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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第1章 暇な妖精と忙しい少年

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15.楽しい時間

「んーーー!朝だー!」


目が覚めると客室にあるふかふかクッションの上だった。手触りが気持ちいい。


 ・・・・・・あれ? そういえば、わたしいつの間に客室まで戻って来たんだろう?確か、昨日はお風呂に入ったあとにメイドさんの膝の上で・・・


「うわぁ・・・もしかして、あのまま寝ちゃった? 恥ずかしーーー!」


 多分あのまま膝の上で寝てしまったわたしをメイドさんがここまで運んでくれたんだよね・・・。


「・・・ってディルは?」


ベッドの上にディルの姿はない。室内をキョロキョロと探すと、昨日食事をした豪華なテーブルの下で仰向けになって「くかーー」と寝息を立てて寝ていた。


 えー・・・寝相わるっ!最初からそこで寝てた訳じゃないよね?


 ・・・まだ公爵と王様が来るお昼まで大分時間があるよね? 部屋にいてもすることないし、城下町にでも行ってみようかな?


窓の外には、綺麗な朝焼けが見える。わたしは部屋の端に置いてあった大きな姿見(卓上鏡)で身だしなみを整えて、気持ちよさそうに寝ているディルを見る。


 ・・・さすがに眠っているディルをわざわざ起こすのも悪いよね?・・・1人で行こう。


ふわりと浮き上がる。

 

 ・・・・・・いや、やっぱり2人の方が楽しいよね!叩き起こそう!


わたしは寝ているディルの耳元まで飛ぶ。そして「すぅ」と大きく息を吸った。


「おー!はー!よー!!」

「うぶぁそだあ!」

「なんて?」


ディルはよく分からない叫び声を出しながら飛び起きた。テーブルがガタンと揺れる。頭をぶつけたディルはテーブルの下から出てわたしを睨んでくる。


「普通に起こしてくれよ・・・」

「わたし今から城下町に行くんだけど、一緒に行くよ!」


パシパシとディルの頭を叩く。


「聞いてないし・・・」

「いいから!早く着替えて行くよ! ほら! その可愛い寝癖も直して!」

「分かった分かった」


「「・・・・」」


ディルはわたしをジトっと見たまま動こうとしない。


「何してるの?早く着替えてよ!」

 

 それとも、その寝巻き姿で行くの?


「着替えるから後ろ向いててくれよ」

「え?」

「・・・恥ずかしいだろ!!」

「フフッ」

「なんだよぉ!」


 ディルの顔が真っ赤になっている。こんな反応されるとからかいたくなってくる。


「何いっちょ前に恥ずかしがってるの!わたしは10歳の子供の裸を見たところでなんともありませーん!」

「ソニアだって5歳だろ!?いいから後ろ向いててくれ!」

「はいはい」


急いで着替えたけど、寝癖はそのままのディルと一緒に部屋の外に出て、そのままお城の出口に向かって歩く。まだ朝が早いのに、城内には沢山のメイドさんが動き回っていた。


「お待ちください!お二方!」


後ろから昨日のベテランメイドさんが慌てた様子で声を掛けてきた。ディル曰く、メイド長さんらしい。


「お呼び止めしてしまい申し訳ございません。メイド達から城門に向かって歩いていると報告を受けたのですが、どちらに行かれるのですか?」

「暇だったから城下町にでも遊びに行こうと思って」

「その・・・ソニア様が城外を出歩かれますと、とても目立つと言いますか・・・」


メイド長は申し訳なさそうに私達を見る。


「え~、でも暇だし!」

「ですが・・・」

「ソニア、メイド長が困ってるぞ。諦めて部屋に戻ろうぜ」


 10歳の子供に窘められてしまった。仕方ない、大人しく戻ってディルで遊んでいよう。


「あの・・・よろしかったら城内を見学しませんか?」


ガッカリと肩を落としたわたしを見て、メイド長がニコリと微笑む。


「え?いいの!?楽しみー!」

「へー!楽しそうだな!」

「フフッ、では一度お戻りになってお待ちくださいな。私は別で仕事がありますので、ご案内することは出来ませんが、昨日のメイド2人を向かわせます。二人ともまだ新人なのですが、愛想がいいのできっと楽しく見学出来ると思いますよ」


客室に戻ってディルの寝癖を体全体を使って必死に抑えていると、コンコンとノックの音と一緒に昨日のメイドさん2人が「し、失礼します!」と言ってぎこちない動作で入って来た。


 まだ入室の許可してないんだけどね。ま、いっか。


「ほ、本日、城内のごごごご案内をさせて頂きます!ツクシと申します!」

「お、同じくメイドのヨモギと申しまする!」


 まする? すんごい緊張してるじゃん。大丈夫?


ふわふわした茶髪をポニーテールにしている女の子がツクシで、私が膝の上で寝てしまったメイドさん。同じく茶髪で、サラリとした髪を肩の高さでで切りそろえた女の子がヨモギで、昨日ツクシにジェラシーを送っていた女の子だ。


「そんなに緊張しないで? 昨日の夜はもっと普通だったでしょ?」

「そ、そのコンフィーヤ公爵様に直々に、お二人に対して失礼のないようにと言われまして・・・」


ツクシの言葉を聞いて、隣にいるヨモギがブンブンと首を縦に振って全力で肯定している。


「ん?ソニアは妖精だから分かるけど、俺はただの平民だぞ?」


ディルがわたしと自分を指差す。


「その、ディル様は妖精の愛し子だと・・・」

「なんだそれ?」


 愛し子って・・・


「えっと、昔、妖精様に愛された女の子がいたんです」

「その女の子に危害を加えようとした人全員が変死したことから、女の子は妖精の愛し子として国から大切に扱われるようになったとか・・・」

「ぷーーーっ!ディルが妖精の愛し子だってー!おもしろーい!ハハハ!」


 妖精の愛し子、少女小説とかでたまに登場する単語だ。それにディルが・・・似合わなー!


