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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第5章 演じる妖精とドキドキ学園生活
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188.ナナカ君の挑戦(後編)

わたし達の前をフワフワと飛ぶ火の妖精が、鍵の掛かっている寮の扉を大胆に燃やして堂々と外に出る。


「まぁ、窓を割っても怒られなかったし・・・大丈夫だよね!」


・・・と、意気揚々とわたしも火の妖精の後ろに続き外に出る。


「スズメに目立つなって言われてるのにな・・・」


・・・と、呆れ気味にディルがわたしの後ろに続き、


「俺、これからどうなるんだ?」


・・・と、顔を真っ青にしたナナカ君がディルの後ろをフラフラしながらついてくる。わたしはそんな後ろの様子を気にしつつ、前を進む火の妖精の肩をツンツンと突く。


「ねぇ、火の妖精。火のドラゴンを呼ぶって言ってたけど、どうやって呼ぶの?」

「うん? こうやって呼ぶんだ!」


火の妖精が勢いよくバッと両手を上げる。すると、ボワァ!っと大きな火柱がわたし達の目の前で螺旋を描きながら空高くまで巻き上がった。


「わぉ・・・凄いよ・・・風がっ・・・ぶわぁ!」


突然巻き起こった突風にわたしは吹き飛ばされて・・・ディルに無事キャッチされた。


「凄い風だな・・・大丈夫か?」

「ありがとうディル」


ペコリとお礼を言って、ディルと一緒に火柱を見上げてたら、ディルが昔を懐かしむように目を細めて口を開く。


「なんかこういうの見るとブルーメで見た水の山の噴射を思い出すなぁ」

「何もかも逆だけどね~」


 あの時は昼間だったし、空まで上がってたのは水だった。でも、ディルの言ってることはなんとなく分かる気がする。


ナナカ君が「夢だよね?」と自分の頬をつねっているのを視界の端に捉えながら火柱を見上げていると、ずっと遠くに見える山の方から火のドラゴンが猛スピードで飛んできた。


「お? やっと来たな?」


火の妖精がそう言って火柱を一瞬で消すと、火のドラゴンがわたし達の目の前の降り立った。左右に建物があるからちょっと窮屈そうにしてる。


「火の妖精様、それに光の妖精様。我に何か御用ですか?」

「おう! 火のドラゴン! ちょっと色々あってな! こいつらを乗せてひとっ飛びして来てくんないか?」


火の妖精がくいっと親指でディルとナナカ君を指差しながら言う。ナナカ君がもう可哀想なくらい顔を真っ青にしてるのが心配だけど、カニ玉炒飯の為にここは根性を見せて欲しい。大丈夫。ナナカ君は出来る子だから。


「ひとっ飛びと言われましても・・・どこへですか?」


火のドラゴンが火の妖精を見て、そして火の妖精がわたしを見る。わたしが答える番なのね。


「カニがいた島だよ! ほら、ここに来る途中に寄ったでしょ?」

「ああ、あの島ですが。いいですけど、あそこは夜になると魔物が活発になりますよ?」


そう言われて、わたしはディルを見る。戦うのは基本的にディルだ。今度はディルが答える番。


「その魔物ってどれくらい強いんだ?」

「フム・・・貴様よりは弱い。だが数が多い」

「なら大丈夫だな! ナナカはどうだ? 正直、カニを捕ってくるだけなら俺だけでも大丈夫っちゃ大丈夫だけど、出来れば俺は魔物の相手に専念して、ナナカにカニを捕って貰いたいんだ。魔物がいてちょっと危険みたいだけど一緒に来るか?」


ディルがナナカ君を心配そうに見る。次はナナカ君が答える番だ。大丈夫かな?


「エ!? ウン! ダイジョーブダヨ」


 めっちゃ声が裏返ってて少し心配だけど、ディルも一緒だし、火のドラゴンだっているし、何があっても戦力的には大丈夫だよね。


「よし! じゃあ行くか!」


ディルがナナカ君を小脇に抱えて火のドラゴンの背に乗り、そして「しっかり掴まってろよ!」と自分の後ろにナナカ君を座らせた。ナナカ君はもうされるがままだ。


「じゃあ、準備はおっけー?」


火のドラゴンの頭上までふわっと浮いて皆を見て確認する。


「オッケーだ!」

「ハイ、ダイジョーブデス」

「我は何時でも準備は出来ています」


 うんうん。皆大丈夫みたい! わたしも準備はおっ・・・けーじゃない!


