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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第4章 眠たい妖精と止まった村

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138.見たかった景色

「ぶぇっっっくしょぉぉぉぉぉん!!」


ミカちゃんが肩を震わせて盛大にくしゃみをした。


「大丈夫? ミカちゃん」

「クゥ~ン・・・」


わたしとシロちゃんはベッドに横たわったミカちゃんの顔を覗き込む。


「大丈夫よ。心配かけてごめんなさいネ」


巨大なスライムを倒したあとすぐ、ミカちゃんは気を失ってしまった。

ディルが急いで宿に運んで、村の薬師さんに診てもらったところ、低体温症のようなものだった。そう言い切れないのは、薬師さんが言っていたことを、人間だった頃の知識と照らし合わせた結果、低体温症なのでは?と予測したからだ。


幸い、すぐに目が覚めたけど、暫くは安静にしてくださいと言われていた。それから一晩経って今はお昼時だけど、まだ本調子ではなさそう。


「本当に、ごめんなさいネ。アタシのせいでこの村で足踏み状態になっちゃって」


ミカちゃんは妖父さんがお見舞いに持って来てくれたホットミルクを飲みながら、わたしとディルとシロちゃんを順番に見る。


「クゥーン・・・」


シロちゃんがミカちゃんの頬を舐める。


「ソニアちゃん、シロちゃんはなんて?」

「自分のせいだ・・・って言ってる」


わたしがシロちゃんの言葉を伝えると、ミカちゃんは優しくシロちゃんの頭を撫でた。


「違うわよ。あのスライムを倒す手段を持ち合わせてなかった未熟なアタシのせいよ」


ミカちゃんは「アタシもまだまだネ」と溜息交じりに言う。


「いや、それを言うなら、俺も何も出来なかった」


ディルが悔しそうな顔で、何故かわたしを見ながら言った。


「わたしも・・・シロちゃんを巻き込んじゃったし、もっと早くにビームを出せてればよかった」


 でも・・・わたしは悪くない。ミカちゃんも、ディルも、もちろんシロちゃんも悪くない。


「悪いのはあの大きなスライムだよ! そもそも、あいつがいなければこんなことになってなかった!」


突然のわたしの大声に、ディルとミカちゃんが目をまん丸にしてわたしを見る。


「と! 言うことで! ここからは・・・」

「そうだな! 皆で反省会だ! あのスライムの倒し方を考えるぞー!」


ディルがバッと立ち上がり、拳を握りしめて、わたしの数倍大きな声で宣言した。


 あの・・・わたし、ここからは楽しいお話をしよう! って言おうとしてたんですけど。


「確かに、スライムが地下通路から出てきたってことは、あそこの中にもまだスライムがいる可能性が高いわよネ。そこを通って南の果てまで行く以上、倒せないと困るわ」


 ミカちゃんが言ってることは正しいけど・・・倒したよね? わたしがビームで。これからもそうすればいいじゃん。


不満そうな顔をしてたのか、ディルがわたしの顔を見て苦笑気味に口を開く。


「今のソニアはいつ寝ちゃうか分かんないだろ? もし、ソニアが寝てる間に遭遇したらどうするんだ?」

「わたしを起こせばいいじゃん」


 そうすれば、またビームでビシッとバシッと倒しちゃうよ。


「声を掛ければ起きるのか?」

「分かんない」


・・・ということで、ディルとミカちゃんがスライムの倒し方について話し合いを始めた。


 ここに居てもわたしに出来ることはないね。魔物のことは魔物と戦う人達に任せておこう。こう見えても、わたしは戦闘要員ではないんだから。


そう自分に言い訳しながら、わたしはこの退屈な話し合いから逃げ出すことにした。でも、勝手に抜け出すとディルに心配をかけるので、ちゃんと報告する。


「ディルさんや」


ちょいちょいとディルの頬を突く。わたしの口調が変わったことに警戒しながら、ディルが目を細めてわたしを見る。


「皆まで言うな・・・どうせ暇だから遊びに行きたいとか言うんだろ?」

「暇だから遊びに行きたい!」

「・・・だから、分かってるから言うなって!」


わたしが「でへへ」と笑って誤魔化すと、渋々といった顔で条件を付けてくる。


「村からは出ないこと、何か危険があったらすぐに戻ってくること、暗くなる前に戻ってくること・・・守れるか?」


 わたしのお母さんか! ・・・とツッコミたくなるけど、わたしには色々と前科があって、散々ディルに心配をかけてきたので文句は言えない・・・というか、それくらい守れる。


