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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第5章 演じる妖精とドキドキ学園生活
164/320

163.恥ずかしい、えへへ

「ごちそうさまでした! 美味しかったし食べ応えがあってよかったぞ!」


ディルは満面の笑みで食器をカウンターに下げる。

食器を受け取った食堂のお姉さんが不安そうにディルの腕時計を見下ろして口を開いた。


「妖精さん・・・その変わった腕輪の中に入っちゃったけど、大丈夫なの?」

「ん? ああ、腕時計な。大丈夫だぞ。暇になったら出てくるだろうから」

「そうなの・・・妖精って不思議ね」


 ただ咽せて失態を見せて恥ずかしかったから隠れただけなんだけど・・・そんな好奇心に満ちた目で腕時計を見ないで欲しい。


お腹が膨れたらしいディルは、わたしが入っている腕時計をチラチラと気にしながら寮の部屋に戻った。


 あれ? 戻っちゃうんだ。学園を見て回らないのかな?


部屋に戻ったディルは椅子に座り、紙袋からテーブルの上に荷物を出していく。制服に、紙束に、ブゥブゥクッション・・・。


 結局それ持って来たんだ。使いどころなんて無いだろうに。


ディルは制服とブゥブゥクッションをベッドの横に置き、紙束をテーブルに広げてペンとインクをリュックから取り出す。


 なにこれ? 問題がいっぱい書いてある。なんか・・・宿題っぽい?


カリカリカリ・・・カリカリカリ・・・


ディルはひたすら問題を解いていく。


 ・・・暇だなぁ。


腕時計の中から出てテーブルの上で寝転がる。


「暇だーー」

「ちょっと・・・暇だからって紙の上でゴロゴロしないでくれ」

「っていうかディルは何してるの? 宿題?」


立ち上がって紙に書いてある内容を読んでみる。どうやら危険な魔物についての問題が書かれているみたいだ。


「テストだって言ってたな。一応俺の学力? っていうのを把握したいんだってさ」

「へぇ~・・・ディルは簡単に解いてるね」

「まぁ、魔物に関してはミカさんに色々と教わったし、他に歴史とか語学とかもあるけど、それもデンガ師匠やウィックに教わったからな」


 歴史に語学かぁ・・・この世界の言語は何故か日本語だから語学は問題ないけど、歴史は無理だね。まぁ、わたしが解くわけじゃないんだけど。


「他にはどんなのがあるの?」

「えーっと・・・」


ディルが紙束をテーブルの上に並べていく。


「さっき話した魔物学と歴史と語学の他に、数学、妖精学、生物学・・・の全部で6つだな」


 その6つのテストを今からやるのかぁ・・・。


「どれくらいかかる?」

「たぶん昼くらいには終わると思うけど・・・暇ならソニア1人で学園内を見て来てもいいぞ。ここら辺は安全そうだし」


 1人でか~・・・。


「ディルと一緒にいる」

「そっか」


ディルは心なしか嬉しそうに返事した。


 とは言っても、やっぱり暇なんだよね~。


ベッドの枕の上でゴロゴロと寝転がる。クンクン・・・ディルの匂いがする。


 ・・・あっ、そういえば昨日ナナちゃんに伝言を頼んでたけど、返事はまだかな?


わたしは枕にうつ伏せになってナナちゃんに通信する。ミドリちゃんに「昔わたしと会ったことがあるかどうか」をナナちゃんに聞いてもらっていた返事を聞くために。


 おーいナナちゃーん!・・・ナナちゃーん!

 (・・・)


返事がない。


 ナナちゃーん! わたしの伝言ちゃんとミドリちゃんに聞いてくれたー!?

(あっ、先輩! ・・・そうです! ミドリさんに聞きましたよ! 会ったことあるって言ってました!)

 そっかぁ・・・わざわざ聞きに行ってくれてありがとね!

(いえいえ! マリちゃんは今日予定があって暇でしたし、ミドリさんも1人で寂しそうにしてたので丁度良かったです!)

 へぇ~・・・今は何をしてたの?

(え、今ですか? 今は・・・リアン君とミカモーレさんとミドリさんの3人とお話してました!)

 え!? ミカちゃんがそっちにいるの!?

(そうなんです! マリちゃんの宿に泊ってるんですよ!)

