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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第4章 眠たい妖精と止まった村

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128.走れディル、歩けディル

「やっと着いた~!」

「着いた~!」


ぴょんとゴーレムの船からディルが降りる。わたしもそれに続いて降りる。


「長かった~・・・」

「長くないよ。普通なら丸一日掛かるところをたった三時間くらいで着いたんだよ」


地面に草臥れるディルに、土の妖精が不満げに言う。今わたし達は、オードム王国から土の海を挟んで反対側、それなりに大きくて、それなりに賑わっている国の質素な船着き場にいる。目の前にはそこそこ大きなお城がある。


「あんなに揺れが激しい船に三時間も乗ってたんだぞ。長いわ!」


ディルが気持ち悪そうなので、一旦小休止。


「そろそろ・・・行くか」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫・・・」


 ディルって・・・意外と絶叫マシーンとか苦手だったり? 普段あんなに動き回ってるのに。


「雷の妖精。これから火の地方に向かうんでしょ?」

「うん。その予定だよ」

「火の妖精には会わない方がいいかも・・・だよ」

「どうして?」

「なんていうか・・・私と緑の妖精と水の妖精は保守派というか、穏健派というか・・・まぁ、そんな感じなんだけど、他の三人はその反対なんだよ」

「過激派・・・みたいな感じ?」

「だよだよ!」


 ・・・よく分かんないけど、要するに、一癖ある性格ってことだよね。よしっ、会ってみよう。


「そうだよ。雷の妖精にこんなこと言ったら逆効果だよ。別にいいけど」


 うっ・・・バレてる!


「とにかく、あんまり無茶しないでよ」

「わたし無茶なんてしたことないよ」


 どちらかと言えば、無茶をしてるのはディルの方なんだけど。


「私はもう行くよ。また遊びに来てね」

「うん! またね!」


土の妖精がにゅるっと地面に潜っていく。


「じゃあディル」

「おう、俺達も行くか」


ディルが「よっと」と立ち上がる。


「そこの少年! そこで何をしている! ここは城の敷地内だぞ!」

「え?」


重々しい鎧を着た騎士が怖い顔で近づいてくる。


「いや俺達は・・・」

「逃げようディル!」

「え・・・でも・・・」

「あれは話を聞いてくれない人の顔だよ! 逃げよう!」

「すごい偏見!」


わたしはディルの頭の上に乗る。


「さぁ・・・走れディル!」

「お、おう!」


ディルは走った。


「あ・・・待て! その頭に乗っけてるのは何だ!」


ディルは走る。城の敷地外まで。


「おい! どこまで行くつもりだ! 早いな!?」


ディルは走る。城下町を。


「どこまで行くつもりだ! 話を聞くだけだ! 止まれ!」


ディルは走る。国外まで。


「はぁはぁ・・・もう・・・なんでもいいからこの国に来るな!」

「ディルは走る。荒野の果てまで・・・」

「そこまでは行かねえよ! もう騎士も追ってきてないし・・・ハァ・・・ハァ・・・」


後ろを振り返ると、さっきまでいた国はもう遥か遠くに見える。


「ハァ・・・オードム王国で何も買い物せずに来たから、こっちで色々と旅に必要な物を買い揃えようと思ってたのに・・・」

「またすぐに次の村に着くよ」

「だといいけどな」


そして、どこの村にも着くことなく何もない荒野を彷徨うこと5日・・・。


「もう・・・終わりだ・・・まともな料理が食べたい・・・」

「ずっとわたしが雷で落とした鳥を焼いて食べてるもんね。あの名前も知らない国を飛び出してから何日経った?」

「えーっと・・・」


ディルが左腕に付けている腕時計を確認する。


「38日・・・土の妖精と別れたのが33日だったから、五日経ったんだな」

「そっか・・・あれ?」

「なんだ?」


 もうすぐディルのお誕生日じゃん!


「ううん! なんでもないよ! そろそろ村が見えてこないか上空に行って確認してくるね!」

「頼むよ」


わたしは上空まで飛び上がりながら考える。


この世界は何月とかは無くて、一年は1日から400日まである。そして、49日はディルのお誕生日だ。


 村に居た時はジェシーとかマリちゃんと一緒に盛大にお祝いしたっけね。今はわたししかいないんだし、わたしが精一杯お祝いしよう! ・・・でも、どうやって?


「あ、村だ」


かなり遠くだけど、大き目な村が見えた。


「村あったよ!」

「そうか・・・まだ無いか・・・あったのか!?」

「あったあった」

「よっしゃー! これでまともな物が食える! そして野営に必要な物も買い揃えるぞ!」


ディルが喜びのあまり変な踊りを始めてしまった。


 夜はそのまんま地面に寝転がって寝てたもんね。布でも敷けばいいのに、汚れるからって・・・それでディルが汚れてちゃ本末転倒なのに。


「そうと分かればさっさと行くぞ!」

「うん!」


わたしは自分の特等席であるディルの頭の上に乗った。


 村に着くまでに、ディルのお誕生日に何をするか考えておこう。


それから、ディルがわたしを頭に乗せて歩いて二日。やっと村に着いた。


「結構大き目な村だな。これなら必要な物は大体揃ってそうだな! ・・・すいませーん肉売ってませんかー!」


ディルは近くにあるお店に突撃していった。わたしはディルの頭の上に座りながら再び考える。


 ・・・決めた。わたしが自分で稼いだお金でディルに何かプレゼントしよう! 人間だった頃、妹が初めてバイトして稼いだお金で買ってくれたピアスは今でも忘れられない。あぁ、妹に会いたくなってきた。


「どうしたソニア? ボーっとして、さっきのおじちゃんなんてソニアの事置物だと思ってたぞ」

「いや、なんでもないよ! それで、買い物は終わったの?」

「・・・本当にボーっとしてたんだな。食糧と簡単な調理器具は買えた・・・というか、親切な人達が古いのを譲ってくれた」

「じゃあ、これで焼いただけの鳥肉からはオサラバだね。ま、他に動物がいればだけどね」


 これまでは、地上に何も居なかったから、仕方なく空を飛んでる鳥を狩ってたんだもん。


「いるらしいぞ。動物・・・と魔物も。海が近くなってきたみたいで、ここから先は植物も増えてきて、動物や魔物もそれと一緒に増えてくるって言ってたぞ」

「そうなんだ~」

「だから、これからに備えて今日はこの村で休んでいこうと思う」

「うん! それがいいよ!」


 そして、滞在中にわたしはお金を稼ぐんだ!


