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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第5章 演じる妖精とドキドキ学園生活

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187.ナナカ君の挑戦(前編)

クラスの出し物が決まり、ステージ発表も実行委員全員の許諾を得て勇者物語の影芝居に決定した。


 よーっし! これからお芝居のお稽古頑張るぞ~!


・・・と、息巻いていたわたしだったけど、バネラに「脚本がまだです」と言われてしまった。行き場を無くした熱意をどうしようかと会議室の片隅でボーっと天井を見つめて寝転がっていたら、何やら真面目なトーンで話し合っているディルとナナカ君の声が聞こえてきた。


「・・・分かった。じゃあ、また夜になったらな」

「うん。待ってるよ」


 え? なになに!? 2人で夜にナニを・・・!?


バッと体を起こしてディルを見る。とてもウットリした顔で会議室から出て行くナナカ君を目で追っていた。


 えぇ!?


「ディル ディルディル! どうしちゃったの!? ナナカ君に恋しちゃったの!? ランデヴーなの!?」


ディルの制服のネクタイをグイグイ引っ張ってそう叫んだら、バネラが「え!? ナナディルですか!?」とギュイーンっとハイエナのように近寄って来た。


「な、なんだよ2人して・・・俺はただ夜に炒飯の味見役を約束しただけだぞ? ナナカは放課後は食堂で働いてるだろ? だから、それが終わったあとに試作するって言うから・・・」

「よ、夜に二人っきりでアーンするんですか!? 陰から見ててもいいですか!?」


わたしと一緒にネクタイをグイグイ引っ張りながら堂々とストーカーの許可を得ようとするバネラ。ディルが珍しく引いている。


「急にどうしたんだよバネラ・・・早く脚本完成させなきゃいけないって自分で言ってたじゃんか。そんな余裕無いだろ」

「そ、そうでした・・・とほほ」


 とほほって言ったよ。ほんと、面白い人だよ。


わたし達の会話を聞いていたマイに「バネラは今日ウチの部屋で脚本書くんでしょ~?」と連れて行かれた幸せそうなバネラを見送ったあと、わたしとディルも「帰ろっか?」と微笑み合って会議室を出た。


「ねぇ、わたしも一緒に行きたい!」


部屋のベッドでゴロゴロしながらそうディルにそう言ったら、眉を寄せて首を傾げられた。


「別にいいけど・・・夜だぞ? ソニアはいつも寝てる時間だろ。ウトウトしてそれどころじゃなくなりそうな気がするんだけど・・・大丈夫か?」


 うっ・・・確かにそうかも。妖精に睡眠は必要無いって聞いてるんだけど、何故かわたしは眠くなるんだよね。水の妖精には思い込みが激しいって言われた。


「・・・眠くなるなら先に寝て置けばいいんだよ」


言いながらモゾモゾと寝袋の中に潜る。


「じゃあ俺は夜までご飯我慢しようかな。そしたらいっぱい食える!」

「我慢は良く無いよ! ご飯はちゃんと食べなさい! どうせ普通に食べたってディルなら夜もいっぱい食べれるんだから!」


寝袋の中からひょこっと顔を出して注意したら、「じゃあ軽くラーメンでも食べてこようかな」と言われた。


 ラーメンはまったく軽くないし、ここのはあんかけラーメンだから尚更お腹に溜まると思うんだけど・・・成長期のディルには関係無いか。


「じゃあ、わたしは仮眠するからね。時間になったら起こしてね」

「ああ。起きなかったら寝たまま連れて行ってやるからな」

「いや、起きなかったら置いてってよ」


 寝てるわたしを連れて行ってもナナカ君が困るだけでょうに・・・。


「おやすみソニア」

「うん。おやすみ」


ディルが部屋のドアをガチャリと開けた音を最後に、わたしは眠りについた。



「おーいソニア~・・・そろそろ起きろ~」


ぷにぷにとディルに頬を突かれて起こされた。いつの間にかバンザイ寝をしていたわたしは、そのまま「うんっ~~」伸びをして起き上がる。


「おはようディル。・・・あんまり寝てる女の子に触ったりしたらダメだからね? わたしは別にいいけど」

「い、いつもベタベタ触ってるみたいな言い方するな! 見てるだけで決して触ってないからな!? そういうのはまだ早いってデンガが言ってた!」


 何を焦ってるんだか・・・。


まだ少し重たい瞼をクシクシと擦りながら窓の外に視線を向ける。


 お外真っ暗だ。今何時なんだろ・・・・・・おぉ!?


窓の外に淡い光が浮いている。


 まただ! やっぱりこの間のアレは見間違いなんかじゃ無かったんだ! ・・・今度は逃がさないよ!


