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132.ミカちゃんとシロちゃん

肩に白いちっちゃい白いドラゴンを乗せて、片手に大きなハンマーを持った、変わった口調の、褐色イケメン。


どこから聞こうかと迷っていると、男性の方がニコニコと爽やかな笑みを浮かべながらこちらに近付いて来た。


「あら? よく見たらあなた達・・・ディルちゃんに、妖精のソニアちゃん?」

「ディル・・・ちゃん?」

「わたし達のこと知ってるの?」


 ディルはちゃん付けで呼ばれたことに驚いてるみたいだけど、そこじゃないから・・・こんな個性的な人、わたしは会ったことないよ。


「ええ、もちろん。なんたって・・・」

「妖精様ではありませんか!!」


わたしと褐色イケメンの間に、灰色の髪をオールバックにした教会の神父さんが割って入ってきた。褐色イケメンもディルも目を丸くしている。


 うわぁ・・・嫌な予感。


「その幻想的で美しい羽! ぴょこぴょこと動く可愛らしくも凛々しい尖った耳! 人間離れした愛らしい容姿! まさに妖精様です!!」


 もはや嬉しいよりも気持ち悪い方が勝つよ・・・っていうか、わたしの耳ってぴょこぴょこ動いてるの?


自分の耳を触って確かめてみる。


 ・・・今は動いてないっぽいけど。


「ぷっ・・・はははは!」


ディルがわたしを見て吹き出した。


「ちょっと! 何が面白い・・・」

「そこの少年! 妖精様を笑うなど罰当たりにも程があるぞ!」

「はははははっ!」


神父さんが注意するも、気にせず笑うディル。


 本当に・・・何が面白いんだか。


「少年! いい加減にしないか!」

「いやっ・・・だって・・・ははっ・・・」

「このっ・・・」

「はーい! 二人ともそこまでよ!」


褐色イケメンがパチッと指を鳴らす。


「とりあえず、外は寒いんだし、屋内に移動しましょ? 皆寒いでしょう?」

「だなっ! それに、ちょっと休憩したい」

「ふむ・・・そうですね。妖精様にこんなところに長居させてしまってはいけませんね。教会内へどうぞ」


神父さんが村の皆を解散させて、わたしとディルと褐色イケメンと白いドラゴンを教会内へ招く。

こっそりとディルに「わたしの耳って動いてるの?」って聞いたら「今まさにぴょこぴょこしてるぞ」とボソッと言われた。どうやら、聞き耳を立ててる時にたまに動いてるみたいだ。


「どうぞ、こちらへ」


神父さんに案内されるまま、教会の奥の部屋に進む。そこそこ広い部屋で、テーブルと椅子と背の高い本棚、それから暖炉がある。


「ここなら温まるでしょう。ささっ、妖精様は暖炉に一番近い席へどうぞ!」


神父様が暖炉に背を向けた椅子に、テーブルの位置までクッションを積み重ねる。お陰で他の椅子からクッションが無くなった。


 妖精は寒さとか感じないし、別に浮いたまんまでも良かったんだけど・・・まぁいいや、座っちゃお。


「まずは、この村を魔物の群れから救っていただきありがとうございます。私はこの村の教会の妖父のホットと申します」


わたしの横に立った神父さんこと妖父さんが、わたしを見ながら自己紹介する。


 この世界では神父じゃないんだ。妖父って言うんだね。自己紹介の前に呼ばなくてよかった。


「じゃあ、次は俺から・・・」


ディルが自己紹介しようと、椅子から立ち上がる。


「それで妖精様! この村にはどのようなご用件で?」


立ち上がったディルを無視して、ホットはわたしに話し掛ける。褐色イケメンが「ハァ・・・」と溜息を吐き、ディルが諦めたような顔で椅子に腰を下ろした。


 この人は邪魔だね。


「ホット。ちょっとこっち寄って」

「はい、なんでしょう?」


ホットが屈んでわたしに顔を近付ける。


バチン!


