190.お姫様とメイド
他の人に演技してる所を見られるのが恥ずかしいから、森の奥で1人でコッソリと演技の練習をしていた・・・以外に恥ずかしがり屋なカーマ。
そのカーマが1人で森に入って行くのを目撃して、思わずコッソリと後をつけてしまった・・・カーマに恋する確信犯のアイリちゃん。
食事中にキンケイとニッコクの隠れ家近くの森に不審な者がいると報告を受けて、慌てて飛び出して来たらただのアオハルだった・・・無駄足を踏んでしまった杏仁豆腐大好き王女様のスズメ。
そして、そんな王女様を演技の参考にしようと、色んな人に聞き込みをして探し回っていた・・・勉強熱心だけど参考にする人を間違えてしまったソニア、ことわたし。
カーマの羞恥心、アイリちゃんの恋心、スズメの警戒心、わたしの勤勉さ・・・色んな事情が重なった結果。カーマを先頭にストーカーの列が出来てしまったみたいだ。
アイリちゃんは「カーマさんが何をするか気になったから」と言葉を濁してたけど、わたしの脳内で勝手に「大好きなカーマさんが気になったから」と変換された。
妖精のわたしがいる以上、妖精狂信者のスズメはお姫様役の参考にするのは難しいかな。でも、代わりにいい参考が見つかった。
「ソニアちゃん?どうして私をじーっと見てるのよ?」
アイリちゃんだ。わたしが演じるお姫様は勇者様に恋をしている設定らしいし、実際に恋する乙女っぽくという指示もある。カーマに恋するアイリちゃんは参考にするのにピッタリだと思うんだよね。
「・・・ということで! カーマはわたし達のことは気にせずに演技の練習続けていいよ!」
近くのいい感じの切り株の上にちょこんと座って、グッと親指を立てる。
「何が「ということで!」だよ。他人の目があるとやりにくいっつってんだろ! どっか行けよ!」
カーマが「しっし」と手を払うと、スズメがその手をパシンと叩いた。
「ソニア様に対して失礼ですわよ」
「失礼なのはお前らだよ! 人がやりたくもねぇ演劇の練習を一生懸命にしてるってのに、邪魔すんなよ!」
「邪魔などいたしませんわ。それに、どうせ本番は大勢の方々にみられるのですから、ソニア様に見られるのも練習のうちと考えたらいいでしょう」
・・・正論の暴力だ。
「ぐっ・・・わーったよ! お前らはそこで大人しくしてろ!」
カーマはせめてもの抵抗で、わたし達に背を向ける。そんなカーマに、わたしはありがたい助言を言ってあげる。
「カーマ! 恥ずかしがったら余計恥ずかしいんだよ! ここは振り切って堂々といこう!」
「うるせぇ! 妖精には分かんねぇかもしれねぇけど、人間の精神はそこまで単純には出来てねぇんだよ!」
わたしが単純みたいに言わないで欲しいよね。わたしだって誰かに演技を見られるのは恥ずかしいし、ましてや最後のキスシーンなんて考えただけでも顔が熱くなる。影芝居だから布越しとはいえ、何かを演じるっていうのは難しいし恥ずかしい。見知った人が近くにいれば尚更ね。
「それでは、わたくしは予定があるので失礼いたしますね。ソニア様、また後ほど」
「え、行っちゃうの?」
思わず口をついて出てしまった。別に行ってほしくないって訳じゃないけど、なんとなく一緒にいてくれるんだと思ってた。
切り株に座ったままスズメを見上げていると、スズメはわたしを見下ろして凄く苦しそうな顔をした。
「うぅ・・・ソニア様・・・そのようなお顔をされるとわたくし・・・」
「ん?」
コテリと首を傾げる。
「いえ、わたくしもここに残りますわ!」
なんだか分からないけど、予定をすっぽかしてスズメも一緒に見学することになった。カーマが「チッ」と小さく舌打ちをしたような気がした。ごめんねカーマ。これも演劇を成功させるためだから。
「では、ソニア様。そのような切り株などにお座りにならないで、こ、ここ、こちらに座ってみてはいかがでしょう?」
