135.おねむなソニアと不思議な記憶
村長は言う。
「地下通路の入口は沈んでしまいました」
わたしは返す。
「なんてこった」
・・・と。
「困ったなぁ・・・どうやって南の果てまで行けばいいんだ」
ディルが腕を組んで頭を傾ける。
本当にねぇ・・・
「なんとかならないの? 妖父さーん」
「おねがーい」とダメもとで妖父さんに頼み込んでみる。
「お任せください!」
お?
妖父さんは胸を張って言った。
「村の者達を総動員して、地下通路の入口を表面に出して見せましょう!」
「え、本当に? 出来るの?」
「人数がいれば、それだけ意見も出るでしょう。きっといい案が出ます。いえ、出させます!」
・・・というわけで、村に戻った妖父さんが大人達を招集して、急遽教会の礼拝室で会議が行われることになった。
「村の恩人達のためです。なんとかしてあげよう!」
意外にも・・・いや、当然というべきか・・・村の人達は乗り気だった。
「別の場所から掘って地下通路に繋げるのはどうだろうか?」
「いや、通路の外壁は硬い素材で出来ていますし、万が一繋げられたとしても、そこからひび割れが広がってしまっては大変です」
「では・・・」
次々と出てくる案を妖父さんは色々と理由を付けて却下していく。
「陸地から入口の上まで土を積んで硬め、中央だけを掘れば、海水を阻む外壁が出来て、そこまでの道が出来るんじゃないでしょうか?」
長いこと考えていたっぽいシスターさんが手を挙げて発言する。
「それだと、行きは大丈夫かもしれませんが、そのあと崩れてしまったら帰ってこれなくなってしまいます」
妖父さんが首を横に振る。
もう・・・何時間こうしてるんだろう。ディルは早々に飽きてミカちゃんと魔物退治に出掛けちゃったし・・・このままじゃ終わらない気がする。
それに、眠くなってきた。多少強引でも、終わらせよう。
「わたし、シスターさんの案に賛成!賛成!賛成!」
元気に手を挙げて、大きな声で賛成を連呼する。
「その案で行きましょう!」
妖父さんが賛成したので、この案で決まった。そして、どうやって土を運ぶのか、誰が何をするのか、詳細を決める会議が始まった。
悪いけどわたしはもう限界だよ・・・眠い~。
「シロちゃーん」
「クゥーン?」
礼拝室の目立つところにあるテーブルの上で寛いでいたシロちゃんを呼ぶ。
シスターさんの横で浮いていたわたしの近くに、シロちゃんが飛んで来てくれた。わたしはシロちゃんの背に乗って眠る態勢に入る。
「あら、妖精さん。おねむですか?」
シスターさんがわたしの頭を指で撫でながら頭を傾ける。
おねむて・・・いや、別にいいんだけど、もっと言い方無かったかなぁ。
「ふわぁ~~~~ぁ・・・うん、眠いから寝るね」
大きい欠伸をして、わたしはシロちゃんの背中の上で眠りに付いた。
・・・。
まただ・・・また不思議な記憶を見ている。
『ソニア!やっと見つけたで!』
前回と同じような暗闇で、前回も見た黒髪の女の子がわたしに抱き着く。わたしは女の子の頭をよしよしと撫でながら口を開いた。
『どうしたの? その喋り方』
『私もソニアみたいに言葉を考えてみたかったんやけど、難しいから、せめてちょっとアレンジを加えてみたんや』
『なんか似合わないからやめて?』
そっと黒髪の女の子を引き剝がす。
『ソニアがそう言うならやめる』
そう言いながら、黒髪の女の子はわたしの手を握った。
『ソニアったら、少し目を離したらすぐにどこかに飛んで行ってしまうんだから・・・こうしていれば大丈夫だよね』
わたしは握られた手と女の子を交互に見る。
『最初からこうしておけば何百回も逸れることはなかったね! ん? 何千回だっけ?』
『これから逸れなければどちらでもいいよ』
わたしの顔を覗き込んでニッコリと微笑む女の子。
『うん! じゃあ行こうか!』
女の子の手を引っ張って、光の速さで進んでるんじゃないかと思うほどのスピードで、暗闇の中を飛んで行く。
