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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第1章 暇な妖精と忙しい少年

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12.わたしの名前

「行っちゃったな」

「うん・・・」


コンフィーヤ公爵がいなくなり、客室の中にはわたしとディルの2人だけになった。わたしは、妖精にとっては巨大すぎるベッドの上にポスッと正座して、同じベッドに腰を掛けているディルを見上げて口を開く。


「ねぇ、ディル」

「なんだ?」


ディルはギシッと音を立ててわたしの近くまで腰を滑らせる。


「助けてくれてありがとう」


わたしは改めてディルに向き直り、ペコリと頭を下げる。


 助けてくれたお礼はキチンと言わないとね。


「・・・いや、俺なんて、妖精さんを助けたのは、あのコンフィーヤコーシャクだ」

「でも、助けに来てくれた。わたしは嬉しかったよ。それに最後はディルがいないと危なかったしね」

「でも・・・・」


ディルの視線がわたしから自分の足元に移る。


 うーん・・・謙虚っていうか・・・自信を無くしてるのかな?


「助けてくれてありがとう!ディル!カッコよかったよ!」

「・・・うん」


 わたしは笑顔で押し切った。コンフィーヤ公爵には悪いけど、わたしはディルに助けてもらったと思っている。あのぽっちゃりおじさんの目的はわたしを助けることでは無かったと思うし。


精一杯の笑顔で押し切ろうとしたが、ディルはまだ浮かない顔をしている。


「ねぇ、ディル。ディルはまだ10歳の子供なんだよ?それなのに、わたしを助けるために悪い大人たちに立ち向かって、戦って、最後にはアボンに捕まっていたわたしを助けてくれた。違う?」

「違わないけど・・・・」

「それってディルが話していた勇者様みたいじゃない?・・・わたしはお姫様じゃないけどね」

「・・・っ!」


俯きかけていたディルがバッとわたしを見る。


「ありがとう、勇者様(ディル)お姫様(わたし)を助けてくれて」

「・・・どういたしまして!へへっ」


 ディルに笑顔が戻った。照れたように笑ってる。うん、可愛いね!



コンコン


2人で「えへへ」と笑っていたら、お医者さんが来た。

お医者さんはディルの額の怪我を見て包帯を巻いたり、簡単な問診をして、最後にわたし達に食べられない物がないか質問をして出ていった。ディルの額は思ったほど深刻な怪我ではないらしく、たまにふらついていたのは血を流し過ぎたせいだろう、とのことだ。


ちなみに、食べられない物の質問に関しては、わたしは「虫以外なら何でもいいよ!」と答えて、ディルは「肉が食べたい!」と答えていた。


 この世界でまともな食事をするのは初めてだ! どんな料理が出てくるんだろう?楽しみだな。


「ふう・・・これでとりあえずは落ち着けるね」

「そうだなー」


ディルはボフンッとベッドに仰向けに倒れ込んだ。


「・・・なぁ、妖精さん」

「なーに?」


ディルは寝転がったまま天井を見つめて、恥ずかしそうに頬を搔きながら口を開いた。


「その・・・村でさ、カッコイイ名前を考えたら友達になってくれるって・・・」

「うん、カッコイイ名前じゃなくて素敵な名前だけどね」


わたしがそう言って揶揄うように笑うと、ディルはガバッと体を起こし、真剣な目でわたしを見てくる。


 え、なになに? 何でそんな決意の表情をしてるの!? こわいんだけど! まともな名前を考えてくれたんだよね!?


()()()

「え?」


わたしを真っ直ぐに見つめるディルの瞳が心配そうに揺れている。


「妖精さんの名前!」

「ソニア・・・」


 それが妖精のわたしの名前。


「えっと・・・さっき妖精さんが言ってた勇者様のお話で、勇者様はお姫様を救ったあとに、教会の鐘のような形をした黄金色のお花を贈って婚約するんだ」

「うん・・・」

「それで、そのお花の名前が()()()って言うんだ」


 ソニア・・・かぁ。


「ソニアの髪と同じ色だっていうそのお花の名前から付けたんだけど・・・変かな?」

「・・・ん-ん!とっても素敵な名前だよ!」

「そ、そうか!?よっかたーー!」


ディルは「はぁーーあ!」と幸せそうな溜息を吐いて、またベッドにボフンっと仰向けに寝転んだ。


 わたしはソニア! 雷の妖精のソニア! わたしの名前はソニア!うん、いい名前だ!ディルが考えたとは思えないくらい素敵な名前だ!


「ふふっ。そしたら今からわたしとディルは友達だね!」

「ああ!友達だ!」


 この世界での初めての人間のお友達だね!


コンコン


2人で「アハハ」と笑っていたら、ご飯がやって来た。


「食事をお持ちいたしました」


50代くらいのベテランのメイドさんが装飾過多なワゴンに料理を載せて優雅に部屋に入ってくる。


 異世界の料理!しかもお城の料理!どんな感じなんだろう?ワクワクする!