自分で出せる恐らく最高速度で窓まで飛んで、ペタンとガラスに張り付いた。


「うえぇあ!?」


そんな驚き声が窓の外に浮いている淡い光から発せられた。


「・・・ん? あれ? 火の妖精!?」


淡い光の正体は火の妖精の燃え盛る羽だった。わたしは窓をコンコンと叩いて目を丸くしている火の妖精に手を振る。


 何かわたしに用事があって来たのかな? でも入る場所が無くて困ってたとか?


「急に消えたと思ったら・・・どうしたんだよソニア? 窓の外に何かあるのか?」


後ろからディルがそう聞きながら歩いて来て「え!? 赤い妖精!?」と驚く。


「たぶん、部屋に入ってこれなくて困ってるんだと思うの。ディル、窓開けてあげて?」

「あ、ああ」


ディルが恐る恐る窓を開けると、火の妖精は勢い良く部屋の中に飛び込んで来た。そしてわたしの頬をツンツンと突いてくる。


「おい雷の妖精! この人間とはどういう関係なんだ! 緑の妖精が一番じゃなかったのか!」

「ひょっほ! ひょっほ! ふふくのひゃめへほ!」


 激しく頬を突いてくるせいでまともに喋れないよ!


「お、おい・・・そんなに突いたらソニアが喋れないだ・・・あっつ!?」


わたしと火の妖精の間に手を入れようとしたディルがバッと手を放して自分の指を「ふぅふぅ」と冷ます。


「大丈夫!? ディル!」


 そういえば、前に火の妖精が『アタイの体は超高温なんだ。人間が誤って触れれば火傷どころじゃないぞ』とかなんとか言ってたっけ・・・わたしは妖精だから熱いのは平気だけど、ディルは・・・。


「ああ、ちょっと皮膚が爛れただけだから大丈夫だ。身体強化ですぐに治る」


ディルはそう言いながら闇の魔石に触れる。みるみるうちに傷は治っていった。


「爛れただけって・・・わたしだったら発狂してるレベルだよ」


傷跡が残ってないかディルの手を見ていたら、突然後ろから頬を揉みくちゃにされた。


「今はアタイと話してるところだろー! それで! 結局雷の妖精の一番は誰なんだ!」

「お、おひふいへ! いっひゃいおひふいへ!」


顔をむにむにとされるわたしを正面から見ているディルが「ぷっ」と吹き出して笑っているのに若干腹を立てながら、わたしは火の妖精を引き剥がして叫ぶ。


「ディ、ディルは人間の中で一番なの! 」

「人間の中・・・? じゃあアタイよりは下ってことだな! よかったよかった!」


 ハァ・・・もう面倒だから黙ってよっと。


「それで・・・火の妖精は何でここに来たの? わたしに何か用があったの?」

「何も無いけど? アタイは夜はいつも雷の妖精の寝顔を見に火の雲からここまで降りて来てるんだ。相変わらずバンザイして寝る癖は直ってないんだな!」


 ・・・お巡りさん、ここにストーカーがいます。


むすっと頬を膨らませていたら、今度はディルに頬を突かれた。プシューっと口に含んでいた空気が抜ける。


「ソニア、妖精の友達と楽しくお喋りしてるところ悪いんだけど、そろそろ食堂に向かわないと・・・」

「あっ、うん! そうだね! ごめん火の妖精、わたし達これから用事があるからまた今度ね!」


バイバイと手を振って離れようとしたら、ガシッと腕を掴まれた。


「こんな夜から人間と用事なんて怪しい!」

「何も怪しい事なんて無いよ。ただ試作の炒飯を食べに行くだけだから」

「チャーハン!?」


怪しげにわたしを見ていた火の妖精の表情がパーッと明るくなった。


 これは・・・。


「アタイも一緒に行くぞ!」


 だよね~。そんな気がしてた。


「一緒に行きたいところなんだけど・・・危ないからダメだよ。炒飯を作ってくれるナナカ君はディルみたいに身体強化ができるわけじゃないんだから、さっきみたいにナナカ君の皮膚が爛れたりしたら大変だもん」

「チャーハンが食べられなくなるのは困るなぁ・・・」


「うーん」と腕を組んで考え込む火の妖精。このまま諦めてくれないかなと思っていたら、ポンと手打った。何かを閃いたみたいだ。火の妖精はビシッとディルを指差して口を開く。