少し頬を赤らめながら自分の膝の上をポンポンと叩くスズメ。
あんまり気乗りはしないけど、切り株よりかは座り心地よさそうだよね。仕方ない。そっちに座ろう。
スズメの荒い鼻息が頭に吹きかかるなか、わたしはカーマの演技を見るアイリちゃんを観察する。
まさに恋する乙女って感じの表情だぁ。
頬を染めて、目を細めてただひたすらにカーマに熱視線を送るアイリちゃん。時々「ハァ・・・」と幸せそうな溜息を吐いて微笑んでいる。まだ幼い子供なのに、どこか色っぽい。
こんな表情・・・わたしには出来ないよ。
「なぁ、アイリ。さすがにそんな熱の籠った視線を送られると気になるってーか・・・」
「ねぇ、ソニアちゃん。さっきから何で私ばっかり見てくるのよ? カーマさんに集中出来ないじゃない」
「あのさ、スズメ。たまにわたしの頭を撫でるのはいいんだけどさ。鼻息が荒いし、触り方もなんかネットリしてるっていうか・・・ハッキリ言うと気持ち悪いんだけど」
スズメ以外の皆が自分のやりたいことに集中出来てない。邪魔し合っているみたいだ。
「も、申し訳ありません! 完全に無意識でしたわ! ソニア様があまりにも香しく、そして愛らしかったもので・・・」
香しくって・・・わたし何か変な匂いするかなぁ?
自分で自分の匂いを嗅いでみるけど、無臭にしか感じない。スズメの鼻が過度な妖精フィルタでおかしくなってるだけだよね。わたしは無臭。きっと無臭。
これ以上は得るものが無さそうだし、そろそろ帰ろうかなと思ってたら、茂みの中からガサガサと誰かが近づいて来た。
「んあ? フィーユ先生じゃねぇか。こんなところで何してんだ?」
茂みの中から出て来たのは、森の背景が全く似合わないおっとりおばあちゃん聖女のフィーユだった。
「あら、カーマ君こそ。可愛い子達をたくさん連れて・・・このような所で何をしているのですか?」
フィーユがわたしとアイリちゃんとスズメを順番に見て言う。
「俺はただ演劇の練習をしてただけだ。こいつらは勝手にここに居座ってるだけで俺は何もしてねぇ」
「フフフ、前回はまるでやる気の無かったカーマ君が・・・今回は頑張っているのはお友達のディル君の為ですか?」
「ディルが凄く楽しみにしてるからな。俺はそれに付き合ってるだけだ」
そっかそっか。第一印象は最悪だったけど、カーマはとても良い子だ。わたしの中での好感度が爆上がりだよ!
「とても良い心境の変化ですね。アイリちゃんもカーマ君を見習ってクラスの皆と協力するのですよ?」
「・・・分かってるわよぉ」
ツンといじけた様にそっぽを向くアイリちゃん。
何かあったのかな?
首を傾げるわたしに、フィーユが説明してくれる。
「アイリちゃんのクラスは多数決でメイド喫茶に決まったのですよ。でも、アイリちゃんはメイドなんてやりたくないと・・・」
「嫌なものは嫌なんだもの!」
「やだやだ!」と駄々をこねるアイリちゃんに、フィーユはそっと溜息を吐いて、真面目な表情に切り替えてスズメを見る。
「それで、スズメさん。私に協力をお願いしておいて本人が来ないとは・・・いったいどういうことですか?」
あ、そういえば、予定あるって言ってたもんね! フィーユとの予定だったんだ。
「大事な予定があるんだね! わたし達のことはいいから行っておいで!」
なんとなく、言い訳に妖精を使われそうだったから先手を打っておく。でも、スズメは何故か嬉しそうな顔をした。
「なんとお優しいソニア様! 承知しましたわ! わたくし、ソニア様の為に働いて参りますわ!」
「う、うん。何の予定か知らないけど、頑張ってね・・・・」
スズメは足腰の悪そうなフィーユをやや強引に引っ張って森の奥へ歩いて行く。
「んじゃあ、俺もそろそろ戻るとすっかな。演劇の衣装作りも手伝わねぇとだし。またな、アイリにソニアちゃん」
