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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第5章 演じる妖精とドキドキ学園生活
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176.自称妖精学者スズメ

 明日はいよいよ季節末テスト!・・・と言ってもわたしは関係無いんだけどね。


「ディルはどう? テストで良い点数とれそう?」


部屋にある机で真剣な表情で勉強をしているディルに、わたしはベッドの上でゴロゴロしながら問いかける。


「まぁ・・・そうだな。ナナカが前回10位って言ってたし、どれかの教科でそれくらいの順位はとりたいな」


 10位かぁ・・・あれ?


「一番じゃないの?」

「え?」

「いや、ディルなら一番を目指すんだとばっかり・・・」


ディルは一瞬ムッと眉を寄せたあと、自分で自分の頬をパチンッと叩いた。


「よし! 目指すのは一番だ! 見てろよソニア! 俺は一番になるからな!」

「う、うん! ふぁいとっ!」


勢いの良さに若干気圧されるつつも、グッと拳を握って応援する。


一層やる気に満ちたディルは、いよいよわたしにかまってくれなくなった。


 明日のテスト中、わたし何してよっかな。


今まではディルが授業中は、サボり中のお騒がせ三人衆と遊んだり、例のわたしの記憶が入ってるらしいRAMディスクを探してたりしてたんだけど、お騒がせ三人衆も流石にテストは真面目に受けるだろうし、RAMディスクも学園内はだいたい探し終わっている。


 そろそろ学園外に行ってみるのもアリかな~。


コンコン! コンコン!


扉を激しくノックする音が部屋中に響く。


 なんだろう? またディルがナナカ君に頼んで炒飯でも持って来て貰ったのかな?


「誰だ? 俺が出るよ」


 どうやらディルも分からないらしい。


ディルは念のため闇の魔石を持って警戒しながら扉に向かって歩く。わたしはそのディルの後ろを飛んでついていく。


「・・・誰だ?」


ディルが扉越しにそう聞くと、元気な返事が返ってきた。


「わたくしですわ!」


わたしとディルは顔を見合わせる。


「スズメだな」

「スズメだね」


 でも、どうしてここに?


キィィ・・・


ディルがそーっと扉を開けると、やっぱりニコニコ笑顔のスズメが立っていた。


「どうしてスズメがここにいるの? ここは男子寮だよ?」

「男子寮にわたくしが入ってはならないというルールはありませんわ!」

「いやいや! 女子は立入禁止なんだよ! スズメは女子だよね? 一緒にお風呂に入ったよね!?」


わたしがスズメの顔の前でそう叫ぶと、スズメはキョトンと首を傾げたあと、微笑ましい物を見るような目でわたしを見てフフッと笑った。


「それを言いましたら、ソニア様だって女子ではありませんか」

「・・・確かに」


気付かぬうちに特大ブーメランを投げてたみたいだ。


「この世はソニア様がルールなのです! ソニア様が男子寮に入っていいのならば、わたくしも大丈夫ですわ!」

「そんな訳ないでしょう。ねぇ? ディル」


同意を求めて後ろのディルを振り返る。すると、凄く満足そうな顔でスズメを見ていた。


「ああ、ソニアがいいって言えばいいと思うぞ!」

「・・・ハァ。もういいよ」


 まさかのディルもそっち側だったか・・・。


「それで、スズメはわざわざ男子寮のディルの部屋まで何の用?」


わたしが何をしだすか分からないスズメに少し警戒しながらディルの頭の上に座ってそう聞くと、スズメは得意げな顔で「むふー!」と口を開いた。


「ソニア様に贈り物がありますの!」

「え!? 贈り物!?」


座ったばかりだけど、勢い良くまた浮き上がってスズメに近付く。


 スズメは変な子だけど、わたしに好意を持ってくれてるのは確かだ。だからこそ贈り物の中身はちゃんとわたしが貰って嬉しい物に違いないと思う。


「2人とも! こちらへ!」


スズメがわたしからは見えない方に向かって手招きする。


 ・・・ん? あれあれ?


上半身裸のムキムキのオッサンが「ふん!ふん!」と暑苦しい掛け声を出しながら姿を現した。わたしの後ろでディルが「仕上がってんな~」と感嘆の息を吐く。


「えっと・・・」

「コレが贈り物ですわ! どうでしょう!?」


 どうでしょう? わたし、変な夢でも見てるのかな?


「ねぇ・・・わたしにはムキムキの変なオッサン2人しか見えないんだけど・・・贈り物ってどれのこと?」

「コレですわ! 筋肉ですわ! ソニア様は筋肉がお好きと聞きましたの! それをお父様にお伝えしたところ、国で一番の筋肉の持ち主を選抜し、こうして送ってくださったのですわ!」


 ・・・んん!? まって? 色々とおかしい。


「まず、わたし筋肉が好きなんて言ったっけ? 誰から聞いたの?」


スズメはチラリとわたしの後ろにいるディルを見る。まさかと思ってわたしも振り返ってディルを見る。


「言っちゃマズかったか? この前、放課後にソニアの話で盛り上がっちゃってな。つい色々と話しちゃった」


 ・・・え、待って。ということは、ディルってわたしが筋肉好きだと思ってるってこと!? なんで!?


