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157.【緑の妖精】大したことない悩み

『新しい仲間が誕生したよ!!』


そう言って私の誕生を喜んでくれた彼女の名前を私は思い出せない。


『新しい仲間が誕生したわ!!』


かつて私に名前をくれた彼女がしてくれたように、私も彼女の誕生を喜んだ。でも、私は私の名前を思い出せない。


『あ、そうそう、わたしの名前___って言うんだよ!ディルが付けてくれたの!いい名前でしょう?』


彼女が莢蒾の妖精にそう得意げに言っているのが聞こえた。彼女は黒髪の少年に名前を貰ったらしい。でも、私はその名前を認識出来ない。


『紹介するね、この子はディル、最初に森に入って来た人間の子供だよ』


 彼女の名前を呼べないのに、人間なんかの名前を呼びたくないわ! 黒髪の少年のことを名前でなんて絶対に呼ばない!


「ハァ・・・」


私は大切な家族である彼女と一緒に考えて作った家で、1人昔のことを思い出して溜息を吐いた。


「莢蒾の妖精も雷の妖精ちゃんも早く帰ってこないかしら。1人だと寂しいわ」


 他の妖精達もいるけど、やっぱりいつもの2人にいて欲しいわ。こんなことならやっぱり雷の妖精を行かせるんじゃなかったわ。


「ハァ」と再び溜息を吐いたあと、慌ててブンブンと頭を振る。


 ううん。雷の妖精ちゃんがそうするって決めて、私もそのつもりで送り出したんだから! 彼女がこの先どの道を選ぼうとも私は後悔したらダメよ! 1人だとどうもずっと昔の自分みたいにクヨクヨしちゃうんだから、私のダメなところだわ!


「ミドリさーん! いますかー!? いますよねー!?」


 ・・・あ~、そういえば今はこの子がいるんだったわ。


枯葉のベッドで横になっていた私は「よっこいしょ」と起き上がり玄関扉を開ける。


 図々しい性格をしてる癖に、莢蒾の妖精や他の妖精と違ってこうやって私が招かないと入ってこないのよね。


「おじゃましまーす!」


ニコニコと手を振りながら入って来たのは、雷の妖精ちゃんより少し暗い金髪のショートヘアーに金色の瞳のお友達。


「虹の妖精・・・ってことはあの小麦色の子供も来てるの?」

「今日は来てないですよ! 同じ歳の子と遊ぶ約束をしてるんだそうです! 微笑ましいですね!」


 何が微笑ましいのか分からないけど、この子の笑顔を見ていると雷の妖精ちゃんが脳裏にチラつくのよね。似た笑い方をするからかしら。


「今日は先輩からミドリさんに伝言・・・というか、質問を預かってきました!」

「雷の妖精ちゃんから?」

「ハイ! ___先輩からです!」


 前も似たようなことを言われて、不思議な記憶を見たんだけど・・・って聞かれたんだったわね。


「えっとですね~・・・」


虹の妖精が雷の妖精ちゃんと似た笑顔で口を開く。


「わたしとずっと昔に会ったことあるよね?・・・だそうです!」


 ・・・っ!


「そ、それは・・・」


 何と答えるのが正解なのか分からない。でも、その言い方からして雷の妖精ちゃんは確信を持ってるわよね。別に隠してるわけじゃないし・・・


「あるわよ・・・そう伝えてくれる?」

「分かりました!」


ビシッとおでこに手を当てる不思議なポーズでそう返事した虹の妖精は、そのままクルッと後ろを向いて帰ろうとする。


「あっ、待ちなさい!」


虹の妖精の羽の端をガシッと掴む。


「いひゃいです!」


虹の妖精が自分の羽を庇うように私に向き直って頬を膨らませて睨んでくる。


「私今すっごく寂しいのよ! 少し話し相手になりなさい!」


私がそう言うと、虹の妖精は一瞬キョトンとしたあと「ぷっ」と吹き出した。


「フフフッ、ハハハッ・・・・ミドリさんも案外可愛い所あるんですね!」

「案外ってなによ! 私は普通に可愛いわよ!」

「はいはい。それじゃあ可愛いミドリさんの為に私が話し相手になってあげますよ!」


 この子・・・完全に私を舐めてるわね! そっちがその気なら私だって!


