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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第5章 演じる妖精とドキドキ学園生活
172/322

171.学園祭のことと、杖のこと

「ところで、スズメはどうしてわたしを追い掛けてたの? 何か話があったの?」


医療室でフィーユが持ってきた炒飯をモグモグと食べるスズメに、わたしは机の上で寛ぎながらそう尋ねる。


 あんな凄い形相で追い掛けて来たんだから、よっぽど大事な話があるんだと思うけど。


「わたくしは大好きな妖精様とお話がしたかったのですわ」

「うん。だから、何のお話があったの?」

「いえ、お話がしたかっただけですの」

「ん?」

「はい?」


わたしとスズメはお互いを見合って首を傾げる。その間にフィーユが肩を竦めながら入ってきた。


「ソニアちゃん、彼女は純粋にソニアちゃんとこうしてお話をしたかっただけで、特に用があったわけではないと思いますよ」

「え、そうなの?」

「そうなのです! わたくし、胎児の頃からこうして妖精様にお会いして、お話をするのが夢だったのですわ!」


 夢を持って生まれたんだね。母親もびっくりだよ。


「聞きたいことが山のようにありますのっ・・・ゲホッゲホッ」

「興奮しすぎだよ・・・わたしはここで待ってるからゆっくり食べて」


スズメがわたしのことをジックリと・・・シットリと見つめながら炒飯を 食べている間、わたしは何やら編み物を始めたフィーユとお話する。


「そういえばさ、この学園って学園祭があるの? 午前中にそんなようなこと言ってたよね?」

「ありますよ。一年に4回、季節末テストの後にテストの上位者が実行委員となり、出し物や出店などを学園内で行っているのです」


 一年に4回もあるんだ! いいねそれ!楽しいことは何度やっても楽しいからね!


「学園外からも一般の客を招いて、そこから学園の資金を調達しているのですが、一年に4回行わないと足りないのです」


 ・・・それは聞きたくなかったよ。もっと純粋に楽しみたい。


「前回の学園祭はどんな感じだったの?」

「前回は・・・スズメさんが一位で、カーマ君が二位でしたよね」


 そっか。テストの上位者が実行委員になるなら、一位と二位の発言力は大きそうだ。


「わたくしはステージで一曲披露しただけですわ」


スズメが炒飯を頬張りながら興味なさげに言う。


「そうでしたね。貴女は最初の会議で・・・」

「ステージで歌いたいですわ・・・とだけ言って、それ以降の会議には出席していませんわよ」


 まぁ・・・スズメは聴講生だしね・・・。


「それじゃあ二位のカーマが委員会を取り仕切ってたの?」

「カーマ君は会議中いつも寝ていましたよ。あの子はどうも自分が居ない方が上手くいくと考えているみたいで・・・」

「どうして?」

「恐らく彼の目付きと口調が他人を委縮させてしまうからだと思いますが・・・本当のところは本人にしか分かりませんね」


 ・・・今度さり気なく聞いてみようかな。


「結局、前回・・・というか、これまでの学園祭実行委員はテストの上位者がそれぞれ好き勝手に意見を出し合い、それを十位のナナカ君が上手くまとめていた感じですね。お陰で出店のほとんどが炒飯になってしまいましたけれど」


 ナナカ君優秀! そして炒飯大好きっ子か!


「ですが、今回はソニアちゃんの提案のお陰で科目ごとに順位を発表します」

「そっか! じゃあ一位がいっぱいいるんだね!」


 例年とは違った感じになるんだね! 例年をよく知らないけど!


「まぁ、それでもわたくしは全ての科目で一位を取りますけ・・・ゲホッゲホッ!」

「貴女は・・・そんなでも一国の王女なのですから、もう少し落ち着きを持ちなさい」

「わたくしはこの学園の誰よりも落ち着いていますわ・・・モグモグ」


 誰よりも落ち着きがないと思うけどね。ディルの方がまだ大人しいよ。


「今回は各科目の上位三人を実行委員に選抜しようと思っています」


 え・・・全部で10科目あるんでしょ?


