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122.親友と下僕と共に

わたしは現在、ディルとマイクと一緒に土の海に来ている。戦場で兵士達から武器を没収した時に、一緒にマイクの大きな魔剣もボッシュートしちゃったので、それを3人で回収しに来た。ディルはただの付き添いだ。


「おーい! 土の妖精~~~!」


わたしが土の海に向かって呼びかけると、海面から勢い良く土の妖精が出て来た。凄く良い笑顔だ。


「待ってたよ~。そこの人間の武器を回収しに来たんだよね」


土の妖精がマイクを指差して言ったので、元気よく「うん!」と頷いた。すると、土の妖精がマイクの横に立っているディルを見て首を傾げた。


「連れていくのは、そこの筋肉と黒い少年の2人?」

「そうだよ。ほら2人とも! 挨拶!」


2人の肩を順番にトンッと叩いて自己紹介をさせる。初対面ではないと思うけど、こういう挨拶は大事だ。


「何回か会ってるけど初めまして、ソニアの親友のディルです」

「姉御の下僕のマイクだ」


 ・・・ん?


「今更だけど、人間を妖精の住処に連れて行ったりなんかしていいのか?」

「本当は嫌だよ。でも雷の妖精の親友と下僕だから特別だよ」

「そっか、ありがとな。ソニアの親友で良かった」

「俺も姉御の下僕で良かったぜ」


 んん!? 下僕にした覚えなんてないよ?


「じゃあ、連れてくよ。人間は足元に気を付けて」

「うわっ、地面が沈む!?」

「うおぉ!?」


土の妖精がディルとマイクの足元を指差す。すると、ディルとマイクが立っている部分の地面がエレベーターのように下に下がっていった。ディルの頭の上に立っていたわたしも一緒に下がっていく。


 うわ~、地層が目の前に見える・・・あっ、なんかの化石だ。


「そういえば、緑の妖精と水の妖精からそこの黒い少年のことは聞いてるんだった」


グングンと地下に下がっていくなか、土の妖精がジトッとした目でディルのことを指差しながら言った。


「え? ミドリさんと水の妖精が? 俺のこと何て言ってたんだ?」

「雷の妖精に危害を加えるような人間ではないって2人とも言ってたよ」

「そりゃそうだ」


 そりゃそうだよ。


何層かの地層を抜けると、急に視界が開けた。

上には波打つ土の海、下にはキラキラと輝く様々な色の鉱物、そしてその合間合間に散らばるわたしが落とした武器とか諸々が見える。


「おいおい・・・もしかして下にある大量の鉱物って宝石か? 海賊の夢みてぇな場所だな!全部でいくらくらいするんだよ・・・」

「うわぁ・・・綺麗な景色だな、ソニア」


マイクがギラギラした瞳で舌なめずりをし、ディルが横で浮いているわたしに向かって、純粋な瞳で微笑む。


 嫌だね、大人って・・・ディルが眩しいよ。


ディルとマイクが立つ地面はどんどん下に下がって行き、土の海底の底に着いた。ディルの背丈くらいある大きな宝石が地面から無数に生えていて、その間に挟まるように武器がたくさん落ちている。よく見てみると、武器ではないよく分からない物もたくさん落ちている。


「じゃあ、私と雷の妖精はここでお話してるよ。あなた達は探し物を探しててよ」


土の妖精がわたしの服の端っこを掴みながらディルとマイクに指示を出す。


「おう! ありがとな土の妖精!」


マイクが「よしっ!」と気合を入れて武器を物色し始めた。


「なぁ、そこら辺に転がってるヘンテコな物って何なんだ? 明らかに戦場にあった物じゃないよな?」

「それは昔の人間が使ってた道具だよ。たまにどこからか流れて来てここに落ちるんだよ。気になるんだったら好きな物持ってっていいよ」

「本当か!? ありがとう土の妖精!」


ディルが「よっしゃ!」と意気揚々とガラクタの山に突撃していった。わたしは土の妖精にいい感じの岩場に座らされたので、そこでディル達を眺めることにする。


「じゃあ、わたし達はここでのんびりして・・・」


(ソニアちゃん!)