「ディル様には他にも色々と聞かせて貰いましたわ。お片付けが苦手でいらっしゃるとか、大きな音に怯えてしまわれるとか、両手を上げて眠られるとか、いつもニコニコして・・・」

「ちょ・・・待て待て! スズメ! 全部本人に報告しなくていいから! どんどんソニアの頬が膨らんでいってるだろ!?」


 そりゃあ膨れるよ!


「わたし、陰口言う人大っ嫌い!」


わたしがプイッとそっぽを向くと、ディルが慌てた様にわたしの視界に滑り込んでくる。


「ま、待て! 俺、陰口なんて言ってないぞ!? ソニアの可愛いと思うところしか言ってない! ・・・なぁ? スズメ!」


そう言ってディルは縋るような目でスズメを見る。


「そうですわね。ディル様はとても幸せそうにソニア様の全てを語らうような勢いで様々なことを教えてくださりました。時間が有限でなければもっと聞いていたかったですわ」


 ・・・ちょっと引っ掛かる部分があるけど、スズメが誇張して言ってるだけだよね。

 でも、まぁ・・・ディルが陰口を言う様な人じゃないのは知ってるし・・・何よりディルはわたしのことが好きなわけだし・・・。


「そうだよね。ディルは陰口なんか言わないよね。ごめんね。大っ嫌いは撤回するよ」

「よ、よかったぁ~」


ディルは体中に力が抜けたようにその場にへたり込む。


「・・・なんだか分かりませんが誤解が解けたようで良かったですわ。さぁ、ソニア様! カイス妖精信仰国一番の筋肉自慢のキンとニックをお受け取りくださいませ!」


2人のムキムキのオッサンが「ふん! ふん!」と言いながらにじり寄ってくる。夢に出て来そう。


「もしソニア様がカイス妖精信仰国に来て下されば、この2人にも引けを取らない筋肉自慢達がソニア様をお迎え致しますわ! 今やカイス妖精信仰国ではソニア様のお陰で筋トレが大流行していますの!」


 とんでもないことになってるよ! 下手なことは口にしない方がいいね。・・・いや、筋肉が好きなんて一言も口にしてないんだけど・・・。


スズメのそのすんごい良い笑顔を見れば、本当にわたしが喜ぶと思って準備してくれたのが分かる。だからこそ、「いらない」とは言いづらい。


・・・なんか、小さい子に綺麗な石拾ったからあげるねって言われてる気分。


「あのねスズメ。確かに筋肉は嫌いじゃないけど、わたしが今貰ったのは筋肉じゃなくて筋肉自慢のオッサンだよ。オッサンはいらないよ」

「・・・それもそうですわね。わたくしもオッサンは欲しくないですわ」

「うん。分かってくれて良かったよ。じゃあ、そのオッサンは元居た場所に返してきてね」


スズメはあからさまにしょんぼりと肩を落として「分かりましたわ」と後ろを向く。

わたしが少し悪いことをしたかなと思っていると、後ろからディルが「待ってくれ!」と帰ろうとするスズメを引き留めた。


「今から少し時間あるか? 悪いんだけど勉強を教えてほしくて・・・」


ディルは申し訳なさそうに腰を低くして「頼む」と言う。


 勉強を・・・? わたしでも数学とかなら教えられそうだけど・・・まぁ、前回の季節末テストで一位だったスズメの方が教えられるよね。


「本来ならこのような夜更けに殿方のお部屋に招かれるなど王女としてあってはならないのですが・・・」


 自分からオッサン2人を連れて男子寮までやって来たくせに!?


「妖精の愛し子様であられるディル様の頼みです。喜んで招かれましょう」

「あ、オッサンは要らないから帰してくれ」


散々要らないと言われたオッサンは特にガッカリした様子もなく元気に「ふん!ふん!」と掛け声を出しながら去っていった。


 どこに帰るのか知らないけど、途中で捕まらないか心配。でも捕まって当然の格好してるんだからしょうがないよね。


「それで、どの教科を教えて欲しいんですの?」


机でノートを整理しているディルに向かって、スズメが灰色の髪を後ろで纏めながら見下ろしながら言う。


「教えて欲しいのは妖精学だ」

「え!? 妖精(わたし)がいるのに!?」


 妖精がすぐ傍にいるのに、わざわざ他の人に教えを乞うなんて・・・。


「いや、最初はソニアがいるから妖精学なんて楽勝だと思ってたんだけど・・・なんか俺と他の人で妖精に対する解釈違いが多いんだよな」

「なるほど・・・妖精様のことを熟知しすぎてるが故に、わたくし達のような浅い考えが理解出来ないというわけですわね」

「・・・そういうことでいいから教えてくれ」


 あ、ディル、めんどくさくなったな?