「それだと人数多すぎない?」

「重複する生徒が何人かいると思いますので大丈夫だと思いますよ。もし多すぎたり少なすぎたりした場合は、前回と同じ人数になるように調整する予定です」

「全ての科目でわたくしが一位ですからね!」


ようやく炒飯を食べ終えたスズメが自信満々に胸を張る。


「では、食べ終わったので妖精様とお話してもよろしいかしら?」


スズメがチラリとフィーユを見る。


「いいですけれど・・・体調が戻ったら授業に戻りなさいね」

「分かりましたわ!」


 もう体調戻ってるんじゃないの?


「私は食器を下げて来ますね」


そう言ってフィーユは医療室を出て行った。すると、スズメが「さっそく!」と身を乗り出す。


「では妖精様!」

「妖精様じゃなくて名前で呼んでね」

「ソニア様」

「・・・まぁ、いいやそれで」


 本当は呼び捨てかちゃん付けで呼んで欲しいんだけど・・・。


「フフ・・・フフフッ・・・こうして憧れの妖精様とお話ができるなんて・・・夢のようですわ」


スズメは頬を赤く染めて嬉しそうに破顔する。


「わたしに聞きたいことが山のようにあるんでしょ? 」

「はい! まずは・・・そうですわね・・・妖精様方はお歌が好きだと授業で習いましたが・・・どのようなジャンルのお歌がお好きなのでしょう?」


 え? 妖精って歌が好きなの? ミドリちゃんも他の妖精達もそんな気配は全くなかったよ?


「えっと・・・わたしはアップテンポな元気な歌が好きだよ」


それからは、スズメによる怒涛の質問ラッシュが続いた。いつの間にか戻ってきていたフィーユも聞き耳を立てている。


「・・・なるほどですわ。やはり美しい妖精様は排泄行為などは致さないのですわね」


 この子・・・だいぶ失礼なことを質問してる自覚はあるのかな? 無いんだろうな。


ゴーン・・・ゴーン・・・


「授業の終わりを告げる鐘の音ですね。・・・スズメさん、体調はもう大丈夫そうですし、そろそろ自分の教室に戻りなさい」

「あら? もうそんな時間ですのね。時が経つのはあっという間ですわ」


スズメは「またお話いたしましょうね」と微笑んで医療室から出て行く。


 最初は超変人だと思ったけど、話してみれば憧れのアイドルに会って感激する女の子みたいだった。妖精信者って言ってたけど、実際は推しに近い感じがする。


「じゃあ、わたしもディルのところに戻るね」


フィーユに扉を開けて貰って、わたしも医療室から出る。そして鼻歌まじりにディルのもとまで飛ぶ。


「ふんふふふーん♪」


 妖精は歌が好きって言うのも案外間違いじゃないかもしれないね。


ディルと合流して、この日最後の授業を、皆に注目される中でディルの机の上で寝ながら過ごした。

そして終わりのホームルームのあと、スズメがこちらの教室まで来て「お背中をお流しして差し上げたいですわ!」と叫んだため、わたしは今、ディルと同じクラスの女の子達+スズメと一緒に女子寮の最上階にある女湯に向かっている。


