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145.氷の山

「行けー! ペンギンさん!」

「ま、負けないで! 人鳥さん!」


わたしが乗っているペンギンさんがペタペタと走り、トキちゃんが乗っているペンギンさんも負けじとペタペタと走る。


「もう少しで氷の山に着くよ! 頑張って! 勝利は目前だよ!!」

「が、頑張って! やれば出来るよ!」


 フフッ、わたしのペンギンさんの方が少しだけ早い!


わたしとトキちゃんは、村から氷の山に向かってペンギンレースをしている。ペンギンさんはかれこれ30分くらいは走り続けてるけど、まったく疲れた様子がない。わたし達の為に頑張って走ってくれている。


「あと少し! このレースに勝ったら一緒にお魚パーティーしようね!」


パシパシとペンギンさんの頭を叩く。ペンギンさんは「ンアアア!!」と雄叫びをあげて、羽をパタパタさせて勝利に向かって走る。


 うんうん! もうこのペンギンさんとわたしはツーカーの仲だ。相棒と言っても過言ではない。


もうすぐでレースの決着が着くというところで、わたしの目の前に赤いドラゴンがドスゥン!と降り立った。


 うそでしょ!? ちっちゃいわたし達のことは空から見ても見つけずらいハズなのに!


「アアアアアア!!」


ペンギンさんが耳を塞ぎたくなるほどの大きな鳴き声を出して、羽をバタバタ、頭をブンブン、暴れる。後頭部にしがみついていたわたしはあっけなく雪の上に放り出された。


「ひぇ~~!」


「ぷはっ」と雪から顔を上げると、ペンギンさんがわたしを置き去りにして、さっきまでとは比べ物にならないくらいの速さで走ってドラゴンから逃げていくのが見える。わたしは「待って」と手を伸ばすけど、意味は無かった。まったくこちらを振り向かず、颯爽と逃げていく。


「あ、相棒・・・ああぁ・・・」


わたしの口から自分でもびっくりするくらい悲しい声が出た。隣を見ると、トキちゃんもわたしと同じ態勢で悲しそうな顔をして逃げていくペンギンさんを見ていた。


「グオォォォ・・・」


後ろからドラゴンの背骨が震えるような重たい鳴き声が聞こえた。


 そうだった! 悲しんでる場合じゃないよ! もう彼のことは忘れよう! やっぱりわたしの相棒はディルだけだ! あんな頭のちっちゃいやつ知らない!


わたしは早く逃げようとトキちゃんを見る。


「トキちゃん! 早く逃げ・・・」

「待って、トキ、飛べない・・・」


 そうだったー!


わたしはそーっと恐る恐るドラゴンがいる背後を振り向く。


「グオォ」


ドラゴンは短く鳴いたあと、わたしに向かってズサッと頭を下げた。


「え?」


わたしは説明を求めてトキちゃんを見るけど、トキちゃんは目を真ん丸にして首をフルフルと横に振る。とりあえず、わたしは頭を下げるドラゴンと向き合う。


「えっと・・・」

「先ほどは偉い妖精様がいらっしゃるとはつゆ知らず申し訳ありませんでした」

「えっ、あっ、はい・・・・・・え?」


 しゃ・・・しゃべったああああ!?


ドラゴンの喉から渋い男のいい声が聞こえる。わたしが口を開けっ放しにして驚いていると、ドラゴンは羽の中に自分の顔を突っ込んで、嘴で何かを掴んでわたしの前に置く。


 なにこれ・・・アザラシ?


わたしの前にアザラシがドサリと置かれた。


 これを、どうしろと? ・・・あれ?


再びわたしの前に頭を下げたドラゴンを見る。近くで見ると、ドラゴンの額には魔石が付いていた。ルビーのようなキラキラした綺麗な赤い魔石だ。


 魔石が外から見えているのは魔獣の特徴・・・ってことはこのドラゴンは魔獣なの? ・・・まぁ、だからと言ってわたしには魔物と何が違うのかあんまり理解してないんだけど。


「これはお詫びです。お好きだったでしょう? ・・・我はこれにて、探し物があるので・・・」


そう言って、ドラゴンはバサリと翼を広げて飛び去っていった。


「トキちゃん・・・ドラゴンって喋るんだね」

「う、うん。トキの前では一切喋らなかったのに・・・」


トキちゃんは信じられないものを見たような顔でドラゴンが残した雪の跡を見ている。


「・・・というか、ソニアちゃんって偉い妖精さんだったんだぁ」

「そう・・・みたいだね」


何度か見た不思議な記憶が脳裏をよぎる。


 あの記憶・・・もっと知りたい気もするけど、なんだか知らない方がいいような気もする。なんでだろう?


