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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第1章 暇な妖精と忙しい少年

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14.【ディル】勇者様じゃないけれど(後編)

ディル視点のお話です。

「誰がおじさんか!!私はまだ20代だぞ!!赤子など抱いたことないわ!」


開いていた窓から男の叫び声が聞こえてきた。俺は悪者のアジトで妖精さんを探し回っていて、今は3階の部屋に居る。

 

 ん?下の階か?おかしいなぁ・・・1階から3階まで全部の部屋を確認したハズなんだけどなぁ・・・・


俺はそのまま開いている窓から外の路地に飛び降りた。足がジーンとするけど、気にしてられない。


「ディル!わたしはここにいるよ!気持ち悪いおじさんに連れていかれちゃうよー!!」


妖精さんの高くてよく通る声が聞こえた。声のする方へ走っていくと、貴族っぽいおじさんが妖精さんが閉じ込められているガラスのボトルを持って走っていた。


 やっと見つけた!!今助けるからな!妖精さん!


俺はそう意気込んで妖精さんのもとへ突っ込んでいった。


「ディル!気をつけ・・・・」

「燃えろ!小僧が!」


あの気持ち悪いおじさんを殴り飛ばしてやろうと走り出した途端に、おじさんが構えた赤い石から炎が飛び出して来た。ギリギリで躱せたけど、足を挫いてしまった。


 いてて・・・もしかして、アレがコンフィーヤコーシャクが言ってたマセキってやつか!?


「この場にいる全員でその子供を抑え込め!!」


その場にいた大人たち何人かに上から押さえつけられる。


「ぐわあっ!・・・どけろ!はなせ!」


 こんな・・・こんなハズじゃなかった!


いつの間にか頭から血が出ていて、片目に血が入って視界が狭くなる。俺は必死に起き上がろうとするけど、足が痛んで上手く力が入らない。


 あぁ、駄目だ。このままじゃ、妖精さんが連れて行かれてしまう。俺が助けられなかったせいで・・・。


 カッコイイ名前を考えたら友達になってあげるって言ってくれた。こんなところで約束も守れずにお別れは絶対に嫌だ。俺がもっと強ければ・・・マセキについて知っていれば・・・。


「ディル!わたしは大丈夫だから!無理しないで!」

「そんな・・・こと・・いうなよ!!俺が・・・絶対、助けるから・・・っ!」


妖精さんは心配させまいと、無理やり作ったぎこちない笑顔で俺を見て叫んだ。


 俺が見たいのは・・・そんな笑顔じゃない!


「待て!おじさん!妖精さんを・・・・」

「わたしのことはいいから!ディルはここから逃げて!」


妖精さんは貴族のおじさんに持たれて、お店の外に出て行ってしまった。


「はぁ、仕方ない。ダズ!その子供に手枷を嵌めておけ」

「はい」


ダズと呼ばれた男性が俺の方へ近づいてくる。手枷を嵌める為に上に乗っていた何人かが下りて体が軽くなる。俺はその隙を逃さず、痛む足に力を込めてガバッと立ち上がってお店の外へ走り出す。


「うお!こいつまだ・・・」

「ダズ!!早く追いかけろ!」


 足が痛い・・・血で視界が狭くなっていく・・・でも、立ち止まるわけにはいかない! またあの笑顔を失うなんて絶対に嫌だ!


必死に走って、狭い路地裏を抜けて大通りに出た。


「どこいった!?」



どれくらい時間が経ったのか・・・あちこちを走り回ったけど妖精さんは見つからない。それに俺は、あのおじさんがどんな馬車に乗っているのか分からない。


「もう・・・ダメなのか・・・?」


 妖精さん・・・。


泣きそうな気持で小石を蹴りながら大通りを歩いていると、後ろの方から妖精さんの声が耳に入って来た。


「誰か助けてーーー!悪い人に誘拐されるーー!」


直後、妖精さんを片手でもって馬に乗っているアボンが物凄いスピードで俺の真横を駆けて行った。


 居た!!


さっき蹴り飛ばした小石を拾って馬に向かって思いっ切り投げる。


 ごめん!馬!