『相変わらず何もないね~・・・ちっちゃい塊はたくさん浮いてるんだけど、それだけだね』
『私はソニアが居てくれれば他に何もいらないよ』
女の子はわたしの手を一層強く握り、はにかむ。
『じゃあ、2人でずっと一緒にいられる場所を作らない?』
わたしがそう提案すると、女の子はわたしの手を握った手をバンザイして、弾ける様な笑みを浮かべた。
『どうやって作ろうかな~・・・』
ツンッとちっちゃな塊を指で弾く。すると、塊と塊がぶつかって互いに反対方向に飛んで行く。
『うーん・・・何かが足りないのかなぁ?」
腕を組んで悩むわたしの横で、頭の上にクエスチョンマークを浮かべた女の子がニコニコと笑っている。わたしは女の子と繋いでいる手を凝視する。
『どしたのソニア?』
そして、ギュッと女の子を抱きしめる。
『えっえっ! どうしたのソニア!?』
『うん。こんな感じ!』
赤面する女の子をそっと離して、わたしは近くで浮いていた塊を『えいっ』と思いっきり叩く。
さっき指で弾いた塊と違って、今度は茶色に発光しながら飛んで行き、別の塊に衝突して・・・合体。そうして周囲の塊よりも大きな塊が出来た。
『よしっ!』
『わぁ! ソニア凄い! くっついた!』
『フフッ、まだまだこれからだよ!』
わたしは大きくなった塊から少し距離をとって周囲を見渡す。真似て女の子も周囲を見渡す。
周囲にたくさん漂っていたちっちゃい塊が、大きな塊を中心にグルグルと回りながら合体していき、やがて、最初のちっちゃい塊とは比較にならない程の巨大な塊が出来た。
『何これ! 大きい! ここで私とソニアが一緒なの!?』
『うーん・・・何か満足いかないんだよねぇ~』
『そうなの?』
喜ぶ女の子と、どこか不満げなわたし。そんな二人の目の前に、眩しく輝く茶色の光が現れた。前の記憶で見た青と赤と白の光に似ている。
『ソニア・・・なにこれ?』
『え、分かんない』
記憶の中のわたしも分からないらしい。女の子が不安そうにわたしに寄り添う。
茶色の光は、ピカーっと発光したあと、人の形になった。わたしはこの人・・・妖精を知っている。
『・・・?』
光の元から現れた戸惑った様子の女の子。褐色の肌に茶色の羽に茶髪、そして特徴的なアホ毛・・・紛れもなく土の妖精だった。
「愛してるうううううう!!」
「ふわぁ!?」
ミカちゃんの大声で飛び起きた。
なにごと!? 周囲確認! 周囲確認!
・・・周囲を見渡す。空は明るい、太陽が真上にある。
夕方に寝たハズなんだけど・・・日を跨ぐほど長く寝てたのか。
そして、シロちゃんの背中の上で寝ていたみたいだ。シロちゃんは空高くを飛んでいる。
わたし、どんなところで寝てるの!?
真下には松林が広がっていて、そこでディルとミカちゃんが魔物達と戦っている。そのディルの後ろ側では、村人達がせっせと地面を掘って、土を海に放り投げている。
なんとなく状況は分かった・・・気がする。わたしが眠る前に話してた、海底トンネルの入口付近を土で埋めるやつを村人たちがやっていて、ディルとミカちゃんが護衛・・・って感じかな?
「シロちゃんおはよう!」
「クゥーン!」
暫くディル達の様子を見てたけど・・・飽きた。
「わたしも手伝おうかな」
「クゥーン?」
「ディル達のほうだよ! シロちゃんはこのまま待っててね!」
シロちゃんの背中から飛び降りて、ディル達がいる松林の方へ向かう。
そういえば、さっき見た記憶って・・・土の妖精だったよね。作ってた巨大な塊は惑星・・・にしては少し小さかった・・・考えても分からないや。放って置こう。
「ディル~!!」
狼の魔物と戦っているディルに手を振る。
「お! ソニア! 起きたのか! 愛してるぜえええええ!」
「へ!?」
魔物を蹴り飛ばすディルに愛の告白を受けた!
「あっいや! 違くて! ミカさんがこう言えばいつも以上に力が出るからって!」
あっ・・・そういうこと! びっくりしたぁ・・・でも少し残念・・・?