「やっぱりいいわ! よく考えたら誕生して一年も経ってない虹の妖精と、何億年と生きてる私じゃあ会話なんて成り立たないもんね!」


少し浮いて腕を組んで「ふんっ」と虹の妖精を見下ろす。


「もう・・・なんなんですか。可愛い顔が勿体ないですよ。ほら、そんな膨れっ面してないで行きましょう!」


虹の妖精が私の手をギュッと握って引っ張る。


「どこに連れていくつもりよ!」


足を床に付けて必死に踏ん張るけど、虹の妖精の飛ぶ力が凄い。


「くるみ村ですよ! そこなら私の何倍も生きてる人達がたくさんいますよ! 話し相手に困りませんね!」

「話し相手って・・・あそこには人間しかいないじゃない! 虹の妖精は同じ妖精でお友達だからいいけど・・・」

「マリちゃん達は私のお友達です! お友達のお友達はお友達ですよ!」

「意味わかんないわよ!」


 それはもう他人でしょう!


「・・・というか、私をお友達と言うなら名前で呼んでくださいよ! 私の名前はナナです!」

「・・・」

「ちょっと! 無視しないでくださいよ!」

「ハァ・・・村に行くんでしょう? さっさと行くわよ」


結局、私は虹の妖精の勢いに負けて人間達のいる近くの村まで連れていかれた。


「ハァ・・・」


村の入口で本日4度目の溜息を吐いた。


「何でそんな嫌そうな顔するんですか。村に来るのは初めてじゃないですよね?」

「何の目的も無しに来るのは初めてよ。私が村に行くのは新しいパンの試食会がある時か、私の植えたクルミの木に何かあった時だけよ」


 それじゃなきゃ嫌いな人間がたくさんいるような所に自分から行かないわよ。


テンションが徐々に下がっていく私を、虹の妖精は「じゃあジェシーさんにパンを買ってもらいましょう!」と言って私の手を引っ張って村の中を進む。


 別にわざわざ誰かに頼まなくても、お店に置いてあるパンをそのまま食べればいいのに。


「どこに向かってるのよ?」

「マリちゃんのお家ですよ! ジェシーさんはマリちゃんのお母さんですから!」


私が植えたクルミの木のすぐ近くにある私と雷の妖精ちゃんの家の何百倍もある大きな家。庭にいる見覚えのない白いドラゴンをスルーして、3階の窓の横にある丁度いいサイズの扉を虹の妖精が開ける。ここが小麦色の子供の部屋らしい。そういえば私も何度かパンを貰いに来たことがあるのを思い出した。


「ただいまマリちゃん! 今帰りましたよー!」


虹の妖精が元気に手を挙げて入っていき、私もその後ろに続く。


「わっ! ちっちゃな扉から妖精が入って来たわ!」

「あ、ナナさんお帰りなさい。マリさんはお姉ちゃんと一緒にお昼ご飯を作るジェシーさんのお手伝いに行ってますよ。久しぶりのお客さんだって張り切ってました・・・あれ? 隣りの妖精は誰ですか?」


見知らぬ男と見知らぬ子供が居た。2人とも私を珍しそうにジロジロと見てくる。


「誰よあんた達! 私は見世物じゃないわよ!」


私が2人の人間をビシビシと交互に指差しながら言うと、虹の妖精が慌てたように間に入って来た。


「この子はリアンって言って、少し前にこの村に移住して来たんですよ!」

「そうなの・・・じゃあコレは?」


背が大きくてやたらとガタイの良い男を指差す。


「その人は知りません!」


虹の妖精は堂々と言った。


 もう・・・帰りたいわ。


「さすが___ちゃんとディルちゃんが居た村ネ。普通に妖精と出会えるなんて・・・」


男はそう言ったあと、「コホン」と咳払いしてからニコリと笑って口を開いた。


「アタシはミカモーレ。___ちゃんとディルちゃんのお友達で、訳あって今はマリちゃんの宿に泊まらせて貰ってるわ。・・・あっ、泊ってる部屋はこのマリちゃんの部屋じゃなくて、ちゃんとしたお客さん用のお部屋だからネ」

