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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第3章 回る妖精とよわよわ鍛冶師

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126.【リアン】くるみ村で

 最近、お姉ちゃんがあんまり僕に構ってくれない。好きな人が出来て夢中になっているのは分かるけど、少し寂しい。



「おいおい・・・流石に全員で村に向かったら迷惑になるだろうが! 少人数で行くぞ! 残りは船番なり王都で観光なりしてろ!」


・・・そういうことで、くるみ村に向かうのは、僕とお姉ちゃんとお父さん、ジェイクさん、ウィックさん、コルトさんだけになった。行く気満々だったマイクさんは、船員のまとめ役として残ることになった。


「わぁ~見てよリアン! あれソニアさんの銅像じゃない?」


王都の中央通りにある噴水の目の前に、ウィンクをするソニアさんの銅像があった。しかも人間サイズ。僕はコルトさんに手を引かれて銅像の前まで連れていかれる。


「このソニアさん、僕より大きいね。コルトさんと同じくらいかな?」

「そうだね。もしソニアさんが人間だったらこれくらいかもしれないね」


コルトさんが熱の籠った視線を銅像に向ける。恋ってこんなに人を変えるものなのかな? 僕には分からない。


「お~、姉御の銅像っすかこれ! スカートの中どうなってるんすかね?」

「やめろウィック。恥ずかしい」


ソニアさん像のスカートの中を覗こうとしたウィックさんにジェイクさんが拳骨を当てる。ゴツッと鈍い音がして凄く痛そう。


「いってぇ! いや、男なら普通気になるじゃないっすか。ねぇ、コルト」

「気になるのと、実際に覗くのとは別だよ」

「銅像なんだからいいじゃないっすか!」


そう言って、ウィックさんは素早い動きで銅像のスカートの中を覗いた。そしてガックリと項垂れた。


「うん・・・分かってたっすけど、これは銅像っす」

「くだらないことしてないでさっさと行くわよ。馬車に乗り遅れちゃうわ」


お姉ちゃんがジェイクさんの隣を歩いて先に行く。僕はその後ろをコルトさんとお父さんと手を繋いで歩く。最後尾をウィックさんがトボトボとついてくる。


「くるみ村行きの馬車は満員です! 次の馬車にお乗りくださーい!」


お姉ちゃんがウィックさんを睨む。


「いやいや、何で俺を睨むんすか! 明らかに銅像の件が無くても間に合ってなかったっすよ!」

「分かってるわよ。丁度いいところにいたから睨んだだけよ」

「そんなぁ・・・」


これはウィックさんの普段の行いが悪いと思う。


「ネリィ、あんまりウィックさんにキツく当たるんじゃないぞ。ウィックさんだって一応傷付くんだぞ」

「お父さん・・・はーい」

「カーネさんもナチュラルに俺を馬鹿にしてないっすか?」


僕達が城門前で馬車を待っていると、次々と後ろに人が並んできた。ウィックさんがすぐ後ろに並んできた老夫婦に話しかけている。


「お二人もくるみ村に行くんすか?」

「ええ、そうよ。なんでも、あそこのクルミパンが絶品だとかで、わざわざミリド王国から来たんです」

「それに、最近あそこの村に凄腕の治癒魔石の使い手が現れたと噂で聞いてな。私の腰痛を治してもらえないかと思ってな」

「あらあなた、そんなことに治癒魔石を使うなんて使い手さんに申し訳ないですよ」

「いやいや腰痛を馬鹿にするんじゃないぞ・・・」


ウィックさんが声を掛けたせいで老夫婦が喧嘩を始めてしまった。ジッとウィックさんを見上げると、「俺のせいじゃないっすよ?」と顔を逸らされた。


「馬車まだっすかね~、一台に三組までしか乗れないなんてちょっとケチっすよね」


喧嘩の火種は呑気に遠くを眺める。


「馬車で3日もかかるんだぞ。人数が多ければそれだけトラブルが多くなるんだろう」

「そういうもんすかね」


それから暫くして、馬車は後ろの王都側からやってきた。


「お待たせしました・・・すみませんが人数が多いので今回は二組にさせていただきます。申し訳ございません」


ずっと喧嘩と仲直りを繰り返す老夫婦と一緒に馬車に揺られること3日、広々とした農場を越えた先・・・とうとうくるみ村に着いた。たくさんの木々に囲まれた大きな村で、観光客らしき人達がたくさんいる。