わたしは軽い電撃をホットに浴びせて気絶させる。床に倒れたホットを見下ろして「ふぅ・・・」と息を吐いた。


「はいディル! 自己紹介どーぞ!」

「え・・・、いいのかソレ?」


ディルが床にうつ伏せになったホットを指差す。


「いいんだよ! 前に冒険者ギルドに登録しに行った時に、似たような人がいたでしょ? その人も同じギルドの人にこんな感じの扱い受けてたし!」

「確かに・・・」

「フフフッ・・・やるわねソニアちゃん」


ディルが納得して、褐色イケメンが無駄にセクシーに微笑んだところで、自己紹介の再開だ。


「俺はディル。この間14歳になったばっかりで、今は行方知れずのお父さんとお母さんを探してる旅の最中だ」


ディルがそう言うと、褐色イケメンが涙を流しながら「頑張って!」と拳を握る。


 他人に共感しやすいタイプの人かな? でも、悪い人ではなさそう。


涙を拭う褐色イケメンがわたしを見るので、わたしはお先にどうぞと目配せする。


「アタシの名前はミカモーレ。ミカって呼んでネ! 今はこの子を両親の元に送ってる最中なの」


ミカモーレと名乗った人物は、肩に乗っている白いドラゴンの頭を撫でる。


「クゥン!」


目を細めて気持ち良さそうにしている。


 ・・・か、かわいい。


「あ、この子はシロちゃん。好物は人肉よ」

「「えぇ!?」」

「冗談よ」


フフフと笑うミカモーレ。シロちゃんがバシバシと翼で頭を叩いている。


 一瞬、丸吞みにされるわたしを想像しちゃったよ・・・あっ、でも、わたし人間じゃないから人肉では無いか。


「クゥンクゥン!」


シロちゃんはテーブルの上に降りて、元気に鳴いた。


 「ヨロシクネ」って言ってるのかな?


「わたしは雷の妖精のソニアだよ。よろしくね! シロちゃんにミカちゃん!」


言いながら、パチッとウィンクする。ディルが素っ頓狂な声で「ミカちゃん!?」と驚いてるけど、何かおかしいかな?


コンコン・・・


部屋の扉からノックが聞こえ、教会のシスターさんがお茶を持って入ってきた。


「失礼します。お茶をお持ちしまし・・・妖父様が床に接吻をなさってます!!」


 ・・・面白いツッコミだね。


「・・・なるほど、そういうことでしたか。いえ、以前から妖精のことになると視野が狭くなるお方だったんです。妖精様の機嫌を損なうくらいなら、床に転がしておいた方がいいでしょう」


わたしが事情を説明したら、あっさりと受け入れられた。シスターさんは「用があれば遠慮なく呼んでください」と言って、ホットを引きずりながら出ていった。


「なぁ、聞きたいんだけど。ミカさんの口調って・・・」


ディルが言い辛そうにミカちゃんに尋ねる。


「ディルちゃんはアタシみたいな人と会うのは初めて?」

「え・・・? うん、たぶん」


ミカちゃんが「そうねぇ」と少し考えたあと、口を開く。


「ディルちゃんは男の子と女の子だったらどっちと結婚したい?」

「え・・・?」


ディルがわたしのことをチラッと見た。


「そりゃあ・・・女の子だけど」

「そうよね。じゃあ、もしディルちゃんが女の子として生まれてたら? 男の子と結婚する自分を想像できる? したい?」


ディルは難しい顔で黙ったあと、凄く嫌そうな顔になった。


「したくない・・・俺が女になっても男とは結婚したくない。できるなら女の子と結婚したい」

「そういうことよ。アタシは心は女・・・いえ、乙女なの。ただそれだけのことよ」

「なるほど・・・なんとなく分かった!」


 うんうん。柔軟な性格!


「あっ・・・違う。俺が聞きたかったのはこれじゃないや」


ブンブンと頭を振るディル。


「ミカさん。俺達が名乗る前から俺とソニアの名前知ってたよな? なんでだ?」


 あ~・・・確かに! お互い初めましてなハズなのに。


「ブルーメの大会で見たからよ。あの時、アタシもブルーメにいたの」


ミカちゃんは、自分の身の上とここにいる事情を話してくれる。



「まさか、こんな所でオードム王国の騎士団長様に会うとはな~」


そう、ミカちゃんは騎士団長で、ついでに貴族だった。ブルーメに居たのは、大会の間に演奏をしていたオードム王国の騎士団に同行していた・・・というか一緒に演奏していたらしい。


あの料理大会中に隅で演奏してた人達の中に、こんな個性的な人がいたなんて・・・。


「そういえば、ブルーメにいたあなた達がここにいるってことは、オードム王国を通って来たのよね? 戦争はどうなってるの? 土の海を渡れないから、戻るに戻れずにいたんだけど・・・」


オードム王国であったことを、わたしとディルで簡単に説明する。


「よかったわぁ・・・中途半端な情報だけ陛下に送ったあと、すぐに捕まっちゃったから。ずっと心配だったのよ。でも、だからって何もせずにいるのも辛いし、目の前に困っている子がいるのを放って置けないから、こうしてシロちゃんを連れてここまで来てるんだけど・・・ディルちゃん、ソニアちゃん、ありがとネ、アタシの故郷を救ってくれて」