「突然だけどナナカ君! 魔石の適性って何!?」

「エ? ヒトツチデスヨ」


 火と土ね! 良かった良かった。


「ごめん皆! ちょっと待ってて!」

「え!? なんで!? 早くしないと帰りが朝になるぞ?」

「忘れ物した! すぐにとってくるー!」


 危ない危ない。向こうに着いてから困る所だったよ。


わたしは超特急で寮まで戻って、ディルのリュックの中身をひっくり返して小さなゴーレム君を電磁力で浮かせて連れて戻る。


「普段から何も持ってないソニアが何を忘れたのかと思えば・・・なんでゴーレムなんだ?」

「ナナカ君にゴーレム君を大きくしてもらって、その中にカニを詰め込むんだよ! じゃないと持って帰れないでしょ?」

「まぁ・・・そうだな」


何故か不満気な表情をしつつも、一応納得してくれたので、わたしはゴーレム君を横に浮かせて号令をかける。


「じゃあ、今度こそ・・・しゅっぱーつ!」


わたしの号令と共に火のドラゴンが羽ばたき、わたしも合わせて飛ぶ。「気を付けてなー!」と小さな手を一所懸命に振ってくれている火の妖精に見送られて、わたし達は学園から飛び立った。


「痛い! 痛い!風が痛いし冷たい!」


ドレッド共和国に来た時みたいに全速力で飛翔しているので、火のドラゴンの背で風を諸に浴びているディルはかなり辛そうだ。ナナカ君はただ無言でディルの背中にしがみついている。


 でも、あの島には全速力で飛んでも二時間くらいはかかるハズだから、本当に急がないと帰りが朝になっちゃうんだよ。


身体強化で風をどうにか我慢しているディルと、そんなディルを風除けにして無言でギュッと目を瞑っているナナカ君を横から見ながら、綺麗な星空の下を全速力で飛ぶこと二時間弱・・・カニがいる島に着いた。


「やっと着いた・・・」


顔を両手で擦って座り込むディルと・・・


「ハッ!? 俺はいったい何を・・・?」


地面に降り立った瞬間にハッとして現実に帰ってきたナナカ君。


「ナナカ君! ほら! そんなとこでボーっとしてないで早くゴーレム君を大きくしてよ!」


そんなナナカ君の頬にゴーレム君を押し付けるわたし。


「我が下手に動くとそのカニとやらが逃げてしまうかもしれないので、我はここで待機しています。終わったら声を掛けてください」


そう言って火のドラゴンは海沿いで丸くなった。もし人間だったら日曜に車を出してくれる優しい父さんだったに違いない。


「ナナカ君! 早くしないと日が昇っちゃうよ! ゴーレム君を大きくして! 触れて魔気を流すだけだから!」

「えっ、あ、はい!」


今の状況を理解してるのかしてないのかよく分からないナナカ君にゴーレム君を人間サイズまで大きくして貰う。


「ソニア。光の玉出してくれないか? 身体強化をすれば月明りだけでも十分見えるけど、ナナカはほとんど見えてないんじゃないか? ・・・なぁ? ナナカ」

「ソニアさんのキラキラの羽しか見えてないよ。・・・夜になるとそんな風になるんですね」


 珍しそうにマジマジとわたしの羽を見てくる・・・なんだかナナカ君の妙に色気のある垂れ目に見られると恥ずかしい。


「ソニア! 光の玉!」

「うわぁ! い、今出すよ!」


ディルに凄い剣幕で急かされた。


 急がなきゃならないのは分かるけど、大きな声を出されるとビックリするよぉ。


ディルに急かされたので素早く光の玉を出す。すると、周囲の砂浜がパァっと明るくなり、今まで暗くて良く見えなかったものが見えるようになった。


「うわぁ・・・すんごい数のカニだぁ」


昼間とは比べ物にならない数のカニが砂浜を闊歩している。


 カニって夜行性なんだっけ? 分かんないけど、これなら簡単にゴーレム君の中をカニで一杯に出来そう!


