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131.戦うディル、愛を叫ぶ男

「え・・・俺、二日も寝てたのか!?」


部屋の片付けを終えて、今はディルと一緒に村にある居酒屋っぽいところでご飯を食べている。


 夜中でもやっているお店があってよかったよ。でないとわたしがディルに食べられるところだった・・・冗談だけど。


「どおりでこんなに食べても満腹にならないわけだ」

「いや、おかしいでしょ。二日食べてないからって、そのまま二日分食べれるわけないでしょう」


山盛りになった骨付き肉を次々とお腹に入れていくディル。周りのお客さんも店員さんも引いてる。わたしのことを遠目からじーっと見てくる人も、今はディルを見てドン引きしている。


「ふぁ~~~~~ぁ」


大きな欠伸が出た。


「ハハッ、デッカイ欠伸だな。なんだっけ、偉い妖精の力を馴染ませるために眠らないといけないんだったっけ?」

「うん。本来なら妖精に睡眠は必要ないらしいんだけど、こういう例外もあるみたいだね。だから暫くは起きてる時間よりも寝てる時間の方が多くなるかも」


 今も眠くて仕方ないし。


「そっか・・・ちょっと寂しいな」

「でも、別にディルから離れるわけじゃないからね。眠ってる間、しっかりとわたしのこと守ってね!」


 たぶん、眠ってるわたしを連れながらディル1人で進むことが多いだろうから・・・。


「それは任せてくれ! だから安心して眠ってていいぞ。そして早く元に戻ってくれ」

「あい!」


ビシッと敬礼して、さっそくディルがテーブルの上に出してくれた寝袋に入る。


「おやすみディル」

「おやすみソニア」


次に目を覚ました時には、朝になっていた。わたしは枕の横で寝かされていて、ディルは荷物をまとめて出発の準備をしている。


「おはようソニア」

「おはようディル、もう村を出るの?」


大きなリュックを「よっ」と背負ったディルは、最後にわたしの寝袋を回収して、自分の肩をトントンと叩く。わたしはディルの肩の上に座った。


「長居しすぎたからな。宿のおばちゃんが俺のことを孫だと思い始める前にここを出たい」

「優しそうなおばあちゃんだよね」

「ああ、ソニアが寝てる間も甲斐甲斐しくご飯を作ってくれたからな。ありがたいんだけど、めっちゃ子供扱いしてくるんだよ。もう14歳で、あと一年で成人なのに」


そう。ディルはあと一年で成人だ。14歳って言うけど、この世界は一年が400日あるから、年齢ほど若くは見えない。


 とは言っても、わたしからしてもディルはまだまだ可愛い盛りの子供だけどね! いや・・・さすがに可愛い盛りは言い過ぎかもしれない。


「おばちゃん、色々とお世話になりました」

「いえいえ、ディル君。ちっちゃな彼女さんが元気になって良かったねぇ」


 ・・・彼女さん?


宿を出て、子供達に手を振りながら村を出る。草原を道なりに進んでいると、わたしがやられたとんがり兎こと角兎が現れた。


「気を付けてディル! あの魔物は強いよ!」

「はいはい」


角兎がディルに向かって突進する。それをディルは片手でパシっと角を掴んで、角を折った。


「ディル・・・めっちゃ強い!」

「いや、これくらいならソニアと出会ったばかりの俺でも倒せるぞ」


 ・・・あの頃から強かったもんね!


