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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第3章 回る妖精とよわよわ鍛冶師

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119.【ディル】お前に任せて俺は先に行く!

「ディルの目標って何?」


ソニアの小さな声が暗い部屋の中に響く。声が小さいのはソニアが眠い証だ。


「それは・・・いつか達成した時に話すよ」

「なにそれ?」

「すぅすぅ・・・」


俺は寝たふりをした。


 だって、言える訳が無い。ずっと俺の隣で笑っていて欲しいなんて・・・ソニアの隣に相応しい男になるのが俺の目標だなんて・・・ずっとソニアの一番でいたい・・・なんて。


いつの間にか本当に眠っていたみたいだ。目が覚めるとまだ深夜だった。


 寝るのが早かったからかな。変な時間に目が覚めたな。


皆はまだ眠っている。


 ソニアは・・・。


テーブルの上ではソニアが手を上に上げてバンザイの姿勢で寝ていて、服がはだけかけている。


 ・・・俺に寝相が悪いって文句言うくせに、ソニアだって別に寝相が良い訳じゃないんだよな。


ネリィには破廉恥だとか言われたけど、ついその胸元に目がいってしまうのは男としてしょうがないことだと思う。ましてや好きな人だ。


 ・・・水でも飲むか。確か厨房に氷があったよな。


厨房にある火の魔石が付いた白い箱を開けると、たくさんの氷が入っている。その氷をコップに入れて、さっきのソニアを思い出して悶々とした気持ちで部屋に戻る。


 ・・・ソニアって、本当に八歳なのか? たまにもっと幼く見えるし、もっと大人に見える時もあるんだよな。


そんな、考えてもどうしようもないを考えながら部屋の扉を開ける。


 あれ? 風が・・・


部屋の中に風の流れがある。おかしい。


カタン


窓際で物音がした。黒いマントに身を包んだ男が立っている。俺はすぐに身構える。


 背丈からしてこの地方の人間では無い・・・いったい誰だ?


窓から流れてくる風は異様な臭いがしていて、すぐに睡眠薬か何かの類だと気付いた。俺は慌てて手で自分の口を塞いだ。


 どおりで誰も起きてこないわけだ。


男の手には、さっきまでテーブルの上でだらしなく寝ていたソニアが掴まれていた。起きてはいないけど、羽を掴まれて苦しそうな表情をしている。拳を握る力が自然と強まる。


 狙いはやっぱりソニアか・・・!


俺に気付いた男は、ソニアを持ったまま慌てて窓から飛び降りようとする。


 そのまま逃がすかよ!


手に持っていた鉄のコップを思いっきり男の後頭部目掛けて投げつけた。ゴッと鈍い音と共に、男が窓の下へと落ちていく。手に持っていたソニアと一緒に・・・。


「あっ・・・ソニア!」


俺は勢いよく窓の淵を蹴って、空を裂くように飛び降りる。グルグルと回転しながら落下するソニアをキャッチして、トンッと地面に着地した。直後、隣にさっきの男も落下してきた。完全に気を失っているみたいだ。ついでに落ちどころが悪かったのか腕が変な方向に曲がってる。


「ソニア無事か!?」

「すぅ・・・すぅ・・・」


ソニアは俺の手の中で何事もなかったかのように小さく寝息を立てていた。ホッ肩を撫でおろしたあと、隣に横たわっている男に視線をやる。黒いマントを剝がしてみたけど、俺の知らない男だった。


「こいつ・・・どうすりゃいいんだ?」

「・・・」


答えてくれる人は誰もいない。


「とりあえず、動けないようにして冒険者ギルドの前にでも置いておくか」


近くにあった倉庫からロープを拝借して男をグルグル巻きにしたあと、ソニアを元の位置に寝かせて、冒険者ギルドまでその男を担いでいく。


 ハァ・・・変な汗かいたな。戻ったらもう一回シャワーを浴びよう。


冒険者ギルドは夜間でも働いている人がいるみたいで、俺は冒険者登録をしてないけど特別に引き取ってくれた。ギルドの人曰く、ソニアを攫おうとした男は名のある賊の一員だったそうだ。


 どうしてその名のある賊がソニアを狙うんだ・・・?