「そこの黒い人間! 水を持ってこい!」

「え、水か?」

「そうだ!水だ! アタイと雷の妖精が入れるくらい大きな湯船に入れて持ってこい!」

「大きな湯船?・・・深さがある小さいお皿とかでいいんだよな?」


ディルがわたしに確認を求めてきたので、よく分からないけどコクリと頷いた。


「とりあえず持ってくる」


ディルが洗面台の方からちょっと大きめなお皿に冷たい水を入れて持って来て、テーブルの上に置いてくれた。火の妖精は満足そうに頷きながらその水の中に浸かる。それでも羽の炎が消えないのが不思議だ。


「これで熱さはマシになったハズだ! そこの黒い人間! ちょっと触ってみろ!」

「う、うん・・・・・・あっ、本当だ。マシになった。少し熱すぎるお風呂くらいだ」


ディルは「なんか程よい温かさだな」と言いながら火の妖精の頭をクリクリと撫でる。


 ・・・・・・。


「ディル! 早く行かないとナナカ君が待ちくたびれちゃうよ!」

「お、おう。じゃあ行くか」


どこかバツが悪そうな顔のディルが、火の妖精が浸かったお皿を慎重に持って部屋の扉の方へ歩き出す。


「ほら雷の妖精。何してんのさ。一緒に入りなよ」

「えっ、あ、うん」


特に断る理由も無かったから一緒に水に浸かる。・・・水というか、お湯になってた。


「ふぉ~~~~! 気持ちいぃ~~~・・・」


 まるで熱々の温泉みたいだ~! 熱いのは平気だけど、感じられないわけじゃなくて良かった~!


隣りでホクホク顔でわたしを見ている火の妖精に抱き着く。


「何か癒される温かさだ~~・・・」


思わず火の妖精に頬擦りしてしまう。


 久し振りに同じサイズの人と触れ合った気がする。もはや新鮮だよ。


「お、おい! 火の妖精!? なんか沸騰してるぞ!? あっつ!」


気が付いたらわたしと火の妖精が使っているお湯が沸いていた。ディルは慌てて制服の袖を延ばしてお皿を持ち直す。


「か、雷の妖精がいきなり抱き着いてスリスリしてくるからだぞ!」


顔を真っ赤にしてそう言われた。


 ・・・だって気持ち良かったんだもん。


仕方なく火の妖精から離れると、沸いていたお湯もただのお湯になった。わたしと火の妖精が浸かって割となみなみになってるけど、ディルは何も危なげなくスイスイと歩いて行き、ナナカ君がいる食堂に着いた。


「あ、ナナカ君だ!」


食堂のテーブルに色んな炒飯を並べて眺めているナナカ君の後ろ姿が見えた。


「ナナカー、ごめん遅くなったー」


ディルがそう声を掛けると、ナナカ君は「本当だよ。せっかくの炒飯が冷めて・・・」と言いながら振り返って、ディルが持っているお湯に浸かっているわたしと火の妖精を見て固まった。


「え・・・ディル? その手に持ってるのは・・・?」

「ああ、ソニアと火の妖精だ。一緒に試食するけど、たぶん二人ともサイズ的にそんなに食べれないと思うから気にしないでくれ」

「・・・いやいやいや!! 気にするよ!? ソニアさんは分かるけど、もう一人のその赤い髪の妖精って・・・授業で習った火の大妖精様じゃないよね!? 」


ビシビシと火の妖精を指差してディルと火の妖精を交互に見て叫ぶナナカ君。そんなナナカ君を見て火の妖精がバシャンと水面を叩いて怒った。


「おい! そこの垂れ目の人間! 人間が妖精に指を差すな! 燃やすぞ!」

「も、もや!? 生意気な態度を取って申し訳ありませんでしたぁぁぁ! どうか命だけは!」


綺麗に腰を九十度に曲げて頭を下げるナナカ君。可哀想すぎる。


「許してほしいんならもっと頭を下げろ! 誠意が足りな・・・ぶへぇ!!」


ぺチンッと火の妖精の頬を両手で挟む。


「ナナカ君を虐めないの! せっかく炒飯を作って待っててくれたんだから!」

「へ、へも・・・」

「でもじゃない! ほら謝って!」


頬を挟んだままグイっと火の妖精の顔をナナカ君の方へ向ける。


「・・・ぼ、ぼべんなはい」

「あ、はい」


ナナカ君が快く許してくれたので、火の妖精の頬から手を放す。


「えっと・・・じゃあ、これ、試作の炒飯です。どうぞ・・・」


ナナカ君はそう言いながらテーブルの上に置いてある炒飯達を指差して、そっと一歩後ろに下がった。


「やったチャーハンだ~!」


火の妖精が勢い良くバシャンとお湯の中から飛び出して、炒飯の中へ突っ込んでいって片っ端から一口ずつ食べていく。


 なんか・・・わたしよりもはしゃいでいる子がいると逆に冷静になれるよね。


わたしもお湯から出て、ビショビショになった服をディルの腕時計の中に入って一度リセットしてから火の妖精と一緒に炒飯を食べ始める。


 どれも美味しいけど・・・欲を言えば土の妖精に作ってあげたみたいに妖精サイズで食べたかったな。流石にお米でそれは出来ないけど。


モグモグと咀嚼していると、ディルも席について炒飯を食べ始めた。そして後ろで緊張した面持ちで火の妖精とわたしが食べている様子を見ているナナカ君とコソコソと話しだす。


