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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第5章 演じる妖精とドキドキ学園生活

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184.眠れない夜と皆の順位

《愛らしいソニア様誘拐未遂事件》とかいうふざけた名前の事件の会議が終わり、地下から地上に出ると外はもう真っ暗だった。

寮に戻ったわたしとディルは早々に寝る支度を始める。


「そういえば、明日は授業は無いんだっけ?」

「午前は休みで、午後はテストの結果が発表されて、順位が上位の人達はそのまま学園祭の会議らしいな」

「じゃあ今日は夜更かし出来るね! 寝る前にテストのこととか聞かせてよ! わたしも今日あったことを自分の口からも言いたいし!」


髪を解いてベッドの上に寝転がっているディルの横にモフッとダイブしてそう言って微笑みかけると、「そうだな」と微笑み返された。その顔が妙に大人っぽくて、そして色っぽくてドキッとしてしまった。


 ・・・あ、危ない危ない! ディルはまだ子供! わたしと同じ童顔の癖に妙に色っぽい表情しやがって!


2人で楽しくお喋りしていたら、珍しくディルの方が先に寝落ちしてしまった。


 ・・・どうしよう寝れない。完全に日中に二回も昼寝したせいだ。逆に眼が冴えてきた気がする。


「くか~~~~!」


テストや会議で慣れない疲れが溜まっていたんだろう。ディルはぐっすりだ。わたしはそんなディルの横顔をボーっと見ながら考える。


 ・・・黒ずくめ達って今襲ってきたりしないよね? しないよね!?


暗い中でボーっとしているとついつい余計なことを考え過ぎちゃう。


ヒュォォォォォォォ・・・・


 か、風の音だよね!? ここ海近いし、それに10階だし・・・風の音だよね!?


一応窓まで飛んで外を確認してみるけど、遠くに火の雲と綺麗な満月が見えるだけで何も変わったことは無い。


 お月様が気にし過ぎだよって言ってる気がする。そうだよね、気にし過ぎだよ。大人しくベッドで横になって・・・


ガタン! ゴトッ!


「ひぃぃぃ!?」


 今度はなに!? ・・・・・・ってディルがベッドから落っこちただけかぁ。


安心して窓の方へ視線を戻すと、ちっちゃい淡い光のようなものが浮いていた。


 え・・・?


する必要の無い呼吸を忘れて目を凝らして見てみると、ちっちゃい淡い光には顔みたいなのがあって、わたしを見てニンマリと笑っていた。


「ひっ・・・ひゃぁあああああああああああ!!」


 なにあれ! なにあれ! 見えちゃダメなやつ見ちゃった! こわっ!


慌ててディルの顔面にしがみつく。


「ちょちょちょ! ディルディルディル! 起きて! 起きて! 起きて! 起きてぇぇ!!」


 ディル~~~!!!!


床の上でグッスリ寝ているディルの頭をパシパシと叩きながら直接テレパシーを送りつける。


「・・・うおっ!? なんだ!? ]


ディルがガバッと勢い良く起き上がったせいで、顔面にしがみついていたわたしはコロコロとディルの膝に転げ落ちる。再び浮かび上がってディルの指にしがみつくと、ディルは心配そうな顔をしつつも何故か薄っすらと頬を染めながら「どうした?」と聞いてくれる。


「ディル~!! 窓! 窓の外見てみて!」


指にしがみつきながら窓の方をビシビシと指差すと、ディルは指にしがみついたわたしをそのままに怪訝そうな顔をしながら窓の方へ向かって外を確認する。


「別に何も無いけど・・・どうしたんだよ?」

「えぇ・・・?」


わたしも指にしがみついたまま窓の外をもう一度見てみるけど、何も無い。


「さっき見た時はなんか・・・淡い光がこっちを見て笑ってたんだけど・・・」

「淡い光? それ・・・窓に写ったソニアじゃないのか? ほら、暗いと羽が光るだろ? それが反射してただけじゃないのか?」

「そ、そうなのかな?」

「そうだろ」


 でも、あの時わたしは別に笑ってなかったと思うんだけど・・・恐怖のあまり変な妄想でもしちゃってたのかな?


「あとソニア。その・・・そろそろ離れてくれないか? そこに抱き着かれると諸に感触が・・・」


ずっと指にしがみついていたら、ディルに顔を赤くしてもじもじしながら言われた。


 あっ・・・やばっ! ディルはわたしのこと好きなんだった! わたし、すっごく大胆なことしちゃった! 指に抱き着くなんて! ・・・・・・ん? 指に抱き着くって何だ? 大胆なことなの?