宿に戻った俺は、とりあえずウィックを叩き起こして事情を説明する。薬の効果はもう切れてるのか、すぐに起きた。


「・・・なるほどっす。闇市場が雇った刺客ってとこっすかね」


ウィックが窓の外を警戒しながら顎に手を当てて難しい顔をする。


「このままここにいて大丈夫か?」


 今回は運良く俺が気が付いたけど、もし俺まで眠らされてたら危なかった。次狙われても守れる自信がない。


「場所は今更変えられないっすよ・・・朝になれば流石に大丈夫だと思うっすけど、夜の内は警戒した方がいいかもっすね。とりあえず朝日が昇るまで俺が外で見張ってるっすから、ディルは休んでていいっすよ」

「分かった。助かるよ」


ウィックが立ち上がり、部屋の扉を開けてニヤリと意地悪そうな笑顔でこちらを振り返る。


「・・・寝ている姉御に変なことしてないっすよね?」

「変なって・・・っ!しししてないわ! さっさといけ!」


 ちょっと胸元を見つめちゃったことは、変なことの内に入らないよな!? だって男だもん! しょうがないだろ!?

 ・・・・・・なんか犯罪者みたいな考えだな。反省しよ。



翌朝・・・俺はソニアの電撃で起こされた。助けてあげたのに酷い仕打ちだ。別にわざわざ言って不安にさせるつもりもないんだけど。



「じゃあ、わたし達は行くね! そっちも頑張って! 信じてるから!」

「ソニア達もな!」


ソニアと土の妖精がコルトを連れて戦場に向かっていった。


「俺達も行動開始だな」

「そっすね。船を運び終わったって言ってたっすし。ジェイクの方も動き出してる頃っす」


左手に魔石の手袋を履いて、魔剣を手に持つ。


「ディル達も行くの?」


ネリィが心配そうに俺達を見る。


 ツンケンしてるけど、俺達のこと心配してくれるんだな。


「ああ、行ってパパっと終わらせて来るよ」

「そしてジェイクさんの方も手伝ってあげてね。行ってらっしゃい。気を付けて」

「おう!」


 ・・・心配してるのはジェイクのことかよ。


城門の騎士を気絶させて城に突入する。


「二度目だし流石に警備が厳重になってると思ってたけど、そうでもないな」


 もっと騎士やら兵士やらがびっしり配置されてるもんだと思ってたんだけどな。


「厳重にはなってるっすよ。城門の見張りが兵士から騎士になってるし、城内ですれ違う騎士の数も多いっす。単純にディルが強くなってるんすよ」

「なら良いことだ!」


城の階段を一階から四階まで一気に駆け上がる。


「ところで、王様がどこにいるのかウィックは知ってるのか?」

「知ってるっすよ。四階っす」

「だろうな」


 ウィックを当てにしてた俺が言えたことじゃないけど、もう少し作戦を練った方が良かったんじゃないだろうか。


俺の考えてることが伝わったのか、ウィックは真剣な顔で今初めて作戦会議を始めた。


「王様のあの異常な身体能力は恐らく衣装にたくさん付いていた闇の魔石を全て同時に発動してるからっす。あれは体に負担が大きいから長続きしないっす」

「なるほど」

「・・・っす」


作戦会議が終わった。


「・・・かと言って長期戦に持ち込むつもりは無いぞ。ジェイクの方も心配だからな。魔石を破壊していく方向で考えよう。もちろん隙があればデッカイ呪いの魔石を優先して破壊するけど」

「それがいいっす」


四階に到着したと同時に騎士達に囲まれた。10人以上はいるだろうか、剣や槍を構えてじりじりと近寄ってくる。


 まいったな、急いでるのに。仕方ない・・・ここは片方が足止めするしかないな。


「ここはお前に任せて俺は先に行く!」

「それ何か違くないっすか!? まぁいいっすけど!」


ウィックが騎士達を食い止めてる間に俺は先の廊下を進む。


「・・・で、どこに迎えばいいんだ?」


 片っ端から部屋の扉を開けてくか・・・?


「偉そうな人間なら一番奥の部屋にいるみたいだよ」

「そうなのか! ありがとう・・・え?」


いつの間にか俺の横を無表情の鉄の妖精が並走していた。


「なんでここに!?」

「土の妖精に置いて行かれたんだよ」

「それは・・・ドンマイ」

「人間に同情されたくないよ。それより、今から偉そうな人間を殺しに行くんでしょ? 俺も手伝う? 暇なんだよ」


 暇だから殺しを手伝うって・・・ソニアと同じ妖精とは思えないな。いや、人間に対する価値観が違うだけで似てるのか?


