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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第5章 演じる妖精とドキドキ学園生活
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159.聖女の案内

(たぶん)平和な国の(たぶん)学校のグラウンドに突如上空から降り立ったわたし・・・というよりは火のドラゴンを大きな盾を持った重装甲の男達が囲んでいる。


 盾だけで武器は持ってないみたいだけど・・・というか、全員が火のドラゴンを見ていて、ディルはもちろん、わたしのことは誰も見てないんだよなぁ。こういう時は大体わたしが一番注目されるんだけど・・・いや、別にいいんだけどね?


「出迎えとは・・・人間も少しは成長したようだな」


火のドラゴンが少し嬉しそうに言うけど、絶対に違う。


「聖女様! ここは危険です! 早く避難を!」


そんな声が盾の向こう側から聞こえて来た。


 聖女!? そこに聖女がいるの!? 気になる!


「ここが危険だと分かっているのなら早くお逃げなさい。マルコ、先日第2子が生まれたそうではないですか。早く家族の元に行き、安心させてあげなさい」

「聖女様・・・! しかし、我々はこのような時に民を守る為に訓練を!」

「その民は既に避難を開始しています。・・・家族がいる者は絶対に、いない者も大切な人がいる者は絶対に逃げなさい。これは聖女としてではなく、あなた達の上司としての命令です」


 おお・・・家族が居ない人にも逃げる理由を作ってあげるなんて・・・! 大きな盾のせいで姿は見えないけど、すごく優しい人だ! ・・・というか、わたし達は別に危険じゃないんだけど。


その聖女の言葉に半分くらいの人達が居なくなった。いや、半分くらいの人達が残った。大きな盾が半分になったことで、声しか聞こえなかった聖女の姿が見えるようになった。


「出迎えご苦労、人間の。ここにおわすのはただの妖精ではなく、光の・・・偉い妖精様だ」


火のドラゴンが翼でわたしの背中をそっと押す。聖女と目が合った。


 優しそうな・・・おばあちゃん!


白髪交じりの赤髪のおばあちゃん。綺麗な歳のとりかたをしていて、白くて儚げなローブが凄く似合っている。思わず目が釘付けになってしまうくらいだ。


 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花・・・まさにそんな人だ。歩く姿勢もとっても優美で綺麗。わたしもこんなおばあちゃんになりたいな。・・・まぁ、わたし歳とらないんだけど。


「偉い妖精様・・・」


聖女が優しそうな瞳を真ん丸にして、わたしを見る。他の盾を持った男達も、まるで今初めてわたしに気が付いたような顔をしている。


「偉い妖精様。私、いえ、わたくしはこの国で首脳代理を務めているフィーユと申します」


フィーユはわたしの前に跪き、首を垂れる。その様子に周囲の盾を持った男達が息を吞み、同じ姿勢をとった。


 えらいこっちゃ・・・。


ディルが火のドラゴンの背から降りてきて、小声で「どうすんだよ」とわたしの頬を突こうとして、躊躇う様に止めた。


 とりあえず・・・自己紹介されたら自己紹介で返さないとだよね。


「顔を上げて」


わたしの言葉に、首を垂れていた人間達が顔を上げる。怯えた顔の人、不安そうな顔の人、好奇心に満ちた顔の人、人間達が色んな表情でわたしを見上げるなか、フィーユだけは何かを見極めるような真剣な眼差しでわたしを見つめてくる。


「わたしは雷の妖精のソニア! だよ☆」


緊張感のある雰囲気などお構いなくに、いつも通りにパチッとウィンクする。その瞬間、フィーユの険しい顔が安堵の顔になった。わたしは「次は君達の番だよ」と火のドラゴンとディルを見る。


「我は偉い妖精様とその連れを送っただけです。この者らに挨拶する意味はない」


そう言って火のドラゴンは翼を広げて飛び立とうとする。盾を持った男達がバッと立ち上がりフィーユを守るようにの前に出た。


「待って! わたし達はちゃんとお別れの挨拶したいよ! お礼も言ってないし!」

「・・・我は暫く火の雲にいるので、挨拶ならそこでお願いします。ついでに火の妖精様にも会ってあげてくださると助かります」


火のドラゴンはそれだけ言って火の雲の方へと飛び去っていった。羽ばたく際の風でわたしは吹っ飛ばされた・・・ところをディルにキャッチされた。盾を持っていた男達は風の抵抗をもろに受けそうな物を持ってるのにびくともせず、後ろにいるフィーユを見事に風から守った。


 さすが、重そうな鎧を身に付けてるだけはあるね。重そうすぎて逆に戦いずらそうだけど。


火のドラゴンが去ったことで、盾を持った男達は安堵の表情を浮かべて元の位置に戻った。


「ディル、受け止めてくれてありがと! ディルも、よく風で飛ばされなかったね?」

「ん? ああ、避けたからな! もう、ブルーメの武の大会で風で飛ばされた俺じゃないんだ!」


 そういえば、そんなこともあったね。プラティの彼氏さんと戦った時だよね。・・・っていうか風を避けたの!? どうやって!?