 ・・・でもそっか。シロちゃんの背中に乗ればあっという間にクルミ村までいけるのか。

(あっ、そうだ! 先輩はリアン君にどんな服が似合うと思いますか?)

 突然だね・・・。でも、リアンに似合う服かぁ。リアンは可愛いから何でもに会いそうだよね。お城でメイド服を着ていた姉のネリィも可愛かったし、リアンもメイド服とか似合うかもしれない。

(え!? メイド服ですか!?)

 んぇ!? ち、違う! 違う! それはそう思ってただけで! 別に着て欲しいとかそういんじゃないから!

(え・・・あ~・・・心の中で思ってただけで伝えるつもりじゃかったんですか。・・・フフッ、うっかりさんですね。口に出して会話すれば心の中で留めておきたいことと、伝えたいことを上手く分けられますよ!)

 ・・・そうなんだ。うぅ、恥ずかしい。

(でも、私もメイド服は似合うと思いますよ! リアン君可愛いですし!)

 

ナナちゃんと通信しながら枕の上で仰向けになる。視界の端で頭を抱えるディルが見えた。


 ごめん、ディルがなんか苦悩してるみたいだから切るね。マリちゃんに今度お喋りしようねって伝えておいて!

(はい! マリちゃんにそう伝えておきますね! じゃあ!)


ナナちゃんとの通信が切れた。


 ハァ・・・なんか今日は恥ずかしい思いばっかりするなぁ。


「それで? ディルは何を悩んでるのかな?」


ディルの頭の上に乗ってテスト用紙を覗き込むと、たくさんの数字が書かれていた。


「他の教科は問題なかったんだけど、数学がなぁ・・・訳わかんないんだよ」


 まぁ、この世界で普通に生きてて、算数ならともかく数学なんて絶対必要ないからね。


「・・・というか、他の教科は問題なかったんだ」

「うん。妖精学は近くにソニアがいるお陰で簡単に解けたし、生物学も余裕だった」

「生物学かぁ・・・アザラシのこととか書いてる? ちゃんと美味しいって答えた?」


わたしが横に避けてある紙束をめくって生物学のテスト用紙を覗こうとすると、めくろうとしていた紙束を手で抑えられた。

「突然なに?」とディルの顔を見上げたら、凄く気まずそうな顔で目を逸らされた。


「えっと・・・ソニアにはまだ早いっていうか・・・見せられないっていうか・・・とにかく! 生物学は問題ないから!」


素早く紙袋の中にテスト用紙を仕舞ってしまった。


「それよりも、問題はこの数学なんだよ。ぜんぜん分かんない」

「どれどれ?」


問題の内容はわたしが中学一年生くらいに習ったようなレベルだった。


 これならわたしでも教えられそう!


「えっとね、これはまず掛け算と割り算から先にやって・・・」

「ふむふむ・・・」


ディルは吞み込みが早く、公式を一度教えれば次々と問題を解いていく。


「・・・って、何でソニアは数学が分かるんだよ」

「え?」


 ちょっと調子に乗りすぎちゃったかもしれない。


「えっとぉ・・・わたし妖精だから! これくらい一度見れば分かるんだよ! ほら! わたし生まれた瞬間から喋れたし!」

「そうなのか・・・すごいな」


普通に関心されてしまった。罪悪感。


ディルに教えながら問題を解いていったら、気付いたら夕方になっていた。思ったよりも時間が掛かっちゃったみたいだ。


グゥ~~~!


