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156.【マリ】村に来たお客さん

 今日もいつもと変わらずヨームのお手伝い・・・じゃなくて、今日は最近できた年下のお友達と遊ぶ約束をしてる。ヨームも一緒に遊ぼうと誘ったけど、断られた。ヨームは必要最低限の外出しかしないから、断られるのは分かってたけど悲しい。


本当は自分のお家のお手伝いをした方がいいんだと思うけど、お母さんが趣味で始めた宿は全然お客さんが来ないからつまんない。


カランカラン


玄関扉に付いているクルミの鈴が鳴った。


 あ、もう来たのかな?


自分の部屋で身支度をしていた私は、急いで鏡の前でソニアちゃんとお揃い青いリボンを胸に付ける。


「マリちゃーん! リアン君が来たわよ~」


一階からお母さんの声が聞こえた。お母さんは最近体調が悪い時が多かったけど、今日はいつもに比べると元気みたい。


 急がなきゃ!


転ばないように気を付けながらトタトタと階段を降りて、宿の受付のある一階に向かう。受付に暇そうなお母さんと、その前にリアンとネリィさんが立っている。リアンと遊ぶ約束をしてる時のいつもの光景だ。


「マ、マリさん。おはよう」

「マリちゃん、おはよう」

「おはよう。リアン、ネリィさん」


ペコリと頭を下げて挨拶する。挨拶は大事だってソニアちゃんが言ってた。


「もう・・・ネリィお姉ちゃんって呼んでくれてもいいのに!」

「ダメだよ。大人の人にはさんを付けるのがマナーなんだよ」


 ヨームがそう言ってたもん。


「ルテンのことはルテンお姉ちゃんって言ってるじゃないの!」

「ルテンお姉ちゃんは大人になる前に知り合ったからいいの」


私が口を尖らせて言うと、ネリィさんは「随分ガバガバなマナーね」と笑ってリアンの背中を軽く押す。


「ほらリアン。女の子との待ち合わせで最初にやることは?」

「う、うん!」


リアンがネリィさんを見上げて返事したあと、少し顔を赤くして一歩私に近付いてくる。


「マリさん・・・そ、その服とっても似合ってます! か、かわかわ・・・」

「カワカワ?」


 リアンはいっつもこうだ。最初に会った時は大人しいしっかりした子だなって思ったのに、最近はなんだか変だ。


「リアン、何言ってるの? 早くいこっ」


そう言ってリアンの手を握ると、耳を真っ赤にして俯いて小さく「うん」と返事する。ネリィさんが「今日もダメだったわね」と肩をすくめて、お母さんが「癒されるわ~」と目を細める。


「お母さん、じゃあ行ってくるね!」

「いってらっしゃい。お昼ご飯の時間になったら一度帰ってくるのよ」

「はーい!」


リアンの手を引っ張って玄関扉を開ける。カランカランという音と一緒に、ネリィさんの「リアン頑張るのよ!」という声が聞こえた。


 何を頑張るんだろう?


「今日は何する? 鬼ごっこ? おいかけっこ? それとも走って競争?」

「マリさん、それ全部一緒です・・・」

「一緒じゃないよ。ソニアちゃんは鬼ごっこは得意だったけど、おいかけっこは苦手だったもん」


 鬼ごっこをしてソニアちゃんを捕まえられたことなんてほとんどないもん。


「あれ? そういえば今日はナナちゃんは一緒じゃないんですか?」


リアンが私の頭と腰を見ながら言った。ナナちゃんが起きてる時はだいたい私の頭の上に乗ってるし、寝てる時は私がポーチに入れて持ち歩いてる。今日は頭にナナちゃんを乗せてないし、ポーチも持ってない。