「わたしも魔物退治手伝うよ!」
「体調・・・というか、眠気は大丈夫なのか? だいぶ長く寝てたみたいだけど」
「うん! 今はスッキリ!」
変な記憶は見たけど、今は驚くほどスッキリしてるよ!
「じゃあソニアちゃんも一緒に叫びましょうか!」
え・・・?
「愛してるうううううう!」
「愛してるぜえええええ!」
「大好きいいいいいいい!」
三人で愛を叫びながら魔物と戦うこと数時間・・・羞恥心が薄れてきた頃、作業をしていた村人が遠くから声をかけてきた。
「皆さん! 今日の作業はここまでです!」
やっと終わったぁ・・・
村人達を護衛しながら村に戻る。わたし達は宿に戻って夕飯が出来るのを待つ。
「人が多いからか、やけに魔物が集まってきたなぁ・・・これが数日続くのかぁ」
ディルが「ハァ」と溜息を吐いてベッドに沈む。
「あら? この程度で弱音を吐くなんて、まだまだネ」
「ミカさんが異常なんだよ。あんなデッカイハンマーを振り回し続けて平然としてるなんて・・・」
あれ? ディルは見てなかったのかな? ミカちゃんはハンマーだけじゃなくて、たまに腰に下げてる片手剣も使っていた。魔物によって使い分けてる感じだったね。
「うーん・・・そうネ。丁度いい機会だし、ディルちゃんに修行をつけてあげましょう!」
「え、今から!?」
「そんなわけないでしょう。明日からよ。今日はゆっくり疲れを取りましょう」
・・・コンコン
夕飯が運ばれてきた。
「わぁ! 鍋だ! きりたんぽ鍋だぁ!」
まさか、この世界できりたんぽが食べれるなんて! 懐かしいなぁ・・・人間だった頃に社員旅行の時に食べたっけ。意外とお腹にたまるんだよね。
わたしは鍋の淵に捕まって、ディルを見上げる。
早くわたし用に取り分けてよ!
「はいはい、ソニアの分な」
ディルが取り分けてくれたきりたんぽをパクっと頬張る。
「うまうま~! もっちもち~!」
「クゥーン!」
シロちゃんも一緒になって食べる。
おいしいね!
バクバクと大きな口で、次々と食べ進めるディルとミカちゃん。わたしとシロちゃんが小さなお皿に取り分けられたきりたんぽを食べてる間に、お鍋は空になった。
「ディルちゃん、とりあえず明日は戦わないでアタシの動きを見ててちょうだい?」
「え、戦わないで?」
食器とかをまとめながら、ディルとミカちゃんが明日のことを話し合う。
「ディルちゃんはきっと凄く強いと思うのよ・・・きっとアタシよりも。ただ、魔物との戦い方が分かってないように見えるわ」
「・・・確かに、今まで魔物と戦ったことはあったけど、ほとんどが弱かったりソニアや他の人達と一緒に戦ってたからな。人と戦う方が慣れてるかもしれない。師匠とたくさん戦ったし」
「ブルーメでも準優勝だったしね!」
「ね?」とディルに同意を求めたけど、ディルは同意してくれない。「今なら・・・いや、まだか」と首を横に振るだけだ。
「とにかく! 明日はアタシが魔物との戦い方を教えるから、ディルちゃんは見ててネ!」
ミカちゃんはビシッとディルに指を差す。
「でも、ミカさん1人で大丈夫なのか? 今日と同じ感じだったら厳しくないか?」
「・・・そうネェ」
ミカちゃんがチラッとわたしを見る。
「いいよ! 明日は最初からわたしが手伝ってあげる! ディルの成長の為だもん!」
「フフッ、ディルちゃんのことが大好きなのネ。ありがとう。でももし、ソニアちゃんが眠っちゃったら、その時は今日と同じようにディルちゃんにも戦ってもらうわ」
そうだね。いつ眠気が来るのか分からないもん。
「クゥーン!」
「シロちゃんはお空で見守っててネ」
その言い方だと死んでるみたいだよ・・・。
宿で働く仲居さんが、わたしをチラチラと見ながら食器を回収していったあと、わたしはミカちゃんとシロちゃんと一緒に露天風呂へと向かった。
どうにかして、ディルも一緒に入れる方法ないかなぁ・・・?
読んでくださりありがとうございます。人間だった頃、海底トンネルを通って秋田まで旅行に行きました。