「ト、トキは一度だけ偉い妖精全員と会ったことがあるハズなんだけど、そこにソニアちゃんもいたのかな?」


トキちゃんは立ち上がって、首を傾げてわたしを見る。


 そんなこと言われても・・・分かんないよ。わたしには覚えてない記憶があるみたいだから。やっぱり、あの記憶のこと、もっと知りたいな。あの記憶の中の黒髪の妖精はわたしにとても懐いていたし、わたしも大事にしている風だった。もし彼女が今もわたしのことを覚えているんだとしたら、わたしの記憶が無いことは彼女にとって辛いことだと思う。それに・・・


「ソ、ソニアちゃん・・・?」


トキちゃんに肩を叩かれた。


「む、難しい顔をしてたけど・・・」


 ううん。今考えることじゃないね。


わたしは軽く頭を振って気持ちを切り替える。


「なんでもないよ。それより、このアザラシどうしよう?」


わたしはドラゴンが置いて行ったアザラシの上に乗る。ブヨブヨしてて弾力がある。アザラシは既に息が無く、動かない。


「・・・どうしようもないよ。トキ達じゃあ運べないし」

「確かに、そうだね」


せっかく貰ったけど、このアザラシのことは放置してわたしはトキちゃんを抱えて氷の山に向かう。


「これが・・・氷の山?」


氷の山とは言ってるけど、近くで見ると大きな氷の塊だった。山でもなんでもない。ただ大きな氷が地面から生えているだけだ。


 ん? ・・・なんか、ある。


氷に手を翳して、氷の中をじーっと見る。


「どうしたの? ソニアちゃん」

「いや・・・中に何かあるなーって・・・」


 なんだろう? 大きな・・・木?


「中にあるのは家だよ」


トキちゃんがわたしの隣に立って片手で氷に触れながら言う。


 そういえば、誰かの家だって言ってたよね。


「トキが生まれたばっかりの頃に、偉い妖精達にここを守って欲しいって頼まれたの。それで、水の妖精と協力して大きな氷の山を作ったんだ。本当に生まれたばっかりだったから、それくらいしか覚えてないんだけど」

「じゃあ・・・ここって・・・」

「う、うん。誰の家か分からないとは言ったけど、たぶん偉い妖精達の誰かの家だと思う」


トキちゃんは大事そうにそーっと氷を撫でたあと、わたしを見る。


「こ、ここの裏側に行くんでしょ?」

「うん! 早くディル達を見つけなきゃ!」


 最近、どんどんと分からないことが増えていくけど、いちいち気にしてらんないよね!


わたしは隣に立っているトキちゃんを「よいしょ」と抱えて氷の山の反対側に回る。でも、やっぱりディル達の姿は見当たらない。けれど、少し遠くの方に白いドラゴンが何体かいるのが見えた。シロちゃんよりはだいぶ大きいけど、さっきの赤いドラゴンよりは小さい。それに、額に魔石も見えない。


 もしかして、あの中にシロちゃんの両親もいるのかな?


白いドラゴンの群れの方へ飛んで行こうとしたら、抱えているトキちゃんに太股をバシバシと叩かれた。


「ソ、ソニアちゃん・・・あれ見て」


トキちゃんが氷の山の近くの地面を指差す。そこには、わたしとトキちゃんがすっぽりと収まるくらいの巨大な足跡があった。


 なにこれ! まさかビックフットってやつ!?


「これ・・・ディルかミカモーレの足跡じゃない?」

「えっ・・・あっ、そうだね!」


 近くに人間がいないと、わたしがちっちゃいことを忘れちゃうなぁ。わたしからしたらディルもミカちゃんも皆巨大なんだよね。


わたしはトキちゃんを抱えたまま足跡に近付く。足跡はわたし達が回り込んできた方向とは逆の方から続いていて、そのまま氷の山に向かっている。


「このサイズはディルだね。でも、ここで途切れてる・・・」


足跡は氷の山の手前で無くなっていた。


「あっ・・・ああああああ!!」


トキちゃんがいきなり叫んだ。わたしは「わぁ!」と驚いて抱えていたトキちゃんを地面に落としてしまった。ここら辺はそんなに雪が積もってないせいで、結構痛そう。雪の上にお腹から落っこちたトキちゃんは痛がる様子も無く、そのままの態勢で氷の山を指差して口を開く。


「こ、氷の山に傷がついてる!」


 傷?