「なんかミドリちゃんに聞いて欲しい事があるってソニアちゃんに言われたみたいで、今は緑の森にいるよ」

「そうなんですね。じゃあ・・・二人きりですね」

「うん。二人きりだね・・・あっ、今日は孤児院に行って皆で遊ぶ?」


 お家が宿になる前はお母さんが孤児院の子達の面倒をみてたんだけど、最近は移住してくる人が増えて働く場所? がたくさん必要とかで、お母さんは今はたまに様子を見に行くだけで普段はお家で宿の仕事をしてる。お客さんこないのに。


「今日はせっかくだから二人だけで遊びたいです」

「うん分かった。じゃあミーファおばさんのお家に行こう」

「え? あの、二人きりって・・・」


 ミーファおばさんのお家には、ディルお兄ちゃんが子供の頃に遊んでた玩具がたくさんあるんだよね。今日は2人でそれを使って遊びたい。


リアンの手を引いて、ミーファおばさんのお家まで走る。ミーファおばさんのお家は2つあって、1つはディルお兄ちゃんと一緒に住んでた家。もう1つは村長として使ってる大きな家。今日はディルお兄ちゃんと一緒に住んでた方のお家に向かう。


ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ


「マリさん、そんなにドアノブを回したら壊れちゃいます。鍵がかかってるんじゃ・・・」


 鍵・・・鍵ならミーファおばさんが持ってるよね。今は村長の方のお家にいるのかなー?


「えっ、ちょっ、マリさん!?」


私はリアンの手を引っ張って走る。もう1つのミーファおばさんのお家に向かって。


「あれ? 誰か知らない人がいる」


ミーファおばさんがお家の前で白い髪の知らない大人の人に囲まれている。私は立ち止まって話しかけようかどうか悩む。


「ん? この村の子供ですかぁ?」


1人の女性が私とリアンに気が付いた。ミーファおばさんが「2人とも!今は忙しいからお家に帰りなさい!」と慌てて私と女性の間に入る。女性はミーファおばさんを軽く手で退けてニコニコと微笑みながらずんずんと近付いてくる。


 なんでだろう・・・笑ってるのに怖い。


ずっと前にどこかの地下牢で似たような笑い方をしていた男性を思い出して、心臓がキュッとなって足がすくんで動けない。リアンの手を握る手が汗で酷いことになっている。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかなぁ?」


女性がわざとらしい笑みを浮かべて、私と同じ目線まで屈む。頭が真っ白になって喋れないでいると、私の後ろにいたリアンが手を繋いだままスッと女性と私の間に入った。私からはリアンの後頭部と女性の顔が見える。


「聞きたいことって何ですか?」


リアンが震える声で女性に言った。声だけじゃなくて、私の手を握る手も震えてる。女性の後ろでミーファおばさんが大人の人に囲まれていて身動きできずにいるのがチラリと見えた。


 ダメだよ。私がしっかりしないとっ! リアンよりも3つも歳上なんだから。・・・それに、私はあのソニアちゃんのお姉ちゃんなんだから!


皆のお姉ちゃんである私は、リアンの手を引いて後ろに庇う。


「私が答える」

「・・・そう。答えてくれるならどっちでもいいけどぉ」


女性は真顔でそう言ったあと、そっと私の頭に手を置いてニタリと笑った。


「この村に金髪の妖精が居るって聞いたんだけど、どこにいるか知らないかなぁ?」


 金髪の妖精? ソニアちゃん・・・は今はいないから、ナナちゃんのこと?


「だからいないって言ってるでしょ!」


女性の後ろからミーファおばさんが叫んだ。女性の顔が一瞬こわい顔になった。リアンが私の手を引っ張った。振り返ったらリアンが私を見上げて首を振っていた。


 教えちゃダメ・・・。私もなんとなくこの人にナナちゃんのことは教えちゃいけない気がする。


「し、シらない」


 声が裏返っちゃった・・・。


「そうなのぉ。ちょうどあなたみたいな小麦色の髪の毛の子供と一緒にいるって聞いてたんだけどぉ・・・あなたのお母さんにでも聞いてみようかなぁ?」


 お母さん・・・! 母さんはダメ! 最近は本当に具合悪そうな時が多くて、今日は珍しく元気なのにあんまり負担をかけたくない!


