの威力の電撃で、こちらに這いよって来ようとするゴキブリ達を牽制しながらそう叫ぶと、ノルン君が冷静な口調で説明してくれる。
「ソニア師匠。アレはベルゼアブラっていう魔物だよ。前に本で見たの」
「魔物・・・だよね! あんなデッカイ虫がいるわけないもんね! っていうことは、さっきのゴキ次郎や他の小さいゴキブリ達はその子供とか?」
「うん。大きいのは母親で、母親は子供達の為に餌を準備するのに必死なんだって・・・本に書いてあった」
餌・・・嫌な予感がする。
わたしは電撃を放ち続けながら、魔物学のテストで一位だったノルン君に恐る恐ると餌が何なのか聞いてみる。
「餌は動物で、特に栄養価の高い人間は大好物なんだって」
それを聞いたマドカ君が「マジか・・・」と今にも泣きそうな顔でわたしを見上げる。
「だ、だだ大丈夫! わたしが絶対に守るから!」
・・・と、マドカ君を不安にさせない為に胸を張ってそう言いながら、わたしはディルにテレパシーで助けを求める。
(ディル! 助けて! たぶん寮長さんに嵌められた! 西の森の洞穴に閉じ込められてるの! 凄くピンチ! 助けてー!)
テレパシーはわたしからの一方通行。ディルから返事は返ってこないけど、ディルなら絶対に助けに来てくれる。
あとは、その時までわたしが子供達を守り切る!
「ソニア師匠・・・」
「ソニア師匠」
怯えるマドカ君と不安そうにわたしを見上げるノルン君を後ろに、わたしはパチンと自分の頬を叩いて気合いを入れる。
殺ってやるよ!
電撃から高熱の光線に切り替えて確実にゴキブリ・・・ベルゼアブラを殺していく。
でも、それが不味かった。子供達を殺された母親が怒った。
カチカチカチ!
横に開く口を激しく鳴らして、その巨躯でわたし目掛けて襲ってくる。
た、食べられ・・・てたまるかぁ!
「・・・っんにゃああああああ!」
柄にもなく雄叫びを上げながら、母親ベルゼアブラ目掛けて全力で光線を放つ。
母親ベルゼアブラはわたしが光線を放つ前に魔物の本能か何かで危険を察知して、飛ぶ軌道をずらして避けようとしたけど、わたしの光線は熱を持っている。土を溶かす程の威力はないけど、それでも母親ベルゼアブラの足を焦がし、羽根を焦がすことには成功した。
身動きは封じれた。あとはとどめを・・・。
「うわぁ!」
後からマドカ君の叫び声がわたしの耳に飛び込んできた。
しまった! 母親の方に気を取られてた!
「うわぁああ! 俺の友達を喰おうとするなぁああ! 離れろよぉ!」
涙を流しながらも、飛んで襲ってくる子供ベルゼアブラから友達を守ろうと、蹴ったり殴ったりして必死に追い払おうとしている。その体にはあちこちに傷が出来ていた。
ど、どうしよう! わたしが電撃や光線で追い払おうにも、2人と子供ベルゼアブラの距離が近すぎるよ! このままじゃ2人にも攻撃しちゃう!
「マ、マドカ君! 僕のことはいいから・・・」
「うるせー! 俺はこんな時に友達を守れるように護身術で一位になったんだぁ!」
友達想いなところはお兄ちゃんのカーマそっくりなんだね・・・。よしっ。
わたしはもう一度自分の頬をパチンと叩いて、覚悟を決める。
「よし! やるぞ! わたし!」
超高圧電流を拳に纏わせて、マドカ君とノルン君を襲う子供ベルゼアブラに向かって突撃する。
「うわああああああああ!!」
悲鳴とも叫びともつかない声をあげながら、わたしはゴキブリの形をした魔物、子供ベルゼアブラを超高圧電流を纏わせた拳で殴っていく。絶対にマドカ君とノルン君に当たらないように細心の注意を払いながら。
ブシュ!・・・ブシュ! ・・・ブシュ! ・・・ブシュ!
・・・ひぃ! 気持ち悪いぃ! ・・・だけど! わたしがやらなきゃ!
繰り返すこと十数分・・・体感にして数十分くらい。ようやく子供ベルゼアブラを駆逐した。そして最後に母親ベルゼアブラに光線でとどめをさして終わりだ。
「お、終わったぁ・・・」
沢山のベルゼアブラの死骸が散乱する洞穴の中で、わたしはヘタリと壁に寄りかかる。
「あとはディルが助けに来るまで待ってるだけだね! 」
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「マドカ君? ノルン君?」
「ハァ・・・ハァ・・・なんか・・息が苦しくて・・・」
マドカ君とノルン君は、激しく肩を上下に揺らしながら必死に呼吸をしている。
まぁ、あれだけ激しく動いてれば息も上がるよね。・・・それにしても、あんまり動いてなかったノルン君まで苦しそうにしてるなんて・・・・・・って、違う! これ酸素が足りないんだ!
ここは洞穴。出口は土で塞がれている。当然、空気の出入り口はない。つまり、この洞穴に残っている酸素は残り少ない。
妖精のわたしは酸素が無くても全然平気だけど、人間のマドカ君とノルン君の2人は・・・。
「なんか、ヤバいかも・・・意識がフワフワしてきた・・・」
「僕も・・・」
汚れることなんて気にする余裕も無く、子供ベルゼアブラの死骸の上にバタリと横になる2人。まだ息はあるけど、もう限界が近い。
(ディル! ディル! わたし達はここだよ! マドカ君とノルン君が危ないの! 急いで!)
神様なんていないこの世界で、神様に祈るようにギュッと目を瞑ってディルにテレパシーを送りつける。
そして、どれくらいが経ったか分からないけど、ディルはまだ来ない。ディルに何かあったんじゃないか、そんな考えが浮上してきた。
(ディル! どこにいるの!? 無事なの!? ・・・生きてるよね!? ・・・ねぇ!)
目の前で苦しそうに倒れているマドカ君とノルン君の呼吸が止まるんじゃないか・・・。
ディルに何かあったんじゃないか・・・。もしかして、もう・・・。
既に意識が無い2人を見下ろしながら、ひとり、不安が大きくなり、涙が溢れてくる。
パリン
何かが割れるような、砕けるような音が土で塞がれた出口の向こう側から聞こえた気がした。
そして・・・。
「ソニア!! ここか!?」
わたしの光の玉だけで照らされていた洞穴に、別の光が入る。陽の光、そしてわたしの光。
「ディル!」
もう・・・! おそいよ!
ゴシゴシと涙を拭って、勢い良くディルに飛びつこうとした。
「ソニアの声・・・! そこにいるのか!? 間に合ったのか!?」
一瞬で消え去った土の壁の向こうから慌てた様子で飛び込んで来たディルは、全身が血だらけで、そして・・・閉じられた両目からも真っ赤な血が流れていた。
そんなディルの悲惨な姿に、わたしは抱き着こうとしていた両腕を下げて言葉を失った。
目が・・・見えてないの?
読んでくださりありがとうございます。次話は別の視点からのお話です。