「お肉かー?」


ディルがそう言いながらベッドから勢い良く起き上がり、タタッとワゴンまで小走りで近付く。


「はい、こちら熊肉の時雨煮(しぐれに)とフルーツの盛り合わせになります」


 おぅ・・・まさかのジビエ。


「やったぜ!ごちそうだ!」


わたしとディルが客室に用意してあった豪華なテーブルとイスの方へ移動すると、メイドさんが熊肉と白米をディルの前に、フルーツをわたしの前に、最後にわたしとディルの2人にお茶を入れてくれた。


「では、ごゆっくりとどうぞ。食器は後ほど回収に参りますので、そのままでお願いいたします」

「うん! ありがとね!」

「いただきまーす!」


メイドさんはニコリと微笑ましいものを見るような目でわたしとディルを交互に見て、退室していった。


 さて! 異世界のご飯!


少しだけ体を浮かせてテーブルに並べられた料理を見下ろす。


 白米とかあるんだ・・・っていうか、わたしのご飯ってフルーツとお茶だけ?偏見だよ!妖精に対して!


わたしの前には、妖精のサイズに合わせてかなり小さくカットされたフルーツと、何かの蓋に注がれたお茶が置いてある。


 妖精(わたし)のために最大限気を使ってくれているのは分かるんだけどね。わたしも普通の食事がしたかったかな。


「ねぇ、ディル」

「あんあ?」


ディルは早速目の前のお肉にかぶりついている。


「それ、美味しい?」

「あべばいぼ!!」

「え?なに??」


 口に頬張りすぎて聞き取り不可能だよ。


「ゴクン・・・あげないぞ!」

「10歳の子供からなんて貰えないよ」

「・・・・」


ディルがジッとわたしのことを見つめてくる。


「え、なに?わたしに恋しちゃた?」

「コイ? なんだそれ。・・・そんなことより、妖精さ・・・ソニアって今何歳なんだ?」


ディルがお肉を口に頬張りながら「妖精ってめちゃくちゃ長生きなんだろ?」と好奇心に満ちた目でわたしを見てくる。


「わたし?わたしは今5歳だよ」

「ブッ!」


ディルは口に含んでいた物を吹き出しそうになるのを、慌てて口を両手で抑えて止めた。わたしは特に気にしないで目の前に置いてある小さく切られたフルーツをパクリと食べた。


 おいしい!桃の味がする!


「えーっと、聞き間違いだよな?50歳とか500歳って言ったんだよな?」

「聞き間違いじゃないよ。5歳って言った。5年前に生まれた5歳だよ」


 まぁ、人間だった頃を足せばもうすぐアラサーになるわけだけど、言うつもりはない。だって今の私はピチピチの5歳だからね。


「マジかよ・・・歳下じゃん!なに歳上みたいな雰囲気出してるんだよ!!しかも俺の半分だし!」

「はいはい、細かいことは気にしないの・・・んーーっ!この桃っぽいのおいちーー!」

「5歳・・・」


もぐもぐもぐ・・・

むしゃむしゃむしゃ・・・・


ディルが何やら考え込んでしまったので、わたしは黙ってフルーツを食べ続ける。ディルの白米もそうだけど、林檎や梨など元の世界とこの世界で食文化に関してはあまり違いはなさそうだ。


 お寿司とかラーメンもあったりするのかな?


コンコン


「食器の回収に参りました」


2人で「美味しかったね~」と微笑み合っていたら、先程と同じメイドさんがワゴンを押して入って来た。


「うまかったぜ!」

「うん、美味しかったよ!」

「フフッ、ありがとうございます。料理長にそう伝えさせていただきますね」


メイドさんは手際よく食器をワゴンに乗せて、部屋の外に待機していたっぽい若いメイドさんにワゴンを渡して、わたしの方へ視線を向ける。


「あの・・・城の大浴場を貸切で準備しているのですが、妖精様は・・・」

「入る!」


 お城の大浴場! 入らないなんて選択肢はないよ!


ディルは食事を持ってきてくれたメイドさんに、わたしは目をキラキラさせた若いメイドさん2人に、別々の浴場に案内された。


脱衣所でメイドさんにわたしの着ているワンピースを羽に触れないように慎重に脱がして貰い、さっそく浴場に向かう。


「では、お体を洗わせて貰いますね」

「え!?」


「掛湯はどこかなぁ」とキョロキョロしてたら、いつの間にか真後ろに立っていた若いメイドさんに声を掛けられた。


「大丈夫です!最高級のタオルで、優しく慎重に洗わせて頂きますので!」


 メイドさんの目が怖いよぉ・・・ギラギラしてる。


「いや!いつも水浴びだけで済ましてるから!」

「ですが・・・」

「妖精はそう簡単に汚れないの!」


メイドさんのギラギラとした目から逃げるようにして湯船に飛び込んだ。


 あったかーい・・・。メイドさんが名残惜しそうにじーっと見てくるのが落ち着かないけど、いい湯だなぁ。


浴場から上がったわたしは自分で体を拭き、風が出てくる透明の変わった石でメイドさんに髪を乾かして貰った。石から出た風で吹き飛ばされそうになって、メイドさん達に凄い勢いで謝られたりしたけど。


うーん、ねむい・・・。


久しぶりに温かいお湯に浸かったわたしは、メイドさんの膝の上でウトウトとしていた。


「あ、あの、妖精様・・・」

「わたしの名前はソニアだよぉ・・・・むにゃむにゃ」


濃い一日を過ごしたわたしは、もう限界だった。「いいなぁ。わたしも膝に乗っけたい」という隣に立っているメイドさんの呟きを最後に聞いて、わたしは意識を手放した。

読んでくださりありがとうございます。主人公に名前が付きました。次話はディル視点のお話です。

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