 ソニアさん達に聞いた話よりも賑やかな村みたい。


「やっと着いたっすー! 姉御から聞いてたよりもずっと大きい村っすね! ちょっと探索に行ってくるっす!」

「あっ、おい待て! まずは宿の確保を・・・って、もういないし」


ジェイクさんの言葉も虚しく、ウィックさんは姿を消した。


「仕方ない、俺達だけで宿を探すか」


ウィックさん抜きの皆で宿を探す。なかなか空いてる宿が見つからず、村の端っこまで歩いて、ようやく空いている宿が見つかった。ちょっと大きな住宅っぽい見た目で一見宿には見えないけど、玄関扉に掛けてある「宿 イガグリ」「空アリ」という小さな看板を見つけた。


「あんまり宿っぽくないけど・・・宿よね?」


お姉ちゃんが恐る恐ると扉を開けると、カランカランと音が鳴った。


「おっ、やっと客が来た。泊まりか?」


受付に座っていたのは、青っぽい髪のガタイの良い男性で、この人ほど宿の受付が似合わない人はいないと僕は思った。


「はい、三人部屋を二部屋。空いてますか?」

「おう。大丈夫だぜ。なんせこの宿には三人部屋二部屋しかないからな!」


 僕とお姉ちゃんとお父さん、ジェイクさんとウィックさんとコルトさんっていう部屋割りなのかな? マイクさんが来てたら余っちゃってたね。


「すまんな。いつもなら妻が受付をやってるんだが、ちょうど今、娘と一緒に出掛けてんだ。接客は苦手だけど、案内くらいは出来るぜ、こっちだ」


男性に二階にある部屋に案内してもらい、一旦荷物を置く。


「はぁ・・・やっと落ち着けるな」


お父さんがたくさんの荷物をドサリと置いて肩を回す。


「まだ早いわよお父さん。ここから住める家を探したりお引越しの準備をしたり、色々あるんだから」

「そうだったな・・・ネリィは本当に頼もしくなったなぁ」

「ふふん! 少しは大人になったでしょ? あたしはジェイクさんとマリちゃんって子を探してくるから、お父さんは休んでて。リアンはどうする?」

「僕も一緒に行く」


お姉ちゃんと一緒に部屋から出て一階に降りると、既にジェイクさんが受付の男性と話してた。


「お、ネリィちゃん達。良い所に」


ジェイクさんがそう言って僕達に手招きする。


「どうしたのジェイクさん?」

「それが、偶然にもこの人がマリちゃんのお父さんだったんだよ」


ジェイクさんが受付の男性を見る。僕とお姉ちゃんもその視線を追う。


「おう! マリから片腕の男が来るって聞いてて、まさかと思ってたんだ。ジェイクさんだったな、マリのやつ肝心の名前を忘れてたっぽくてな、もうすぐしたら妻と一緒に帰ってくると思うから・・・」


カランカラン・・・


玄関扉に付いている変わった鈴の音が響く。デンガが「丁度帰ってきたか」と呟いた。


「デンガ、店番ありがとね~・・・ってあら? お客さん?」

「わぁ! お客さんなんて久しぶり!」


扉を開けて入ってきたのは、ジェイクさん同じ赤っぽい色の髪の綺麗な女の人と、その女の人と手を繋いだ小麦色の髪の可愛らしいお姉さんだった。


 僕より3つくらいは歳上なのかなー? 元気そうなお姉さんだ。


「話をすれば、だな。マリ、お前にお客さんだぞ」

「え、私に? ・・・あっ、片腕の!」


マリさんが小麦色の髪をピョンピョンと弾ませてジェイクさんの近くに駆け寄る。ジェイクさんが屈んでマリさんの目線に合わせて口を開く。


「初めまして、マリちゃん。姉御・・・いや、ソニアさんから話は聞いてると思うけど、俺がジェイクだよ」


ジェイクさんがマリちゃんに自己紹介をすると、何故か後ろのマリちゃんのお母さんが「ジェイク・・・?」と首を傾げた。


「初めまして、私はマリで、こっちが私のお母さんのジェシーだよ」

「あ、マリの母のジェシーです」


ジェシーさんがそう言って丁寧にお辞儀をする。ジェイクさんは何故か一瞬固まったあと、頭を振って立ち上がって、同じようにお辞儀した。それに続いて、僕とお姉ちゃんも自己紹介をした。


