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125.【ネリィ】大変な航海

「ネリィ! 方角は本当にこっちで合ってるの!?」

「ネリィちゃん! 危ないから船内に入ってて!」

「お姉ちゃん! 魔物がたくさん来てるよ~!」


大きな船の上、周囲は魔物の群れと大嵐、船員は地図も読めない筋肉だるまだらけ、この状況がもう何日も続いている。


 もう! なんなのよ! お父さんは船酔いでダウンするし、コルトは船の中で鍛冶をしようとしてボヤ騒ぎを起こすし、マイクとウィックは魔物を倒すことしか考えてないし・・・リアンは可愛いし!



ソニアちゃん達と別れたあと、皆それぞれ身支度を整えてから出航したあたし達は、マイクとウィックの「来た道を戻るだけだから暫くは地図を見なくても大丈夫だ」という言葉を信じて進路を彼らに任せた訳なんだけど、まさか来た道がこんな地獄みたいな海域だなんて思わなかったわ。


「お姉ちゃん! ここにいたら危ないよ! 早く部屋に戻ろ?」


リアンがあたしの腰にしがみついて、不安そうな顔で見上げる。


「部屋って・・・あたし達の部屋の屋根、魔物に壊されて大変なことになってるじゃない。下の食堂の方も浸水が激しいし・・・もう・・・あたし達ここで死ぬんだわ・・・」


 ジェイクさんが魔物からあたし達のことを守ってくれてなかったら、もうとっくに死んでるし。


「おっかしーっすね。来た時はもっと楽だったハズなんすけど」


ウィックが海面から無数に生えてくる触手を斬りながらへらっと言う。腹立つわ。


「当り前じゃない! 来た時はソニアちゃんとディルも一緒だったんでしょ!? そりゃ今よりは楽でしょうよ!」

「なるほどっす! 言われてみればそうっすね!」


 もう嫌・・・助けてソニアちゃん。


「お待たせしましたー!」


見覚えのあるゴーレムがコルトの声で喋りながらあたし達の前に現れた。


 見かけないと思ったら・・・


「コルト! こんな時に何してたのよ!」

「魔石を調合してたんだよ。ほら」


差し出されたゴーレムの手のひらに小さな穴が開き、そこからウィーンとカラフルな色の魔石が出て来た。


 ・・・知らぬ間に色んな機能が追加されてるわね。このゴーレム。


「これは空と闇と火の魔石を調合した魔石で、発動させれば周辺の魔物達を一掃出来るハズだよ」

「いや、そんな3属性も適性がある人なんて、ここにはいないわよ!」


 風の噂でどこかの国の偉い人が3つの属性を持ってるって聞いたことがあるけど、あたし達には無縁な話ね。


「だから、それぞれの適性を持つ人達で協力するんだよ。その分負担は大きくなるけど、そんなこと言ってられないでしょ?」

「そうね・・・」


 それよりも、コルトがさっきまで籠っていた部屋が燃えてるのが気になるけど、今は大雨だし、ちゃんと消えるわよね? 消えるわよね!?


「まず、この中で闇の適性があるのはウィックしかいないから、ウィックは決定として・・・ネリィの属性は?」

「あたしは土と空よ」

「じゃあ、あとは火だけど・・・」

「それなら俺がやるよ」


ジェイクさんがリアンを襲う触手をカッコ良く斬り伏せながら言ってくれた。


「・・・なるほど、話は分かったっす。俺がこの魔石を持って、ジェイクとネリィが俺の背中に手を当てて無理矢理俺に魔気を流すんすね?・・・これって俺が一番負担が大きくないっすか?」

「よしっ、ウィックは大丈夫そうだな。ネリィちゃんも準備はいいかい?」

「あっ、はい!」


船の進行方向にいる魔物達を一掃するため、船首の先に立つ魔石を構えたウィックの後ろに、あたしは恐る恐ると立つ。


「ネリィちゃんごめんね。落ちないように支えるよ」

「ひゃっ、ひゃい!」


ジェイクさんが大きな体で後ろから支えてくれる。


 片腕のジェイクさんの方がよっぽどバランスを取りにくいハズなのに! 優しいわジェイクさん! ・・・というか距離が近すぎるわよ! お互いの接してる部分が雨で濡れて・・・ぬ、温もりが・・・なんか、もう!もう!


「じゃあ、いくよネリィちゃん。手を添えて」


ジェイクさんの声が耳元で響く。あたしはパニック状態の頭を放置して、ジェイクさんの指示通りに体を動かす。ウィックの背中に触れるジェイクさんの大きな手に、あたしの頼りない手を重ねる。


「ハハハッ、なんかくすぐったいっすね!」

「いいから集中しろウィック、魔気を流すぞ」


あたしとジェイクさんはウィックの背中に魔気を流す。魔石に流すよりも反発が大きい。


「うっ・・・これは結構キツイっすね・・・お、おりゃあああああ!!」


ボスゥン!!!


