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134.モー! トンネルの入口

「がぼぼぼぼぼ・・・ぷはーー!」


 まさか、温泉のあとに牛乳が飲めるなんて!


「ソニアちゃん・・・ずいぶんと豪快な飲み方するのネ」


牛乳瓶に顔を突っ込んで飲んでたせいで、顔が汚れた。


「ほら、じっとしてて」

「ん」


ミカちゃんが優しく顔を拭いてくれる。残りの牛乳をミカちゃんが一気に飲み干してから、わたし達は部屋に戻った。

そして、入れ替わりでディルがシロちゃんと一緒に温泉に向かっていった。シロちゃんは本日三度目の温泉だ。何故かディルが部屋を出る時にやたらとわたしをチラチラと見ていた。


「ソニアちゃん、おいで。髪を乾かしてあげるわ」


ベッドに座ったミカちゃんが手招く。髪が濡れてるせいでやけに色っぽく見える。言われるままミカちゃんの膝の上に座ると、空の魔石を使って髪を乾かしてくれた。


「ミカちゃん、空の適性があるんだね」

「ええ、アタシは空と土の適性を持ってるのよ。ディルちゃんは闇と雷?の適性を持ってるんでしょ? 凄いわよね~、闇の適性持ちで他の属性も持ってて、それがしかも、今は誰も扱えない古代の属性だなんて」


 ディルだけじゃなくて、マリちゃんも雷の適性あるんだけどね。


「ソニアちゃんはその雷の妖精さんなんでしょ? ・・・アタシ、もしかしてとんでもない大物と一緒にいるのかしら」

「やめてよ。わたしは妖父さんみたいな態度とられるの嫌なんだからね」

「フフフッ、分かってるわよ。ソニアちゃんが何者でもアタシはブレないわ」

「うん! そうしてよ!」


 やっぱり、友達感覚が一番楽だよね!


髪を乾かして、ベッドの上でぐうたらしてたら、ディルが戻ってきた。


「星空が綺麗だったー・・・」

「クゥン!」


シロちゃんを片腕で抱えたディルがベッドにボフンと勢いよく座る。そして、またわたしのことをチラチラと見てくる。


「どうしたの? ディル」

「え!? いや、別になんでもないけど・・・」


うっすらと頬を染めたディルが、プイッと視線を逸らす。


「フフフッ、ディルちゃんは温泉上がりで髪を下ろしたソニアちゃんにうっとりしちゃってるのよ。同性のアタシでも見入っちゃうほど色っぽいもの」

「ちょっ! ミカさん! ・・・っていうか同性って・・・」


ディルがさらに顔を赤くして、ミカちゃんに向かって叫ぶ。


「色っぽい? わたしが? まさか、こんなちっちゃいわたしが色っぽいわけないよ・・・」


「そんなわけないでしょ」と笑い飛ばす。笑い飛ばしながら試しに「ね?」とふざけて投げキッスしてみる。


 こんなちっちゃいわたしに投げキッスされたところでねぇ・・・


「・・・っ」


ディルは顔を真っ赤にして、口を手で抑えながら震える。


「え・・・ディル?」

「ディルちゃんにはちょっと刺激が強すぎたみたいね。からかうのはそれくらいにしてあげて、ソニアちゃん」

「あ、うん」


 投げキッスって、男の子にとってそんなになることなの? もしかして、この世界ではだいぶ破廉恥なことだったり? わたし、やっちゃった?


放心するディルを放置して、わたしはこの世界の貞操観念について考えながら寝袋に潜る。


どちらにしろ、こういうことを気軽にやるのはよそう。


翌日、起きたらもう明るい時間だった。


「クゥン」


シロちゃんに顔を舐められた。


「うわぁ・・・」


ベトベトになった顔を布団で拭きながら、部屋の中を見渡してみる。


「シロちゃんしかいないんだ。ディルとミカちゃんはどこにいったの?」

「クゥンクゥーン」


 2人で出掛けたのか。


南側の窓際に移動して外を見ると、太陽が見えた。


 ちょうどお昼ってとこかな?


「ん? シロちゃんどうしたの?」


シロちゃんが急に飛び立ち、足を器用に使ってバンッと窓を開け放った。


「クゥン!」


そして、振り返ってキメ顔でわたしを見る。


「背中に乗れって? ディル達のところに連れてってくれるの?」

「クゥン!」


 そういうことらしい。


「じゃあ遠慮なく・・・よいしょっ」


背中に乗ると、シロちゃんは翼を大きく広げて窓から海に向かって飛び立った。


「おおおお!」


 わたしは普段から自分で飛んでるけど、こうやって背中に乗って飛ぶのも新鮮でイイ!