わたしはトキちゃんが指差している場所に飛んで、氷の山の表面を見てみる。


「あっ、本当だ。ナイフで刺したみたいな傷がある」

「だ、誰がこんな・・・」


そう言いながら、氷の山を指差すトキちゃんの指先が震えている。でも、わたしには犯人が分かった。状況証拠は揃っている。


「ハァ」と溜息を吐いて、氷の山の上を見上げる。かなり上の方に黒い何かが張り付いているのが見えた。


「ディル・・・見つけた!」


わたしはトキちゃんに「ちょっと待ってて!」と言って飛び上がる。ビュゥっと風を切って、氷の山の頂上付近まで一気に上昇する。そこにディルが片手で魔剣を突き刺して張り付いていた。


「ディル!!」


わたしが上から声をかけると、ディルはビクッと体を跳ねさせたあと、キョロキョロと周囲を見渡しながら「幻聴か?」と首を傾げた。わたしはディルの肩に降り立って「幻聴じゃないよ」と耳元で囁く。


「うわぁ!」


ディルがビクンッ!と体を跳ねさせて、落ちないように慌てて両手で氷の山に突き刺している魔剣を握る。わたしはディルの肩から離れて隣に浮く。


「ソニア!!」

「ディル!!」

「「無事だったんだ!!」」


わたしとディルの声が重なった。「心配したよ」と微笑み合う。


 目覚めてからやっと肩の荷が下りたというか、安心できるというか・・・。無事だとは思ってたけど、こうして会うまでは心配だった。


「ディルはここで何してるの? 落ちたら危ないよ?」

「高いとこから見下ろせばすぐにソニアを見つけられるかなって思ったんだよ。この白一色の景色の中でソニアの金髪は目立つからな」

「えっ!?」


 ちっちゃいからドラゴンからも見つけずらいだろうって思ってたんだけど、ちゃっちゃいとかそういう問題じゃなかった・・・。


「結局はソニアの方が俺を見つけてくれたみたいだけどな」


ディルはわたしを見て嬉しそうに笑う。


 ま、とりあえずディルが見つかってよかったね!


「・・・というか、ディルは魔剣一本でどうやってここまで登ってきたの?」


 両手で二本持ってるならともかく、一本だけで登る方法が思い浮かばない。


「あ~、見ててくれよ」


そう言ってディルは、魔剣にブラーンとぶら下がって振り子のように揺れる。その勢いを利用して斜め上に魔剣を引き抜きながら飛んだ。そして、魔剣を再び氷の山に突き刺す。


「ここで魔剣に流してる魔気を止めれば、簡単には魔剣は抜けないんだ」


「すごいだろ?」と得意気な顔でわたしを見る。


「凄いけど・・・氷の山に傷がついてることにトキちゃんが悲しんでたよ。それに、降りる時はどうするの?」


ディルはわたしを見つめたままパチリと瞬きする。


「お、降りるときは魔剣で氷の山を裂きながらゆっくり降りようと思ってたんだけど・・・氷の山を傷つけたらトキが悲しむのか?」

「うん」

「マジか・・・」


 わたしがディルを持ちながら飛べたらよかったんだけどね。そんなこと、トキちゃんを抱えるだけでも一苦労なわたしには絶対に出来ないもん。


「・・・あとで氷の妖精に謝りつくそう」


ディルは決意を込めた瞳でそう言い、魔剣の剣先を下に向けた。そして、氷の山をガガガと裂きながらゆっくり降りていく。わたしもディルと一緒に降下する。


「わたしも一緒に謝るよ」

「・・・助かる」


下に着くと、トキちゃんが何頭かのアザラシに囲まれて転がされて遊ばれていた。

読んでくださりありがとうございます。ブヨブヨのアザラシのお腹を見て、コンフィーヤ公爵を思い出すソニアでした。

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