私がフルフルと首を横に振るって頭に乗せられた手を払うと、女性は一層深い笑みを浮かべて口を開いた。


「噓はよくないわよぉ。マリちゃん?」


 え、どうして名前・・・。


バッと女性の顔を見ると、すごくこわい目をしていた。


 こわい・・・!


思わず涙が出そうになった。でも、涙は出なかった。私の後ろから安心できる声が聞こえたから。


「何をしているんですか?」


後ろを振り向くと、ゴーレムの頭の部分を被ったヨームが腕を組んで立っていた。そのマヌケな姿に一瞬でさっきまでの怖かった気持ちがどこかに飛んで行った。


「ぷっ・・・」


 ダメダメ。笑っちゃダメだよ。


「ヨーム、何で外にいるの?」


 滅多に外出しないのに。


「ルテンさんがマリちゃんが変な人達に絡まれていると言って慌てて僕のところにやって来たんですよ」


 ・・・そうなんだ。あとでルテンお姉ちゃんにお礼を言わないと。


「それで、カイスの方が何をしにこの村に来たんですか?」


ヨームが私に向ける優しい笑みを消して、女性を睨む。


 カイス? カイスってなんだろう?


女性は作り笑いを消して真面目な顔でヨームを見て口を開く。


「妖精様を保護しに参りましたぁ」


 ナナちゃんを? 保護って・・・どういうこと?


「連れて帰るの間違いでは?」

「違います保護ですぅ。この村は近いうちに滅びるかもしれないので、そうなる前に保護をしに来たのですぅ」


 え? 滅びちゃうの?


私はリアンの手を握っている手とは反対の手でヨームの手を握る。ヨームが安心させるように私を見下ろして微笑んだ。


「それは情報ギルドで得た情報ですか?」

「そうですよぉ」


 村が無くなっちゃうのはやだよ・・・。


「ハァ・・・ではその情報の詳細を教えてください。僕達でその未来が訪れないようにして見せますよ」


私からはヨームの顔は見えないけど、きっと凄く挑発的な顔をしてると思う。そんな言い方してる。女性は一瞬バツの悪そうな顔をしたあと、ヨームを睨んで口を開いた。


「教えられませぇん」

「フッ・・・やっぱりそれらしい建前を作って珍しい妖精を国に連れ帰りたいだけじゃないですか」

「何とでも言えばいいですよぉ。情報は本物なん・・・」


女性が何か言いかけた時、村のあちこちで悲鳴が上がった。


「うわあああ!」「上を見ろ!」「ドラゴンだ!」


皆が上空を見上げて「ドラゴン!」と叫んでいる。空を見上げると、大きな白い何かが村の上をグルグルと回っていた。

 

 何あれ!? おっきい鳥さん!?