ディルのお腹が鳴った。


「やばい! 昼ごはん食べてない!」

「そうだね。わたしお腹とか空かないから、ちょっと時間の感覚がマヒしてたよ」

「急いで食堂に行くぞ!」


そう言って左腕をわたしに差し出してくる。


 ああ、腕時計の中に入れって? 別にこのままでもいいんだけど、入って欲しいなら入ってあげよう。


「はーい」


体を電気にして腕時計の中に入る。

ペンとインクを急いで片付けたディルは、走ってるのか歩いてるのか分からないようなスピードで部屋を出た。


「昇降機とか階段とか吞気に使ってる場合じゃないよな!」


そう言ってディルは10階の廊下から柵を乗り越えて飛び降りる。


 闇の魔石で身体強化してるんだろうけど、それにしてもおかしいよ。


今は放課後だからか、制服を着た生徒達が普通に歩き回っていて、突然上から飛び降りてきたディルに奇異の目を向けて少し距離を取っている。


 ディルは気にしてないみたいだけど、あんまりおかしな子を見るような目でうちの子を見ないで欲しい。いや、実際におかしなことをしたのはディルなんだけど。


男子寮から廊下を通ってエントランスに出る。昼間は寝ていた受付にいる寮長さんが起きていた。

眠そうな目をこちらに向けて怠そうに手を振る赤髪の男性に、ディルはペコリと軽くお辞儀して食堂の扉を開ける。そこは朝と違って生徒達でごった返していた。


「席空いてるかなぁ?」


ディルはそうボヤキながらカウンターに並ぶ列の最後尾に立つ。ピーク時で厨房の人手が増えてるのか、それほど時間もかからずにディルの番になった。カウンターの奥に立っている食堂のお姉さんが「今度は何にする?」とディルに聞く。


「一番早く出来るやつをください!」

「じゃあ、炒飯だね。・・・ナナカ君! 炒飯を超特急でお願いね!」


厨房の奥の方から「分かりました!」とナナカ君の声が聞こえた。


 話したいけど今は忙しそうだね。また今度にしよっと。


食堂のお姉さんから番号の書かれた木札を受け取ったディルは、空いてる席がないかキョロキョロと食堂内を見回す。すると、誰かが後ろからディルの肩を掴んできた。


「おい、お前お金払ってねぇだろ。ここで無料で飯を食えるのは学園の生徒だけだ。それ以外のやつは金を払うか、すぐに帰れ」


ディルと同じ歳くらいの目付きの悪い赤髪の少年がディルを睨む。


 あっ、もしかして制服を着てないとダメだったのかな。これはこっちに非があるかもしれない。


周囲の生徒達から「あいつホームルームでの話聞いてなかったのか?」とか「妖精の愛し子様だぞ、大丈夫か?」とか「あいつホームルーム中に寝てたからな」という声が聞こえる。本人には聞こえてないみたいだけど、わたしにはバッチリ聞こえている。


 彼にも非はあるみたいだね。


「あっ、ごめん。本当は制服を着ないとタダじゃないんだったな。そう学園長から説明を受けてたんだけど腹が減りすぎて忘れてた。今度から気を付けるな。忠告ありがとう」


ディルはそう言って肩を掴まれていた手を払いのける。


「てめえ! 変な言い訳すんな! この学園はこういう所で予算を確保して俺達みたいなのに無償で授業を受けさせてんだよ! それを理解してねぇ部外者はとっとと帰れ!」


少年が怒鳴り声を上げてディルに掴みかかろうとする。


 やめて! ディルに乱暴するな!


腕時計からディルの目の前に高速で飛び出して、少年に向かって電撃を放つ。


バチバチン!!


「グッ・・・」


少年はピクピクと痙攣しながら床に倒れた。白目を向いて気絶している。


 ちょっとやりすぎちゃったけど・・・ディルに乱暴しようとしたんだから仕方ないよね!


食堂内が静まり返る。わたしが口を開く前に、誰かが「先生を呼んでくる!」と叫んで食堂から出ていき、気絶した少年が数人がかりでどこかへ運ばれていく。


「あーあ、やっちゃったねディル」

「やっちゃったのはソニアだろ。俺ならあれくらいどうにか出来たし、こんな騒ぎにならずに済ませられた」


ディルは「でも守ってくれてありがとな」とわたしの頭を優しく撫でてくれる。えへへ。

そして何事もなかったかのように空いている席に座るディル。生徒に呼ばれた先生がやって来るのと、頼んだ炒飯が運ばれてくるのは同時だった。


「こここ、この度は私のクラスの生徒が多大なるご迷惑をお掛けしましま、しましたこと! おおおお詫び申し上げます!」

「うわっ、紅しょうが抜いてくれって言うの忘れてたよ~・・・え? なんですか?」


温度差が凄い。呼ばれた若い男の先生は深々と頭を下げて震えているのに対して、ディルは紅しょうがを口に入れて「すっぱい!」と震えている。わたしはまた腕時計の中に入ってその光景を傍観している。


