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142.赤髪の妖精

コンコンコン


「すいませーん! 誰かいますか~! いたら元気に返事して下さーい!」


趣のあるふさふさの三角屋根の一軒家、その分厚い玄関扉をノックしながら元気に叫ぶディル。元気な返事どころか、普通の返事も返ってこない。これで3軒目だ。


「やっぱり、この村にはもう誰もいないのかしら?」


ミカちゃんが後ろを振り返って、村を見渡しながら言う。


「一応、中に入って確かめてみるか?」

「家の中に? そうね~。どちらにしろ、アタシ達もう寒さが限界だし、ここの住人には申し訳ないけど、勝手にお邪魔しましょうか」


ミカちゃんが肩を擦りながら「ね?」と同意を求めてくるけど、わたしは別に平気だ。


「そんなに寒いの?」


わたしがそう言うと、ディルが恨めしそうな顔で「妖精はいいな」と言って、扉の取っ手に手をかけた。


ギィィィ・・・


重厚感のある音と共に扉が開かれる。家の中は窓を何かで塞いでいるのか、日の明かりが入っていなく、開いた玄関付近以外は薄暗い。


 うぅぅ・・・さっきあんな目に会ったばっかりだし・・・もう・・・こわすぎるよ~。


わたしはブンブンと頭を振って、先ほどのゾンビの顔を頭から追い出す。そして、ディルの後頭部にハシッと張り付いた。


「おじゃましま~す」


ディルが頭に張り付いたわたしに軽く触れて確認したあと、一応ちゃんと挨拶しながら恐る恐ると薄暗い家の中へと入っていく。ディルが慎重な足運びで奥に進んでいくと、ミカちゃんとシロちゃんもディルとわたしに続いて入って来た。


ギィィィ・・・バタン!


急に玄関から入っていた明かりが無くなって、真っ暗になった。


「ひゃああ!! なに!?」

「あら、ごめんなさい。扉が閉まった音ネ。思ったよりも重い扉だったみたい。勝手に閉まっちゃったわ」


後ろからミカちゃんの申し訳なさそうな声が聞こえてきた。


 や、やめてよ・・・もう、今はほんの些細なことでも驚いちゃうんだから!


顔だけ後ろを振り向いてミカちゃんを睨んでいると、わたしの体が勝手に傾いた。どうやら、ディルが首を傾げたみたいだ。


「ディル、どうしたの?」


ディルの後頭部をポスポスと叩きながら聞く。


「いや、なんか・・・」


 わたしはディルの後頭部に張り付いているから分からないけど、ディルの見る方に何かあるのかな?


「ソニア、あの光の玉を出してくれないか? 俺の前に」

「う、うん」


わたしはディルの後頭部をよじ登り、頭の上に立って光の玉を出して、ディルの前を照らす。その瞬間、人の顔が見えた。目の前に。


「・・・っぴっびゃああああああ!!」


わたしは叫んだ。


ビリビリビリィ!!


「いっぎゃああああああ!!」


ディルも叫んだ。驚いたあまり、思わずディルに電気を流してしまったみたいだ。


「誰!? 人!? なんで!?」


 誰だか知らないけど、黙ってないでなんとか言ってよ! 下から照らしてるせいで余計にこわいし!


わたしは光の玉を上に上げて、部屋全体を照らす。ミカちゃんが「大丈夫!?」と慌てて近づいてきて、目の前にいる微動だにしない人を見て驚いている。・・・というか、呼吸もしてない。


 え・・・? 人間・・・だよね? なんで動かないの?


「フゥ・・・ハァ・・・、なんだこれ? 人形か?」

「・・・だと思いたいけど、どう見ても人間・・・よネ?」

「だよな・・・」


わたしの電気から復帰したディルが呼吸を整えながら、人差し指でそーっと目の前の人を突く。


「いてっ!」


指先がその人の頬に触れた瞬間、ディルがバッと指を引っ込めた。


「どうしたの!? 静電気!?」


わたしは急いでディルの頭から降りて、指の近くまで移動する。


「いや・・・これは・・・火傷か? めっちゃ痛いんだけど」


ディルが赤くなった指先を見て、そう呟いた。


「え!? 大丈夫なの!?」

「たぶん・・・すぐ治る」


ディルが闇の魔石発動して身体強化をすると、赤くなった指は一瞬で元通りになった。


 すごっ! 不死身じゃん! ・・・いや、不死身では無いだろうけど、これくらいの軽い傷ならすぐに治るんだね。


「よく分かんないけど、触らない方がよさそうネ・・・」


触れない以上、何も調べられない。家の中にも特に変わった物はなかったので、わたし達は後ろ髪を引かれる思い・・・とはちょっと違うけど、動かない人を気にしながら家を出た。