「モーマンタイ!」

「・・・分かる言葉で言ってくれ」

「問題ないです!」


ディルから許可を得たので、わたしはディルに部屋の扉を開けて貰って、そこから出ようとすると、ベッドに横たわるミカちゃんに止められた。


「待ってソニアちゃん! シロちゃんも連れて行ってくれない?」

「クゥーン?」


シロちゃんは「どうして?」と不思議そうに首を傾げて、ミカちゃんの傍を離れようとしない。


「シロちゃん・・・元気ないでしょ? 気分転換にソニアちゃんと一緒に遊んできたらどうかしら?」


シロちゃんはミカちゃんが倒れてから起きるまで、ずっと「クゥーンクゥーン」と心配そうに鳴いていた。きっと、今も心の中では泣いているんだと思う。


 ミカちゃんはシロちゃんを元気付けたいんだね! 分かった! わたしに任せて!


「シロちゃん! 行こう!」


わたしがそう言いながらシロちゃんの背中に乗ると、シロちゃんは不安そうにミカちゃんを見る。


「アタシは大丈夫だから、いっておいで」


わたしはシロちゃんと一緒に宿の外に出る。


「どこに行こうか?」

「クゥン」


シロちゃんは「こっち」と言って、わたしを背に乗せたまま羽ばたく。

雪がしんしんと降り続けるなか、シロちゃんは村の上空をグルグルと飛び回る。


 そうだった。シロちゃんは方向音痴だったんだ。


暫く旋回したあと、シロちゃんは村の牧場に降り立った。


「牧場に来たかったの?」

「クゥーン」


 そうみたいだ。


シロちゃんは牧場の家畜が居ない場所を見つけると、そっちに移動して、周囲を確認してから嘴を開いた。


「クゥア~・・・クゥア~・・・」


変な鳴き声を出しながら、延々と嘴を開いたり閉じたりを繰り返す。


「もしかして・・・ブレスを出そうとしてるの?」

「クゥーン! クゥーン!」


 そっか、自分がブレスを出せればスライムを倒せるからって思ってるんだね。よしっ! 分かった! わたしも付き合うよ!


「クゥア~・・・クゥア~・・・」

「くあ~・・・くあ~・・・」


2人でブレスを出す練習をする。


 いや、わたしからは出ないんだけどね。気持ちだよ。一緒に頑張るよって行動で伝えてるんだよ。


暫く、同じことを繰り返していると、牧場の外から子供達の声が聞こえて来た。


「本当だって! この間の妖精とドラゴンが未知の言語で会話してんだよ!」


男の子達数人が牧場の柵を乗り越えて、わたしとシロちゃんのところに走ってくる。


 なになになに!?


男の子達は啞然とするわたしとシロちゃんを囲んで、好奇心に満ちた瞳で見下ろす。


 え・・・なにが始まるの!?


「本当だ、妖精だ・・・」「近くで見るの初めてだ」「スゲー」


男の子達が様々な感想を言い合うなか、他の男の子達よりも一回り背の大きい半袖短パンの男の子がわたしを指差して叫ぶ。


「捕まえろ!」


周りの男の子達が一斉に飛び掛かってくる。


「ええええええ!? やめてええええ!」

「クゥーン!?」


わたしとシロちゃんは慌てて飛び上がり、牧場内を逃げ回る。


「そっちいったぞー!」「挟み撃ちだー!」「妖精はえーーー!」


「捕まえられるもんなら捕まえてみなよ~!」

「クゥーン!」


楽しそうに追いかけてくる男の子達から、シロちゃんと一緒に逃げ続けること体感で数十分・・・

わたしとシロちゃんは、激しく肩を揺らしながら息切れしている男の子達を上から見下ろす。


「どうしてわたしを捕まえようとするの?」


男の子達から「今更かよ」という無言のツッコミを受ける。


 正直言うと、わたしも男の子達と追いかけっこするのが楽しくて・・・聞くのを忘れてた。だって、こうやって自由に飛ぶ周って誰かと遊ぶのって村に居た時以来なんだもん。


「目の前に珍しい生き物がいたら捕まえたくなるのが男だろ?」


半袖短パンの男の子が当然のように言う。周囲の男の子達もコクコクと頷いている。


「じゃあ、珍しい生き物を代表して言うけど、いい迷惑だよ!」

「じゃあ俺も、男を代表して言うけど、そんなの関係無いから!」


 なんなんだこいつ! 雪が降ってるのに半袖短パンだし! もしかしなくても馬鹿なんじゃない!? 見たところディルの1つか2つ下くらいなのに!