「殺しはしないよ。それと手伝いはいらない・・・本当にやばそうになったら助けてくれ」

「分かったよ。じゃあ、やばくなるまで見物させて貰うね」


そう言って鉄の妖精は姿を消した。


 ・・・そういえば、ソニアはまだ姿を消せないって言ってたな。いるかいないか分かんないのは何か怖いから、このまま消せないままでいて欲しい。


「あれが一番奥の部屋か」


バァン!


俺は思いっきりドアを蹴っ飛ばした。この方がインパクトがあってカッコイイ気がする。部屋の中では王様が執務机で書類仕事をしていた。


「外が騒がしいと思ったら、またお前か・・・」

「問答無用!!」


俺は魔剣を抜いて一気に王様との距離を詰めて、呪いの魔石目掛けて切りかかる。王様は慌てて床を転がって躱した。


 やっぱり・・・魔石による身体強化が凄いだけで王様自体の戦闘能力は見張りの兵士とそう変わらない!


「いい加減にしろよ! ダリウスはいつの間にか冒険者ギルドに引き渡されてるし! 妖精には滅茶苦茶言われるし! 闇市場の奴らは命令を聞かねぇし! カレーうどんの汁は服に跳ねるし! 全部お前らのせいだろ!」

「半分は関係ないし!!」


眉間にシワを寄せた王様が壁に立て掛けてあった剣を取って、俺に切りかかってくる。俺はそれを左手の鞘で受け止めた。


 大丈夫。ギリギリだけどあのスピードについて行けるぞ! よく観察すれば戦い方が素人に毛が生えた程度だ。予備動作を見逃さなければ十二分に戦える!


王様が凄まじい速さで切りかかってくるのを後ろに跳んで避ける。トンッと壁に背中が当たった。


「死ねぇ!!」

「顔が怖い!」


王様が魔物よりも恐ろしい形相で剣を突き刺してくるのを、後ろの壁を蹴り、天井を蹴り、王様の後ろに着地して躱す。そして、その勢いのまま魔剣で衣服の魔石を1つ破壊する。



パリィン!


 この戦い方・・・いいな。


「くっ・・・魔石がっ・・・何だその魔剣は!?」


王様が怒ったジェシーよりも恐ろしい形相で俺の魔剣を睨む。


「この魔剣は笑顔と勇気で出来てるんだ!」

「ふざけんな! 魔石と素材だろ!」


王様はブチギレだ。近くにあった椅子を蹴り飛ばし、さっきと同じように剣を突き刺してくる。


 単調だな。もう予備動作云々じゃなく、普通に次の攻撃が予測できる。・・・何をそんなにイラついてるのか知らないけど、呪いの魔石を破壊すれば元の性格に戻るハズ!


俺は床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、たまにフェイントをかけながら王様の衣服に付いている闇の魔石を次々と破壊していく。


・・・そして、残りは呪いの魔石だけになった。


「ハァ・・・ハァ・・・何なんだお前は・・・目的は!?」

「俺の目的はその首からぶら下げてる呪いの魔石を破壊して戦争を終わらすことだ!」


魔剣の切っ先を魔石に向けてそう宣言する。


「呪いの魔石? 戦争を終わらす? ・・・何言ってんだお前?」


王様は眉をひそめて首を傾げる。


 自覚は無いのか?


「自覚が無いのかもしれないけど、その魔石は呪いの魔石って言って使用者の心に悪影響を及ぼす物なんだよ」

「あ~・・・そういえばそんな噂が城内で出回ってたこともあったな・・・阿保が、これはただの身体強化の闇の魔石だ。ただ品質が良いだけのな」

「は・・・? そんなわけ・・・」


 だって、その魔石を身に付ける前までは普通に良い王様だったって聞いている。やっぱり自覚が無いだけなのか?