「クゥン!」

「シロちゃん、どこに向かってるの? そっちは海だよ?」

「クゥ~ン・・・」


シロちゃんは情けない鳴き声を出して、進行方向をぐるっと変える。


「う~~~ん! イイね! なんか・・・こう・・・翼で羽ばたいてる感じが、飛んでるって感じで!」

「クゥン!」


 なんかすんごい頭の悪いこと言ってる気がするけど、気にしない。だってここにはわたしとシロちゃんしかいないから!


わたしを背に乗せたシロちゃんは、気持ち良さそうに村の上空を飛ぶ。


「雪が積もってる・・・昨日の夜に降ったのかなぁ?」


 昨日、温泉に入った時は降ってなかったし、あれから朝にかけて降ったのかもしれない。


「思ったよりも大きな村だったんだね~・・・あっ、牧場がある!」

「クゥン!」


元気に鳴いたシロちゃんは、気持ち良さそうに村の上空を通り過ぎる。


「シロちゃんシロちゃん。そっちは村の外だよ。どこに向かってるの?」

「クゥーン・・・」


シロちゃんはまた情けない鳴き声を出して、大きく旋回して村に戻る。


「シロちゃん・・・もしかして、方今音痴?」

「・・・・・・」


無視だ。


「あっ、シロちゃん! あそこ! 教会だよ! あそこにディル達いるんじゃない?」」

「クゥン」


 まぁ、いなくても、どこにいるか聞くくらいは出来るよね。


村の中央にある大きな教会・・・の大きな扉の前にシロちゃんは降り立った。


「ごめんくださーい!」

「クゥンクゥーン!」


2人で大きな声を出すと、扉の向こう側で、タッタッタッと誰かが近づいてくる足音が聞こえた。


「今開けますね~!」


バン!