「この責任はすべて私にあります! わ、私はどうなっても構いませんので! どど、どうか生徒にはご慈悲を!」

「ご慈悲とかよく分かんないけど全然許しますし、こっちも悪かった部分はあるので。むしろうちのソニアがご迷惑おかけしました・・・ほらソニアも!」


ディルがパシパシと腕時計を叩く。


 えぇ~・・・ディルに乱暴しようとしたあいつが100%悪いのにぃ。


わたしは腕時計の中から出て、一応「ごめんなさい」と謝った。


「そういうことなんで、先生は戻ってください。・・・というか食事の邪魔をしないでくれ」

「は、はい! 直ちに失せます!」


汗をびっしょり流した先生が慌てて食堂から出ていった。


「わたし、悪くないのに」

「ソニアはやりすぎなんだよ。ちょっとピリッとさせるだけで良かったんだよ」

「むぅ・・・ディルだって、もし、す、好きな人がいたとして、その人が乱暴されそうになったらどうする?」


 ディルの好きな人がわたしだって分かってて聞いてるんだから、わたしは性格が悪いと思う。


「もし・・・好きな人が乱暴されそうだったら、あの程度じゃ済まないな」

「そっか、そうなんだ。えへへ」


ディルは「半殺しじゃ済まないな」と物騒なことを言いながらスプーンいっぱいに掬った炒飯を口に運ぶ。そして一瞬固まった。


「・・・ん? はへ? ふぃふふぁっへ?」


ディルが口いっぱいに炒飯を含みながらもごもごと訳の分からないことを言う。


「どうしたの?」

「ゴクンッ。あー・・・いや、何でもない。たぶん俺の勘違いだ」


紅しょうがもちゃんと全部食べたディルは、「ごちそうさま」と食器をカウンターに戻して食堂を出る。モーゼの十戒のように生徒達が道を開けてくれる。


「じゃあ腹も膨れたし、ソニアの新しい服を受け取りに行くか」

「うん! 確か学園長室の隣の医療室だったよね!」


わたしの姿が無い方がディルが絡まれる気がしたので、わたしは腕時計に入らずディルの頭の上に乗る。すごく見られるけど、ちょっかいは出されない。


ガラララ・・・


一般課程の校舎にある医療室の引き戸をディルが開ける。


「あらディル君にソニアちゃん・・・新しい服を取りに来たんですね」

「うん来たよー!」


ディルが椅子に腰かけたのを横目に、わたしは机の上に置かれている小さな服を見る。


「もしかしてこれがそう?」

「はい。ソニアちゃん用の制服を作りました。どうですか?」


手に取って体に合わせて見る。基本的な形はそこら辺で見た女子生徒と同じだけど、スカートや袖の部分にひらひらのレースが付いているのが他と違う。


「この歳で制服って・・・痛くないかなー?」

「何言ってんだよ。ソニアまだ8歳だろ?」


 いやまぁ、ディルからしたらそうなんだけど、精神的にはずっと20代で止まってるんだよね。


「さっそく着てみていただけませんか? 合わない所などがあれば直したいので」

「いいけど・・・どこで着替えるの? そこの奥のベッド?」

「そうですね。そこでお願いします」


3つある内の一つがカーテンで区切られている。ああいう風にカーテンを閉めればこちらからは見えない。


「そういえば、そこのカーテン閉まってるけど誰か寝てるのか?」

「はい。先ほど運ばれてきた子が・・・」


フィーユはそう言って少し考えたあと、バッとカーテンを開け放った。


「えっ、ちょっ・・・フィーユ先生!」


さっき食堂でディルに掴みかかろうとした少年が驚き顔でベッドに寝そべっている。


「そんなとこで聞き耳を立てていないで、2人にちゃんと謝りなさい」

「うっ・・・はい」


少年はベッドから起き上がり、ディルの前まで移動する。そして、ビシッと腰を直角に曲げた。


「食堂ではごめん。さっきフィーユ先生からお前らのことを聞いた。担任にまで迷惑をかけたみたいで・・・全部早とちりした俺が悪いんだ。だから先生は・・・」


震える声で「先生は悪くないんだ」と言う少年。ディルはその少年の肩を掴んで頭を上げさせる。


「こっちこそ、ソニアがやりすぎちゃったみたいで悪かったな。これでお互い様だ。・・・それと、食堂のおすすめのメニューがあれば教えてくれ!」