「じゃあ今は何でマリちゃんの部屋にいるんですか? ・・・リアン君はマリちゃんと遊ぶ約束をしてたから分かりますけど」


虹の妖精が怪しむように男の顔を見上げる。そんな虹の妖精に答えたのは子供の方だった。


「ミカモーレさんは僕の相談に乗って貰ってるんです。本当は僕がミカモーレさんの泊ってる部屋に行く方が良かったんだと思うけど、マリさんが私の部屋を自慢したいからと言って・・・」


子供はそう言いながら部屋の中を見渡す。小麦色の子供の部屋は可愛らしい服を着たぬいぐるみだらけだ。

 

「そうなんですね。リアン君、何か悩み事ですか? 私も相談に乗りますよ?」

「え~・・・人間の悩み事なんてどうせ大したことじゃないわよ」


ボソリと虹の妖精の隣りで呟いた。人間達には聞こえていないようで、そのまま話を続ける。


「じゃ、じゃあ・・・」


子供は少し顔を赤くして「皆には内緒ですよ」と前置きをして悩み事を打ち明けた。



「ほうほう! マリちゃんの気を引きたいんですね! いいですね! 熱いですね!」


虹の妖精が鼻息を荒くして羽をパタパタさせる。


 何がいいのよ! 何が熱いのよ! さっぱり分からないわよ!


「フフッ、そういえばディルちゃんにも同じようなことを相談されたわネ~」

「え、ディルの兄貴にですか!? ミカモーレさんはなんて答えたんですか?」

「そうネ~・・・普段と違う服を着てドキッとさせるのよ! ・・・って言ったわ」


男のその言葉に、虹の妖精と子供が「服ですか~」と考え込む。


「リアン君のその半袖半ズボンも刺さる人には刺さると思うんですけど・・・相手は8歳のマリちゃんですもんね~」


虹の妖精が子供の膝をマジマジと見ながら言う。


「ミドリさんはどう思いますか? リアン君にはどんな服が似合うと思います?」


もう帰ろうかなと思ってたら、急に話を振られた。


 面倒くさいわねー! ここはハッキリ断って私は帰りましょう!


「そんな人間の服なんて興味ないわよ! 私はもう帰るわ!」


後ろを向いて扉を開けようとしたら、虹の妖精に羽を掴まれた。


「ひぎゃあ!・・・ちょっと何するのよ!羽はやめなさいよ!」


 他人の羽を掴むなんて何を考えてるのよ!


人間の男が「やっぱり妖精って羽が弱点なのね」と納得顔をしている。精一杯の怖い顔で虹の妖精を睨むけど、虹の妖精は挑発的な笑みを浮かべて私を見た。


「何億年も生きてるミドリさんは人間の大したことない悩み事くらい簡単に解決できますよね!」


 こ、この子・・・! いいじゃない乗ってやるわよ!


「あたりまえよ! 雷の妖精ちゃんが最初に着てた服だって私が考えて作ったんだから!」


 今は小麦色の子供の母親が作った色んな服を着てるみたいだけど、元々は彼女が昔身に着けていたのをベースに私が考えて作った服を着てたんだから!