ミカちゃんは、オードム王国に戻って早々にセイピア王国への潜入調査を命じられ、その最中に闇市場に捕まって、土の海の向こうの国まで売り飛ばされたんだと。そう言う。


「あんな・・・魔物をハンマーで吹っ飛ばすくらい強いのに捕まったのか?」

「そうよ。魔物相手ならともかく、対人戦は苦手なのよ」


 それでよく騎士団長になれたね・・・コネかな? そんなわけないか。


見知らぬ国に売り飛ばされたミカちゃんは、隙を見て逃げ出すことに成功した。しかも、一緒に売られてきた人達を引き連れて。


「そこでシロちゃんと出会ったのよ。質の悪い金持ちに飼われていてね。乱暴されているのが可哀そうだったから連れてきちゃった」

「クゥンクゥン!」


シロちゃんはミカちゃんの頬に頬ずりして、嬉しそうに鳴いている。


「一緒に逃げてきた子達は、冒険者ギルドの支部を通して元居た場所に帰れることになったんだけど、この子だけはそうはいかないのよね」

「一応、魔物だからな。下手したら討伐される」


ディルが真面目な顔でシロちゃんを見る。


「そうね。だから、アタシが親元に帰してあげてるの」

「でも、親元に帰すって言ったって、どこにその親がいるのか分かるのか?」


 ディルの両親はどこにいるか分かんないもんね。一応、目撃情報を頼りに火の地方に向かって南下してるわけだけど。


「この子の種族は、スノウドラゴンって言うのよ」

「へぇ~、初めて聞いた」

「白くて少しヒンヤリした鱗が特徴で、生息地は雪が積もる場所なの」


クッションの上から飛んで、テーブルの上で楽しそうに揺れているシロちゃんに抱き着いてみる。


 あ、本当だ。ヒンヤリしてて気持ちいい・・・寝ちゃいそう。


「フフッ・・・この辺りで年中雪が積もってる場所は、南の果てしかないのよ。だから、アタシはそこに向かってるってわけ」

「南の果て?」


ディルが首を傾げる。わたしもシロちゃんに抱き着いたまま首を傾げる。


 聞いたことない場所だ。


「そう。ここから南に海を渡ったところにある、氷と雪で出来た島よ。そこにたぶんこの子の両親がいると思うの」

「クゥーン!」


元気に鳴いたシロちゃんにセーターの襟を咥えてられて、背中に乗せられた。


「わわっ」


 おおぅ・・・乗り心地抜群じゃん・・・


「そうなのか・・・じゃあ、とりあえずは俺達と向かう先は一緒だな」

「あら、そうなの?」

「俺達はその南の果てを通り越して、そのまま北上して火の地方まで行くつもりだ」


 改めて聞くと、かなり遠い道のりだよね。南下して北上するって・・・世界一周する勢いだよ。


「凄いわね~・・・アタシがディルちゃんくらいの頃は、近所の子達にからかわれて引き籠ってたわよ」

「からかわれて・・・? やっぱりそういうのあったのか」

「ええ、皆よりも背が高いからって、いっつも馬鹿にされてねぇ」


 あ、そこなんだ。確かに土の地方の人にしては背が高いもんね。


「でも、大人になって他の地方に行って知ったわ。アタシの背が高いんじゃなくて、皆が小さかったってことに」

「そうなのかー」


ディルがどうでもよさそうに適当に返事する。


「まっ、とりあえず、南の果てまでは一緒ってことで、よろしくネ!」


ミカちゃんがパチッとウィンクした。


「・・・とは言っても、どうやって海を渡るのか分からないんだけどネ」

「え、船じゃないのか!?」


 わたしもそう思ってたけど・・・


「そうだといいけどネ。そこら辺は村の人に聞いてみた方がよさそうネ。南の果ての情報があるんだから、誰かは行ったことがあるんでしょう。方法が無いわけじゃないわ」


ミカちゃんが立ち上がる。そして、ディルも立ち上がる。さっそく聞き込みを始めるみたいだ。わたしもシロちゃんの背中から降りようと思ったら、ディルにそっと頭を指で抑えられた。


「ソニア・・・実は今すっごい眠いだろ」

「え・・・?」

「だって、さっきからずっと喋らないじゃん。ソニアらしくない」


 うん・・・実はめっちゃ眠い。


この村に来る前に、こうならないために無理矢理寝たハズなんだけど、寝溜めは出来ないらしい。ちゃんと眠い時に寝ないといけないみたいだ。


「寝てていいぞ・・・ほらっ」


ディルが腕時計を付けた左腕をわたしの前に差し出す。


「それとも、そのままシロちゃんの上で寝るか?」

「クゥン?」


 「どうする?」って言ってるのかな? ・・・せっかくだし、このままシロちゃんの上で寝よう。気持ち良いし。


「このままここで寝るよ・・・ごめんね、あんまり役に立てなくて」

「いいよ。別に、役に立ってほしくてソニアと一緒にいるわけじゃないから」

「そっか、そうだね。おやすみディル」

「おやすみソニア」


わたしはシロちゃんの上で、抱き着くようにだらーんっと姿勢を崩して、目を閉じる。シロちゃんがわたしを乗せたままテーブルの上から飛び立ったのが分かる。ディルとミカちゃんが歩きながら会話を始めた。


「ミカさんって、やっぱり男が好きなのか?」

「そうね。ちょうどディルちゃんみたいな子がタイプよ」

「え」

「フフフッ、半分冗談よ」


面白そうな会話してるなぁ・・・と思いながら、わたしは眠りについた。

読んでくださりありがとうございます。ミカちゃんの身長は180㎝弱くらいです。ちなみに、ディルは160㎝弱くらいです。年齢の割に少し低め。

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