疑問に思いつつも慌ててディルの指から離れると、ディルは自分で言った癖に名残惜しそうに指を見つめたあと「寝直すかぁ」と白々しく気にしてないフリをしながらベッドに横になった。だからわたしも気にしてないフリをしてディルの横に寝転がる。


「ごめんね。変なことで起こしちゃって」

「んにゃ? 気にしなくていいぞ。また何かあったら勘違いでもいいからすぐに起こしてくれ・・・ふぁ~~~ぁ・・・お陰でいい夢が見れそうだぁ」


 ・・・なんだかさっきまでの恐怖心が噓のように消えてなくなったし、わたしも黙って目を閉じてよっと。



気が付いたら朝だった。いや、昼だった。


「おはようソニア」


既に制服に着替えているディルが腕時計をキュッと装着しながら、ベッドの上でバンザイの姿勢で起きたわたしを見下ろしてくる。


「おはよぉディル~・・・今なんじぃ?」

「えっと・・・12時過ぎだな。さっき食堂で昼食を済ませて来て、これから教室に向かうところだ。ソニアも一緒に行くか?」

「ふぁ~~~~ぁ・・・いくぅ~」


ディルの肩の上で髪を結んだり制服を整えたりしながら教室に向かう。ディルが手鏡を片手で持って写してくれたのでとても助かった。


「では、さっそくテストの順位を配ります。呼ばれた者から順番に前に出て来てください」


なんだか疲れた様子のアキノ先生が教卓に手をついてクラスの皆を見回しながら言う。


 きっとテストの採点で疲れてるんだろうね。先生って大変だ。


席順に名前が呼ばれていって、全員に回答用紙と小さな紙が配られた。どうやらそこに各教科の順位と点数が書かれているみたいだ。教室のあちこちで「お前何位だった?」「お前こそ」みたいな会話が繰り広げられている。


「なぁカーマ。お前何位だった?」


ディルも他の人の順位が気になるみたい。ニマニマしながら隣のカーマの紙を覗き込んでいる。


「俺は全部の教科でトップ3には入ってるぜ。前回から順位は落ちてっけど、点数は落ちてねぇぁからな」


わたしもディルと一緒にカーマの順位を見てみる。


 ほほう・・・カーマは選択科目の裁縫で一位で、他は三位か二位なんだね・・・ってカーマお裁縫得意なの!? 意外すぎる。


「ディルの方はどうだったんだよ。テスト当日はなんか眠そうだった上に腹の虫も鳴ってたみてぇだけど・・・」


カーマが挑発気味に口角を上げながらディルの順位を覗き込む。わたしも一緒に見る。


「ディル・・・お前・・・すげぇな! ほぼ一位じゃねぇか!」


ディルは選択科目の魔道科は二位だけど、他の科目は全て一位だった。


 ディルは選択科目に魔道科を選んでたんだ。てっきり護身術を選ぶんだと思ってたけど、確かに魔道科も面白そうだ。・・・そして当たり前のように他で一位を取ってるディルって・・・運動神経も良くて頭も良い。これで寝相が悪く無かったら完璧じゃない?


「一個だけ一位を逃したんだよな~・・・」


 当の本人は一位を喜ぶんじゃなくてたった一個の二位を悔しがってるし! 超人すぎるよ!


「ディル君~? 聞き捨てならない言葉が聞こえたよ~?」


マイがバネラとナナカ君を引き連れてやって来た。視界の端でカーマがスッと寝たフリを始めた。


「ディル君がそんなこと言っちゃったらさ~、一位を一個とれて大喜びしてたウチがバカみたいじゃーん・・・あっ、ソニアちゃんなんだか顔を会わせるの久しぶりー! ディル君の肩の上からこんにちは~!」

「うん、こんにちは~!」


マイはひらひら~っとわたしに笑顔で手を振りながら、自分の順位が書かれた紙をパシーン!とディルの机に提示した。


「おっ、マイは護身術で一位だったのか。さすがだな師匠」


 護身術で一位だったのは凄いと思うけど・・・他が逆に凄い。全部100位前後だ。この順位は初等部、中等部、高等部で別々らしいからほぼ最下位に近いんだろうね。


「ディル君が護身術を選んでたらきっとディル君が一位だったもーん。どうして魔道科を選んだの?」

「まぁ、護身術で一位を取れるのは分かってたからな。だから敢えてスズメの得意分野でスズメに勝って一番になりたかったんだけど・・・無理だった」


 そういうことだったんだ。向上心が尋常じゃないね。さすがディル!


「ディルが調理科に来てたら俺も危なかったかもしれないね」


そう言ってナナカ君が順位の書かれた紙を見せてくれる。


 ナナカ君は選択科目の調理科で一位で、他はだいたい10位前後って感じか~。普通に優等生。料理も出来るしイケメンだし、モテそう。


わたしはそんな謙遜するイケメンにグッと親指を立てる。


「大丈夫だよナナカ君! ディルの料理はそこそこ美味しいけど、流石にナナカ君ほどじゃないから! 料理ではナナカ君が一番だよ!」

「そ、そうですかね? 妖精のソニアさんにそう言ってもらえると嬉しいです」


 うんうん。照れたイケメンは眼福です!