「悪いなナナカ。ソニアも火の妖精も一緒に行きたいって言い出してさ。火の妖精の暴走はたぶんソニアが止めてくれると思うから安心してくれ」

「う、うん。ディルってやっぱり妖精の愛し子様なんだね。目の前に妖精が2人もいるのに平然としてるなんて・・・凄すぎる」

「そうか? ソニアは昔から一緒だし、火の妖精はソニアの友達だろ? そんな緊張するようなことじゃないだろ」


 そうだよ。妖精とか関係無く、ただ友達の友達が来たみたいな感覚でいてくれたらいいんだよ。・・・まぁ、それはそれで少し緊張しちゃうかもだけど。


テーブルの上に置いてあった炒飯は7皿もあったけど、ディルは全て平らげた。化け物だ。わたしと火の妖精は一口ずつ食べて3周目くらいでギブアップしたのに。


「ど、どうでしたか?」


空になったお皿を片付け終わったナナカ君が恐る恐るとわたし達に聞く。


「どれも美味しかったけど、俺的にはもっと腹に溜まる感じが欲しいかなって思ったな」


7人前をペロッと平らげた化け物がおかしなことを言い出した。


「それなりだな! アタイ的には卵を使ったチャーハンが一番惜しかった! まだ足りない!」


入れ直した水に再び浸かった火の妖精がそんなことを偉そうな顔で言う。


 全ての炒飯に卵が入ってたんだけどね・・・。


「わたしはどれも凄く美味しかったけど、学園祭の目玉にするならもうひと手間加えてもいいかなって思ったよ。変わった具材を使ってみるとかどう?」


わたしとディルと火の妖精のそれぞれの感想を聞いたナナカ君はブツブツと呟きながら真剣な表情で考え込む。


「お腹に溜まる感じで・・・卵を使って・・・変わった具材・・・」


 お腹に溜まるって言ったらディルが夕飯に食べたらしいあんかけラーメンが思い浮かぶけど・・・・・・って、あんかけ!


「「あんかけ!!」」


わたしとナナカ君の言葉が重なった。


「卵を使ったあんかけ炒飯! いいアイデアかもしれないです! これならお腹に溜まります! あとはソニアさんの言う変わった具材ですけど・・・」


 あんかけ炒飯に卵の他に何かを入れると言ったら、それはもう・・・


「カニだよ!カニ玉炒飯だよ!」

「カニ・・・ですか?」


ナナカ君が首を傾げる。


 ナナカ君はカニを知らないの?


「ディルは知ってるよね? カニ。・・・というか教えたよね?」

「ああ、アレだろ? この学園に来る途中に火のドラゴンと一緒に立ち寄った島で、ソニアの髪を切った赤いハサミのアイツだろ? 焼いて食ったら美味かったよな!」


思い出し涎を拭うディルの言葉を聞いて、火の妖精がポンッと手を打った。


「あ~、あの横にしか歩けない可哀想な生き物だな! それだ! それが足りなかったんだ! よし! 人間! お前ら今から取りに行け!」

「「え!? 今から!?」」


ディルとナナカ君が助けを求めるようにわたしを見てくるけど・・・ごめん。わたし、カニ玉炒飯大好きなんだ。


 それに、ナナカ君がカニ玉炒飯を作るならどの道取りに行かなくちゃならない。だったら夜で人が少ない今のうちに行った方がいいと思う。だって・・・


「じゃあ火のドラゴンを呼ぶぞ! 外に出ろ!」


水に浸かったままそう号令する火の妖精に、ディルが困ったようにわたしを見る。


「ほら! 早く行こうよディル! 急がないと夜が明けちゃうよ!」

「・・・ハァ、ソニアも乗り気なのか・・・もう諦めるしかないな」


 カニを求めて夜のフライト開始だよ!

読んでくださりありがとうございます。とんでもなくテーブルを汚しながら炒飯を食べる火の妖精に恐れを抱くナナカ君。

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