「それにしても、めっちゃ痛かったなぁ。さっきのソニアの電撃よりも痛かった」


ディルが扉を閉めながら、わたしをジト目で見て言う。


「ごめんなさい」


わたしはペコリと謝った。


「別にいいよ・・・というか、何故か体が軽くなったし・・・なんか、癖になりそうだ・・・」

「え・・・なんで? わたしは何度もディルに電撃を浴びせたくないよ」


ディルは名残惜しそうに後ろの家と、何故かわたしを見たあと、気持ちを切り替えるように頭を振って、歩き出す。


「他の家も調べてみるか」


わたし達はディルを先頭に、ゾンビを警戒しながら他の家の中も調べていく。ゾンビ達は襲ってはくるけど、動きがとてつもなく遅いので、油断しなければ全くこわくない。こわいのは見た目だけだ。


村のほとんどの家を調べたけど、動いている人は1人も居なかった。皆、包丁を持ったままだったり、しゃがんだままだったりで、まるで生活の途中でいきなり止まったかのようだった。


「ここなら止まった人もいないし、少しは落ち着けるな」


わたし達は誰もいない家を拝借して休憩することにした。ミカちゃんが家に置いてあった薪を使って暖炉に火をつける。


「あ~~~~ったまるわぁ・・・」

「そ~~~~~だなぁ・・・」


ミカちゃんとディルが暖炉の前で気持ち良さそうに目を細めて言う。


「よっぽど寒かったんだね~」


わたしが「ね?」とシロちゃんに同意を求めると、シロちゃんが一泊遅れて「クゥン」と返事した。


 なんかシロちゃん・・・南の果てに着いてから大人しいね? お父さんとお母さんに早く会いたいのかな?


「それにしても・・・この村なんなんだろうな~?」

「そうネ~」

「そうだね~」


同意はするけど、誰も答えない。だって分かんないから。


「ここで一日休んだら、村の外も探索してみましょうか。シロちゃんのご両親を捜さなきゃだし、もしかしたら事情の分かる人がいるかもしれないわ」

「そうだな~・・・とりあえず、今日はもうここから離れたくない」


ディルが更に暖炉に近付く。


「ディルちゃん、近付きすぎると燃えちゃうわよ」

「大丈夫だって~・・・あったけ~・・・」


 のんびりしてるな~・・・なんだか眠くなってきた・・・。


わたしは自分の寝床を探そうとディル達に背を向ける。その瞬間、後ろから「うわぁ!?」「なに!?」というディルとミカちゃんの驚き声が聞こえた。


「どうしたの!?」


わたしは慌ててディルのもとに飛んで行く。


「いや・・・それが・・・」


ディルがそう言いながら、暖炉の中を指差す。わたしはディルの頭の上に乗って、暖炉の中を覗いてみる。


 妖精だ・・・。


薄い赤色の髪を上でお団子にした女の子の妖精が、燃え盛る炎の上で、ディルを指差しながら目を見開いて口をパクパクさせている。


「だっ・・・え? だっ・・・だ、誰?」


赤髮の妖精が困惑顔でそう言った。


 いや、こっちのセリフなんだけど・・・。


「俺はディルだ」


ディルがご丁寧に妖精の質問に答える。


「いや、そうじゃなくて・・・ん?」


赤髮の妖精は困惑気味にそう言いながら、わたしを見る。目が合った。


「初めまして、わたしは雷の妖精のソニアだよ☆」


わたしがパチッとウィンクしながら自己紹介すると、赤髮の妖精は目をパチクリとさせ、固まった表情のままミカちゃんの方へとギギギとぎこちない動きで視線を流す。ミカちゃんは心得たように自己紹介をする。


「初めまして、アタシはミカモーレ。・・・あなた、そこ熱くないの? こっちに移動したら?」


ミカちゃんが暖炉から少し離れたところにあるテーブルと椅子を指差す。


 そういえば、シロちゃんはどこ行ったんだろう?


