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140.海底トンネル

部屋でディルの帰りを待っている間、わたしはシロちゃんと一緒にしりとりをしていた。


「すまいる」

「クゥーン」

「すかーと」

「クゥーン」

「すかーふ」

「クゥーン」


 ぐぬぬ・・・何を言っても「す」で返ってくる。妙にしりとり慣れしてやがる!


「す・・・すずむし!」

「クゥーン」

「す、す、す・・・すずらん! ・・・あっ、今のなし!」

「クゥン!!」


シロちゃんがバッサバッサと翼を羽ばたかせて抗議してくる。わたしが負けを認めるかどうか頭を抱えて迷っていると。ガチャリと部屋の扉が開かれた。


「ソニアただいまー・・・何してんだ?」


ディルが未だに翼をバッサバッサしているシロちゃんと、頭を抱えているわたしを見て首を傾げる。


「おかえりディル。シロちゃんがずるいんだよ。何言っても「す」で返してくるの」

「は?」


首を傾げていたディルが更に首を傾げる。


「シロちゃんとしりとりしてたんだよ」

「あ~・・・えっ!?」


ディルが上着を脱ぎながら納得しかけて・・・バッと目を見開いてシロちゃんを見た。


「できんの!?」

「クゥン!クゥーン!」


シロちゃんがディルの方に向かって翼をバッサバッサする。


「あたりまえだよコノヤロー!・・・って言ってるよ」


わたしはシロちゃんのそのまんまの言葉を伝えてあげる。


「いや、そんな怒んなくても・・・」

「ちゃんと謝んなきゃダメだよ」


わたしは腰に手を当ててディルの目上に飛んで見下ろす。


「えぇ~・・・ごめんなさい」


ディルが「なんか納得できない」みたいな顔をしながら椅子に腰かけた。


「あれ? そういえばミカさんは?」

「ミカちゃんなら、なんか土の魔石を試したいってどこかに行ったよ。すぐに戻るって言ってたから、そろそろ戻ってくるんじゃない?」



わたしはベッドの上で布団をふみふみしていたシロちゃんに跨りながら言う。


「あっ、そうそうディル! ミカちゃんから聞いたけど、妖父さんにわたしのあれやこれやを話してたそうだね!?」


わたしがシロちゃんの上からディルを睨むと、ディルは何も悪びれた様子も無く、嬉しそうな子供らしい笑顔で「いっぱい話したぞ!」と言った。


「妖父さんがソニアのことを聞きたいって言ってたから、俺が思うソニアのかわ・・・っ面白い話をたくさん話してあげたんだ。凄い喜んでたぞ」


 かわ・・・? もしかして、可哀想なって言いかけた!?


村でやらかした数々のエピソードが頭の中を駆け巡る。


「あっ、そういえば・・・俺って愛し子なのか?」


ディルが「寝惚けながら言ってたよな?」とわたしを見る。


 わたし、眠すぎて言った記憶が飛んでるんだけど・・・。


否定しようとして、ミカちゃんが部屋から出る間際に言った「ディルちゃんは愛し子」発言が脳裏をよぎる。わたしが口を開けたまま固まっていると、ディルがわたしを見て、少し声量を抑えめに話始める。


「正直・・・大事な友達で愛し子だって言われて、けっこう嬉しかったんだけど・・・」


ディルが頬を掻きながら照れくさそうに、そして嬉しそうに言う。


 嬉しかったんだけど・・・!? 嬉しかったんだけど何なの!?


わたしが答えに迷ってアタフタしていると、ディルが「ぷっ」と吹き出した。


「そんな困った顔するなよ! 俺は愛し子が何なのかいまいち分からないけど、友達と両立出来るなら愛し子もいいかなって思っただけだよ!」


ディルが立ち上がり、近くに寄ってわたしの頭をちょんちょんと優しく突く。


 うーん・・・愛し子かぁ。ミカちゃんから話を聞いた感じ、否定したい気持ちもあるけど、ディルがその方が嬉しいんならそれでもいいかな?


わたしが突かれた頭を両手で押さえながら、ディルを見上げて、肯定の意味を込めてニコッと笑うと、ディルは何故か口を手で押さえてバッと顔を背けてしまった。


 なぜ・・・? わたしショック。


「クゥーン」


シロちゃんが背に跨っているわたしに振り返って慰めてくれる。「良い子だね」と撫でていると、ミカちゃんが扉を開けて戻ってきた。


「シロちゃん戻ったわよ~」

「クゥンクゥーン!」

「ふわぁあ!?」


シロちゃんが勢い良くミカちゃんの顔に飛びつく。シロちゃんの背に跨っていたわたしは、背中からベッドに転げ落ちた。


「おかえりミカさん。ソニアから聞いたぞ。土の魔石を試しに行ってたんだろ?」

「そうなのよ。これでスライムの問題はどうにかなりそうネ」


ミカちゃんが顔に張り付いたシロちゃんを剝がしながら言う。


 土の魔石でスライムを?