「そんなに疑うならこれを破壊してみろよ。どうせもう俺に勝ち目は無いんだ・・・好きにしろ」


王様は首から下げていた魔石を外して、俺に向かって放り投げた。それを一刀両断する。ゴトッと真っ二つになった魔石が床を転がった。


「それで・・・俺は何か変わったか?」


そう言いながら王様は俺に向かって剣を投げる。俺はその剣を鞘で払う。


「変わって・・・ないのか?」

「変わった感じはしねぇなぁ」


 本当にただの闇の魔石だったのか・・・。


「じゃあ何で・・・何で戦争を始めたんだよ!」

「そんなの決まってるだろ。この国をより良くするためだ。それが亡き父上の遺言だったからな」

「国を良くするために戦争を始めたのか?」


 意味が分からない!


「ああ、オードム王国の鍛冶技術を取り込んで別方向に活かせば、この国の生活水準は格段に向上する」


 もしかして、こいつ・・・国を良くしたい、父親の遺言を叶えたいっていう良心だけで戦争を始めたのか・・・?


「じゃあ、その性格は? 前はもっとマシな性格だったんだろ?」

「喧嘩売ってんのか? ・・・俺は元々こういう性格だ。土の大妖精様との交渉に、なかなか思い通りに動かない闇市場と協力しながらオードム王国との戦争・・・取り繕う余裕が無かったんだよ」


王様は力なく椅子に座り、頭に付けていた王冠を投げ捨てた。急なことに俺は警戒する。


「闇市場と手を組んだ時点で薄々こういう結果になるんじゃないかと思ってたんだ。無駄な抵抗はしねぇよ」


 こいつにはこいつの事情があったんだろう。でも、それは王様だけじゃない。戦場で戦っている兵士や騎士、俺達だってそうだ。いちいち同情するつもりは無いけど、先代の王様の遺言は叶ってほしいと思う。


「ディル! 遅くなったっす・・・あれ? もう終わってる感じっすか?」


俺が蹴り飛ばした扉からウィックが慌てた様子で駆け込んで来た。


「ああ、さっきな。こいつ・・・どうすればいいんだ?」

「冒険者ギルドに任せるって言いたいとこっすけど、国のトップっすからね。俺もどうすればいいのか分からないっす。とりあえず拘束しておくっすね」


ウィックがどこからか縄を取り出して、王様を縛り始める。


「俺が生まれたのは先々代がまだ健在だった頃、父上と母上がカイス王国に向かっている最中だった・・・」


縄で縛られている王様が急に物憂げな顔で語り出した。


 あ、これ長くなるやつだ。


「じゃあウィック。ここはお前に任せる! 俺は先に行ってるな!」

「え!? またっすか!? しょうがないっすけど!」


王様が感慨深い気持ちになるのも分かるけど、長話に付き合っている暇は無い。俺は急いでジェイクがいるであろう土の海に停まっている大きな帆の無い船に向かった。



ドカァン!!


俺が土の海岸に着いた途端、船の中から大きな岩が飛び出してきた。


 あれって・・・鍛冶工房でコルトがゴーレムの手から発射してたやつか? なんか分かんないけどあそこに行けばいいんだな!


船に空いた穴から船内に入ると、やっぱりゴーレムが居た。でも何故か動いていない。とりあえず近くにいた船員達を倒す。


「ジェイクさん!!」


ゴーレムの奥、鉄格子の向こう側からネリィの悲痛な叫び声が聞こえた。慌てて視線を向けると、船員がジェイク目掛けて剣を振り下ろしている瞬間だった。


 マジか!! ・・・間に合ええええ!!


スコーン!!


剣を持った船員が倒れた。間一髪間に合ったみたいだ。


 王様の自分語りに付き合わなくてよかった・・・。


「遅くなった!! 無事・・・ではなさそうだな」

「ディル!!」

「兄貴!!」


魔剣の鞘を拾って、倒れているジェイクに目をやると、右腕が無くなっていた。


 これは・・・事情はあとで聞いて先に戻った方が良さそうだな。物凄い大怪我だけど、癒しの魔石を使えば治る。そんな魔石を使えるほど緑の適性が高い人は滅多にいないし、かなりお金が掛かるってデンガかジェシーが言ってた気がするけど・・・治せなくは無い怪我だ。