「またね~」
「は、はい! カーマさんの演劇、楽しみにしてます!」
カーマは「あんまり期待すんなよ~」と手を振りながら去っていく。わたしもディルのもとに帰ろうかなと思って飛び立とうとしたら、アイリちゃんに鷲掴みにされた。
「うひゃあ! きゅ、急になに!? 羽がクシャってなるからやめて!」
それほど力は強くないけど、羽がクシャクシャになると不快だからやめて欲しい。そっとわたしを放したアイリちゃんは、森の奥を見ながらポツリと呟く。
「後をつけるわよ」
「え、カーマの?」
「そんなわけないじゃない!」
いや、今までの流れ的に普通はそう思うと思うけど・・・。
「これ以上カーマさんの邪魔しちゃったら嫌われちゃうかもしれないもん・・・。だから、今はあの王女様を追うのよ!」
何故か胸を張ってそう宣言するアイリちゃんに、わたしは首を傾げるしか出来ない。
「さっきはメイドは嫌って言ったけど、私はメイドじゃなくてお姫様になりたいのよ! だから本物のお姫様を観察するの! そして真似するのよ!」
子供の考えは突飛で分からないけど、スズメを観察するのは賛成。わたしが傍にいない状態のスズメを観察すれば、少しはお姫様役の参考になるかもしれないからね。
「ほら! 早くしないと見失っちゃう!」
「わわっ! ちょっ・・・! 分かったから足を掴んで引っ張らないで!」
子供は乱暴なんだから!
ペシペシとアイリちゃんの手を叩いて放してもらって、わたしはアイリちゃんの小さな肩の上に座る。そしてコソコソと話し掛ける。
「ねぇ、アイリちゃん。アイリちゃんってさ。どうやってカーマのことを好きになったの?」
恋をする瞬間が分からないんだよね。好きになった瞬間って分かるものなのかなぁ?
「分かんないわ。ある日、マドカに「兄ちゃんのこと好きなのか?」って聞かれて、それで初めて私ってカーマさんに恋してるんだって気付いたの・・・って今はそんな話してる場合じゃないわっ。王女様とフィーユ先生が怪しげな小屋に入っていくわよっ」
恋に関しては聞いてもやっぱり分からなかったけど、それとは関係無く分かった事がある。
あの小屋って、たぶんスズメが言ってたキンケイとニッコクの隠れ家だよね? そこでこの国の首脳代理でもあるフィーユと大事な予定って・・・あの『愛らしいソニア様誘拐未遂事件』関連のことなんじゃ・・・。
「アイリちゃん、やっぱりもう帰ろう・・・」
「行くわよソニアちゃん!」
聞いてないし・・・。まぁ、子供のすることだし、邪魔しちゃっても後で謝れば許してくれるよね。仕方ないから、ここは子供の遊び相手をすると思ってアイリちゃんに付き合ってあげよう。
わたしを肩に乗せてトテトテと小屋に向かって走り出すアイリちゃん。窓から中の様子を覗こうとするけど、身長が足りない様子。
「見えないし、何故か話声すら聞こえないわね・・・なんだか怪しいわ。ソニアちゃん、ちょっと浮き上がって中を見てくれない?」
「りょーかーい」
言われた通り、アイリちゃんの肩から浮き上がって中の様子を覗いて見る。
うーん? スズメとフィーユとキンケイとニッコクで、何かを囲んでいる? キンケイとニッコクが無駄にガタイが良いせいでよく見えない。
何の収穫も無く、アイリちゃんの肩の上に戻る。
「よく分かんなかった」
「そうよね。妖精のソニアちゃんが見ても、人間のやってることなんて分からないわよね」
そういう意味じゃないんだけど、否定するのも面倒だし別にいいや。
「仕方ないわ。そーっと扉を開けて覗くわよ!」
「えぇ!? さすがにそれはバレちゃうよ!?」
まぁ・・・バレても謝れば大丈夫だと思うけど・・・。
「大丈夫よ! バレたら謝ればいいのよ!」
・・・うっ! わたし、8歳くらいの女の子と思考が同じ! ショック!