「え!? そうなんですか!? どんな服なんですか? 私が先輩を見た時に着てたのは青と白のワンピースでしたけど・・・」


 そういえば、虹の妖精は雷の妖精ちゃんと一度しか会ったことが無いのよね。それも雷の妖精ちゃんに生み出されたその時しか。当然、雷の妖精ちゃんが最初に着ていた服も知らないわよね。


「雷の妖精ちゃんは白一色のワンピースを着てたのよ!」

「白一色?」


虹の妖精と人間達が首を傾げる。


 ふん! 分かってないわね~。


「雷の妖精ちゃんはシンプルな方が似合うのよ! もちろん他の服を着ても可愛いけど、やっぱり白一色なのが、雷の妖精ちゃんの星のように綺麗な金髪と、湖のように透き通った青い瞳がよく映えるのよ! それに、余計な柄が無い方が雷の妖精ちゃんの笑顔が一層際立つもの!」


大きな声でそう言ってやった。一瞬の間があったあと、虹の妖精が「分かります!」と私の手を両手で握る。


「髪の色とかもそうですけど、やっぱり先輩は笑顔が素敵ですよね! 白いワンピースで笑う先輩! とっても画になります!」

「そうよね! そうよね! あの笑顔は絶対に守らなきゃいけないものよ!」

「激しく同意です!」


 何よ! 分かってるじゃない虹の妖精!


「・・・でも、あえて黒のフリフリドレスもいいと思わない?」


握りあった手をブンブンと振って語り合う私と虹の妖精の隣りで、男がボソリと呟いた。私は闇の妖精のような黒いドレスを着て不適に笑う雷の妖精ちゃんを想像する。


 いいわね。


「それに加えてツインテールなんてどうです? ちょっと盛りすぎですかね?」


虹の妖精がだらしなく顔を崩してテへへと笑う。


「アリだわ・・・やるじゃない。虹の妖精に、そこの男も」

「フフッ、ミカモーレよ。緑のちっちゃな貴女も、___ちゃん似の貴女も」


私達は見つめ合い、フフフと笑い合う。すると、ずっと黙っていた子供が申し訳なさそうに手を挙げた。


「あの・・・僕の相談はどうなったんですか?」


 もうどうでもいいじゃない! そんなこと!


・・・と思った私と違って、虹の妖精と人間の男は慌てて子供に謝る。


「ごめんなさいリアンちゃん! すっかり___ちゃんの話題で盛り上がっちゃったわ」

「忘れてないですから! ちょっと脱線しただけですから!」


リアンが口を尖らせていじけたように虹の妖精と人間の男を見る。すると、虹の妖精が突然「あっ」と片手で頭を押さえた。


「ごめんなさい! 先輩から声を掛けられてるのでちょっと待っててください!」


そう言って虹の妖精はそのまま雷の妖精ちゃんと会話を始める。人間の男が「どういうこと?」と首を傾げてる。仕方ないので「虹の妖精と雷の妖精ちゃんは離れてても会話出来るのよ」と簡単に説明した。


「あっ、先輩! ・・・そうです! ミドリさんに聞きましたよ! 会ったことあるって言ってました!」


虹の妖精が声に出して話始める。当然だけど、虹の妖精以外には雷の妖精ちゃんの声は聞こえないから、傍から見れば虹の妖精が1人で喋ってるように見える。


「いえいえ! マリちゃんは今日予定があって暇でしたし、ミドリさんも1人で寂しそうにしてたので丁度良かったです!」


 ちょっと! やめなさいよ! 変なこと伝えないでくれる!?


「え、今ですか? 今は・・・リアン君とミカモーレさんとミドリさんの3人とお話してました! ・・・・・・そうなんです! マリちゃんの宿に泊ってるんですよ!」


虹の妖精は楽しそうに話してるけど、残りの人間2人は喋っていいのかダメなのか分からずに、ずっと黙って虹の妖精を見つめている。


「あっ、そうだ! 先輩はリアン君にどんな服が似合うと思いますか?」


虹の妖精はそう言いながら子供に向かってウィンクする。子供の方は少し緊張した面持ちでコクリと頷いた。


「え!? メイド服ですか!?」


その言葉に子供が口をあんぐりと開けた。


「え・・・あ~・・・心の中で思ってただけで伝えるつもりじゃかったんですか。・・・フフッ、うっかりさんですね。口に出して会話すれば心の中で留めておきたいことと、伝えたいことを上手く分けられますよ!」