「うひゃあ!」

「わぁ! 急にどうしたの雷の妖精!?」


急に頭の中でマリちゃんの声が響いた。驚いて飛び上がったわたしに驚いて土の妖精がひっくり返った。


「ご、ごめん土の妖精。ちょっと待ってて」


土の妖精に一言謝って、わたしは後ろを向く。ディル曰く、わたしは人と話してる時に表情がコロコロと変わるらしいので、昨日虹の妖精・・・じゃなくてナナちゃんとお話してる時に凄く恥ずかしい思いをした。だから後ろを向いて通信する。


 マリちゃん?

(うんマリだよ。 久しぶり!)


マリちゃんの元気な声がわたしの疲れ切った心を癒してくれる。


 久しぶり~・・・どうしたの?

(どうしたの・・・じゃないよ。昨日ナナちゃんからソニアちゃんとお話したって聞いて、今日連絡くれるって聞いたからずっと待ってたのに! 全然こないんだもん!)

 あ~・・・ごめんね。朝早くに連絡するのも迷惑かなって思って、お昼過ぎくらいに連絡するつもりだったんだよ。・・・こういうところは、日本人が抜けてないよね。

(え、ニホンジン?・・・それより私、ソニアちゃんに報告したいことがあるの!)

 なになに?

(えっとね~、村の名前が決まったんだよ! くるみ村!)

 わお! シンプルで覚えやすい名前! 実際にクルミの木が植えてあるしぴったりだね!

(でしょ? 適当に考えたの!)

 そういえば、そんなアドバイスしたっけね。

(ねぇねぇ、ソニアちゃん達は今どこにいるの?)

わたし達はね~・・・


わたしはマリちゃんにブルーメを発ってからのことを、マリちゃんにも分かりやすいように簡単にお話した。


 それで、怪我をしたジェイクをマリちゃんに治してもらいたいと思ってるんだけど・・・マリちゃんって治癒の魔石持ってるよね?

(うん、持ってるよ。たまに怪我をしたお父さんをそれで治してあげてるの・・・でも失くなった腕なんて見たことないし、治したこともないよ・・・)

 そうだよね。ごめんね。いきなり無茶なこと言って・・・気にしないでね? 腕が失くなった当の本人はそんなに気にしてないから。

(ううん・・・ううん。 私、治せるかも)

 え? 治せるの!?

(うん。前にミドリちゃんのところにパンを・・・じゃなくて、ルテンお姉ちゃんの美味しいパンを届けに行った時に、緑の適性が高いよってミドリちゃんに言われたの)

 そうなんだ! わたしもマリちゃんなら治せると思ってたよ! ・・・というか一部誰かに言わされてない?

(ユワサレテナイヨ?)

そう?・・・まぁいいや。とにかく、近いうちに筋肉だらけの強面海賊団がそっちに行くけど、優しくて面倒見の良い人達だから、歓迎してあげてね。

(うん、分かった。ソニアちゃんの新しいお友達だもん。当たり前だよ)

 

それからマリちゃんと他愛のないお話をして、通信を切った。マリちゃんは最近ヨームの研究とルテンのお店のお手伝いで忙しいみたいだ。わたしとお話ししている間もルテンのお店にいたらしい。


「ふぅ・・・」

「終わった?」

「ふぁ!?」


目の前に土の妖精の顔があった。とてもいい笑顔だ。


 ずっとそこにいたの? ぜんぜん気が付かなかった・・・。


「えっと・・・ごめんね?」

「ううん、いいよ。誰かとお話してたんでしょ?・・・それに、お話中の雷の妖精の顔が面白かったよ」

「ずっと見てたの?」

「そうだよ。可愛かったよ」


 次にマリちゃんとお話する時は人がいない場所でしよう。


土の妖精がニヤニヤしながらツンツンとわたしの頬を突っついてくる。頬を膨らませて抵抗していると、ガラクタを物色していたディルが大きな額縁のような物を持って元気に走ってきた。


「おーいソニア~、見てくれよコレ! デッカイ変な絵! そこに落ちてた!」

「うわっ・・・なんて斬新的で芸術的な絵画なの!・・・・要らないから元あった場所に捨てて来なさい」

「はーい」


ディルが元気に走り去っていった。暫く土の妖精とお話していると、またディルが変な物を持って走ってきた。


「見てくれよソニア! カッコイイ腕輪!」

「ディル・・・それは腕輪じゃなくて腕時計だよ・・・え!? 腕時計だよ!?」

「うおっ! なんだよ!?」


わたしはディルが左腕に付けている黒い腕時計にしがみつく。


 本当に腕時計じゃん! しかもデジタルっぽい! 動いてないけど!


