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146.ペタペタコテン

「み、見てないで助けてよ~」


アザラシ達に転がされているトキちゃんが目を回しながらわたしとディルに助けを求める。ディルがアザラシの近くの地面に魔剣をシュッと投げて突き刺すと、アザラシ達は「オアアア!」と叫んで散っていった。


「あ、ありがとう・・・」


トキちゃんが立ち上がって雪を払いながらディルに礼を言って、ディルの後ろの氷の山に視線を移す。


「こ、氷の山に切り傷が・・・」


目と口を大きく開けたトキちゃんがプルプルと震えながら膝から崩れ落ちる。ディルが慌ててトキちゃんの前に跪いて口を開く。


「ご、ごめん。まさかそんなに大切な物だとは思わなくて・・・」

「う、うぅ・・・」


トキちゃんは瞳を潤ませながらディルをキッと睨む。わたしは慌ててディルとトキちゃんの間に入った。


「ディルも悪気があったわけじゃないんだよ! わたしを高い所から探そうとして登ってたんだから・・・怒るならわたしも一緒に・・・ね?」


そう言いながら、コテリと首を傾げてトキちゃんを見ると、トキちゃんは難しい顔でわたしと奥の氷の山を見たあと、仕方なさそうに溜息を吐いた。


「ソニアちゃんのことを心配した行動なら怒れないよ」


トキちゃんが溜飲を下げたことで、ディルがホッと胸を撫でおろした。


「そ、その代わり、トキのお願いを聞いてほしい」


そう言って、力のこもった目でディルを見上げる。


「お、おう!俺に出来ることなら何でもするぞ!」


ディルが力こぶを作って自信満々に言う。


 あんまり安請け合いしない方がいい気もするけど。まぁ、さすがにトキちゃんが可哀想だし、仕方ないか。


「トキを・・・あの村の人間達を助けて欲しい。ソニアちゃんは一緒に解決しようって言ってくれたけど、ディルにも協力して欲しい」


トキちゃんの言葉を聞いてディルがわたしを見る。


「だってトキちゃんが可哀想でしょ? 大好きな村の人間がよく分からない理由で死んでいっちゃってるんだよ? 助けてあげたいよ」


「そう思わない?」とディルを見上げると、ディルは一瞬眩しそうな顔でわたしを見たあとコクリと頷く。


「そうだな。俺も頼まれなくても助けたいと思ってたんだ」

「だよね! さすがディル!!」

「・・・うん」


 そういう優しくて正義感があるところは昔から変わらないよね! このまま反抗期もこずにストレートに育ってね!


「それと、トキを運んで。飛べないの」

「え? 飛べないって・・・うわっ、羽ボロボロじゃん! 大丈夫なのか!?」

「大丈夫じゃないから飛べないんだって。だから、運んで」


トキちゃんが「ん!」と両手を上げてディルを見る。ディルが仕方なさそうにトキちゃんの首根っこを掴んで自分の頭の上に乗っけた。


 むぅ・・・


「なんだ? ソニア」

「別に・・・」


わたしは何でか心がモヤモヤしたままディルの前を飛ぶ。


「ソニア、どこに向かってるんだ?」

「え? あの白いドラゴンの群れだけど・・・シロちゃんの両親がいるかもしれないでしょ?」


わたしが群れの方に指を差しながらディルを見てそう言うと、眉をへの字にして溜息を吐かれた。


「いや、危ないだろ。さすがにあんな大勢のドラゴンに襲われたらソニアを守れないし、シロの両親がいるかもしれないなら無暗に攻撃も出来ない。接触するならシロと合流してからの方がいいと思う」


 そっか、なんとなくシロちゃんと同じスノウドラゴンだから友好的なんだと思ってたけど、シロちゃんが特殊だっただけで他のスノウドラゴンは普通に襲ってくるかもしれないんだ。


「それよりも、一旦村に戻った方がよくないか? ミカさん達が戻ってきてるかもしれない」

「わたし達先に村に戻ったけど、誰も戻ってなかったよ」

「いや戻ろう。一旦温まりたい。寒い」


 ・・・そっちが本音だろうね。


「そんなに寒いんだね。わたしには分からないけど」

「トキにも分からないけど」

「・・・いいよな妖精って。本当に」


 そんな妬ましそうな目で見られても、隣の芝生は青く見えるんだよ。わたしからしたら人間の方が羨ましい。体が大きいし、皆と同じ時間を生きられるし・・・ダメダメ、これは考えちゃダメ。