「本当にウチらも一緒で良かったのー? 正直言って妖精と王女様と一緒で緊張しまくりなんだけど」

「私・・・ちゃんと歩けてますか?」


マイとバネラが手と足を同時に出して歩きながら強張った表情でそう言う。


「もちろんですわ! ソニア様に選ばれし幸運なご学友同士仲良くいたしましょう!」


 別に選んだわけじゃないんだけどな。


女子寮の昇降機を使い最上階まで上り、女湯の脱衣所に入ると、生徒達がザザッと端に避けてわたし達に道を開ける。


「皆わたし達のことは気にせずに自由にしてていいからね!」


とりあえず、ニッコリと笑って人畜無害なのをアピールする。


「ソニア様はこう仰っていますわ! 皆、ソニア様のご命令通り必ず自由にするように!」


スズメがわたしの二倍くらいの声量で言った。


 わたしのニッコリスマイルが台無しだよ。


わたしは諦めて制服を脱ぎ始める。


 ぬぅ・・・やっぱりこの服着づらいし脱ぎづらいなぁ。羽がつっかえる。


「ソニアちゃん・・・脱ぐの手伝おっかー?」


服を脱ぐのに悪戦苦闘していると、マイがそう申し出てくれた。


「ずるいですわ! わたくしがお手伝いしたいですわ!」

「えっ・・・まぁ・・どっちでもいいけど。羽はあんまり触らないでね」


マイの代わりにスズメが脱ぐのを手伝ってくれる。鼻息が荒くて怖いし、脱いだ後のわたしの服の匂いを嗅いでいるのも怖い。マイとバネラも普通に引いてる。


「スゥ・・・ハァ・・・蜂蜜の甘い良い匂いがしますわ」


 そりゃ、さっき全身蜂蜜まみれになってたからね。


「ソニアさん・・・服の上からでも分かりましたけど、やっぱりスタイルいいですよね・・・」


バネラがわたしの胸を見て、マイの胸を見て、そして自分の胸を見て「ハァ」と落ち込む。


「でも、王女様はこっち側ですね。安心しました」

「何の話ですの?」


服を脱ぎ終わったら、皆で銭湯に入る。わたしは周囲の生徒達がジロジロと見て来て恥ずかしかったので体にマイから借りたハンカチを巻いた。スズメが残念そうな顔をしてたけど気にしない。


「わぁ・・・パノラマだぁ!」


銭湯の片面が大きな一枚窓になっていて、最上階からの景色が圧巻だ。湯船に浮かぶ桶の中で寛ぎながら景色を堪能していると、隣に座ったスズメがわたしの体をマジマジと見つめながら不思議そうに首を傾げた。


「ソニア様は飛べるのですから、こういった景色は見慣れてるのではないのですか? わたくしは杖で飛べるようになってからは、あまりこういった景色に感動することはなくなりましたわ」

「シチュエーションが大事なんだよ! ・・・ってそういえばスズメも飛んでたね。あの杖って空の魔石かなんかで飛ばしてるの?」


 最初に見た時は魔法使いみたいでカッコイイって思ったのにな。


「あの杖の原動力は空の魔石ですが、方向転換の為の火の魔石と安全装置として水の魔石も埋め込んでありますわ」

「え!? 3つも魔石が付いてるの!?」


 普通の人は二つの属性しか持ってないって聞いてるけど・・・。


「やっぱり王女様が3つの属性を持ってるって言う噂は本当だったのね~」

「珍しいですよね」


少し離れたところで聞き耳を立てながら湯船に浸かっていたマイとバネラが感心したようにそう呟いた。


「あの杖は下のお兄様がわたくしの為に古代の遺物を現代の魔石で使えるように改良してくれたものなのですわ。今はフィーユ先生にソニア様に迷惑をおかけした罰として没収されていますが」

「優しいお兄様なんですね」


バネラが羨ましそうにスズメを見る。


「そのお兄様は今は行方知れずなんですけれどね」


一気に空気が重くなった。


 とんでもないことを軽々と口走るなぁ・・・。


「王女様のスズメの兄ってことは王子様でしょ? 大丈夫なの?」

「まぁ、お兄様のことですから、今頃どこかで古代の遺物でも弄繰り回してると思いますわ。なのであまり心配はしていませんの」


 わたしが言ってるのは国のことなんだけど・・・・・・ん? ちょっと待って。


「きっと王女様のお兄様も、王女様に似て変わった・・・あっいえ、愉快な方なんでしょうねー」


 マイがオブラートに包んだ言い方をするけど、お兄さんも変人だろうねってことだよね。


1人の人物が思い浮かぶ。


 灰色の髪で、古代の遺物を弄繰り回してて、変人・・・。


「ねぇ、そのお兄ちゃんの名前って何て言うの?」


まさかと思って聞いてみる。


「ヨームですわ。ヨーム・ピス・カイス。それが下のお兄様の名前ですわ」


 ・・・そのお兄様。今はくるみ村でマリちゃんと一緒に古代の遺物を研究してるんだよ。

読んでくださりありがとうございます。ソニア>マイ>>>スズメ>バネラ。何の順番かは分かりません。

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