「じゃあ、さっそく腕を治すね」


ふんふんっと鼻息荒く腕をまくるマリさんをジェシーさんが止める。


「待ってマリちゃん、ジェイク・・・さん達はさっき着いたばっかりなんだから、今日は休んで貰った方がいいわよ。治癒の魔石は失った腕でも治せるけど、その分当人の気力を凄く使うから・・・私も昔、それで治癒して貰ったことがあるんだけど、3日は動けなかったもの」

「そ、そうだよね。擦り傷とかとは訳が違うもんね。ごめんなさい」


マリさんがペコリと頭を下げる。礼儀正しいお姉さんだ。


「じゃあ、今日はとりあえずジェシー・・・さんの言う通り、休むことにするよ。ネリィちゃん達はどうする?」

「うーん。どうしようかしら? リアンは?」

「僕は・・・村の中を見て回りたい」


 これから住む村だもん。早く色んな人と仲良くなって、友達も作りたい。


「じゃあ、私達で案内してあげましょう! ね! マリちゃん!」


突然マリさんの上着のポケットから元気な女の子の声が聞こえたと思ったら、金髪の妖精が勢い良く飛び出してきた。


 ・・・ソニアさん!?


「わわっ、ナナちゃん!」

「わぁ! ソニアちゃんから聞いてるわよ! 虹の妖精のナナちゃんよね!?」


マリちゃんが「ナナちゃんおはよう」と微笑み、お姉ちゃんが「この子がソニアさんの・・・」とマジマジと金髪の妖精を見る。


 ソニアさんかと思ったけど、違ったみたいだ。よく見ると髪の長さも瞳の色も違う。

 僕もソニアさんから聞いている。ブルーメでソニアさんの願いから生まれた妖精らしい・・・よく分からないけど、ソニアさんの仲間だと思う。


「ブルーメで虹を見たわよ! 凄く綺麗だった!」

「ふふん! 先輩が私を願ったお陰ですよ!」


虹の妖精が胸を張って得意そうに笑う。笑顔はソニアさんそっくりだ。


「そういうことだから、お母さんお父さん。私、この人達に村を案内してくるね」

「ああ、行ってらっしゃい」

「・・・」

「お母さん?」

「あっ、うん。行ってらっしゃい」


マリさんが僕の手を引いて「行こ?」と微笑む。


「じゃあ、ジェイクさん。行ってきます」

「・・・お、おう。気を付けてな。それと、コルトが部屋に荷物を置くなり意気揚々と宿から出ていったんだ。もし会ったら回収して来てほしい。ウィックは放っておいていいから」

「? 分かりましたー」


様子のおかしいジェイクさんにお姉ちゃんが首を傾げつつも、元気なナナさんと元気なマリさんによるくるみ村案内が始まった。


 ジェイクさん・・・ずっとジェシーさんのこと見てた。ジェシーさんもずっとジェイクさんのこと見てた・・・お姉ちゃん、大丈夫かな。


「まずここです! とっても美味しいパンが食べられる、パン屋ライラックです! 人間が食べるにはお金が必要ですよ!」

「ナナちゃん、お金を払うのは誰でも知ってるよ」


ナナさんが紹介してくれたパン屋さんには、行列が出来ていた。


「食べてみたいけど、今じゃなくてもよさそうね。この村に住むんだし、空いてる時にでもきましょうか」

「そうだね」


行列の中にウィックさんがいた気がするけど、お姉ちゃんは無視して進む。


「次はここ! マリちゃんがたまに研究のお手伝いをしてるヨームの家!」

「ナナちゃん、ここは別に案内する必要は無いと思うよ」


ナナさんがパン屋さんの裏手にある小さな小屋を指差す。


「これが家なの? 小さ過ぎない?」

「扉を開けたら階段があって、地下は凄く広いんだよ」

「へぇ~、変な家ね」

「お姉ちゃん、失礼だよ・・・」


たまに失礼な物言いをするお姉ちゃんに呆れていると、後ろからコルトさんと知らない男の人の声が聞こえてきた。


「少し触らせてもらうだけでいいですから! 昔本で読んだ古代の遺物とそっくりなんです! 分解させてください!」

「なにこの人!? 言ってることが滅茶苦茶だよ! ゴーレムに乗って緑の森まで行こうとしただけなのに!」


ゴーレムに乗ったコルトさんを追い掛ける、灰色の髪の前髪で目が隠れた男性。


「あっ、ヨーム!」

「コルト!」


マリさんとお姉ちゃんが声を掛けると、二人共止まってこちらにやってくる。


「ネリィ、リアン!」

「マリさんにナナさん、今日はお手伝いの日じゃなかったですよね? ・・・そちらの方は?」

「くるみ村に移住予定のネリィさんとリアン君だよ。私とナナちゃんで案内中なの・・・ヨームはまた変な遺物を拾ってきたの?」


マリさんがゴーレムを怪しい目で見る。


「俺は遺物じゃないよ!」


ガシャン!