わたしが態勢を整えて、ディルの隣に浮上して首を傾げていると、ミカちゃんが説明してくれる。


「温泉を真ん中で分けた土の魔石で、スライムの本体を攻撃出来るんじゃないかと思ってたのよ」


 あ~・・・わたしを串妖精にしかけた、あの土の槍ね。確かに、長ささえどうにか出来れば、スライムの周りを覆う真水を貫通して本体まで届きそうだ。


「じゃあ、これで、地下通路を通る準備は出来たわけだな!」

「海底トンネルね」

「海底トンネルを通る準備は出来たわけだな!」


ディルが「よしっ」と気合を入れる。


「気合を入れてるところ申し訳ないけど、出発は明日にしましょう。しっかりと休息をとってからの方がいいわ。この先何日まともに休めないか分からないもの」

「そうだな」


わたし達はミカちゃんの言った通り、しっかりと休息をとる。宿で夕飯をいただき、皆で温泉を満喫して、ディルとミカちゃんが夜食を食べ、他愛のない雑談をして、仲良く就寝。



そして夜が明けて出発する時間になった。村の出口付近、わたしは朝食を食べ終わって準備万端なディルの頭の上で、お世話になった皆にお別れを言う。


「じゃあね!色々と骨を折ってくれてありがと! 助かったよ!」

「金色の可愛らしい妖精様。そして、妖精様の愛し子様。また、機会があれば村にお越しください」


妖父さんが村の皆を代表して言う。なんか妙な呼ばれ方をした気がするけど、気にしない。


村の皆に手を振りながらお別れして、魔物を退治しながら松林を抜けて、海底トンネルの入口に向かった。


「なんか、重そうな石が置いてあるね」


わたしは地面にある二枚扉の上に置いてある石を指差して言う。


「またスライムが出てこないように、重りで塞いでるんだろうな」

「これ、わたし達が退けて入ったあと、誰が元に戻すの?」


ディルとミカちゃんがお互いの顔を見て黙る。


「トンネルの中にいる魔物は全部倒していきましょうか」

「だな! そうすれば重りとか関係無いもんな!」


 思ってたよりもだいぶハードな道程になりそうだね。


ディルが重そうな石を軽々と退けて、扉を開ける。そこには暗闇に続く湿った階段があるのみだった。


「な、なんかこわいね?」


わたしは思わずギュッとディルの首筋に抱きついた。


「うははっ・・・く、くすぐったいわ!」


ディルに服の襟を摘ままれて、「こわいならここにいろ」と肩に座らされた。わたしはギュッとディルの耳朶を掴んだ。


 あっ、柔らかい・・・。


「だから、くすぐったいわ!」


わたしはディルの頭の上でギュッと髪を掴んで、暗闇に続く階段を睨みながら口を開く。


「行こう!」


先にシロちゃんを頭に乗っけたミカちゃんがハンマーを構えながら降りていき、次にわたしを頭に乗せたディルが階段を数歩降りて、上にある二枚扉扉をガコンガコンと閉めた。その途端、唯一陽の光が差し込んでいた場所が無くなり、当然ながら真っ暗になった。