「・・・今はそれどころではないようですねぇ」


女性が空を見上げて溜息を吐いたあと、わざとらしく微笑む。


「最後に1つ質問させてくださぁい。 ・・・あなたは誰ですかぁ?」

「僕は・・・僕はこの子の騎士様・・・らしいですよ」


ヨームがそう言って私の頭に手を置いた。


 うん。ヨームは私とお母さんを守ってくれるから、私の騎士様。


女性は胡散臭そうにヨームを見て、また溜息を吐いた。


「・・・まぁ、いいでしょう。あなたが誰であろうと私達の使命は変わりません。また来ます」


女性はそう言ったあと、私に背を向けてミーファおばさんを囲んでいた大人の人達を連れて早足で去っていった。ヨームは一度深呼吸したあと、キッとミーファおばさんを見る。


「ミーファさん! 村の皆の避難をお願いします! マリさん、リアンさん、行きますよ」


ミーファおばさんが「分かったわ!」と駆け出していき、ヨームが私達の手を引っ張って走り出す。


「マリさん、デンガさんはどこにいるんですか?」

「お父さんはジェイクさんと一緒に狩りに行ってるよ」

「肝心な時に・・・」


ヨームは走りながら頭に被っていたゴーレムの頭を脱ぎ捨てて、上空を飛び回る白いおっきな鳥さんを睨む。


「スノウドラゴン・・・どうしてこんなところに・・・まさか先程の情報とはこのことですか?」

「ドラゴン? ・・・ドラゴン!」


 ドラゴンは知ってる。お母さんがとっても怖くて強い魔物だって言ってた。


「ヨーム。お母さんのところに行きたい」

「ぼ、僕もお姉ちゃんのところに行きたいです!」


私とリアンがそう言うと、ヨームは「今向かってる最中ですよ」と優しく言った。ミーファおばさんの指示で、地下に広い部屋があるヨームのお家に避難しに向かっている皆の中に、お母さんとネリィさんがいた。


「ジェシーさん、大丈夫よ。マリちゃんもリアンもきっとすぐに避難しにくるわ」

「え、ええ。そうね。そうよね・・・大丈夫、大丈夫」


震えるお母さんをネリィさんが必死に励ましている。


 お母さんは昔自分の故郷を赤いドラゴンに襲われて酷いけがをしたって言ってた。色は違うけど同じドラゴンが来て凄く怖いんだと思う。私がお母さんを安心させてあげなくちゃ。


「お母さん!」

「お姉ちゃん!」


私とリアンはヨームの手を振りほどいて駆けだした。


「マリちゃん!」

「リアン!」


お母さんが私を、ネリィさんがリアンをギュッと抱きしめた。


「ありがとうヨーム、マリちゃん達を連れて・・・きゃあ!!」


お母さんが突然上を見上げて悲鳴を上げた。お母さんの腕の中で振り返って視線の先を見たら、スノウドラゴンがすぐ近くまで降りてきていた。ネリィが咄嗟にリアンを後ろに隠して、ヨームが私達を庇うように前に出た。


「姉ちゃんに近付くなあああ!」

「俺の家族に近付くなあああ!」


ジェイクさんとお父さんの叫び声が聞こえたと思ったら、2人がスノウドラゴン目掛けて武器を振り下ろしていた。


ドガーン!!


スノウドラゴンがギリギリで躱して着地して、2人の武器は地面を抉った。


「ちょっと! いきなり何するのよ!」


 着地したドラゴンが喋った・・・? ドラゴンって魔物なのに喋るの? 知らなかった。


首を傾げていると、スノウドラゴンの後ろからネリィさんとリアンさんと同じ肌の色をした男の人が頬を膨らませながら歩いてきた。武器を振り下ろした2人も、私達も、皆がその男の人を見て目を丸くしている。


「あ!」


ネリィが男の人を指差して言った。皆がバッとネリィを見る。


「あなたオードム王国の騎士団長でしょ!?」

「あ、そういえば見たことある」


ネリィさんとリアンの言葉に皆の視線が男の人に戻る。


「あら? 確かネリィちゃんとリアンちゃんよね。アタシのこと知ってるの?」

「こんな個性的な騎士団長を知らないわけないじゃない。・・・というかそっちは何であたし達のことを知ってるのよ! それに後ろのドラゴンはなに!? ペットか何か知らないけど、襲われるかと思って村中がパニックよ!」


