185.食欲と演劇
会議室に向かう途中で上空から杖に跨って降ってきたスズメと一緒に会議室に入り、既に部屋の中に居た学園長が「ホッホッホ」と黒板の前で笑い続けること15分くらい・・・テストの上位者が全員揃った。
全員で10人かな?
「これで全員ですな? では会議を始めますか。まず毎回恒例の実行委員についての説明ですが・・・」
学園長は色々と長い説明をしてくれたけど、要約すると、実行委員がやることは学園祭のラストを飾るステージでの出し物と、各クラスの出し物の承認や進捗状況のチェックなど細々としたものですってことだ。
「今回は初回なので軽く自己紹介の後、学園祭の大目玉であるステージ発表の大まかな内容とスローガンだけは決めるように。早めに決めてしまわないと準備が間に合わないですからな」
学園長はそう言ったあと、部屋の隅に置いてある椅子にゆっくりと腰かけた。どうやらオブザーバー的な立ち位置みたいだ。
「じゃあ見知った顔も多いけど、学園祭が初めてのディルとかも居るし一応自己紹介していこうか」
ナナカ君がごく自然に仕切り始めた。
そういえば、前回の実行委員では一位だったスズメはステージで歌いたいって言ったっきり会議には参加しないで、二位だったカーマも意欲的には会議の参加してなかったから、結局ナナカ君が仕切ってたって言ってたっけ。
「ちょっと待ちなさいナナカ。なぜあなたが仕切ってますの? ここには大妖精であるソニア様がいらっしゃるのですから、ここはソニア様に取り仕切って頂くのが当然ではなくて?」
「わたしは生徒じゃないから嫌だよ。前回も取り仕切ってて流れが分かってるナナカ君が仕切るのが一番いいんじゃない?」
というか、それ以前にめんどくさい。わたしは気楽にダラダラしていたい。
「そういうことですから、ソニア様から直々にご指名を賜ったナナカが取り仕切るのが一番ですわ。ナナカ、議長を頼みますわよ」
「あ、うん。頑張るよ」
ナナカ君がスズメの圧力に引いちゃってる! スズメの横暴はわたしが止めないと! ディルはなんだかんだとスズメ側の意見に賛同することが多いし!
「というわけで、ソニアさんとスズメさんから議長に任命された一般科のナナカです。よろしく」
ナナカ君が爽やかな笑みを浮かべて自己紹介をすると、次に隣に座っているマイが立ち上がった。席順に自己紹介をするみたいだ。
「ウチはマイ。一般科だよ~。実行委員に選ばれるのは初めてだからちょっと緊張してまーす」
まったく緊張していない様子のマイの挨拶のあとはバネラだ。
「一般科、バネラです。よろしくお願いします」
シンプルな挨拶を終えたバネラの次はスズメだ。
「魔法科のスズメですわ。色々と忙しい身なので今後の会議にはあまり参加出来ないことも多くなると思いますが、大妖精のソニア様とその愛し子様のディル様がこの学園祭に参加される以上、絶対に失敗は許されません。逐一報告だけは聞きますので宜しくお願いしますわ」
スズメは学園祭の準備に加えて、例の《愛らしいソニア様誘拐未遂事件》の黒ずくめ達を追わないといけないから大変だもんね。しょうがない。
自分の自己紹介をしつつ、わたしとディルの紹介をして、更に軽く脅しを掛けたスズメの次はカーマだ。
「えーっと・・・毎回実行委員に選ばれてっけどあんまり仕事をしてなかった一般科のカーマだ。今回は友達が学園祭を楽しみにしてっから俺もちゃんとやろうと思ってる・・・よろしく」
夜露死苦って言った!
ちょっと照れくさそうに夜露死苦したカーマの次は、その友達のディルだ。
「ソニアの愛し子らしいディルです。学園祭・・・というか、同じくらいの歳の人達とこんな風に何かをするって初めてなので凄く楽しみです。何をもって成功かは分からないですけど、皆で楽しめたらなって思ってます。よろしくお願いします」
ちょっと緊張した面持ちで初々しい自己紹介を終えたディルの次は、わたしだ。
いつもならパチッとウィンクを決めてやるところだけど、今回は生徒達が主役の学園祭だ。そもそもわたしは実行委員じゃないし、あまり目立たないように自己紹介を済ませよう。
「見ての通り妖精のソニアです。ちっちゃい何かが浮いてるなぁくらいに思ってください。よろしくネ」
最後に軽く手を振って自己紹介を済ませた。スズメやディルと同じクラスの子達は軽く手を振り返してくれてるけど、それ以外の皆は物珍しそうにわたしを見ている。
わたしがスッとディルの机の上に降りて座ると、少し間をおいて残りの4人が自己紹介をする。
「護衛科のフエゴです! 今回の学園祭は前回の何倍も盛り上げていきたいと思ってます!」
「同じく護衛科のダルマです。穏やかな雰囲気の学園祭を作っていきたいと思ってます」
「一般科のデイジーです! ふわふわできゃぴきゃぴな学園祭がいいです!」
「魔法科のイリア。恋愛をテーマにした何かをしたいわ」
見事にバラバラな思想を持った四人の自己紹介が終わり、ナナカ君の仕切りで本格的に会議が始まった。
・・・あとは若い子達に任せようかな! わたしも若いし、今まで何かしてたわけじゃないけど、実行委員でも生徒でもないわたしは会議に参加しない方がいいよね。暇そうにしてる学園長と世間話でもしていよう!