「っていうか、妖精さんだって楽しそうだったじゃーん」


ジトーっと見てくる。


「妖精さんじゃなくて、ソニアね。君の名前は?」


 とりあえず誤魔化す。


「俺の名前はフユト・・・ぶぇっくしょん!」


フユトが盛大にくしゃみをした。


 そりゃそうでしょう。そんな寒そうな格好して。


「そんな格好で外を出歩いてるからだよ。早く帰って温まりなさい。ほら、君達も、鼻が真っ赤だよ」


男の子達はお互いの顔を見合ったあと、名残惜しそうにわたしとシロちゃんを見ながら渋々と帰宅していく。・・・フユトを除いて。


「なにしてるの?」


わたしは腰に手を当ててフユトを見る。


「帰ってもまだお父さんいないし・・・」


フユトは寂しそうに俯きながらそう言った。


 ハァ・・・仕方ない。


「じゃあ、一緒に宿まで行こうか? そこで温泉に入って温まったらいいよ」

「え・・・宿の温泉って、あの混浴の?」


フユトが期待に満ちた目でわたしを見る。


 何を期待してるのかは想像つくけど・・・。


「一緒には入らないよ」

「なんで!?」


あからさまに肩を降ろすフユト。


 いや、何もそこまでガッカリしなくても・・・。


「わたしも、皆で一緒に入って、皆で景色を楽しめたらとは思うんだけど、恥ずかしいからね」


わたしの言葉を聞いたフユトが、顎に手を当てて何やら考え始める。


「・・・じゃあ、恥ずかしくなければ一緒に入ってくれる?」


もう一度、期待に満ちた目わたしを見上げて「おねがい」と訴えてくる。


 くっ・・・悔しいけど可愛いと思ってしまう! そんな目で見られたら断れないよぉ。


「・・・恥ずかしくなければ・・・ね?」

「分かった! ちょっと待ってて!」


 フユトはダダダッとどこかに走り去ってしまった。


わたしとシロちゃんは顔を見合い、首を傾げる。


「クゥア~・・・クゥア~・・・」

「くあ~・・・くあ~・・・」


シロちゃんと一緒にブレスの練習を再開していると、フユトが土の魔石を持って戻ってきた。


「これがあれば恥ずかしくない!」


土の魔石を高らかに掲げて、そう言い放った。


 だれか、説明を求む。


わたしが疑わしい目をフユトに向けると、慌てて説明を付け加える。


「これで温泉の真ん中に土の壁を作れば、お互いは見えずに、一緒に景色を楽しめる!」

「なるほど!!」


 一緒に温泉に入ってると言っていいのか分からないけど、いい案かもしれない! それならディルが夜に寂しく温泉に入りにいくこともない!