ウィックの手に持つ魔石から、物凄い突風が出て来て、そこに火が付き、巨大な火炎旋風が船の目の前で巻き起こる・・・と同時に反動で船が凄まじい速さで後ろに飛ばされる。


「おわあああああ! 船がバックしてるっすうううう!!」

「きゃああああああ!!」

「ネリィちゃん掴まって!」


気が付いた時には、危険な海域に入る前の静かな海まで戻っていた。


「ネリィちゃん大丈夫かい?」

「・・・え、へぁ!?」


ジェイクさんに抱きついて倒れていた。


ドクンッ・・・ドクンッ・・・


 ななっ、何してんのあたしぃ! もう心臓がはち切れそうよ! ・・・あれ? この心臓の音・・・ジェイクさんの?


そっとジェイクさんの胸元に耳を当ててみる。


 やっぱりジェイクさんのだわ! ジェイクさんもドキドキしてるんだ!


「あの・・・ネリィちゃん?」

「あっ、いえ! なんでもないです! へへへ・・・」


バッと立ち上がり、笑って誤魔化す。


「いや~・・・ビックリしたね。まさか船が後ろに吹き飛ぶなんて」

「ビックリ・・・あ、そうですよね」


 ビックリしてドキドキしてたのか・・・そりゃそうよね。何を勘違いしてたんだか。きっとジェイクさんの耳が赤いのも別の理由があるに違いないわね。ちょっと自意識過剰になってたみたい。


「おーい! 皆無事かー!?」


マイクがマストの横で大きな声を出して船員達の無事を確認する。


「ウィック、頭から血が止まらないっすけど無事っすー!」

「ジェイクとネリィちゃん、無事だ!」

「コルトとリアン、ゴーレムの中で無傷でーす」

「カーネ、気持ち悪いです。無事じゃないです」


船員全員の生存を確認したあと、皆で地図を見て悩む。


「何も悩むことないじゃない。ここは迂回しましょ」


あたしは地図をぐるッと指でなぞる。


「いやでも、ここが最短で行けるルートなんだよな~」

「それで今振り出しに戻ってきたんじゃない」


渋る海賊達をあたしとジェイクさんで説得して、結果、迂回して安全なルートで船を修復しながら進むことになった。


「はぁ・・・なんでいつも俺の言葉は聞いてくれないのに、ネリィちゃんやソニアの姉御の言葉はすぐに聞くんだろうか・・・やっぱり可愛い女の子だからかな?」


ジェイクさんがあたしの頭に手を置いて微笑む。


「そ、そんな! 可愛いだなんて!」


 それなりに容姿が整ってる自覚はあるけど、ソニアちゃんとか土の妖精様と比べられたらあたしなんて全然よ・・・ううん! あたしは人間でソニアちゃんは妖精だもん、比べたらダメよ!


「いや、前の船長の言うことも聞いてたし、女性なら何でもいいのかもな。ハァ・・・ネリィちゃん達が居なくなったあとが思いやられるよ」


 そうよね。あたしはくるみ村に残るけど、ジェイクさんは海賊を続けるんだ。お父さんに海賊の仲間になることは反対されちゃったし、なんとかしてジェイクさんの怪我が治るまでにジェイクさんを落とさなきゃ!


・・・と、意気込んだのはいいものの、特に何の進展もなく、20日ほどでブルーメというくるみ村があるグリューン王国から一番近い島に着いた。


 水の地方の最西端にある小さな島。ソニアちゃんから色々とお話を聞いて、行ってみたかったのよね。


「海賊旗を隠せ! 普通の商船に擬態して船をつけるぞ!」


マイクの指示で、「海賊船」が「海賊船?」になった。

ブルーメに降りたのは、あたしとリアンとお父さん、それと護衛のウィックだ。


「一緒なのが俺で悪かったっすね」

「別に何も言ってないわよ・・・それに、ジェイクさんはまだ本調子じゃなさそうだし、仕方ないわ」

「ほら、やっぱりジェイクの方が良かったんじゃないっすか」

「いいからさっさといくわよ!」


唇を尖らせたウィックを最後尾に、ソニアちゃんとディルから聞いた魚を料理して出すという宿に向かう。住民に聞いたところ、山の麓にあるそうだ。


ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


突然山の方から物凄い地鳴りのような音が聞こえてきた。


「うおっ! 何の音っすか!?」

「地震か!? ネリィ、リアン、俺から離れるなよ」

「お姉ちゃん・・・」


ウィック、お父さん、リアンがそれぞれの反応を見せるけど、あたしはソニアちゃんからこの音が何なのか聞いているので落ち着いている。


 ・・・って、リアンも一緒に話聞いてたわよね?


「大丈夫よ。ブルーメではこれが日常らしいわ。他の住民は何も驚いてないでしょ?」


周囲から生暖かい目で見られていることに気が付いたお父さんとウィックは黙って頷く。


ドッパァーーン!!