わたしはディルのもとを離れて部屋の隅に居る学園長のもとにフワフワと飛んで行く。
「がーくえんちょっ! お話ししよ~!」
「ホッホッホ、可愛い妖精さん。喜んでお相手いたしましょう」
わたしが学園長と楽しく世間話をしている間にも会議は進んでいく。ナナカ君が議長をやって、スズメが黒板に意見などを書き込んでいって、バネラが議事録を作成している。ディルや他の人達は思い思いにやりたい事を言っていて、とても有意義な会議になっているようだ。
ただ一つだけ苦言を呈するなら、スズメがいちいちわたしに確認を取ってくるのが鬱陶しい。後半はもう適当にOKを出していた。
「・・・へぇ~。学園長はバードウォッチングが趣味なんだね!」
「ホッホッホ。そうなんですよ。実は3年くらい前までは別の地域に住んでいたのですが、昔馴染みのフィーユちゃんに学園長になって欲しいと言われて火の地域に戻って来たんですよ。ここらは他の地域と違って珍しい鳥が生息していてとっても面白いんですよ」
「珍しい鳥!? どんなどんな?」
「非常に大きな体躯で、なんと、口から火を吐くんですよ!」
ん? 火を吐くって・・・鳥じゃなくてレッドドラゴンなんじゃない? ドラゴンウォッチングだよそれ。
「ソニア様」
スズメがニッコリ笑顔で声を掛けてきた。また何かの確認かな? と思って適当に「オッケーオッケー」と返事したら、普通に「違います」って言われた。
「会議が終了いたしましたわ」
「あ、もう終わったんだ」
スズメの後ろを見てみると、会議室に残っている実行委員のメンバーはディル、バネラ、マイ、スズメの4人だけになっていて、ナナカ君とカーマと他の4人は居なくなっていた。
ディル達は奥で何か話し合ってるみたいだけど、まだ何か決めておきたいことでもあるのかな?
・・・それにしても、部屋の中が薄暗くなってるってことは結構長い時間経ってたんだね。思った以上に学園長との世間話が盛り上がって時間を忘れていたみたいだ。
「こちらバネラが書き起こした仮の議事録ですわ。後ほど分かりやすく清書する予定ですが、その前にご確認をお願いいたしますわ」
「どれどれ・・・あっ、わたし持てないからそのまま持っててくれる?」
「学園祭実行委員議事録」と書かれた紙束を、スズメに捲って貰って中身を検める。
えーっと・・・なになに? 学園祭のスローガンは「食欲と演劇」か。いいね。何が主体か分かりやすい。
「このスローガンはナナカが皆の意見を取り纏めて決めましたわ。わたくしは「妖精とソニア様」が良かったのですが・・・」
それだと諸にわたしだよ! ナナカ君ナイス! 君のお陰で学園祭は守られた!
本気で残念そうに肩を落としているスズメに呆れながら、議事録の続きを見る。どうやら箇条書きで要点がまとめられているみたいだ。
・食に関する様々な出店を用意し、各クラスの教室での出し物も可能な限り食に関係したものにして貰う。
・「食欲」の目玉はナナカ氏の炒飯で、学園祭当日までに最高の炒飯を完成させる←味見役にディル氏?
・ステージでは、先生方にもご協力いただき、恋愛からアクションまで様々な演劇を行う。
・「演劇」の目玉は、ステージ発表の最後に行う「勇者物語」。
・「勇者物語」の役割、勇者役=ディル氏、お姫様役=ソニアさん。
確か、わたしのソニアっていう名前はその勇者物語の最後に勇者がお姫様に贈ったお花の名前からきてるんだったよね~・・・ってえぇ!?!?