「採用! さっそく宿に向かおう!」

「おー!」

「クゥーン!」


わたしの号令に、フユトとシロちゃんが元気よく返事する。


 シロちゃん、宿から出る時よりは元気になったね。結局ブレスは出なかったけど、気分転換にはなったみたいだ。


わたし達は宿に戻り、一旦部屋にいるディル達に会いに行く。フユトに扉を開けて貰って、わたしは部屋に入る。


「ただいまー!」

「クゥーン!」

「おじゃましまーす!」


わたし達は元気に手を挙げて部屋に入る。


「お、おかえりソニア。早かったな・・・って誰だよそいつ!?」


ディルがビシッとツッコミを入れる。


「あら、妖父さんの息子さんじゃない」


ミカちゃんがベッドから起き上がりながら言う。


 そうだったんだ・・・似てないね。


シロちゃんがミカちゃんの近くに飛んで、外であったことを話す。


「クゥーンクゥン! クゥン! クゥン!」

「ごめんソニアちゃん。通訳おねがい」


わたしは、外であったことと、これから温泉を改装することを伝えた。


「勝手にそんなことしても大丈夫なのか?」


ディルが心配そうに魔石を見ながら言う。


「出した土は消せるから大丈夫! ・・・というか長くても一日くらいしか持たない」


 そっか。それがあればなんでも作れるじゃん!とか思ってたよ。残念。


「よくそんな魔石を持ってたわネ」

「うん。家の倉庫から持ってきた」


そーっと目を逸らしながら、ばつが悪そうに言う。


 無断で持ち出したんだね。


だいぶ調子が戻ってきたミカちゃんも一緒に、皆で温泉に向かう。


「着替える前に・・・というか、着替えるところも壁で隔てたほうがよさそうネ」

「そこは別に魔石を使わなくても、順番に着替えて入ればいいんじゃない?」

「確かに、そうネ」


とりあえず、服を着たまま更衣室を抜けて土の壁を先に作る。


「ここら辺が真ん中かな?」


フユトがそう言いながら、地面に魔石を付ける。


「よいしょ!」


皆が見守る中、フユトが魔石を発動させた。すると、正面からフユトを見ていたわたしの真下からズドン!と土の槍が生えてきた。


「ひゃっ・・・っぶない!」


慌てて避けた。


 危なかったぁ・・・もう少しで串妖精になるところだった。


わたしの危機一髪を見ていたディルが心臓を押さえて深く深呼吸をしている間に、土の槍が次々と生え連なっていき、あっという間に土の壁が出来た。


「これで皆で入れる!」

「そ、そうだね」

「・・・うん」


わたしとディルが心臓を押さえながら返事をすると、フユトは一瞬不思議そうな顔をしたあと「早く入ろう!」と更衣室に走っていった。じーっと土の槍を見て何か考え込んでいたミカちゃんも、シロちゃんを連れて更衣室に移動した。


「串刺しになるかと思った・・・」

「俺も・・・まだ心臓が鳴り止まない」


ディルと一緒に大きく深呼吸してから、わたし達もフユトのあとを追う。


「じゃあ、アタシ達女性組はあとから着替えるから、先に入っていいわよ」


と、ミカちゃんが言う。フユトが「訳が分からない」という顔で何度もミカちゃんを見ながら更衣室に入っていく。


「ディル達は右側だからね。間違わないでね」

「あいよ。ソニアもな」


温泉の方から「もう着替え終わったぞー!」というディルの声を聞いて、わたしとミカちゃんとシロちゃんも着替えて温泉に入る。


「夜の景色も良かったけど、昼は昼で遠くまで見えて良いわネ~」

「だね~」

「クゥーン!」


わたしはミカちゃんに桶にお湯を入れて貰って、そこに浸かる。


 極楽~・・・


「ディルー! 聞こえるー!?」

「聞こえるぞー!」


わたしが大きな声で壁の向こうに話しかけると、ちゃんと返事が返ってきた。


「いい景色だよね~!」

「そうだな~!」


 やっぱり、こういう絶景って大切な人と共有したいよね! 夜ももう一度ディルを連れて入ろう。


暫く皆で会話して、一段落した頃・・・壁の向こうからコソコソと声を潜めるような会話が聞こえて来た。


「なぁ、兄ちゃん。この壁の向こう・・・見たくない?」

「・・・」

「何赤くなってるんだよ兄ちゃん。見かけによらず初心だな~」


 ちょっと~・・・聞こえてるんですけどー!


と、思いながらも面白そうなのでそのまま聞く。ミカちゃんも耳を澄ませているのが視界の端に見える。


「実はさ、ここに土の魔石があるんだけど、これで台を作れば・・・」

「お、お前! さては最初からそのつもりで!」

「しーっ! 声がデカいよ」


 なるほどね。あの上目遣いの裏ではそんなことを考えていたのか。


「で、どうなのさ。見たいの? 見たくないの?」

「見たい・・・けど、俺は見ないぞ! そういうのは結婚してからだ!」

「だから声がデカいって!」


 どっちも大きいよ・・・。


「もういいよ。俺だけ見ちゃうからな!」

「あっ、待て! やっぱり俺も・・・ちょっ!」


 ズドドド・・・


土の台を作ってる音が聞こえる。わたしは最初からミカちゃんが貸してくれたハンカチで前を隠しているので、堂々とお湯に浸かったまんまだ。


「もう、男の子って・・・しょうがないんだから」


ミカちゃんがそう言って、薄っすらと頬を染めながらザパーンと温泉から立ち上がる。


 え、なにしてるの?


そしてミカちゃんは、体に巻いていたタオルを恥ずかしそうに腰まで下げ、土の壁の前に立って・・・ムキッとポーズを決めた。


 いや、本当に・・・なにしてんの?


わたしからはミカちゃんの見事な広背筋しか見えないけど、フユトが土の壁の上から顔を覗かして、見てしまったのだろう。「うっあぁ!」というフユトの悲鳴に近い叫び声のあと、ドシャッドサッと土の台が崩れる音と尻餅を着く音が聞こえた。


 良かったじゃん。それが見たかったんでしょ?


土の壁の向こうからはディルの焦った声が聞こえる。


「お、おい! 見たのか!? 見ちゃったのか!?」

「み・・・見れなかったけど、見えた・・・凄かった・・・」

「は!? 何が!? 何が凄かったんだよ!おい!おーい!返事しろおおおお!」


ディルの哀れな叫び声を後ろに、わたしは「先に上がってるねー!」と言って更衣室に向かった。

読んでくださりありがとうございます。見事な広背筋が見れて、ソニアもご満悦です。

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