わたしとディルのそんな掛け合いを見ていたフィーユが「あの・・・」と恐る恐る手を挙げる。


「もしかして、そちらの少年は・・・妖精の愛し子様ですか?」」


ディルの鼻の穴が膨らんだ。


 あ、そう呼ばれるの嬉しいんだ。前に微妙な反応してたから嫌なんだと思ってたよ。


「まぁ・・・そういうことに、なってるな」


フィーユが確認するようにわたしを見る。


「うん。確かに前にそう言ったよ」


 眠くて適当に言っちゃっただけなんだけど。


「でも、どうして知ってるの? ここからずっと遠くの村で言ったんだけど・・・」

「探検家ギルドで情報を買いました」

「「探検家ギルト?」」


わたしとディルが同時に首を傾げた。


「申し訳ありません。情報ギルドと言った方がよろしかったですね」


 ああ、情報ギルドね。地方によって呼び方が変わるんだった。・・・っていうか、情報ギルド何でも知ってるなぁ。どこでどうやって情報が渡ったんだろう?


「それで、ソニア様とディル様はこの国、ドレッド共和国にどのようなご用件ですか?」


 そうだ、まずは目的を話さないと! 情報強者っぽい偉そうな人が出て来てくれてよかったかもしれない。


わたしはそっとディルの頭に乗ってポンポンと叩く。


「俺の両親を探してるんだ。最後にここで目撃情報があったって聞いて飛んできた」

「そうだよ。飛んできたの」


ディルの言葉を肯定するようにわたしは頷く。


「愛し子様のご両親ですか・・・お名前と特徴を伺っても?」

「お父さんの名前はルイヴで、俺と同じ黒髪黒目だ。お母さんの名前はサディ、茶髪に緑目でたぶん弓を持ってると思う」

「ルイヴさんにサディさん・・・いえ、いいえ、知りません。申し訳ありませんが私は知らないです」


フィーユはハンカチで汗を拭きながらフルフルと首を振る。


「そっか。まぁ、もともとそんなすぐに見つかるとは思ってなかったし・・・根気強く探すしかないか。・・・にしてもここは暑いな」

「え、暑いの?」

「ああ、ソニアは妖精だから暑さとか分かんないんだっけ。なんか、ジメジメする暑さだな」


 蝦夷梅雨みたいな感じかな? まぁ、向こうの空で雲が燃えてるくらいだし、そうだよね。


「それでしたら、涼しい室内に案内致しますよ。そちらでお話致しましょう」


フィーユがニコリと優しい笑みを浮かべて「こちらです」と歩き始めた。その後ろを盾を持った男達がついていく。


「別にもう話すことなんてないんだけど・・・ディルの両親のことも知らないって言ってたし」

「向こうが何か話あるんじゃないか? さすがにこんな騒ぎを起こしといてすんなり解放してもらえないだろ」


ディルがそう言いながら歩き始める。


「ええ~、怒られるのかなー」


ディルの頭の上でパタンと寝転がって空を仰ぐ。もうすぐ夕暮れ時だ。


「怒られはしないと思うけど・・・何の話だろうな」


わたし達が先を行っていたフィーユ達に追いつくと、歩きながらわたし達にこの国のことを教えてくれる。


「この土地は30年程前は瓦礫のと死体の山だったんです。大きな2つの国の間で戦争が起きて、その戦争を生き延びた人達が敵味方関係無く、手と手を取り合って瓦礫を片付け新しく出来た国が、このドレッド共和国なのです」

「「へぇ~」」

「その敵と味方を見事にまとめ上げ、国を作ったのが、このお方、聖女フィーユ様なのですよ」


盾を持った男達の1人が誇らしげに言う。


「この学園も、フィーユ様が子供達に正しい知識と戦争の残酷さを教えるために建てられたものなんです。この国があのカイス妖精信仰国にも並ぶほどまでに成長したのは、全てフィーユ様のお陰なんです」