ネリィさんの言葉に皆がコクコクと頷く。男の人は頬に手を当ててコテリと首を傾げた。


「あらヤダ。オードム王国で似たようなことをしても、ちょっと小言を言われるだけだったから・・・まさかそんな騒ぎになるとは思わなかったわ。 ごめんなさいネ」

「それだけじゃなくて! どうしてあたしとリアンの名前を知ってるの!? ・・・まさかオードム王国に連れ戻しに来たんじゃないでしょうね!?」


ネリィさんがリアンをギュッと抱きしめる。


「違うわよ! あなた達のことはドルガルド・・・オードム王国の国王と、それからソニアちゃんとディルちゃんからもちょろっと聞いたのよ」

「え!? ソニアちゃん!?」


思わずお母さんの腕の中から離れて男の人に駆け寄っちゃう。


「ソニアちゃんとお友達なの? どこで会ったの? 元気だった?」

「フフッ、あなたがマリちゃんネ? ええ、会ったわよ。アタシはミカモーレって言うんだけど・・・」


それからミカモーレさんはソニアちゃんとディルお兄ちゃんのことを楽しそうに話してくれた。避難の途中だった人達は安心したような呆れたような顔をしながら解散して、この場に居るのはお母さんとお父さんとリアンとヨームだけになった。ネリィさんはジェイクさんと一緒に仲良く帰っていった。


「へぇーこの子、シロちゃんって言うんだね! 可愛いー!」

「クゥーン!」


シロちゃんが頬をわたしの頬っぺたにスリスリとしてくる。冷たくて気持ちいい。お父さんが「さっきは切りかかって悪かったな」とシロちゃんに謝っている。でも、さっきのお父さんはかっこよかった。


 ミカモーレさんはソニアちゃんとディルお兄ちゃんと一緒にずーっと南の島に行ってたのかぁ・・・。寒くて白い島だって言ってたけど、全然想像できないや。


ミカモーレさんの話を聞いたヨームが「ハァ・・・」と深い溜息を吐いた。


「なるほど、じゃあミカモーレさんはただ手紙を届けに来ただけなんですね。僕はてっきり・・・」


ヨームが「今日は情報過多すぎる」と溜息を吐いてその場にしゃがみ込んだ。


「鍛冶師のコルトちゃんに手紙なんだけど・・・どこにいるのかしら?」

「コルト君ならあそこにいるけど・・・」


ずっとしゃがみ込んだままのお母さんがヨームのお家の方を指差す。物陰からこっそりと私達を見るコルトさんがいた。私と目が合ったコルトさんは気まずそうにしながらこっちに歩いてくる。


「すいません。最初から居たんだけど、なんか出て行くタイミングが分からなくて・・・」


 出て行くタイミングってなんだろう。普通に出てくればいいのに。


「久しぶりネ、コルトちゃん。息子用の魔剣を作って貰った時以来かしら? それに、アタシの夫が随分と酷いことをしたみたいでごめんなさい。夫の代わり・・・っていうわけじゃないけど、謝らせてちょうだい」

「あ、いえ。国王様も色んな責任があるでしょうし・・・」


コルトさんとミカモーレさんがペコペコと頭を下げる。


 あれ? ミカモーレさん、今アタシの夫って言った? 男の人じゃなくて女の人だったんだ。びっくりした。お父さんとお母さんもびっくりした顔になってる。


「はいこれ、手紙ネ。確かに届けたわよ」

「あ、ども」


コルトさんはその場で封を開けて手紙を読み始めた。


 ・・・何が書いてるんだろう?


「なんて書いてたの?」

「マリちゃん・・・まだ読み始めたばかりだから」


 そっか、そうだよね。


素早く手紙を読み終えたコルトさんは、 何故か凄く難しい顔をしてミカモーレさんを見た。


「えっと、さっきミカモーレ様が言ってたみたいに、王様から僕への謝罪が書いてました。・・・それから、何か欲しい物やしてほしいことがあれば言ってほしいって・・・物なら騎士団長の届けさせるって書いてました」