「あぶなっ」


扉が勢いよく外側に開かれた。シロちゃんが瞬時に後ろに飛んでくれたおかげで助かった。


「あれ?・・・誰もいないです」


扉を開けたシスターさんが周囲を見渡して首を傾げる。


「ここだよ! ここ! 足元見て!」


足元から声を掛ける。


「わぁ! 妖精さんに小さなドラゴンさん・・・フフッ、背中に乗っちゃってっ、可愛いですね」


屈んだシスターさんに頬をツンツンされる。


「んにゅう・・・ディル達見なかった?」


 喋りづらぁ・・・


「あー、あの人達なら少し前に来ましたよ。妖父様をお探しになっていて、牧場に居るとお伝えしたら後を追いかけていきました」

「そうなんだ。ありがとう! シロちゃん、牧場に行ってみよう!」

「クゥン!」


シスターさんに手を振ってお別れして、再び上空に戻る。


「シロちゃん、牧場はそっちじゃないよ。あっち」

「クゥーン・・・」


 シロちゃんは方今音痴・・・覚えとこっ。


牧場では、何十頭もの牛さんがモソモソと歩いている。ディル達の姿は見当たらない。とりあえず、その場に居る牛さんに聞いてみる。


「ねぇ、ディル達知らない? モーーー!」

「ムォオオオオオ」


 ・・・さっぱりだ、全く分からん。シロちゃんの言葉はなんとなく分かるのに・・・それにしても、魔物に村が襲われてた中よく無事だったね。


「「ムォオオオオオ」」


周囲の牛さんが一斉に鳴きだした。


「え、なになに!? どしたの!?」


そして、一斉に畜舎に入っていく。わたしとシロちゃんも牛さんの上に乗ってついて行く。


「自分から帰っていくんだ~。頭イイね~!」


よしよしと頭を撫でていると、畜舎の方から話し声が聞こえて来た。


「だから、ダメだと言ってるじゃないですか。あなた達がお強いのは先日魔物達を退けたことからもお察し出来ます。それに、村を救ってくれたご恩もあります」

「じゃあ・・・」

「だからこそです。ご恩ある方を危険な場所に案内するわけにはいきません」

「もう・・・頑固ネェ」


妖父さんとディルとミカちゃんが畜舎の中で話してるみたいだ。


「モーー! 何話してるのー?」


牛さんに乗りながら手を振る。


「妖精様!」


妖父さんがグイッと近付いてくるけど、あえて無視する。


「あ、ソニア。置手紙を見て来たのか?」

「え? なにそれ?」

「部屋に手紙が置いてあったろ? 教会に行ってくるって。それで、教会で俺達がここにいるって聞いて来たんじゃないのか?」


 置手紙なんてあったっけ? あったのかもしれない。でも、読んでないし、こうしてディル達と合流出来たんだからどっちでもいいや。


「うん、そんな感じ。それで、ディル達は何を話してたの?」

「昨日話した南の果てに行く地下通路への入口を教えてくれってお願いしにきたんだ」

「でも、妖父さんが教えてくれないのよネ~。アタシ達を心配してくれてるのはありがたいんだけどネ」


 あ~、そういえば昨日話してたね。海底トンネルだ。


「そうなんです。妖精様からも何かおっしゃってあげてください。あの道は魔物がたくさん出て危険ですし。そもそも、そんな簡単に入れるところじゃないんです」


妖父さんは口をへの字にしてディル達を見る。


 うーん・・・頑固そうだ。説得は難しいかもしれない。でも、一応・・・


「わたしからもお願い! そこをなんとか!」

「分かりました。すぐに入口まで案内致します」


 そんなあっさりと・・・こわっ。


「最初からソニアにお願いして貰えばよかったな」

「そうネ。ソニアちゃんが絡まなければまともな人だったから、妖父さんがこういう人なのすっかり忘れてたわ」


 それ、わたし視点だと常にまともじゃない人なんだよね。


「これから搾乳の時間なのですが・・・そんなことよりも妖精様のお願いの方が優先度が高いでしょう。案内します」

「いや、いいから! 搾乳が終わってからでいいから! わたし達待ってるよ! ね? シロちゃん!」

「クゥーン!」


 「オッケー!」って言ってる。


「ですが・・・」

「お願い!」

「分かりました」


牧場でシロちゃんと追いかけっこすること一時間弱。妖父さんが畜舎から出てきた。


「お寒い中お待たせしました。ここから少し歩きますので、良ければこれをどうぞ」


妖父さんがディルとミカちゃんに湯気が立つマグカップを2つずつ渡す。わたしとシロちゃんの分もあるみたいだ。


「ホットミルクです。殺菌済みなので安心してお飲みください」


 わぉ! 気が利くー! わたし寒さは平気なんだけど、ありがたく貰おう!


「おおぉ、あったけぇ・・・」

「温まるわぁ・・・」


ディルとミカちゃんがほぅと白い息を吐く。


「わたしにも飲ませてー」

「クゥーン」


ディルが持ってるもう片方のマグカップをわたしに近付けてくれる。わたしはディルの手首に乗ってマグカップに顔面を突っ込む。


「がぼぼぼぼぼ」

「もっと綺麗な飲み方ないのかよ・・・」


 あったかい牛乳もいいね~・・・それに、搾りたてだからなのか、凄くクリーミー! うまうま~!


「ほら、シロちゃんもどうぞ」


ミカちゃんがシロちゃんにマグカップを差し出す。シロちゃんはわたしを真似てホットミルクを飲み始める。


「ぐぼぼぼぼぼ」

「もっと器用に飲めないのかしら?」

「クゥーン!」


 「おいちー!」って言ってるね。


皆でホットミルクを飲みながら妖父さんの後ろを歩くこと数分・・・

案内されたのは、村の少し東にある松林を抜けた先、雪の積もった海岸だった。松林の中で何度か魔物に襲われたけど、ディルとミカちゃんが危なげなく退けた。


「んで、どこに海底トンネルの入口があるの?」


 前は海しかないし、後ろは魔物を警戒するディルとミカちゃんと林しかないよ。


「地下通路の入口ですね。この下にあります」


妖父さんは海の下を指差す。


「いや、海底トンネルの場所を聞いてるんじゃなくて、入口の場所を聞いてるんだよ?」

「地下通路の入口が、ここ・・・海の下にあるんです」


 はい?


「ここ近年で海面が上昇していまして、今年ついに地下通路の入口が海に沈んでしまいました」

「海底トンネルの入口が・・・なんてこった」

「そうなんです。地下通路の入口が」


 譲らないなぁ・・・海底トンネルでもいいじゃん。


「どうしたんだソニア?」


後ろの林を警戒していたディルが話しかけてきた。


「海峡トンネルの入口はどこにあるんだ?」

「地下通路です」

「海底トンネルだよ」


 ・・・とか言ってる場合じゃないよ! ほんと・・・どうしよ。

読んでくださりありがとうございます。たまに水が飲むのが下手な猫っていますよね。そんな感じです。

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