「じゃあ開けるわね。ソニアちゃん、しーっ、だからね」
アイリちゃんは真剣そのものといった表情で、両手でそーっと扉を開ける。扉が開いたというのに、中の会話が一切聞こえてこないのを不思議に思いながら、アイリちゃんと一緒に恐る恐ると中を覗く。
「「ひっ!?」」
わたしとアイリちゃんの悲鳴が重なる。扉を開けて覗き込んだわたし達の視界に一番に飛び込んで来たのは、四肢を切断されて椅子に置かれ、顔面の皮膚が酷い火傷で爛れている血だらけの男の姿だった。
あっ、ダメ。グロテスクすぎて意識が・・・。
こういったものに耐性の無いアイリちゃんが膝から崩れ落ちるのと同時に、同じく耐性の無いわたしも意識を失った。
・・・。
珍しく人間だった頃の夢を見た。採血するだけで嘔吐してしまったわたしを、見た目はそっくりなのに平気そうな双子の妹が揶揄っている夢だ。
今となっては採血ぐらいならヘッチャラだよ・・・。
「うっ・・・ん~~・・・」
懐かしい夢から覚めて、少しおセンチな気分になったわたしは、ゆっくりと体を起こして周囲を見回す。
「あっ、ソニア様! 良かったですわ! すぐに目を覚まされて!」
心配そうにわたしを見下ろすスズメと、その後ろで無表情だけどどこか柔らかい雰囲気を出して立っているキンケイとニッコク。そして更に奥で椅子に腰かけているフィーユと、その横で、わたしと同じで目が覚めたばかりなのか目を擦っているアイリちゃん。わたしはクッションの上に寝かされていたみたいだ。
「あれ? さっき何か凄い光景を見た気がするんだけど・・・」
小屋の中を見回しても、気を失う前に見たアレの姿は見当たらない。
「あ~。ソニア様とそこのアイリが見たアレは人形ですわ。あるクラスにお化け喫茶の飾り付けに使いたいと相談されたのですが、あまりにもリアル過ぎたのでフィーユ先生に使用しても良いか確認して貰っていたのですわ。ねぇ? フィーユ先生」
「ええ、ソニアちゃんとアイリちゃんが一目見ただけで気を失ってしまうくらいですので、使用できないと判断して既に廃棄しました」
なるほど! なーんだ! ビックリした~・・・ってアレは絶対本物だったよ!
アイリちゃんは「なんだぁ」と安心してるけど、大人のわたしは騙されない。アレは絶対に人間だった。
たぶん、わたしを襲った黒ずくめだと思うけど・・・スズメ達が隠したいならわたしも黙っていよう。尋問にしてもやりすぎだと思うけど、わたしやディルの危険に直結することだもんね。文句は言えない。それに、本当のことを言ってもアイリちゃんを怖がらせるだけだもん。
「それで、ソニアちゃんとアイリちゃんはどうしてここまで来たのですか? もしかして私達の後ろをつけてきましたか?」
フィーユがニッコリと微笑んでわたしとアイリちゃんを交互に見る。わたしはアイリちゃんと顔を見合って、コクリと頷き合う。
「「ごめんなさい!!」」
2人でペコリと頭を下げて謝った。そして、後をつけていた理由をアイリちゃんが一生懸命に説明する。
「ハァ・・・どうしてそんなにメイドが嫌だと言うのかと思えば・・・そういうことでしたか。アイリちゃんはメイドじゃなくてお姫様になりたい、と」
頭を抱えるフィーユ。そして肩をすぼめるアイリちゃんは、本物のお姫様であるスズメに羨望の眼差しを送って口を開く。
「あの! どうしたらスズメさんみたいなお姫様になれますか!?」
わぁ~・・・あのキラキラの瞳は裏切れないよぉ。
「わたくしみたいなお姫様ですか? 血筋と金と権力ですわね」
なるほど、そのせいでこんな残念王女様が出来上がっちゃったんだね。
「つまり、アイリは絶対にお姫様になれませんわ」
「え・・・」
バッサリと言葉で切り捨てられてしまったアイリちゃんは、うるうると瞳を潤ませる。
子供に対してさすがに酷いよ!