「「へぇ~」」


わたしもディルも大した返事が出来てないけど、決して興味がないとかそういうんじゃない。ただ、もう普通に立派な人過ぎて逆にそれしか言えないだけだ。


「ねぇ、建物の中に誰もいないけど、わたし達が来た時に避難してた人達って解放してあげたの?」


 凄く豪華で綺麗な廊下だし、教室っぽい部屋がたくさんあるけど、人っ子1人いないのが何か怖いんだけど。・・・夏休み中に小学校に忘れ物を取りに行った時を思い出すなぁ。


「避難した人達には私の護衛の者が今説明に向かっています。・・・あぁ、着きましたね。学園長室です」


フィーユに立派な長い椅子を勧められて、ディルが遠慮がちに座る。わたしはディルの頭から降りて、前に置かれている豪華なテーブルの上に座った。


「学園長室でお話なんて・・・フィーユって聖女と首脳代理?と学園長を掛け持ちでやってるの?」

「いえ、学園長は別でちゃんとおりますよ」


対面の椅子にゆっくりと腰を下ろしたフィーユがニコリと優しく目を細める。まさに優しいおばあちゃんって感じだ。


「それで、話って何ですか? 俺達、これから宿を探したりしないといけないんですけど・・・ソニアに関する面倒事なら帰りますよ?」


ディルがわたしをチラリと見て、牽制するようにフィーユを見る。


 そんな警戒しなくても、わたしはこの人は大丈夫だと思うけど。


「その宿の件でお話があるのですが・・・よろしければこの学園の寮に泊まって頂けないですか?」

「リョウ? なんだそれ?」

「学園に通う生徒が寝泊まりする場所です。建物自体は男女別に別れていて、階ごとに初等部、中等部、高等部と別れているので、愛し子様と同年代のお友達が出来るかもしれませんよ」


 うんうん。わたしは寮生活はしたことないけど、したことないからこそ何か憧れるよね。


わたしの心はもう寮に泊る方向に傾いてるけど、ディルはそうではなかった。


「男女別かぁ・・・」


険しい顔でそう呟くディルに、フィーユが慌てたように言葉を付け足す。


「男女別ですが、ソニア様は特例として愛し子様と同室で構いません」

「うーん・・・でも、他の男共が近くで寝泊まりしてるのは・・・」

「ディルはわたしのお父さんか! わたしは別にそんなの気にしないし、大丈夫だから!」


 ・・・って違う! お父さんとかじゃなくて、ディルはわたしに恋してるから、えっと、これって・・・どういうこと!?


「美味しい学食もありますよ」

「分かった寮に泊まる」


 おい! 最後まで自分の意思を貫け! 食欲に負けんなや! いや、別にいいんだけど!


「でも、こんな部外者が寮を使ってもいいんですか?」

「大丈夫ですよ。もし気になるようなら授業を受けてはいかがですか? ちょうどカイス妖精信仰国から聴講生として来ている方が寮を使っていますし、その方と同じように学園長には話を通しておきますので」


 授業! おお! 気になる! けど・・・


「いや、それはいいです。両親を探すのに聞き込みとかしたいですし」

 

 だよね! 正直こんな機会は滅多になさそうだし、もったいないけどしょうがないよね。


「愛し子様の両親は私共で捜索しますから・・・」

「え、なんでですか? 普通に俺達も探しますけど」


ディルが疑わし気な目をフィーユに向ける。フィーユは視線を彷徨わせて言い難そうに口を開いた。


「その・・・ソニア様は目立ちますので」

「わたし? こんなにちっちゃいのに?」


わたしは立ち上がってバッと両腕を広げる。


「いや、ソニアはちっちゃくても目立つぞ。というか、ちっちゃいから目立つ」

「むぅ・・・仕方ない。じゃあ、ディルの腕時計の中にでも入ってようかな」

「え、ウデ・・・なんですか?」


わたしはフィーネにも分かるように、「こんなんだよ!」と体を電気にして腕時計に出入りして実演して見せた。


「これならわたしが一緒でも目立たないよね!」

「・・・そうですね。ですが、やはり私共で捜索します。個人で探し回るよりも、国が動いて捜索する方が効率が良いでしょうし・・・何よりも、学びの機会は逃さない方がいいと思いますよ。知識は何にも勝る武器なのですから」

「武器・・・かぁ」


ディルの呟きにフィーユが自信満々に「そうですよ」と微笑む。


「分かりました。じゃあ、とりあえず暫くの間は寮で寝泊まりして授業を受けて見ます」

「では避難している生徒達が戻って来る前に、さっそく寮に案内しましょう」


フィーユはゆっくりと立ち上がって、扉に向かって歩き始める。


ディルの両親か、その手掛かりが見つかるまでだけど、ディルとついでにわたしは暫く学園生活をすることになった。


 この世界の学校! どんな授業があるんだろう?

読んでくださりありがとうございます。優しいおばあちゃん聖女でした。

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