「な、何が可笑しいんだよ!!」

「えっと・・・違うのですか?」


ツクシが困惑気味にわたしを見る。


「違う違う!わたしとディルは・・・」

「友達・・・だよな!」

「うん!友達だよ!」


「ね!」と微笑み合う。


「友達・・・ですか?」

「ああ!だから普通に接してくれ!」

「わたしも、妖精だからって特別扱いされると少し寂しいかな?・・・あ、ちなみにわたしに様は付けなくていいからね」


ツクシとヨモギは目を真ん丸にしてお互いの顔を見合ったあと「ふふふっ」と笑った。


「はい!分かりました!実を言うと、可愛い妖精さんとお喋りしたかったんです!」

「わ、わたしも!ソニアさんとディルくんとは気が合いそうだなって思ってましたよ!」


それを聞いたディルは何故か不満そうな顔になった。


「ち・な・み・に!ソニアより俺の方が歳上だからな!」

「「ええぇ!!」」


 呼び方に不満があったのか・・・


「ディルさん一体おいくつなんですか!?その・・・子供にしか見えません」

「俺は見た目通り10歳だ!」

「え、じゃあ・・・」


2人が恐る恐るとわたしを見てくる。


「わたしは5歳だよ」

「「5歳!?」」


メイド2人は。また目を真ん丸にして口をパクパクさせてわたしとディルを見比べている。


 この2人はいいリアクションをするね!面白い!


「そしてディルはこう見えて女の子なんだよ」

「「うぇーーー!!」」

「ハハハハハッ」


 おもしろーい! からかいがいのある2人だなぁ。


「俺は男だ!変な噓をつくなよ!」

「え?」

「噓なんですか?!」


眉をへの字にしてディルを見る2人。


「あたりまえだろ!どう見ても男だろ!」

「・・・ってことはソニアさんが5歳って言うのも?」

「それは本当だよ、ソニアちゃんって呼んでね!」


メイド2人はまた「えええ!」と驚く、わたしとディルは2人のリアクションが可笑しくて大笑いする。それにつられてメイド2人も笑い合う。楽しい時間だ。


一通り笑い合ったわたし達は、2人にディルの可愛い寝癖を直して貰って、城内を案内して貰う。城の廊下をただ歩いているだけだけど。・・・と言っても「ここでヨモギが・・・」「ここでツクシが・・・」とそこでの2人の失敗談などを話してくれたので退屈することは無かった。


「では最後に、ここがお城の一番高い所にある展望台です!」

「おお!」

「すごーい!」


「じゃーん」と得意げに両手を広げるメイド2人。いい景色だ。パノラマだ。


「実は、私達も来るのは初めてなんですけどね。メイド長が退屈しているお二人のためにと、特別に公爵様に許可を取ってくれたんです!」

「一度来てみたいと思ってたのでソニアちゃん達には感謝ですね!」

「どういたしまして!えへへっ」


 わたし、たいしたことしてないんだけどね!


「・・・それにしてもスゲー景色だなー!こんな高い所に来たの生まれて初めてだ!」


展望台から少し外に出て景色を眺める。メイド2人が「落ちちゃいますよ!?」と慌てるけど、飛べるんだから落ちるわけがない。


 ・・・壮観だねぇ。


緑の森の大きな木の上で見た時よりも海がかなり近くにあって、よく見ると小さな港町がある。ちなみに、海側が東で森側が西らしい。ツクシちゃんが教えてくれた。

そして、北の方には平原が広がっていて、その先には違う国があるらしい。これはヨモギちゃんが教えてくれた。南にもずっと遠くに海があって、緑の森の奥にある山脈から、細い川が何本も海に繋がっていて所々に色んな大きさの村がある。


「ん?なんだアレ?」

「どうしたの?」


ディルがわたし達が来た西の方角を、目を細めて眺めている。


「いや、なんか村の方角に黒い煙?靄みたいなのが・・・・」

「んー?全然見えないけど?」


目を凝らして見てもまったくそれらしい物は見えない。


「ツクシちゃんとヨモギちゃんは見える?」

「いえ、何も・・・」

「私も、視力にはあまり自信が無くて・・・」


メイド2人も目を細めてみるけど、何も変わったものは見えない。


ぐ~~~~!


ディルのお腹の音が鳴り響く。


「ディル・・・」


 そんな大きな音を鳴らしちゃって・・・。


「あ!そういえば俺達、朝ごはん食べてないじゃん!腹減ったー!」

「・・・確かに食べて無かったね」


 妖精はお腹が空かないから忘れてたよ。


「ソニアは腹減ってないのかよ!?」

「わたしは別に何も食べなくても大丈夫だから」

「えぇ!?妖精ってそうなのかよ!?」


 わたしの体なんだけど、自分でも不思議だよ。


「フフッ、客室に食事を用意してあるらしいので、戻りましょうか」


ツクシが口元を抑えて笑いながら言う。


「そうだな!メニューは何だろう!?」

「ソニアちゃんはどうしますか?」

「わたしも食べるよ!」


 お腹は空かないけど、何故か満腹にはなるんだよね!


「食べなくても大丈夫なんじゃないのかよ・・・」

「それとこれとは別だよ!」

「調子のいいやつ・・・」


わたしはディルの頭の上に座って移動する。ツクシちゃんとヨモギちゃんが微笑ましいものを見る目で私達を見てくる。


 そういば、さっきディルが言っていた黒い煙ってのは何だったんだろう?

読んでくださりありがとうございます。本当は「15.可愛いメイドさんと楽しい時間」にしようと思ってましたがやめました。

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