「ちょ、ちょっとスズメ! もっと言い方があるでしょ!」
「も、申し訳ありませんソニア様! 相手はこどもだからと色々と省いてしまいましたわ!」
わたしに怒られて顔を真っ青にしたスズメは「コホン」と咳ばらいをして、そっと屈んでアイリちゃんに視線を合わせて口を開く。
「アイリ。確かにわたくしはお姫様ですわ。ですが、それ以外には絶対になれないのです」
「・・・えっと?」
「わたくしも、アイリくらいの歳の頃は自分が王女として生まれて幸運だと思っていましたわ。そして他の者達は王族として生まれてこれなかった者達だと見下していました。けれど、違ったのです」
スズメはそっと視線を落とし、何かを悟ったような虚しい顔で語り続ける。
「王女としての厳しすぎる教育が始まり、見たくもない闇を見る羽目になり、重たすぎる責任や期待に押し潰れそうになった時、わたくしは気が付きました。不運にも王族に生まれてしまったのがわたくしで、他の者達は自由を与えられた幸運な子として生まれたのだと・・・」
「じゃ、じゃあ、スズメさんはお姫様は嫌なんですか?」
心配そうに眉を下げてそう聞くアイリちゃんに、スズメはニッコリと微笑みを返す。
「本音を言えば、わたくしは禁忌を犯して逃亡中のヨームお兄様のように、自分の好きな物に正直に・・・わたくしの場合、ソニア様の身の回りのお世話を死ぬまでしていたいですわ」
え、やめて!? 今度はわたしの自由が無くなっちゃうよ!
「・・・ですが、わたくしが同じことをしたとしても、すぐにお父様や上のお兄様の手の者に捕まってしまうでしょうね。ヨームお兄様は運が悪く体力も無かったですが、世渡り上手でしたから・・・」
マリちゃん曰く、今はクルミ村で楽しそうに古代の遺物を研究してるらしいからね。逃亡中なのに自分の趣味に没頭出来るように立ち回れるのは、確かに世渡り上手かもしれないよね。
「ですので、今は王女に生まれてしまったのは仕方が無い、この地位の方が大好きな妖精様のお役に立てると割り切って、面倒な王権争いに巻き込まれたり、心がすり減るような仕事をこなしたりしているのですわ」
さっきの尋問も、その心がすり減るような仕事・・・なのかな。
「もしアイリがお姫様ではなく、わたくしのようになりたいのであれば、嫌なことも何か理由をつけて自分の心に折り合いをつけて頑張ることですわ。子供の頃にたくさん苦労すれば、その分だけ大人になってからの苦労が減るかもしれませんわよ?」
優しくそう言ったスズメに、アイリちゃんはコクリと頷いた。
「うん。私、メイドになります!」
「フフ、クラスの皆と協力して立派なメイドになってくださいませ」
微笑ましそうに笑って立ち上がったスズメに、アイリちゃんは首を横に振る。
「ううん。本物のメイドになりたいんです! そして、スズメさんの心がこれ以上傷つかないように守ってあげます!」
その言葉に、スズメは一瞬だけ固まり、後ろにいるキンケイとニッコクが少しだけ口角を上げた。
「・・・っ。もし・・・もし、大人になってもその気持ちに変化が無ければ、カイス妖精信仰国に来なさい。そこでメイドとしての試験に合格したならば、わたくし付きのメイドとして召し上げますわ」
スズメはそう言って、ポンポンとアイリちゃんの頭を撫でる。
「私、立派なメイドになる為に頑張ります!」
「でしたら、まずはもっとソニア様を敬うところからですわね。わたくしが今こうして頑張れているのは妖精様のお陰なのですから」
・・・わたし、スズメに何もしてあげてないよね? 推しの為に辛い仕事を頑張っているようなものだと思っておこう。そして、頑張ってくれているスズメには何かご褒美を考えておこう。
結局、恋する乙女の気持ちは分からなくて演劇の参考には出来なかったけど、スズメの王女様の在り方はお姫様役の参考になったし、個人的にもスズメのことを知れて良かったと思う。
最初に会った時に吐瀉物をぶっかけられただけに、残念な子だと思ってたけど、案外しっかりした子で苦労も多いみたいだ。
わたしの為に心をすり減らすような辛い仕事をしてくれているんだもん。今後、わたしで力になれることがあれば協力してあげたいな。
読んでくださりありがとうございます。
スズメ 「心がすり減るような仕事=貴族達との縁談や交渉」
ソニア 「心がすり減るような仕事=尋問とか拷問とかグロイ系」
妖精に危険を及ぼす存在には嬉々として拷問・尋問するスズメでした。