「森の奥から何か来るぞ!」


突然ディルが森を睨みながらそう叫んで、腰に手を当ててスカスカと虚空を掴む。


「しまった! 魔剣を忘れた!」

「ええ!? 何してんのさ!」


 わたしに何を忘れたんだってツッコミを入れてた癖に! ディルが忘れ物してんじゃん!


ディルの周りをアタフタと飛び回るわたしと、「魔石はあるから大丈夫だ」と何故か自身たっぷりに構えるディルの前に現れたのは・・・ゴリラだった。


「ゥホ?」


首を傾げるゴリラ。


 いや、ゴリラにしてはちょっと体が出来過ぎてるというか・・・引き締まってるというか・・・。


腕が太くウエストが引き締まったゴリラが森から続々と出てくる。


「え、えぇ・・・いっぱい出て来ちゃったけど、大丈夫なの?」

「大丈夫だ! むしろ丁度いい! ソニア達は気にせずカニを集めてくれ!」


何が丁度いいのか知らないけど、ディルが大丈夫って言うなら大丈夫なんだろう。正直、わたしは戦うのは好きじゃないから手伝わずに済んでホッとした。


「じゃあ、戦うのはディルに任せて、わたし達はカニを捕ろうか! ナナカ君!」

「あ、はい!」


まるで不良漫画のような勢いでゴリラの群れに突っ込んでいったディルを気にしながら、わたしはナナカ君の肩に乗った。


「あの、ソニアさん・・・これって素手で捕まえるんですか? なんかハサミとか付いてるんですけど・・・」

「大丈夫だよ! 挟まれてもちょっと痛いだけだと思うから! ・・・たぶん」


 人間だった頃にテレビで芸能人さんがザリガニに挟まれてたりしてたし・・・カニもそんな感じだよね?


「さぁ! ディルが頑張って魔物を引き付けてる間にさっさと集めちゃおう!」


ディルがバッタバッタとゴリラを殴り倒しているのを横目に、わたしとナナカ君はせっせとカニを集める。わたしが砂浜の砂鉄を使ってカニ達を囲い込んで、ナナカ君が一か所に集まったカニをガコンと開いたゴーレム君の背中に次々に入れていく。


「どうしてカニは横にしか歩けないんですかね? 進化の仕方間違えちゃったんですかね?」

「さぁ~・・・横に歩いてるんじゃなくて横に目が付いてるだけなんじゃない? カニにとってはアレが前なんだよ」

「そうなんですか! さすが妖精ですね。物知りです」


その後もナナカ君の質問に適当に答えながらカニを集め続けて30分くらい。あっという間にゴーレム君の中はカニだらけになった。ひしめき合っててちょっと気持ち悪い。


「ディル~! カニ集まったよ~!」

「うっしゃあああああああ!!」


ディルは高く積んだゴリラ達の骸の上に立って雄叫びを上げている。


 深夜のテンションでおかしくなっちゃったんだね。帰ったら一緒に寝ようね。


「マイの教えが役にたった!」とゴリラとの戦闘を元気に話してくれるディルをちょっと強引にナナカ君が引っ張って、2人は火のドラゴンの背に乗る。そして2人の前にゴーレム君を乗せてあげれば、風除けになって行きのように痛い思いをせずに済むよね。


「そういえば、ソニアさんは戦わないんですか? あのサテツ? っていうのを使えば簡単に魔物を倒せたと思うんですけど」


綺麗な朝焼けの空を飛んでる最中、行きと違って風除けがあるお陰で喋る余裕があるナナカ君がディルにしがみ付きながら聞いてくる。そして、わたしが答える前にディルが答えた。


「ソニアは戦うのが好きじゃないからな。戦える俺がいるのに、わざわざソニアにやりたくないことをやらせる必要はないだろ?」

「・・・確かにそうだね。戦うのが好きな人なんてディルくらいだよね」

「誤解を招く言い方をするな! 俺は戦うのが好きなんじゃなくて、ソニアが・・・じゃなくて、ソニアの力になるのが好きなんだよ! 死ぬつもりはないけど命だって張れる!」


 そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね? なんだか、わたしってディルの好意に甘えちゃってない?