ゴーレムの中からコルトさんが出て来た。マリさんが「うわぁ! 人が出て来た!」と驚く。


「この人がこの遺物に乗り込む所を目撃して、追い掛けてただけですよ」

「だから、これは遺物じゃないって! 土の妖精が作ったゴーレムだよ!」

「尚更気になりますよ!」


ヨームという人がコルトさんの肩を掴んで激しく揺する。お姉ちゃんがその勢いに引いてるのが分かる。僕も引いてる。


「ヨーム! 人に迷惑をかけるんだったら私もう研究に協力しないからね!」

「・・・分かりましたよ。もう・・・マリさんは怖くなりましたね。あれを研究すれば凄いものが作れると僕の直感が言っていたのですが・・・」

「え・・・凄いもの? なにそれ気になる」


コルトはそう言ったあと、「しまった!」と口を手で塞ぐ。


「ほうほう、気になりますか。ではこちらでお話しましょう。あっゴーレムはそこに置いておいて構いませんよ」

「いや、これは小さくして持ち運べるんだよ」

「なんと!?」


なにやら二人で盛り上がり始めた。


「放っておいて行きましょう」

「いいの? コルトさんを回収しなくて」

「好きにさせたらいいわよ。コルトも大人なんだから頃合いを見て帰ってくるでしょ」


それから、村の色んな所を案内して貰って、夕方になった頃、僕達は宿の部屋に戻った。


「はぁ・・・」

「どうしたんだネリィ。帰って来てからずっと元気がないけど」


お父さんが荷物の整理をしながら元気の無いお姉ちゃんを心配そうに見る。


「ジェイクさん、ジェシーさんに惚れちゃったのかしら?」


お姉ちゃんが枕に突っ伏して力なく呟いた。


「ジェシーさん? ああ、マリちゃんのお母さんか。俺もデンガさんに紹介して貰ったけど綺麗な人だったな・・・って人妻だろ? ジェイクさんに限ってありえないだろ」

「でも、美人さんだし・・・このままじゃ、ジェイクさんはジェシーさんへの想いを心の内に秘めたまままた海に戻ることになるんだ・・・ああ、ジェイクさん可哀そう・・・」

「情緒が不安定すぎるだろネリィ」

「可哀そうなのはお姉ちゃんだよ」

「何よ! リアンは恋をしたことがないからそんなことが言えるのよ! 私の気も知らないで気軽に言わないで!」


お姉ちゃんがガバっと起き上がり、僕に怒鳴る。久しぶりにお姉ちゃんに怒られて、体が強張る。


 どうしよう・・・お姉ちゃんを怒らせちゃった。


「ご、ごめんなさい・・・」


 とりあえず、謝らなきゃ。


「ネリィ、今のは言い過ぎだぞ」

「うっ・・・もう寝る!」


お姉ちゃんは夕食も食べずに眠ってしまった。


翌朝、マリさんが道端で大の字で寝ていたらしいウィックを後ろに連れて、「昨日は食べられなかったから」とパン屋ライラックのクルミパンを持って来てくれた。それを皆でおいしく食べたあと、ジェイクさんの腕を治す為に宿の部屋に集まる。