「料理も頑張んなきゃな」とボソッと呟いているディルの前に、バネラがそっと遠慮がちに順位が書かれた紙を差し出した。


「皆が羨ましいです。私の順位はパッとしないので・・・」


バネラはそう言うけど、充分に優秀な順位だ。数学が70位なのを除けば他は全部一桁台だし、生物学にいたっては2位だ。


「ディル君に続いてバネラまで~! ウチよりめっちゃ良い順位なのに何が悲しいんじゃーい!」


マイがそう言ってバネラに抱きついてゆさゆさと揺さぶる。バネラは口では「やめてよマイちゃん!」と言ってるけど顔は完全にだらしなくにやけてるし、鼻の穴が広がっている。


 こう見ると、バネラって結構分かりやすいよね。


「じゃあ、ここに居る全員が学園祭実行委員に選ばれるんだね。カーマも含めて」


ナナカ君がそう言うと、寝たフリをしていたカーマがピクッと一瞬反応した。


 そっか、フィーユは各教科で3位以内に入った高等部の生徒を選抜する的なことを言ってたっけ。


とういうわけで・・・ディル、カーマ、ナナカ君、マイ、バネラ、ついでにわたしの6人で実行委員の会議室があるらしい別の校舎に移動する・・・その途中でお騒がせ三人衆とすれ違った。


「あっ、ソニア師匠と兄ちゃん!」


カーマに似た吊り目のマドカ君がぴょこぴょこと元気に短い赤い髪を跳ねさせながら一番にこちらに走って来た。


「ちょっとマドカ! いきなり走り出したどうしたの・・・ってソニアちゃんにカーマさん!?」


アイリちゃんがツンツンした長い赤い髪を外に跳ねさせながらツンツンした態度で走って来て、わたしを見て、そしてカーマを見てポッと頬を染める。


「ソニア師匠! こんにちは! 僕達テストで良い順位だったんだよ!」


普段はオドオドしているノルン君が珍しく明るい笑顔でトテトテとわたしのもとに駆け寄って来た。キラキラした目でわたしとカーマを見上げる子供達・・・100点!


「なになにこの子達~! かわいい~!!」


マイが手をブンブンとさせながらお騒がせ三人衆を見下ろしていて、そんなマイをバネラが微笑ましそうに見ている。


「こんにちは! 良い順位って何位だったの? 教えてくれる?」

「そういえばお前ら。今回のテストでは一番になれるかもって頑張ってたもんな。見せてみろよ」


3人は満面の笑みでわたしとカーマに順位が書かれた紙を見せてくれる。可愛い。順位とか関係なく撫で回したい。でも、グッと我慢して3人の順位を確認する。


 ふむふむ・・・。


マドカ君は護身術で1位、ノルン君は魔物学で1位、アイリちゃんは妖精学と裁縫科で1位・・・でも、他は全員ほぼ最下位だった。


「おお・・・確かに良い順位だけど・・・お前ら一点突破すぎんだろ」


カーマがそう言うのも仕方ない。そしてマイは「ウチと似てるー!」と嬉しそうにしてるけど、喜ぶところでは無いと思う。


「イッテントッパ? なんか分かんないけどカッコイイってことだよな! やった! 兄ちゃんに褒められた!」


マドカ君がそう言ってぴょんぴょんと跳ねる。可愛い。


「ハァ・・・まぁ、そうだな。今回はよく頑張ったと思うぞ。よくやった」


カーマはそう言いながら柔らかい笑みを作って3人の頭を順番に撫でた。


「カーマ君って弟君達の前だとそんな顔するんだね~。ちょっと印象変わったかも~」

「カーマは普段あまり喋ってくれないからね。俺もそんな顔は初めて見たよ。凄くいい顔だったよ」


マイとナナカ君が感心するようにそう言うと、カーマはプイッとそっぽを向いて先を歩き出してしまった。そして、バネラはそんなカーマとナナカ君を交互に見てニヤニヤしている。きっと掛け算でもしてるんだろう。数学の点数が悪い癖にそういう掛け算だけは得意なんだから。


 ・・・マイに抱き着かれて鼻の穴を広げたり、カーマとナナカ君を見てニヤニヤしたり、忙しい人だよ。ほんと。


カーマに褒められたあとに、わたしに全身を使って頭を撫でられてホクホク笑顔になったお騒がせ三人衆とお別れして、皆で会議室に向かっていると、上空からわたしを呼ぶ声が聞こえた。


「ソニア様~~~! ディル様~~~!! わたくしですわ~!!」


 別の忙しい人が来たよ・・・。

読んでくださりありがとうございます。もしソニアがテストを受けていたら、語学と数学以外は全て平均以下だったでしょう。

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