「アタシ、いいように使われてるわネ・・・まぁ、別にいいんだけど。・・・・それで、コルトちゃんは何か要望があるの?」

「うーん・・・」


頭を悩ませるコルトさんの肩をヨームがトントンと叩いてコソコソと耳打ちすると、コルトさんが一瞬驚いた顔をしたあと、真剣な表情でコクリと頷いた。


「国王様には、情報ギルドで買って欲しい情報があります」


コルトさんがヨームをチラチラと見ながら言った。言われたミカモーレさんもヨームを見る。ヨームがずいっと前に出て話始める。


「僕達のような一般人では買える情報に大きな制限がありますから。ですが、貴族のあなたや国王様ならもっと大きな情報を買うことが可能ですよね?」

「ええ、確かに平民が買えるのが個人のプライバシーを配慮した限定的な情報なのに対して、アタシ達貴族はお金と権力でもう少し踏み込んだ情報を買えるけど・・・一体何を買わすつもりなの? 悪事の片棒なら担がないわよ?」


 難しくてよく分からないけど、ヨームがコルトさんの物を横取りした風なのは分かる。あとでしっかりと怒ってあげなくちゃ。


「そんな怖い顔で睨まないでくださいよミカモーレさん。悪事なんてものじゃないですよ。僕は僕の大切な人と場所を守りたいだけです」


ヨームはそう言って私の頭に手を置いた。ミカモーレさんはそんなヨームを見てホッと肩を降ろした。


 怒るのはやめてあげようかな。注意だけにしてあげよう。


「内容は手紙にしてすぐに渡しますから、少し待っててくれませんか?」

「急がなくてもいいわよ。この村に数日は滞在するつもりだから。せっかくこんな遠くまで来たんだもの、とんぼ返りなんて嫌だわ」


 滞在・・・暫くくるみ村に居るってことだよね。じゃあ、泊まるところが必要だよね。泊まるところと言ったら宿だよね!


私はミカモーレさんの大きな指を掴んでグイグイと引っ張る。


「ん? 何かしらマリちゃん」

「私のお家は宿なんだよ」

「そうなのネ~・・・・・・あっ、そうなのネ! じゃあせっかくだしその宿に泊まろうかしら!」


 やった! お客さんを捕まえた!


「お母さん! お客さんだよ!」

「え、ええ。そうね。よくやったわマリちゃん。えらい」


 お母さんに褒められた!


ミカモーレさんの指を引っ張って喜んでたら、反対の手をリアンに掴まれた。すごく不貞腐れたみたいな顔をしてる。


「リアン?」

「僕も泊まりたいです。今日は僕と遊ぶ約束をしてました」

「リアンも? リアンはお客さんじゃなくてお友達だから・・・あっ、お泊り会だね。私の部屋で一緒にお泊り会しよう」


リアンが凄く嬉しそうな顔をして「うん!」と元気に返事をしたのと同時に、お父さんが「なんだと!?」と叫んだ。


「それはマリ達にはまだ早すぎるだろう!」


 ・・・確かに、まだお昼にもなってないのにお泊り会の話するのは早いかもしれない。お父さんの言う通りだ。


「デンガ・・・まだ2人とも子供じゃない」


お母さんが座り込んだまま呆れたようにお父さんを見上げる。


「でもジェシー・・・幼いとはいえ男女が・・・!」

「心配し過ぎよ・・・じゃあ、ネリィちゃんも誘えばいいでしょ?」

「むぅ、それならまぁ・・・」


 なんだか分からないけど、ネリィさんも誘った方がいいってことだよね。ネリィさんも居たほうが楽しそう。


「じゃあミカモーレさん、宿まで案内するね」

「よろしくネ、マリちゃん」


私は小さなリアンの手と大きなミカモーレさんの手を左右で握って、私のお家まで案内する。後ろで「さっきのドラゴンで腰が抜けちゃったわ」というお母さんの声が聞こえた。振り返ったら、恥ずかしそうにするお母さんをお父さんが抱っこしていた。その後ろをシロちゃんが申し訳なさそうにノシノシとついて来てる。


 シロちゃん、お家に入るかなぁ・・・?

読んでくださりありがとうございます。くるみ村は現在、恋の嵐に見舞われてます。

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