ニッと笑うディルに、少年は肩を撫でおろした。


「お前、良い奴だな。俺の名前はカーマだ。友達になろうぜ!」

「・・・っああ! 俺はディルだ!」


ガシッと力強く握手して嬉しそうに笑う男達。


「さぁさ、ソニアちゃんはこっちで着替えましょうね~」

「あ、はーい」


ディルに同い年の友達が出来た光景を感慨深く見ていたら、フィーユにベッドの方へ指で押された。そして制服を渡されてシャーッとカーテンを閉められた。


 ディルがわたしのことを8歳だって言ったからかな? なんか急に態度が変わった気がする。


 ・・・まぁ、いいや。着替えよっと。


今着ているニットのワンピースを脱いで、渡された制服を着る。


 おお凄いよこれ! 背中に羽を通す穴がある! いつも背中がガラ空きだったからね。なんか逆に違和感だよ。

 ・・・しかもこのスカート! 一見スカートに見えるけど、スカートじゃなくてキュロットじゃん!


スカートの中が見えてもいいようにと履いていたショートパンツを脱ぎ捨てて、スカート風のキュロットを履き、ニーソックスを履く。最後にニットのワンピースに付けていたマリちゃんとお揃いの青いリボンを胸元に結んで・・・。


 着替え終わった! 早く鏡が見たい! コスプレみたいになってないよね!? 痛い感じになってないよね!?


シャーッと全身を使ってカーテンを開ける。ディル、カーマ、フィーユの視線がわたしに集中する。


「どう・・・かな?」

「とってもお似合いですよ。ソニアちゃん」

「な、なんか色々とヤバイぜ・・・」


フィーユがとってもいい笑顔で褒めてくれて、カーマが訳の分からないことを言って頭を下げてわたしを見上げる。そんなカーマにディルが「覗くな」と軽く蹴りを入れる。


「ねぇ・・・ディル」


 ディルからは何も言われてないんだけど・・・って言ってもいいのかな?


「その・・・すっごい可愛い」


ストレートに褒められた。嬉しい。


「えへへ」と笑うわたしに、フィーユが手招きする。


「せっかくだから髪型も変えましょう!」


フィーユに制服と同じ紺色のリボンでツインテールにされたわたしは、ディルとフィーユに「可愛い」を連呼されて、耐えられず体を電気にして腕時計の中に避難した。

・・・避難したら、下着以外の服が全て脱げた。


 あああ! そうだった! 服は妖精であるわたしの体に馴染ませないと一緒に電気にならないんだった!


フィーユがわたしの制服を回収してディルに渡す。受け取ったディルはそれをポケットに入れて立ち上がった。


「じゃあ、ソニアが照れて出て来なくなっちゃったし、俺はもう寮に戻ります」


 いや、それもあるけど、わたしが出て来ないのは服が脱げちゃったからだよ。今出て行ったら下着姿だよ? 出られないよ。


退室しようと扉に手を掛けたディルの肩をカーマがポンッと叩いた。


「一緒に帰ろうぜディル。・・・んじゃ、フィーユ先生、治癒の魔石使ってくれてあざっしたー」

「いえいえ。それよりも、一匹狼のカーマ君にお友達が出来て良かったですね。ディル君を同じクラスにするよう学園長に掛け合ってみましょう」

「マジか! サンキューだぜ先生!」


ディルとカーマが「よろしくな!」と言いながら医療室の引き戸を閉めて寮に向かって歩き始める。

その数秒後、医療室からフィーユとは違う、若い女の子の声が聞こえた。


「ちょっとフィーユ先生! いったいどこに妖精様を隠しているのですか! どこにも見当たらないではありませんか!」

「ハァ・・・こちらから紹介するまで待てないのですか。それと、窓から入って来るのは止めなさい。ここ2階ですよ」


ディルとカーマは自分達の会話に夢中で気が付いてないみたいだけど、その女の子とフィーユの会話が聞こえたわたしは、この先の学園生活が少し不安になった。

読んでくださりありがとうございます。脱ぎ散らかした服は放ったらかしです。

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