「妖精さん!」

「ディル!怪我は大丈夫なの!?」


妖精さんはいつの間にかボトルから出ていて、心配そうな顔でクルクルと俺の周りを飛んでいる。ちょっと可愛い。


 よかった・・・本当によかった。なんだかよく分からないけど、妖精さんは自由になった。


その後、騒ぎを聞きつけた兵士達やコンフィーヤコーシャクがやってきて、俺達はアジトに捕まっている人達を助けに行くことになった。


アジトの地下牢はひどい状況だった。やせ細って傷だらけの男や、うつろな目で隅を見つめる女の人、ボロボロの服を着て隅で震えている小さな女の子・・・。


 あのコンフィーヤコーシャクの言う通り、王都に着く前に悪者達を捕まえていたら、この人達は助けられなかったかもしれない。


 俺って・・・ダメダメだな。力も足りないし、考えも足りない・・・。


「お兄ちゃん・・・」


隅で震えていた女の子が俺の服の端を掴む。


「私、ここから出られるの?」


心配そうに揺れる瞳で、真っ直ぐに俺を見上げる。


「あ、あぁ!出られるぞ!」

「助けてくれてありがとぉ!」


 俺に感謝されても困るんだけどな・・・。


残りの人達の手枷を外している間に騎士団長が迎えに来てくれた。このまま城に行って客室で休ませてくれるらしい。



「こちらが客室です。一緒の部屋で大丈夫ですか?」

「うん、わたしはいいよ」

「俺もいいぞ」


ガタン・・・


コンフィーヤコーシャクが明日のお昼頃に国王様と一緒に迎えに行くと言い残して扉を閉めた。


「助けてくれてありがとう」


妖精さんが村の川で助けてあげた時みたいに、お母さんによく似た優しい笑顔でお礼を言ってくれる。


 この笑顔を失わずに済んで良かった。でも、俺は・・・


「・・・いや、俺なんて。妖精さんを助けたのは、あのコンフィーヤコーシャクだ」

「でも、助けに来てくれた。わたしは嬉しかったよ。それに最後はディルがいないと危なかったしね」

「でも・・・・」

「助けてくれてありがとう!ディル!カッコよかったよ!」

「・・・うん。」


 俺のことを元気付けようとしてくれてるのが分かる。これ以上妖精さんに気を遣わせるわけにはいかないよな。カッコ悪いなぁ・・・俺。


「ねぇ、ディル。ディルはまだ10歳の子供なんだよ?それなのに、わたしを助けるために悪い大人たちに立ち向かって、戦って、最後にはアボンに捕まっていたわたしを助けてくれた。違う?」

「違わないけど・・・・」

「それってディルが話していた勇者様みたいじゃない?・・・わたしはお姫様じゃないけどね」


 俺が勇者様みたい?

 

「ありがとう、ディル。わたしを助けてくれて」


妖精さんがお姫様に見えた。


 そうか、色々とダメダメだった俺だけど、俺はまだ子供で、周りは大人だった。足りない所はこれから努力して身につければいい。それに、結果的にだけど、俺は妖精さんを助けることが出来たんだ。


 『勇者様みたい』か・・・嬉しいことを言ってくれるなぁ。お母さんがよく語ってくれた勇者様のお話を思い出す。


 ・・・そうだ! 妖精さんの名前に良いのがある!勇者様みたいな俺が、お姫様みたいな妖精さんに贈るのにピッタリだ!


内心ドキドキしながら、妖精さんに考えた名前を伝えると・・・


「とっても素敵な名前だよ!」

「そ、そうか!?よかったーー!」


ソニアは羽をパタパタと動かしてとっても喜んでくれた。


 パンクロックも良かったけど、こっちの方がいいな!


そして、ソニアと一緒にご飯を食べる。そこでソニアの衝撃的な事実が判明した。なんとソニアはまだ5歳らしい。


 あんなに俺のことを子供だって言ってたのに、俺より歳下だった。・・・でもそうか、ソニアはまだ5歳なのに、森の為に、自分の家の為に、俺達人間の前に出てきて必死に止めてたんだな。


食事を終えた後、俺はメイドに浴場に案内してもらって「では、お体を洗わせて貰いますね。」と言われ、メイドに体を洗われる。


 俺がまだ子供だからなんだろうけど、流石にこれは恥ずかしい・・・。


用意してあった寝間着に着替えて脱衣所から出ると、ソニアを案内していたメイドの1人が駆け足でこちらに向かって来た。


「あの、メイド長。ちょっと来ていただきませんか?」


メイド長が俺の方をチラッと見る。


「俺も行くよ。ソニアのことだろ?・・・あ、ソニアって言うのは妖精さんの名前だ」


メイドさんにもう一つの浴場の脱衣所に案内され、そこには椅子に座っているメイドさんが居た。


「まったく、こんなところで座ってどうしたんですか??妖精さんは何処にいらっしゃるのかしら?」


メイド長が座っているメイドに問い掛けると、メイドは困ったように眉を下げて自分の膝を見下ろした。


「ソニア様ならここに・・・」


そこには可愛い寝顔でスヤスヤと寝ているソニアが居た。


「「・・・・」」


一瞬でその場の空気が和んだ。全員が口角を少し上げて、暖かい目でソニアを見下ろす。


「気持ち良さそうに寝てるな」

「お可愛いらしいですよね」

「フフッ、起こさないように慎重に客室までお運びいたしましょう」


客室に戻ると、メイド達がソニアをモフモフのクッションの上にそーっと置いたあと、就寝の挨拶をして退室していった。俺も大きなベッドの上に寝転がる。横を見ると、すぅすぅと小さな寝息を立てて、両手を上げてバンザイの体勢で寝ている、ちっちゃな友達が居た。


 俺に友達が出来た。5年前のような楽しかった時間が、あの笑顔が・・・また俺のもとに戻って来た。

 

読んでくださりありがとうございます。ディル視点は終わりです。次話はほのぼの回です。

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