「もしディルが困った時はわたしが力になるからね! 何でも言ってね!」

「ああ、助け合っていこうな」


 あっさり流されたけど、別にいいんだ。ディルの為ならやりたくないことだってやってやろう!


お日様がオハヨウと顔を完全に出し切った頃。ようやく学園に戻って来た。早朝から働く従業員や教員達がウロウロとしているのが上空から見える。


「この時間帯に火のドラゴンが学園に降り立つのはさすがにマズイよね?」

「そうだな。また大騒ぎになって警報が鳴り響く未来が見える」

「仕方ないね。じゃあナナカ君とディルはゴーレム君に掴まってて」

「「え?」」


同時に首を傾げる2人に、わたしはゴーレム君を指差して自分の考えを簡単に説明する。


「2人が掴まったゴーレム君をわたしが電磁力で操ってゆっくりと地面に降ろせば問題ないもんね!」

「あ~~、確かに!」

「え、マジですか?」


納得するディルと聞き返してくるナナカ君。


「じゃあ、ディルはナナカ君が落ちないようにしっかり支えててね!」

「おう!」

「えっ、えっ、えぇええええ!?」


ディルが片手でナナカ君を抱えて、もう片方の手でゴーレム君の首元を掴む。ゴリラ顔負けの腕力と握力だ。


「じゃあ、火のドラゴン。火の妖精にヨロシクね!」

「む? 今日中にカニ玉炒飯とやらを作るのではないのですか?」

「作る・・・かもしれないけど、さすがに火の妖精を満足させられるかどうか・・・。ね? ナナカ君?」


ディルにぶらーんと抱えられているナナカ君の顔を覗き込む。


「・・・っはい。今まで触ったことのない食材を使うわけですから・・・学園祭当日までには火の妖精を満足させられる炒飯を作れると思いますけど」

「分かった。火の妖精様には我からそう伝えておこう。もし、火の妖精様を満足させられなかったら燃やされると思え」

「ご心配なく。必ず満足いく炒飯を作ります」


とんでもない脅しをしてきた火のドラゴンに、ナナカ君は堂々と正面切って答えた。抱えられてるのが恰好つかないけど、なんだか男らしい。


「それじゃあ、また学園祭当日になったら火の妖精を呼びに行くね~!」


火のドラゴンに「バイバイ」と手を振って、わたしはナナカ君に抱えられたディルごとゴーレム君を浮かせてゆっくりと寮の近くの茂みに着地させた。


「ありがとうソニア」

「ありがとうございます。ソニアさん」

「どういたしまして!」


 ふぅ! やっと学園に戻ってきたよ~! 結局朝帰りになっちゃったよ~。なんだか眠くなってきたぁ~。


目をクシクシと擦るわたしの横で、ディルが揶揄い半分、称賛半分の顔でナナカ君の脇腹を小突いた。


「・・・それにしても、火のドラゴンに燃やされると思えとか言われてたけど、よく自信満々に答えられたな。普通に凄いぞ」


「妖精の愛し子様で、狂暴そうな魔物達を簡単に倒すディルの方が凄いと思うけど・・・・・・まぁ、ディルが命を張れるくらいソニアさんが好きなのと同じで、俺は炒飯が命を張れるくらい好きなんだよ。ただそれだけさ」


 ただそれだけさ・・・だって。カッコイイね。わたしもそんなセリフ言ってみたい。


「ふぁ~~~~ぁ」


おっきな欠伸がでた。夕方に仮眠をとったとはいえ、徹夜は辛いよ。


「ん? ・・・えっ、ソニア? ゴーレムの上でコックリコックリしてるけど・・・まさか寝ないよな!? ソニアが寝たら誰がこのゴーレムを運ぶんだよ!? っていうか、中のカニはどうやって保存するんだよ!?」

「あの・・・火の妖精様が破壊した寮の扉に先生達が集まって難しい顔してるんですけど・・・」


焦ったような顔で見てくるディルとナナカ君に、わたしはこう答える。


「大丈夫だよぉ・・・ちゃんと部屋に帰ってディルと一緒に寝るからぁ・・・・・・すぅ、すぅ」

読んでくださりありがとうございます。長年の経験でソニアが寝そうなことを察知したディルと、意識と共に全てを放り投げたソニアでした。

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