隣の部屋にあるベッドで丸くなっているシロちゃんが見えた。赤髪の妖精はミカちゃんが指差したテーブルの上に移動して、不満そうにわたし達を見る。


「え、何してんの? ・・・いや、自分だけこっちに移動してどうすんのさ」


 それもそうだ。


わたし達も赤髪の妖精に続いて移動する。ディルとミカちゃんが椅子に座り、わたしと赤髪の妖精はテーブルのど真ん中に座る。


「それで、あなたは何の妖精なの?」


わたしが首を傾げて質問すると、赤髪の妖精も同じように頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げた。


「自分って何の妖精なんだろう・・・ね?」


 ね?・・・じゃないよ。髪の色的に火の関係じゃないかなって思うんだけど、どうなんだろう・・・ね?


赤髪妖精は「えっとぉ」と周囲をキョロキョロと見渡したあと、眉を下げて口を開いた。


「えっと、止まった人間を見なかった?」

「見たな」

「見たわネ」


ディルとミカちゃんが顔を見合わせて返事する。


「あっ、それ、自分がやったの。自分はそーいう妖精だよ」

「そっか!そうなんだ!」


 そーいう妖精なんだね!


わたしは考えることを放棄して、無理矢理に納得したけど、ディルとミカちゃんは真面目な顔で考えているみたいだ。そんな2人の様子を見た赤髪の妖精は、自分の説明が不十分だったことに気が付いたのか、慌てたように言葉を付け足す。


「あっ、えっと・・・人間達からは、時の妖精とか、氷の妖精とか呼ばれてたんだけど・・・」


 だけど・・・?


わたし達は続きの言葉を待つけど、赤髪の妖精はモジモジするだけで一向に喋らない。わたし達の視線に気が付いた赤髪の妖精は不思議そうに首を傾げた。


 あっ、それで終わりなんだ。


「じゃあ・・・」

「あっ、それと・・・え、なに?」


わたしが話そうとしたタイミングで赤髪の妖精も話だした。


 終わりじゃなかったんだ・・・。


わたしが「お先にどうぞ」と目で訴えると、赤髪の妖精はコクコクと頷いてから口を開く。


「えっと、自分は物の動きを遅くしたり、止めたり出来て・・・それで・・・そーいう妖精なの」


 いや、原点回帰!!


「遅くしたりも出来るのか!」

「凄いわネ!」


ディルとミカちゃんが揃って驚きの声を上げる。ビクッと体を跳ねさせた赤髪の妖精が両手のひらを前でブンブンと振って、慌てて言葉を付け足す。


「あっ、そんな凄い感じじゃなくて、なんていうか・・・もっと、ちっちゃい規模の話で、こう・・・人間の目には見えないくらいの・・・」


赤髪の妖精が「えっと、えっと」と目を回しながら必死に説明するけど、言葉を重ねれば重ねるほどディルとミカちゃんの顔が難しい顔になっていく。


 人間だった頃に学校で色々と学んだわたしにはなんとなく分かったけど、恐らくそんな知識が無いであろう2人には理解できないよね。


「簡単に言うと、物を冷たく出来るってことでしょ? それも、限界まで」


 確か、絶対零度って言うんだよね。


「うーんっと・・・凍らせたり出来るってことか?」

「もう、それでいいよ」


ディルが難しい顔で確認する。赤髪の妖精は説明が面倒くさくなったのか、やや投げやり気味に言った。


「なるほどネ。じゃあ、あの止まった人達はただ固まってるだけじゃなくて、凍っちゃてるってことなのネ」

「でも、なんでそれで火傷したんだ?」


ディルが不思議そうに首を傾げて赤髪の妖精を見るけど、赤髪の妖精は説明をするのを諦めて「そういうものなの」とだけ言って、それ以上説明することは無かった。


 アレだよね。要はドライアイスに触った時と同じで、火傷じゃなくて、正確には凍傷なんだよね。わたしも上手く説明できる気がしないから、何も言わないけど。


「つまり、氷の妖精ってことだよな。他の人間にもそう言われてたって本人が言ってるんだし」


ディルが満足気な顔で「納得した」と言うけど、赤髪の妖精は不満そうな顔をして、何故かわたしを見る。


「えっと、水を凍らせて氷を作ることはできるけど、何もない所から氷は作れないんだけど・・・」


 あなたから分かりやすいように説明してくれ・・・と言われてる気がする。でもわたしはその期待には応えない。何の妖精でもいいじゃない。だって、自分でも分かって無いんだから。