「しまったな。真っ暗で何も見えない」

「ソニアちゃんの羽はしっかりと見えるわよ」


 わたしの羽は暗いところだとキラキラ光るからね! 蓄光効果でもあるのかな? 自分でもなんで光るのか分からない。


わたしは先頭を歩くミカちゃんの前に、大きめの光の玉を出す。ぽわ~っと周囲が照らされた。


「ありがとうソニアちゃん。さすが妖精ネ!」

「だろ?」


何故かディルが得意げに答えた。


「さ、行くわよ。皆、足元濡れてるから気を付けてネ・・・ってソニアちゃんもシロちゃんも関係無いわよネ・・・」


 飛べるからね。今はそれぞれの頭に乗ってるけど。


ポチャポチャと湿った階段を慎重に下っていく。


ポチャ、ポチャ、ポチャ、ポチャ・・・


「階段長くない?」


皆が思っていたことをわたしが言った。誰も返事してくれない。


ポチャ、ポチャ、ポチャ、ポチャ・・・


「長くないか? この階段」


ディルが皆の心の声を代弁した。誰も返事しない。


ポチャ、ポチャ、ポチャ、ポチャ・・・


「クゥーンクゥン?」


シロちゃんが皆の疑問を声に出した。誰も返事しない。


ポチャ、ポチャ、ポチャ、ポチャ・・・


「あっ、階段の終わりが見えてきたわよ!」


ミカちゃんが皆が待ちわびていた言葉を大きな声で言った。皆が「やっとかぁ」と返事した。


「だいぶ下まで降りて来たんじゃないかしら?」


下って来た階段を振り返って、溜息交じりに言う。階段の上の方は暗闇だ。


 暗闇に向かって降りてたら、気付いたら暗闇から来てた・・・。何言ってんだろうね。わたし。


「ここまで魔物は見なかったな」

「あの大きなスライムが特殊だったのかもしれないわネ。でも、警戒は怠らないで進みましょう」


トンネル内は湿気が酷く、そして、外よりも寒く無いせいか、ディルとミカちゃんは上着を脱いで汗を流しながら歩き続ける。


「思ったよりも体力が奪われるわネ・・・」

「そうだね~」


わたしが気軽に返事をすると、2人が「ハァ」と溜息だけを吐いて、歩みを再開させた。相当疲れてるみたいだ。わたしは心の中で「場を和ませようとしただけなんだよ」と自己弁護する。


それから何時間か進んでいると・・・


「ディルちゃん・・・」

「分かってる」


ミカちゃんがハンマーを構えて、前方を警戒し始めた。ディルも魔剣を手に構えている。


「ソニア、もう少し奥まで照らせるか?」

「うん」


わたしは光の玉をもう一つ作って、奥の方へと「えいっ」と飛ばす。すると、通路の奥の方で何かが詰まっているのが見えた。


「あれは・・・スライムか?」


ディルがそう言うと、ミカちゃんがハンマーを背に仕舞って、土の魔石を取り出した。


 本当だ・・・スライムだ。スライムが通路にみっちみっちに詰まってる。動きにくそう。


「ミカさん、任せてもいいか?」

「ええ、もちろん」


わたし達はミカちゃんを先頭にスライムへとじりじりと近付いていき、スライムがこちらに気付いて向かって来た瞬間に、ミカちゃんが土の魔石を地面に当て、スライムの真下から土の槍を突き刺して、見事に本体を貫いた。スライムの本体を覆っていた真水がパシャンと弾けるようにして消える。


「倒す方法さえあれば、簡単ネ」

「あっけなかったね」


 まぁ、スライムと言えば、魔物の中でも最弱なイメージがあるしね。


それからも何度かみっちみっちに詰まったスライムをミカちゃんが魔石で倒し、普通のサイズのスライムをディルが魔剣で倒したりしながら海底トンネルを進んでいく。


ぐぅぅぅぅぅ!


「ディルのお腹が鳴った」

「なんで俺だって分かるんだよ」

「前科がいくつもあるからだよ」


ディルがお腹を擦りながら腕時計を見る。


「えっと・・・15時・・・ってそりゃお腹も鳴るわ! お昼ご飯食べてないじゃん!」


 太陽が見えないと、時間感覚が狂うよね~


ミカちゃんが「便利な道具ネ~」ディルの腕時計を見ながら、敷物を敷いてお昼ご飯の準備を始める。


「そういえば、食糧って何があるのー?」


わたしはミカちゃんの大きなリュックを覗き込む。


 干し肉、干し肉、チーズ、干し肉、干し肉、チーズ・・・うん。わたしはいらないや。


ディルとミカちゃんがガツガツと干し肉を食べるのを待って、再出発。


ピチャピチャ・・・ピチャピチャ・・・


ディルの頭の上で、2人の足音を聞いてボーっとしてたら、眠くなってきた。


「ごめん皆、わたし眠い」


ミカちゃんが歩みを止めて、振り返ってわたしを見る。


「寝てもいいわよ・・・って言いたいところなんだけど・・・」


ミカちゃんは困ったような顔でわたしが出して周囲を照らしている光の玉を見る。


 わたしが寝たら真っ暗になっちゃうね。


「わたし、頑張って起きるよ」


 全く自信ないけど・・・。


「いや、ソニアは寝てていいぞ」


わたしはディルに服の襟を摘ままれて、手のひらに乗せられた。ディルがわたしを安心させるように笑って、口を開く。


「暗闇なんて目が慣れればどうってことないし、闇の魔石で身体強化すれば、昼間みたいに・・・とまではいかないけど、それなりに見えるから、ソニアは何も心配せず寝てていいからな」

「本当に、大丈夫?」


わたしはディルの手のひらに、自分の両手を付けてディルを見上げる。


「ソニアが眠いのを我慢してウトウトしてる方が気が散って困るんだ。俺の為にも寝てくれ」


ディルが冗談っぽく言う。


 そっか・・・ディルが大丈夫そうなら・・・


「クゥーン」


わたしはシロちゃんに器用に嘴でわたしを掴まれて、背中に乗せられる。


「おやすみ。ディル、ミカちゃん、シロちゃん、頑張ってね」


ぼやける視界の中で、わたしが生み出した光の玉がパッと消滅するのを見ながら、シロちゃんの背中の上で眠りについた。

読んでくださりありがとうございます。次話は南の果てに到着です。

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