わたしはブンブンと頭を振ってネガティブな考えを頭の隅に追いやって、村に向かって出発する。


「ん? なんだこれ」


ディルが赤いドラゴンが置いて行ったアザラシを見て首を傾げる。


「ああ、これね。赤いドラゴンから貰ったんだよ。わたしが!」

「はい? 赤いドラゴンって・・・額に魔石が付いてるやつか?」

「そうそう。お詫びにどうぞって!」


 頭まで下げてくれたもん。


「・・・ああ、そっか。ソニアはシロの言葉が分かるんだよな。赤いドラゴンの言葉も分かるか」


ディルがポンッと手を叩いてスッキリした風な顔をするけど、そうじゃない。


「違くて、喋ってたんだよ。ディルやわたしと同じようにパクパクって!」


 あ、パクパクとはしてなかったかも・・・ま、いいや。


「喋ってた・・・? ドラゴンが?」

「うん。喋ってたよ。ね? トキちゃん」


わたしがディルの頭の上にいるトキちゃんに同意を求めると、トキちゃんはコクコクと頷く。


「そっか・・・ソニアがそう言うんならそうなんだろうな」

「うん。妖精がいるとは知りませんでした。これはお詫びです。探し物があるのでさようなら・・・って」


わたしの話を聞いたディルは「うーん」難しい顔で考え込む。そして、「よしっ」と言って前を見る。


「とりあえず寒いから村に戻ろう」

「あっ、そうだね。寒いんだったね」

「寒すぎてまともに考えらんないぞ」


ディルが頬に両手を当てて目をギュッと閉じる。


 なにその仕草、可愛い。


ディルが「これは旨そうだ」と当然のようにアザラシを抱えて、村に向かう。



「ただいまー・・・って別に俺達の家じゃないんだけどな」


ディルが外にアザラシを置いて、自分で自分にツッコミを入れながら家の中に入っていく。


「うわっ、なんだこれ!!」


先に入っていったディルが驚いた声を出した。わたしも慌てて家の中に入る。


「どうしたのディル!?」

「俺の荷物が・・・荒らされてる!」


ディルが部屋中に散らばった自分の荷物を見て立ち尽くす。


 や、やば・・・。


「ひ、ひどい・・・誰がこんな」


トキちゃんがディルの頭の上で手で口元を覆いながら言う。


「ん? これは・・・」


ディルがわたしが残した書置きを手に取る。そして部屋中に散らばった荷物とわたしを疑わしげな目で交互に見る。


「と、とりあえず! トキちゃんを頭から降ろして、暖炉に火をつけたら?」


 お願い! これで誤魔化されて!!