そして、自称妖精学者のスズメによる妖精講座が始まった。わたしはベッドの上でウトウトしながら聞き耳を立てる。


「まずは軽く基礎をおさらいしましょう」

「はい!」


ディルが背筋を伸ばして元気に返事をして、スズメが「コホン」とどこか誇らしげな顔で口を開く。


「妖精とは自然を証明する存在であり、自然とは妖精無くして存在は出来ません。そして、失くなってはこの世界のバランスが崩れてしまう程の自然を証明している存在を、わたくし達人間は大妖精様とお呼びしていて、その大妖精様は6人存在していることが分かっています」


スズメは「最近になってもう1人確認出来ましたが」とわたしのことをチラリと見る。


 あれ? でもわたしが居なくてもこの世界は普通に存在出来てたよね? その理屈だとわたしは大妖精ではないのでは?

 そもそも、わたしは「雷の妖精」の他に「光の妖精」って呼ばれることがあるけど、光が存在しない世界なんてあり得ないし、わたしが妖精として生まれる前は普通に光あったんだよね? ・・・ん? なんだかよく分からなくなってきたよ?


「現在、確認されている大妖精様は、気体を司る空の大妖精様、温度を司る火の大妖精様、固体を司る土の大妖精様、液体を司る水の大妖精様、生命を司る緑の大妖精様、魔気を司る闇の大妖精様です。闇の大妖精様以外の大妖精様は世界中に散らばって各地でその土地を管理しているとされていますわ」

「・・・ん? じゃあ闇の大妖精はどこで何してるんだ?」

「分かりませんわ。闇の魔石や闇の適性持ちが生まれてくることから存在だけは分かっているのですが・・・」


2人がチラリとわたしを見てくる。


「え? わたしも知らないよ?」


 そういえばガマくんが闇の妖精と仲が良いって言ってたっけな。まぁ、そのガマくんも今は行方不明なんだけど。


「では基礎の振り返りはこれくらいにして・・・ディル様は妖精学のどこがご不明ですの?」

「ああ。まず、妖精は可愛らしいが非常に冷酷で時には人間の命を奪うこともある・・・って書いてあるんだけど、ソニアは可愛いけど、冷酷じゃないし人間の命を奪ったりしないぞ?」


ディルがそう言うと、スズメはあからさまにわたしの様子を窺いながら慌て始める。


「そ、それは違うんですの! 決してソニア様がそのような妖精様だと言っているのではなく、わたくしの国にいらっしゃる空の大妖精様やこの国の傍にいらっしゃる火の大妖精のことを・・・あっいえ! ソニア様のお仲間を悪く言っている訳ではありませんわ!」

「分かってるよ。実際、わたし以外の妖精はそういうとこあるし・・・あっ、でもナナちゃんだけは違うかな?」


 わたしから生まれたらしい虹の妖精のナナちゃんは最初からマリちゃんと仲良くしてたし、人間に対して冷酷なんてことは無いと思う。


わたしがベッドの上でゴロゴロしながら「ナナちゃんは虹の妖精でわたしと同じ金髪なんだよ」と教えてあげると、スズメは一瞬苦虫を嚙み潰したような顔をしたあと、ブンブンと首を横に振った。

そんなスズメを気にすることなく、ディルはポンッと手を打った。


「つまり、他の妖精と違って人間にも優しいソニアは特別ってことだな!」

「ナナちゃんもね」


 わたしには人間の頃の記憶があるから、他の妖精達とは少し違った価値観を持ってるんだろうね。だから妖精らしくないわたしを見てディルが困惑しちゃうんだ。でも、それはどうしようもないことだよね。これがわたしなんだから。



それからもスズメの妖精講座は続き、わたしの眠気は限界を迎えて来た。


「・・・なるほど、ソニアが羽を触られると嫌がるのは、羽は妖精にとっての弱点だからなのか!」


 ・・・弱点っていうか、ただ触られたらくすぐったいから嫌なだけなんだけど。眠すぎて言い返すのも面倒だよ。


「ディル、わたしはもう眠いから寝るね。あんまり夜更かししないでディルもちゃんと寝るんだよ」

「おう。おやすみソニア」

「おやすみディル」


わたしは自分の寝袋に入って目を閉じる。「おやすみなさいませソニア様」というスズメの声が凄く至近距離から聞こえた気がするけど、気のせいだろう。

読んでくださりありがとうございます。次話はディル視点のお話になります。

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