「それよりも、トキちゃんはどうして人間を凍らせたの? それも限界まで」

「あっ、それは・・・え!? トキちゃん?」


赤髪の妖精ことトキちゃんがギョッと身を引いてやや大げさ気味に驚く。


「氷の妖精から取ってコオリちゃんでもいいかなって思ったけど、時の妖精から取ってトキちゃんの方がなんとなく呼びやすい気がしたからね。何の妖精か分からなくてどう呼べばいいか分からないなら、名前を付けちゃえばいいんだよ」


わたしがそう言うと、トキちゃんは瞳を潤ませて、唇を震わせながら嬉しそうに破顔した。


「じ、自分の名前・・・トキ・・・トキ・・・フフフッ」


トキちゃんは自分の新しい名前を弾む声で復唱して、頬を両手で押さえて幸せそうな笑みを浮かべる。そして、勢い良くバフッとわたしに抱き着いてきた。


「わぁ! そんなに嬉しいの!?」

「う、うん! ずっと昔に火の妖精が、名前は自分を大切にしてくれる人から贈られる掛け替えのない宝物だって言ってて、自分は・・・トキはそれを聞いてからずっと名前に憧れてて!」


トキちゃんはわたしに抱き着いたまま羽をパタパタと動かして、全身で嬉しさを表現している。それをディルとミカちゃんが微笑ましそうに見下ろしていた。


 そ、そんな一人称が変わるほど喜ばれるなんて・・・もうちょっと真面目に考えれば良かったかな? ま、今更か。・・・ていうか、話が脱線してわたしの質問が明後日の方向に飛んで行っちゃってるよ!


「喜んでくれてありがとう。名前、大切にしてね」

「うん!」


わたしはよしよしとトキちゃんの頭を撫でて落ち着かせながら、話を戻す。


「・・・・それで、話を戻すんだけど、トキちゃんはどうして人間を凍らせたの?」


わたしがそう言うと、ディルとミカちゃんも真面目な顔になって、トキちゃんの話に耳を傾ける態勢になった。だけど、トキちゃんの体からどんどんと力が抜けていき、わたしに抱き着きながらズルズルと下に下がっていく。


「ど、どうしたの? トキちゃん?」

「えっと、えっと、トキは人間が好きでぇ・・・すぅ・・・すぅ・・・」


トキちゃんはわたしの胸に顔を埋めて寝息を立て始めた。


「え・・・寝たの!? ちょっと! 起きて!」


ゆさゆさと揺らすけど、全く起きる気配が無い。ディルがそんなトキちゃんとわたしを交互に見て口を開く。


「最近のソニアみたいだな」


 確かにそうだけど・・・


この村の人間を凍らせた、人間が好きだと言う妖精トキちゃんは、「ふわふわぁ」と変な寝言を言いながらわたしに完全に体を預け、わたしはそれを支えきれず後ろにコテンと倒れた。


 あ~・・・そういえば、わたしも眠いんだった・・・。


わたしはそのまま意識を手放した。



目が覚めた。真っ暗の中、何かに埋まってる感覚がする。


 ディルが布団の中で寝かせてくれたのかな?


わたしは布団を跳ね除けようと、勢い良く飛ぶ。


ボフッ!


 あれ?


想像以上に軽い布団だなと思ったら、布団じゃなかった。


 え、これ・・・雪? わたし、雪の中に埋まってたの?


辺りを見渡すと、気持ちの良い青空の下、雪原のど真ん中だった。


 夢・・・だよね?

読んでくださりありがとうございます。適当に名前を付けたことに若干罪悪感を覚えるソニア。名前を付けて貰って有頂天になったかと思えば突然眠るトキちゃん。その間もずっと寝ていたシロちゃんでした。

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