山の頂上から大量の水が噴出して、水が上空から雨のように降り注ぐ。


「うわぁ・・・ずぶ濡れっす」

「わぁ! ソニアさんが言ってた通りだ! 本当に山から水が出てきたね、お姉ちゃん!」

「そうね、でもこのあとに確か・・・」


暫く上空を眺めていると、七色の大きな橋が山の上空に掛かった。ソニアちゃんから聞いた通りね。


「綺麗っす・・・」

「ああ、こうして娘と息子と一緒にこんな絶景を見られて幸せだ」


ウィックとお父さんが感嘆の息を漏らし、リアンがソニアちゃんを見た時のようなキラキラの瞳でソ虹を見上げている。


「本当に・・・素敵ね」

「一緒に見るのが俺で悪かったっすね」


 ・・・そういうところなのよ。もう、いい雰囲気が台無しよ。


あたし達は綺麗な町並みを堪能しながら坂道を登る。土の地方よりも涼しいお陰で快適ね。


「ここが、魚の料理を出す宿っすね」

「凄い並んでるね」

「そうね。あたし達も並びましょ」


結構長い時間待たされて、ようやくあたし達の番になった。


「いらっしゃいませ! お食事ですか?」

「そうっす。四人っす」

「四名様ですね! こちらにどうぞ!」


元気な女性の店員さんが席に案内してくれる。


「こちらがメニュー表になります!」

「プラティちゃーん! こっち注文いいかなー?」

「あ、うん! 今行くー!」


よっぽど忙しいみたいで、若いイケメンな男と、元気な女性の2人でホールを駆け回っている。


「あの男は何人もの女を泣かせてきたに違いないっす」

「どうかしらね。案外あの女性店員とお付き合いしてるかもしれないわね」


 だって目と目で通じ合ってる感じがするもの。あたしもジェイクさんとああいう関係になれたらな。


「えーっと・・・おすすめはサンガヤキ?っていうのみたいだな。俺はこれにしてみるけど、ネリィとリアンはどうする?」


お父さんがそう言ってメニュー表をあたしとリアンの方に向ける。


「あたしも、魚料理はよく分からないから同じのでいいわよ」

「僕も」

「俺はこのオサシミってのを食べてみたいっす」

「じゃあ、決まりだな。すみませーん!」

「はーい、ただいま~」


女性の店員さんに注文を伝えると、急ぎ足で厨房に駆けて行く。


「アンナさーん、さんが焼き3つとメバチの刺身1つおねがーい!」

「分かりました! サラちゃんお刺身は任せるわねー」

「は、はい! 了解しました!」


 ・・・厨房の方も忙しそうね。


「大変お待たせしました。さんが焼き3つとメバチのお刺身です」


ウィック曰くたくさんの女の人を泣かせてきた男性が料理を運んで来てくれた。


「わぁ・・・これ本当にお魚を使ってるの? なんか可愛い形ね」

「だな。リアン、全部食べられるか?」

「分かんない・・・」

「余したら俺が食べるっすよ」


ウィックが山盛りになった白米を前にして言う。


「それがお刺身? まんま生のお魚ね。そのタレに付けて食べるのかしら?」

「そうみたいっすね。いただきますっす!」

「「いただきまーす」」


一斉に食べ始める。


「美味しいわ! でも、今まで食べたことない不思議な食感・・・」

「上に乗ってる葉っぱがいいアクセントになってるな。お酒があれば最高だ」

「もぐもぐもぐ・・・」


 リアンがこんな夢中になって食べるなんて・・・なんか悔しいわね。あたしももっと料理の腕を上げないと・・・。


「おお! これは・・・! 白米が進むっす! ううぅ・・・魚は食べたことあるっすけど、ちゃんと料理したらこんなにうまいんすね! 感動っす!」


何故かウィックが涙を流しながら食べている。周囲の目が恥ずかしいわ。


 いったい今まではどうやって魚を食べてたんだか・・・。


結局リアンは自分の分はちゃんと食べきった。本人曰く成長期らしい。


「じゃあ、そろそろ行くっすか。あんまり他の皆を待たせるのも悪いっすからね」

「うん。いよいよグリューン王国ね」


ウィックが会計を済ませて、宿を出て船に戻る。


「いい? ここからグリューン王国の間には凶暴な魔物が出る海域があるらしいから、迂回するわよ」


 またあんな地獄みたいな経験はしたくないもの。絶対に迂回するわ。


「ええ~、また迂回か? これくらいの短い距離なら直進しても逃げ切れるんじゃないか?」

「ダメ! ここまで来て魔物にやれれてお終いなんてあたしはごめんよ!」

「そんなヘマ俺達はしないっすよ!」

「は?」


低い声を出してギロリとウィックを睨む。


「何でもないっす~」


 うん。これで安全にグリューン王国まで行けそうね。


近くでお父さんが「いつの間にこんなに逞しい娘になって・・・」と呟いた。


 だって、こうでもしないと言うこと聞いてくれないんだもの。オードム王国に来る時のソニアちゃんもきっと今のあたしみたいに大変な思いをしたに違いないわね。

読んでくださりありがとうございます。吊り橋効果というやつですね。

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