「ちょちょちょちょちょ!!」
「チョチョ? 可愛らしい鳴き声ですわね!」
「違う違う! そうじゃなくて! どうして演劇のお姫様役がわたしになっちゃってるの!?」
わたしは目が飛び出るんじゃないかってくらい驚いてるんだけど、スズメは不思議そうに首を傾げるだけだ。
「ディル様が演劇をやるなら勇者になりたいと言ったことで、自然と勇者物語に決まり、お姫様役はソニア様になりましたわ。会議中に確認して頂いたと思うのですけれど・・・」
Oh・・・なんてこった。適当にOK出さないでちゃんと聞いておけばよかった。
「申し訳ありません。どうやらわたくしの確認の仕方が良くなかったようですわ」
スズメがスッと頭を下げるけど、違う、そうじゃない。
「ううん。わたしが適当に聞き流してただけだから。スズメは悪くないよ」
わたしもさっきのスズメみたいにペコリと頭を下げようとしたら、そっと指で制された。
「いいえ、わたくしの責任ですわ。今から改めてディル様のお相手役を決めますわ」
「え? ちょちょちょ! 待って! 今ディルのお相手役って言った?」
「はい。勇者物語の勇者様とお姫様は恋人同士で、物語の終盤では婚約をしますので」
「・・・へぇ~、そうなんだ。そういえば昔ディルがそんなようなこと言ってたっけ~・・・ふーん」
そうなったら話は別だよね。・・・いや、わたしがディルの恋人役をやりたいとかじゃなくてね? ディルはわたしのことが好きなわけだし、ディルからしたら相手役はわたしの方が嬉しいんじゃないかなってね? だから他の女の人には任せられないよね?
「や、やっぱりお姫様役はわたしがやるよ」
「ソニア様・・・それはとても助かりますし、わたくしもソニア様のお姫様姿を観たかったので嬉しいのですが・・・お羽が激しく動いておりますわよ? わたくしに気を使って無理はなさらないでくださいませ」
「む、無理じゃないし羽も動いてないから! とにかく! ディルのコイビ・・・じゃなくてお姫様役はわたしがやるから! ハイ決定!」
ピシッとスズメの額を指で弾いて、微笑ましそうにわたしを見ていた学園長と何故か恍惚とした表情で額を擦っているスズメを放置してディル達のもとへ飛んで行く。
「ディル~! なーにはなしてんのっ!」
「お、ソニア。どうした? めっちゃ羽パタパタしてるぞ」
「そこは触れなくていいから」
パタパタと勝手に動く羽を気合で抑えようとして抑えられなくて諦めて、再度ディルに微笑んで仕切り直す。
「なーにはなしてんのっ!」
「・・・ソニアがステージに立つなら、ちっちゃいソニアでもお客さんから見えるように少し工夫しないとなって脚本担当と衣装担当と一緒に話してたんだよ」
うんうん。確かにそれは大事だね。遠くの方のお客さんから見たら、それこそ「ちっちゃい何かが浮いてるなぁ」くらいにしか思えないだろうしね。・・・それで、脚本担当と衣装担当とは?
「衣装担当はウチだよー! これくらいしかウチにやれること無いからね~」
マイがひらひら~っと手を振ってそう言い、そしてそのままニコニコ笑顔でバネラの背中をトンッと叩いた。
「そんで、脚本担当がバネラ~! バネラの小説はちょっとエッチで男しか出てこないけど、凄く読みやすくて面白いんだよ~。だから勇者物語の脚本もディル君とソニアちゃんにピッタリに仕上げてくれるよー!」
「・・・ってマイちゃんが言うので、脚本担当は私が引き受けることにしました」
マイとバネラが楽しそうに微笑み合っている。いい感じに距離が縮んでいるみたいでなによりだ。
「・・・っていうことでソニア。遠くからでも見えるように体を大きく出来たりしないのか? 妖精の不思議パワーで」
「出来るならとっくにやってるよ」
「だよな~」
「うーん」と薄暗い会議室で考え込むディル達・・・。
さすがに暗いね。ちょっと明るくしよう。
わたしは自分の目の前に部屋全体を明るく出来るくらいの光の玉を出した。ディル達が「明るくなった」とわたしにお礼を言いかけた時、後ろの方から「きゃあ!」とスズメの悲鳴が聞こえた。
なにごと!?
慌ててくるっと振り返ったら、尖った耳に羽が生えた大きな人の陰に、スズメがビックリして腰を抜かしていた。・・・というか、わたしの陰だ。
「あっ・・・ソニア様の陰でしたわ。ほ、ほほほ・・・これは失礼しましたわ」
ちょっと恥ずかしそうにスカートをパンパンと払いながら立ち上がるスズメ。その後ろにはスズメの倍はある大きなわたしの陰がある。
・・・あっ! これ、いいんじゃない!?
「ねぇ皆! 思い切って影芝居とかやってみない?」
読んでくださりありがとうございます。
スズメ「きゃあ!」ズコォォ!。学園長 Σ(・ω・ノ)ノ!