それから、わたしは一日の半分以上を眠って過ごし、ディルは一日の半分以上を歩いたり魔物と戦ったりして、村をいくつか経由しながら北に進んで行く。


最近では、わたしは寝袋で寝るのでなく、ディルの付けている腕時計の中に入って眠っている。その方が安全だし、ディルも寝袋ごとわたしを運ぶより動きやすいだろうから。

・・・何故かディルは残念そうにしてたけど。


「ハァ・・・ちょっと寒くなってきたな。息が白い」


ディルは魔物の素材を使った黒いジャケットを着込む。モッサモサウルスとかいうふざけた名前の魔物の毛皮で、コルトが作ってくれていたらしい。


「わたしも、寒さは感じないけどセーターで良かった。見た目が寒くない!」

「・・・半袖だけどな」


周囲にある木も、松の木みたいな人間だった頃に見慣れたものが多くなってきた。そして、魔物の強さも桁違いになってきている。


「ディル! 魔物だよ! 白い熊!」

「分かってる!」


ディルの身長の二倍はある白熊の魔物が木と木の間を駆けてくる。


「グオォォォォ!!」


大きな咆哮をあげながら、高く飛んでディル目掛けて襲ってくる。もはや熊の動きじゃない。さすが魔物だ。白熊の手先には氷で出来た長く鋭い爪が付いている。


「ディル!」

「任せとけ!」


ディルが魔剣を抜き、空中から襲う白熊を迎え撃つ。一瞬で氷の爪を斬り、白熊も斬る。


「グゥゥ!」


白熊に深い傷を負わせたけど、倒せてはいない。


「やっぱり魔物相手だと勝手が違うなぁ・・・もう少し深く斬らないとダメか? それとも・・・」

「わたしも手伝う?」

「いや、大丈夫だ。勝てない相手では無い」

「頑張って!」


ディルが強い魔物との戦闘を経験しておきたいと言うので、わたしはディルが危なくなるまでは手を出さない。心を鬼にして見守る。


態勢を立て直してディルを睨む白熊。ディルは魔剣を構え直し、白熊めがけて走る。


「グオオオオオ!!」

「でいやああああ!!」


咆哮をあげながらディルを迎え撃つ態勢に入った白熊、魔剣を構えて白熊に向かうディル、ディルの勇姿を良い位置で見るために、素早く白熊の背後に回るわたし。


「ここだぁ!」

「グオオォ」


ディルの魔剣が白熊の脳天に刺さる。白熊はバタンと地面に倒れた。


 ん~~~! カメラが欲しい! カメラでディルの勇姿を撮りたかった!


「格好良かったよディル!」


 それはもう・・・凄い迫力だった。魔物の背後に回って見た価値はあった!