「懐かしいものを付けてるね。昔の人間は皆コレを見ながら生活してたんだよ」

「土の妖精、これが何か知ってるの?」

「これの開発に携わったんだよ。多分雷の妖精なら動かせるハズだよ」


土の妖精が懐かしいような、それでいて寂しそうな表情で腕時計とわたしを見る。


 わたしでも動かせるっていうことは、電気だよね。


ディルが付けている腕時計に電気をちょびっと流してみる。


 ピピ!


「おお! なんか数字が出てきたぞ!」

「本当だ・・・これが時間で、これが日付かな?」


ディルと2人で腕時計を覗き込んでいたら、土の妖精がずいっと間に入ってきた。


「それはね、この星の回転や火の星の位置とかを感知して、自動で日時を教えてくれるんだよ」

「すごいんだろうけど・・・俺、コレをどうやって見ればいいのか分からないぞ」

「えっとね~・・・」


腕時計に顔をくっつけて数字を見る。

『4,945,573,220』『32/400』『11:24』と表示されている。


「一番下のこれが時間で、真ん中のこれが日付かな? んで、一番上の長いやつが・・・なにこれ?」

「それは年数だよ」


土の妖精が教えてくれる。


 いや、なっが! 前の世界で西暦を考えた人は天才だよ。じゃないとこんなんなるからね。


「それにしても、これ土の妖精が作ったの? すごいね!」

「私は協力しただけだよ・・・ずっと昔に緑の妖精が「お昼寝に最適な時間を知りたいわ」って我儘を言って、それで皆で考えて協力して腕時計を作ったんだよ。緑の妖精はなんだかんだで末っ子だから、皆甘くなっちゃうんだよ」

「へぇ~・・・妖精にも末っ子とかってあるんだな」

「じゃあ今はわたしが末っ子だね!」


わたしがそうおどけると、土の妖精はニコリと優しく微笑んだ。


それからわたしと土の妖精でディルに時計の見方を教えていると、マイクが大きな魔剣を肩に乗せて戻ってきた。


「やっと見つけたぜ~・・・」

「お疲れ様~、思ったよりも早かったね!」

「まぁ・・・そう・・・かもな」


 だってこの量だもん。わたしは丸一日掛かるっても見つかんないんじゃないかと思ってたよ。


「これなら今日中にもう一個の用事も済ませられそうだな」


ディルがそう言ってソワソワしだした。


 あっ、もしかして・・・。


「冒険者ギルド?」

「ああ、俺は冒険者登録をするんだ。カッコイイから!」


歯をキラリと見せて得意げになっているディルに、マイクがコクリと頷く。


「まぁ、これからのことを考えるならしておいた方がいいかもな」

「え、なんでだ?」

「は? 知らないのか? じゃあ何で冒険者登録するんだよ」

「だから、カッコイイから」


 ・・・本当にカッコイイからって理由だけで冒険者登録しようとしてたんだ。いや、わたしも知らないんだけどさ。


「まぁ・・・そこら辺はギルドで説明して貰えるさ。それよりも、一旦宿に戻って飯食おうぜ」

「だなだな!」

「そうだね。そろそろウィック達もお城から戻って来てるだろうし」


わたし達が土の海に出発する少し前に、ウィックとネリィ達親子はお城に向かっていた。流石にこれだけ騒ぎを起こしておいて知らぬ存ぜぬというわけにもいかないので、ウィック達はその事後処理だ。今回の一連の流れを知ってる人がいた方がいいからね。


本当はわたしも行った方がいいんだろうけど、つまんなそうだったから、マイクの魔剣を回収するのを言い訳に辞退した。多分ディルも似たような理由でわたしに付いて来ている。


 難しいことは大人達に任せようってことだね。だってわたしまだ8歳だから。


「雷の妖精。ここを発つ前にまた会いに来てよ」

「うん。分かった!」


お別れが迫ってきて少し元気がなくなっちゃった土の妖精に地上まで送ってもらって、わたし達は宿に戻った。

読んでくださりありがとうございます。もうすぐ3章も終わりです。

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