「じゃあ、治すね」


緊張した様子のマリさんが緑の魔石をジェイクさんの失った腕の部分に当てる。


「えいっ!」


マリさんの可愛らしい掛け声と共に、魔石が緑に煌めく。すると、ジェイクさんの左腕が植物のように生えてきた。


「ぐっ・・・これは・・・持ってかれるな・・・!」


数秒でジェイクさんの腕は元通りになった。


「おお! 戻った!・・・けど体が重い」

「良かった~治せたぁ~」


ジェイクさんが元気な声でベッドに倒れ込み、マリさんがへにゃりと椅子に座る。


「お疲れ様マリちゃん」

「うんちょっと疲れた。あと眠い・・・」


そのままコテっとジェシーさんに寄りかかって眠ってしまった。


「私、マリちゃんを部屋で寝かせて来るわね」

「俺が運ぶよ」


デンガさんがマリちゃんを抱いて部屋から出ていく、その後ろにジェシーさんがついていく。


「じゃあ、俺は村長さんの所に移住の件を話に行ってくるよ」

「なら俺も一緒に行こう。ネリィとリアンは待っててくれ、多分ついて来ても退屈だろうから」


コルトさんとお父さんも部屋から出ていく。


「俺はちょっと行きたいところがあるっすから、行ってくるっす」

「ウィックさん、どこに行くの?」

「緑の森っすよ。そこに緑の妖精がいるらしいんすよ。リアンも一緒に来るっすか?」


 緑の妖精・・・ソニアさんがミドリちゃんって呼んでた妖精だよね。僕も会ってみたいな。


「うん。行きたい!」

「じゃあ、行くっすよ! ネリィも一緒に!」

「え・・・あたしは・・・」


お姉ちゃんが気まずそうな顔で僕を見る。昨日の夜からあんまりお姉ちゃんとお話してない。


「ネリィちゃん、ちょっと2人で話せないかな?」

「え、ジェイクさん!?」


ジェイクさんが何やら神妙な顔でお姉ちゃんを呼び止めた。


「ウィック、悪いけどリアン君と先に宿の外で待っててくれ」

「うぃーっす」


宿の前でウィックさんが素振りしてるのを見ながらお姉ちゃんを待つ。


カランカラン・・・


「お待たせ~」


何か肩の荷が下りたような、安心しきったような顔をしたお姉ちゃんが宿から出て来た。


「リアン、昨日はキツく当たってごめんなさい。ジェイクさんに言われたの。リアンの元気がないように見えるって。私ちょっと気が短くなってたみたい」

「ううん。僕もお姉ちゃんの気持ちも考えずに言っちゃったから・・・」

「リアンは悪くないわよ・・・悪いのはあたしで・・・」

「はい! そこまでっす! 何があったか知らないっすけど、楽しくいこうっす!」


ウィックさんがお姉ちゃんと僕の手を引っ張って歩き出す。


 よかった・・・お姉ちゃんと仲直りできた!


「そういえば、ジェシーさんってジェイクさんのお姉さんかもしれないんだって」

「そうなんだ・・・え?」


 お姉ちゃん・・・今なんて?


「ジェイクの姉さんは子供の頃死んだって聞いてるっすけど」


 ウィックさんの言う通り、僕も同じことを聞いた。


「うん。だから、ジェイクさんも本当にお姉さんなのか自信がないんだって」

「そんなの本人に聞けばいいじゃないっすか」

「それはあたしも思うんだけど、きっとそんな簡単な問題じゃないのよ」

「いや、それくらい簡単な問題っすよ。ちょっと俺ジェシーさんに直接聞いてくるっす!」


ウィックさんはそう言った、僕達の手を繋いだまま後ろを振り返った。


「え!? 緑の森に行くんじゃないの!?」

「気になってそれどころじゃないっすよ!」


またしてもウィックさんに手を引っ張られる。


カランカラン


「ジェシーさんいるっすかー!」

「目の前にいるわよ・・・ウィックさんだったわよね? どうしたのよ?」


マリさんを寝かせ終わったらしいジェシーさんが受付に座っていた。


「単刀直入に聞くっす。ジェシーさんはジェイクの姉さんなんすか?」


その瞬間、ジェシーさんの目から涙が零れ落ちた。目を見開いて、ウィックを見ている。


 ウィックさんがジェシーさんを泣かせた。


僕とお姉ちゃんはジトーっとウィックさんを睨む。


「えーっと・・・その・・・」

「や・・・やっぱり、そうなのね・・・? ・・・ジェイク!」


ウィックさんが何やか言うよりも早く、ジェシーさんがダッと立ち上がり、二階に続く階段を駆け上がっていく。上から降りてきたデンガさんがジェシーさんに声を掛ける。


「あ、ジェシー、あの妖精がまた新しい服が欲しいって我儘を・・・ジェシー!?」


デンガさんは慌ててジェシーさんを追い掛け、ウィックさんが僕とお姉ちゃんを両脇に抱えてその後を追う。


「ちょっとウィック! 女の子になんてこと・・・!」

「わわっ、暴れないでくれっす」


ジェシーさんがバタン!と勢い良くジェイクさんがいる部屋の扉を開けて入る。僕達は部屋の中には入らずに様子を見ることにした。デンガさんが不安そうにジェシーさんを見ている横で、お姉ちゃんも不安そうにジェイクさんを見ている。