「もう少し容易く倒せるようにならないと・・・まだまだ反省点はたくさんあるな」

「そうかなぁ? 普通に容易く倒せてたと思うけど・・・」


 ・・・言っても短時間で倒してるからね。


「ううん。立ち止まったらダメだ。常に上を目指さないと」


白熊の魔物を解体して、火の魔石を回収したディルは、自分の拳と魔剣を見る。


「うーん・・・魔剣の方が・・・いや・・・」

「どうしたの?」

「ソニアは魔剣と拳、どっちで魔物と戦った方がいいと思う?」


 魔剣と拳・・・普通なら魔剣だと思うけど・・・ディルは拳の方が戦い慣れてるみたいだし・・・。


「分かんないや・・・」

「だよな・・・まぁ、いいや。先に進もうぜ。そろそろ海が近いハズだ。海の匂いがしてきた」

「へぇ~、そんなこと分かるんだ。ちょっと上空で確認してくる!」


わたしは上空に飛び上がって周囲を確認する。

一番に目に飛び込んできたのは海だった。流氷が浮いているのが見える。

次に目に飛び込んできたのは村だった。たくさんの魔物に襲われてるのが見える。


「・・・大変だぁ!!」


慌ててディルの元に戻る。


「ディルディルディルディル!!」

「どしたどしたどしたどした!?」


ディルの前髪をグイグイ引っ張る。


「海岸沿いにある村が魔物に襲われてるの!」

「・・・!? 急いで村に向かうぞ!」

「うん! わたし先に向かってた方がいいかな?」


ディルが走る速度より、わたしが飛ぶ速度の方が早い。


「村はここから近いのか?」

「うーん、ちょっと遠い。歩いて半日くらい」

「・・・いや、向かってる途中でソニアが眠ったら大変だし、ソニア1人だけでは行かせたくない」


 確かに、眠気って急に来るからね。今は眠くなくても数分後には眠いかもしれない。


「じゃあ、急いで一緒に行こう!」

「一応ソニアは眠くなくても寝ててくれないか? 村が近くなったら起こす」

「うん!おやすみ! ディル」

「おやすみソニア」


わたしはディルが付けている腕時計の中に入って、眠る。寝ようと思えば眠くなくても寝れるのが最近のわたしだ。


「ハッハッハッ・・・」


ディルの息の音が聞こえる。どうやら起こされる前に起きたみたいだ。わたしは腕時計の中から周囲の景色を観察する。


 おっ、そろそろ村に着く頃だね。丁度良いタイミングで起きた。


腕時計から出て、ディルの肩の上に乗る。


「おはようディル!」

「おはようソニア。ちょうど村に着く頃だぞ」


村は白い狼の群れに襲われていて、村人たちはどこかに避難しているのか見当たらない。


「・・・ん? なんか聞こえないか?」


ディルが走りながら耳を澄ます。わたしも同じように耳を澄ませる。


「・・・だぁ!」「・・・ぅ!」


 確かに誰かの声が聞こえる・・・もしかして助けを求める声!?


わたしとディルはコクリと頷き合う。


「急ぐぞ!」


村に近付くにつれ、誰かの声はハッキリと聞こえるようになった。


「大好きだぁ!!」「愛してるぅ!!」


男性の愛を叫ぶ声が聞こえてくる。わたしとディルは微妙な顔になる。


「と、とりあえず声の聞こえる方に行ってみよ?」

「そうだな・・・」


 ちょっと変わったSOSかもしれないしね。


村を徘徊する白い狼をわたしとディルで協力して倒しながら、声が聞こえる村の中央付近に向かう。白い狼は嚙みついたところを凍らすことが出来るみたいで、村のあちこちが凍っていて、そこには嚙んだ跡があった。


「いた! 叫んでんのはあいつだ!」


ディルが指差す方には、大きな教会の前で愛を叫びながら大きなハンマーを振り回して、白い狼達を次々と吹っ飛ばしている男性がいた。


 ははーん・・・分かったよ。きっとあの教会の中に村人が避難していて、それをあの男の人が守ってるんだ!


「好きいいいい!!」「愛おしいいいい!」


男性が愛を叫んでいる意味は分からないけど、狼の数が多くて苦戦しているのは分かる。


「とりあえず俺達も狼を倒すぞ!」


愛を叫ぶ男と協力して、村の魔物を倒していく。ハンマーを振るう度に愛を叫ぶ男に、ディルが若干鬱陶しそうにしている。


「ふぅ・・・あなた達のお陰で助かったわ。ありがとう」


そう言った男性は、ハンマーをブンッと振って付着していた血を払い、呆けるわたしとディルを見る。褐色肌で茶髪だけど背は低くない、細身かと思ったけど近くに寄ると意外と筋肉があって男らしい。


 それに・・・凄く顔が良い! ハンサム!


そんな褐色イケメンが今度は・・・


「もう安全よ~!」


・・・と教会に向かって叫ぶ。すると、教会から村人たちが勢い良く出てきて、男性に感謝の言葉を述べていく。


 ・・・良い人なのは間違いなさそうだね。


そして、「あの子達がいなかったら危なかったわ」と言う男性の肩に、一匹の小さな白いドラゴンが降り立った。


「あら、シロちゃん。村の皆を守ってくれてありがとネ!」

「クゥン!」


特徴のある口調。肩に乗った白いドラゴン。そもそも何者なのか。


 ・・・さて、どれから聞こうかな。


読んでくださりありがとうございます。シロちゃんはドラゴンの名前です。

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