「とりあえず、さっきのおじちゃんに宿を紹介して貰ったから、そこに向かおう」

「うん!・・・って言ってもわたしは頭の上で座ってるだけなんだけど」

「だな・・・いい加減普通に動いてくれ、お陰で俺は可愛い妖精の女の子の置物を頭に乗っけた変な人だと思われてる」


わたしはそっとディルの頭の上から飛び上がって、横を飛ぶ。前から歩いて来ていた男の子がわたしを見て、持っていたボールを落とした。


「すいませーん、一泊したいんですけどー!」

「はいはい、ちょっと待ってくださいねぇ」


村の端にある趣のある宿に入ると、優しそうなおばあちゃんが出迎えてくれた。


「おやおや、ずいぶんとちっちゃいお客さんだねぇ」


おばあちゃんがわたしの頭を愛おしそうに優しい目で撫でてくれる。


 完全に孫を見る目と同じだこれ。


「それでそれで・・・一泊だったね。2人で銀貨一枚だけど、そこの可愛らしい妖精さんは無料でいいから、小銀貨一枚でいいですよ」

「だって! やったねディル! お得だよ!」

「いいのか? ・・・というかおばちゃんはソニアを見ても驚かないんだな」

「驚いていますよ。こんな可愛い女の子は生まれて初めて見ましたから」

「いや、可愛いのはそうなんだけど、驚くところソコなんだ・・・」


おばあちゃんはニッコリとわたしに微笑む。


「おばあちゃんも可愛いよ!」

「あらあら、嬉しいねぇ・・・」


おばあちゃんに階段を登らせるのも可哀想なので、部屋の鍵だけ貰って部屋に向かう。


「ぷはーーー!! 久しぶりに屋根のある場所で寝られるぅ!」

「うん~! やっぱり屋根がある方が落ち着くよね~」

「へぇ~、そういうところは妖精も同じなんだな!」


 わたしだけだと思うけどね。


「宿のベッドが柔らかいと感じたのは初めてだぁ」

「あ、ディル。寝転がる前に体を拭いた方がいいよ。宿の裏に井戸があるみたいだから」

「え? そんなに汚れてるか?」

「うん。汚れてるし・・・ちょっと臭うよ」

「え・・・!?」

「臭うよ」

「二回も言うな! ちょっと行ってくる!」


ディルはボロボロになったタオルを持って部屋から飛び出していく。


 なんていうか・・・男の子の臭いがするんだよね。わたしはそこまで嫌いじゃないけど、嫌な人は嫌だと思う。


「あっ、そうだ。今のうちに・・・」


わたしは部屋から出て、さっきのおばあちゃんの所へ行く。


「ふむふむ・・・お金の稼ぎ方ねぇ」

「うん! 旅って色々と物入りでしょ? この村でどうにかしてお金を稼げないかなって!」


 さりげなく聞いて、それで稼いだお金でディルにプレゼントを買う作戦だ。何を買うかはまったく決めてないけど!


「一番手っ取り早くてたくさん稼げるのは、魔物を狩って魔石を売ることだけど・・・この方法は危険だからあまりお勧めは出来ないねぇ」

「魔物って村の近くにいるの?」

「そうさね~、ここから少し南に進めば小さめの魔物がちらほらといるよ」

「そうなんだ! ありがとうおばあちゃん!」

「でも、小さいと言っても魔物は魔物だからね。ディル君と言ったかい? あの子がどんなに強くても油断はしないようにね。お金よりも命の方が大切なんだから」


 行くのはわたしだけなんだけどね。でもまぁ、わたしもだいぶ電気の扱いに長けてきたし、巨大な魔物も倒したことがある。心配はない。


「おっ、ソニア。こんなとこで何してんだ?」

「ん? ちょっとね。それよりもディルはちゃんと体を拭いて来たの?」

「ああ、もう臭くはない・・・ハズだ。おばちゃん新しいタオルくれてありがとうな」


わたし達はおばあちゃんにお礼を言って部屋に戻る。ディルが何度も「臭くないよな?」と確認してきて少し鬱陶しい。


 うーん。あとは、どうやってディルに気付かれずに村を抜け出すか・・・。


村で買ったらしい干し肉をベッドの上で食べるディル。今まであんまり気にしてなかったけど、ディルは結構わたしのことを見てる。この数分で何度も目が合った。


「ふぅ・・・俺ちょっと昼寝するから」

「うん、おやすみ~!」


 ・・・よしっ、チャンス!


わたしはディルが寝息を立て始めたのを確認して、枕の横に置いてある腕時計を見る。


 今はちょうど12時くらい・・・ディルはいつも昼寝する時は二時間くらいで起きるから、2時までには戻ってこよう!


わたしは少し開いている部屋の窓から抜け出して、おばあちゃんが言っていた魔物が生息している南の方へ飛んだ。

 

読んでくださりありがとうございます。ディルは激怒しない。


※第4章から3日に一度の更新になります。次の更新は3日後です。

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