「ジェイク!!」

「うおっ、姉ちゃん!・・・あっ」


 あ、今ジェイクさんが姉ちゃんって言った。


「やっぱりジェイク! ジェイクよね! 弟のジェイク!」


ジェシーさんがベッドの上で動けないジェイクさんに抱きつく。僕の隣にいるデンガさんから激しい歯軋りの音が聞こえてくる。ちょっとうるさい。


「姉ちゃん・・・なのか・・・?」

「お姉ちゃんよ! 本当に・・・ジェイクが生きてて良かったわ・・・」

「それは・・・こっちのセリフだ・・・あのあと、どうやって・・・」


ジェイクさんが「信じられない」と言わんばかりに目を全開に見開いてジェシーさんを見つめる。


「私もよく覚えてないんだけど、聖女みたいな人に治癒の魔石を使って助けて貰ったのよ・・・ジェイクこそ、どうして生きてたなら顔を出さないのよ! 私、国中を探したのよ・・・」

「いや、だって。姉ちゃんが死んだと思ってたから・・・そのまま姉御に連れられて海に出て・・・」


ジェイクさんの言葉に、ジェシーさんがハッとしたように体を跳ねさせて、納得したような顔で口を開く。


「そういえば海賊なのよね・・・あの可愛かったジェイクがこんな筋肉だるまになっちゃって・・・」

「あっはっは! そういう姉ちゃんは変わらず可愛いままだ」

「フフフッ・・・ねぇジェイク。あれから笑って生きてこれた?」

「ああ、姉ちゃんの言う通り、辛いときでも笑って生きてきた・・・でも、やっぱり心から笑った方がいいに決まってる・・・あっはっは!」


 ジェイクさんって・・・本当はあんな笑い方するんだなぁ。普段とは少し違う。


「泣きながら笑って言われても説得力ないわよ・・・まったく・・・無事でいてくれてありがとう。ジェイク」

「姉ちゃんも・・・あの時は助けられなくてごめん。生きててくれて本当に嬉しいよ・・・本当に・・・ぐっ・・・うぅ・・・あっはっは!」


二人は泣きながら笑い合う。なんでか僕まで泣きそうになった。隣のお姉ちゃんも鼻をすすっている。


「これ以上聞き耳をたてるのは野暮っすね」

「そうね。戻りましょうか」

「うん」

「ぐぬぬ・・・あの男・・・弟とはいえ・・・!」


それから、二日ほどでジェイクさんは動けるようになった。お姉ちゃんがなんとかジェイクさんに村に残って貰えないか奮闘しているのを知ってか知らずか、マリさんが「腕の治療代は要らないから、叔父さんは村に残って欲しい」と可愛くおねだりしたところ、簡単に村に残ってくれることになった。


「じゃあ、マイク船長に一応お別れの挨拶してくるよ。長い間一緒に旅をして来たからな」

「本当っすよ。寂しいっすよ」


ウィックさんがわざとらしく泣き真似をする。


「噓つけ、お前にそんな感情があるわけないだろ」

「ひどいっす!」


ウィックさんとジェイクさんが王都に向かう馬車の前で言い合う。お見送りに来ているのは僕とお姉ちゃんだけだ。ウィックさんが大勢に見送られるのは恥ずかしいと言ってたので二人だけになった。


「ツルツル海賊団だっけ? ジェイクさんが居なくなったら、いよいよまともな人がいなくなっちゃうわね」

「そうなんすよ。こうなったら前の船長を探して土下座してでも海賊に戻って貰うしかないっすね」

「いいんじゃないか? あの姉御のことだ、きっとなんだかんだと面倒を見てくれるかもしれないぞ」


 姉御って・・・ソニアさんのことじゃないよね? 前の船長って女の人だったんだ。


「じゃあ、ウィック。元気でね」

「ウィックさん。お元気で」

「ネリィとリアンも。またねっす」


ウィックさんが馬車に乗り込む。


「ジェイクさん。マイクにお世話になりましたって伝えてください」

「分かったよ。行ってくるね」

「行ってらっしゃい」


二人を乗せた馬車が出発する。僕とお姉ちゃんは手を繋いでくるみ村に帰る。

読んでくださりありがとうございます。次話で三章は終わりです。

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