 なるほどね。私は雷の妖精と同じ色の妖精じゃないから詳しいことは分からないけど、気を付けないと心の中で思ってることが会話相手に筒抜けになるみたいね。


「でも、私もメイド服は似合うと思いますよ! リアン君可愛いですし!」


虹の妖精がまた子供に向かってウィンクした。子供は引き攣った笑顔を浮かべている。


「・・・はい! マリちゃんにそう伝えておきますね! じゃあ!」


虹の妖精は私を見てニコリと微笑む。


「お待たせしました! 終わりました! ミドリさんの伝言はしっかりと伝えましたよ!」

「うん。雷の妖精ちゃんはなんて?」

「そっか、わざわざ聞きに行ってくれてありがとう・・・って言ってました」

「そう」


 特に変化はないかな?


「それとリアン君。聞いてたと思いますけど、先輩はリアン君にメイド服が似合うって言ってましたよ!」

「い、嫌ですよ! メイド服なんて女の子が着る服じゃないですか!」


子供はブンブンと激しく頭を振る。


「まぁ、本人は嫌でしょうけど。アタシもリアン君のメイド服姿は見てみたいわネ」


人間の男がうっすらと目を細めて微笑む。


「絶対に嫌です! そもそもマリさんをドキッとさせる服装を考えるんじゃなかったんですか!?」

「・・・それもそうネ。まぁ、どっちにしろメイド服なんてすぐに用意出来ないんだし無理よネ」


 用意できるわよ。私なら。

 

「できるわよ」

「「「「え?」」」


虹の妖精と人間の男と子供が目を丸くして私を見る。


「メイド服でしょ? 見たことあるわよ。こんなのでしょ」


私はそっと子供の着ている服に触れる。一瞬で半袖短パンが可愛らしいメイド服になった。


「え・・・え? ちょっと何するんですかああ!!」


子供は自分の服装がメイド服に変わっているのを見て、顔を真っ赤にして私を睨む。


「わぁ! 可愛いですよ! リアン君! こっち見て!」

「いいわネ! 似合ってるわよ! リアンちゃん!」


人間の男と虹の妖精が興奮気味に言う。


 ・・・雷の妖精ちゃんにメイド服を着て貰うのもアリかもしれないわね!


「もう嫌です! 早く戻してください! マリさんが戻ってくる前に・・・」


ガチャリ・・・


「お昼ご飯出来たよ~・・・あれ?」


小麦色の子供がドアを開けて部屋に入って来た。いつもなら真っ直ぐに私の所に駆け寄って抱きしめてくる小麦色の子供が、メイド服を着た子供を見て目を丸くしている。


「マ、マリさん・・・これは違くて・・・」


子供は耳まで真っ赤にして、メイド服の短めのスカートを手で抑えてじりじりと後ろに下がっていく。


「か、可愛いーー!! リアン可愛いー!」


小麦色の子供がパタパタと走ってメイド服の子供に抱き着いた。


「え、マリさん!?」


口をパクパクさせて所在なさげに両手をバタバタさせるメイド服の子供に、小麦色の子供がさらにギュッと力を強めて抱きしめて口を開く。


「すっごく似合ってる! ドキッとしちゃった!」


メイド服の子供は涙目になりながら震える声で「ありがとうございます」と言った。


 なんだか分からないけど、全部私のおかげよね! 人間の大したことない悩みなんて何億年も生きてる私にかかれば簡単に解決できるのよ!


私は腰に手を当ててドヤっと虹の妖精を見た。虹の妖精は呆れたように肩をすくめたあと「さすがミドリさんですね」と私を褒めた。


 そういえば、虹の妖精は小麦色の子供に名前を付けて貰ってたっけ。今までは自分に無いものを与えられたことが気に入らなくて嫌だったけど、今思えばそれこそ大したことない悩みかもしれないわね。


「フフッ、ナナちゃんやマリちゃんとは比較にならないくらい生きてるからね! こんなこと、大したことない悩みだよ!」


この日、私は2000年ぶりに誰かの名前を口にした。

読んでくださりありがとうございます。次話から第5章の始まりです。

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