デンガは一度「ハァ」と溜息を吐いたあと、トキちゃんをテーブルの上に置いて暖炉に火をつけた。そして、上着を脱いでドカンッと椅子に座ってわたしをジトーっと見る。


「一緒に片付けような」

「あ、はい」


・・・とは言ってもちっちゃなわたしではたいして役に立たず、ほとんどをディルが片付けた。


「ふぅ・・・いい感じに体が温まったし、一度状況の整理をしよう」

「うん!」


わたしはディルの頭の上に乗って元気に返事する。


「なんでそこに乗るんだよ・・・俺からソニアが見えないし」

「いいから! 話を続けて!」


ディルは不満そうに息を漏らしたあと、話を続ける。


「まず、分かっている情報を書き出してみよう」


そう言って、ディルはわたしの書置きを裏返して現在分かっていることを箇条書きにしていく。そこにわたしとトキちゃんが知っていることも追加する。


・ずっと昔にドラゴンの番がこの島にやってきた

・ドラゴンの番が喧嘩を始めてその余波で島の氷の一部が溶けちゃった

・その溶けた氷からなんやかんやあって村の人間が共食いを始めた←ゾンビ

・トキがそれを食い止めるためにとりあえず村の人間達を止めた

・トキがこれ以上氷を溶かされないためにドラゴンの説得に向かったらケチョンケチョンにされた

・↑のせいでトキが不定期的に意識を失うようになって、止まった村の人間達がたまに動くようになる

・ドラゴン、実は喋れる。びっくり。

・ソニアは片付けが出来ない、意外とだらしない


「とりあえず、今分かっていることでこの島の問題に関係しそうなことはこれくらいだな!」


ディルがペンを置いて「うーん!」と伸びをする。


「ちょっと待って、最後のやつは関係ないし、事実と違うよ!」


わたしは紙の上に立って、最後の文の上でペタペタと地団駄する。


「じゃあ今度からはちゃんと片付け、しような?」

「うっ・・・出来てるもん」


ディルはわたしをひと睨みして話を続ける。


「他には何か情報無いか?」

「さ、さっきのドラゴンのブレスでトキの羽がボロボロになって飛べなくなったことが抜けてる」


ディルが痛ましそうな目でトキちゃんの羽を見たあと、紙に書き足しす。箇条書きになった情報を見て、ディルは「ふむ」と腕を組む。


「ドラゴンの夫婦喧嘩を止めること、共食いを始めた原因の究明、そして共食いをするゾンビを元に戻す・・・か、最悪の場合は・・・」


ディルがこれからの行動計画を口にすると、それを聞いたトキちゃんが肩を落とす。それを見たディルが肩をすくめたあと、優しい笑みを作って口を開いた。


「あくまで最悪の場合だ。出来るだけそうならないように俺もソニアも力を尽くすよ」

「ううん。覚悟だけはしておく」


少し元気をなくしたトキちゃんにわたしは抱きつく。


「トキちゃんは優しいね。今は1人じゃないんだから、一緒に人間達を助けようね」

「う、うん・・・」


トキちゃんがわたしの背中に手を回す。そしてそっとわたしの羽に触れた。


「フフッ、くすぐったいよ!」


バッとトキちゃんを剝がすと、トキちゃんが羨ましそうな目でわたしを見る。


「と、飛べないって不便。ソニアちゃんの羽毟りたい」

「え!? やめて!!」

「冗談」


 こ、こわいよ!!


わたし達のやり取りを見ていたディルが不思議そうに首を傾げて口を開く。


「そういえば、妖精って歩けるのか? ソニアが飛ばないで歩いてるところって見たことないんだよな」

「失敬な! 見てよこの立派な足を! 歩けないわけないでしょ!? ね? トキちゃん!」


わたしは片足を高く上げてトキちゃんを見る。ディルが何故かギョッとしてわたしから一瞬目を離した。


「あ、あたりまえ。足があるのに歩けないわけない」


トキちゃんが不満そうな顔でディルを見上げる。わたしも頬を膨らませてディルを見上げる。


 それに、わたしには人間として歩いていた記憶が20年以上あるんだから! 地下鉄まで徒歩20分ほぼ毎日歩いてたんだから!


「そんなに怒るなよ・・・ただ気になっただけで本気で歩けないと思ってるわけじゃないから」


眉を下げながらわたしとトキちゃんを見下ろす。


 でも、まだわたし達が歩けるかどうか怪しんでる目をしてる気がする。トキちゃん、見せてやってよ!


わたしがトキちゃんに目配せすると、トキちゃんは「ふんす」と気合を入れてテーブルの上を見る。


「あ、歩きます!」


 え、歩くのってそんなに気合入れるようなことなの?


ディルが固唾をのんで見下ろす。何故か緊張感の漂う雰囲気の中、トキちゃんは慎重に一歩足を踏み出して・・・止まる。そして一歩踏み出してまた止まる。それを繰り返す。


 それ、本当に歩いてるって言うの?


「ほ、ほら。歩ける」」


トキちゃんがやり切ったいい笑顔でディルを見上げる。


「ソニア・・・」


ディルが残念な子を見る目でわたしを見てくる。


「ち、違うから! わたしはちゃんと歩けるから!」


手と羽をパタパタ動かしながら必死に訴える。ディルは未だ疑わしい目を向けてくる。


「じゃあ、ソニアも歩いてみ?」

「上等だよ!」


わたしはトキちゃんと違って気合を入れず、軽い気持ちで歩き出す。


ペタペタ・・・コテン


 あれ?


ペタペタ・・・コテン


 あ、あれ!?


ペタペタ・・・コテン


 あ、あれぇぇ!? 一歩二歩進んだら転んじゃう! 上手く歩けない!! なんで!?


何度挑戦しても同じことの繰り返しだ。まるで歩き方を忘れたみたいに。


「うぅ・・・本当は歩けるし・・・」


 悔しい・・・涙が出てくる。


「わ、分かった! 分かったから! 二歩くらいは歩けてたぞ! ちゃんと歩けてた! 凄いぞ!」


ディルが冷や汗を流して慌てた感じで手をワチャワチャさせながら必死にわたしを励ましてくれる。


 ・・・その気持ちは嬉しいけど、本当に歩けるハズなんだよ~。


「お、俺! 外のアザラシ・・・だっけ? それを解体してくる! まずは腹ごしらえをしてから行動開始しようぜ!」


そう言って、ディルは玄関扉から飛び出していった。わたしとトキちゃんは顔を見合わせる。


「一緒に歩く練習をしようか」


わたしはトキちゃんの手を取って「ディルを見返そう」と微笑んだ。

読んでくださりありがとうございます。ミカちゃんなら大丈夫だろう、ミカちゃんの心配を欠片もしない皆でした。

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