3人をゴーレムの中に乗せさせて、俺はゴーレムの肩に乗って船の出口に向かう。なんだか恥ずかしい。


「俺の頭の上に乗ってるソニアっていつもこんな気持ちなのかな」


 ・・・なわけないか。恥ずかしかったら乗らないよな。むしろソニアを乗っけて街中を歩いてる俺が恥ずかしい・・・可愛いからいいんだけど。


ドスドスと歩いて船から出ると、目の前に懐かしい人物が立っていた。俺はゴーレムから降りて、他の3人を先に行かせる。


「久しぶりですね。デル」

「デルじゃない、ディルだ」


俺のことをデルと呼ぶ老人・・・ミーファおばさんが村長になる前の村長で、ソニアを村の為とか言って売り飛ばそうとした奴。


「アボン! なんでこんなとこに・・・」

「アボンは息子の名前です。私はアバンです」

「どっちでもいい! 何でここに・・・闇市場と何か関係があるのか!?」


観光でこんなところにいるハズがない。十中八九闇市場と関係あるんだろうけど、一応確認してみる。


出来れば違って欲しいんだけど・・・。


「簡単な話ですよ。牢から出た私を闇市場が拾っただけです。私こそ、こんなところにデルがいるなんて思って無かったですよ。ソニア様は元気ですか?」

「・・・」


俺が押し黙っていると、急に辺りが暗くなった。上空を見ると、大きな円盤の表面に大きなニッコリマークがこちらを見ていた。。その外周をソニアが回っている。身体強化をしてようやくソニアの綺麗な金髪が見えるくらいの速さだ。


 凄いなソニアは・・・いや、俺もあの頃とは違う。今更ビビるような相手じゃない。ただの老人だ。


「ソニアならあそこで元気に回ってるよ」


俺がそう言うと、アバンは一度上空に視線を向けたあと、ニヤリと笑って俺を見る。


「実はですね。闇市場のお偉い方がもう一度妖精を捕まえることが出来たら、私をあの村の村長に戻してくれると言ってくれたんですよ」

「は? 何言ってんだよ。そんなこと出来るわけない・・・」


言いかけて気付く。村長が泣いていることに。


「お前達のせいで私は村長じゃ無くなった! ただ村を守りたかっただけなのに!!」

「あれは・・・自業自得だろ!!」


 村長がソニアを売るようなことをするからだ! 何も俺達のせいじゃない!


「・・・知ってますか? 実は私はデルと同じで緑の地方生まれでは無いんですよ」

「急に何を・・・」


アバンが右腕を俺に向かって突き出す。その手には大きな闇の魔石があった。


 闇の適性があったのか!?


俺は急いで魔剣を構える。


「もう一つ教えて上げます。呪いの魔石はハズレと言われることが多いですが、アタリもちゃんとあるんですよ!」


 何をするつもりか知らないけど、魔石を破壊してしまえばそれまでだ!


地面を蹴る。


「止まりなさい!!」

「・・・っ!」


 体が動かない・・・!?


魔剣をアバンに向けたまま体が動かなくなった。


「さすが闇市場ですね。こんな代物を用意出来るとは・・・」


アバンは魔石を気味の悪い笑顔で見つめてそう言ったあと、再度魔石を俺に向ける。


「これは他人を強制的に操る呪いの魔石です。対象は闇の適性を持つ人間に限られますが、デルにはちょうどいいですね」


 くそっ・・・ずるいぞそんなの! 俺に何を命令するつもりだ!


「命令します。このことを悟られずにソニア様を身動きのとれない状態で私の元に連れて来なさい。その後、ソニア様に関すること全てを忘れなさい」


 ふざけるな!ふざけるな! いやだ!いやだ! そんなことしたくない! 忘れたくない! 俺は・・・この気持ちを忘れたくない!!


「では行きなさい」


俺の身体が勝手に魔剣を鞘に納める。そして勝手に歩き始める。


俺はもう何も出来ない。・・・でも見えた。お城の窓から飛び降りて向かってくるウィックと鉄の妖精が。


 鉄の妖精・・・全然助けてくれないと思ったらウィックを呼びに行ってたのか・・・。


「ああ、それからデル。もし邪魔しようとする者がいれば容赦なく殺し・・・ぐふっ!?」


アバンの胸元をウィックの剣が後ろから貫いた。


「まったく・・・王様の長話に付き合ってる暇じゃかったっすね」


ザシュ!!


ウィックがもう片方の手で持っていた短剣でアバンの首を撥ねる。ゴトッとアバンの頭が地面に落ち、数秒後に身体が血を吹き出しながら倒れた。・・・同時に俺の体は自由を取り戻す。


「鉄の妖精からこっちの状況を聞いて慌てて駆け付けてきたっすけど・・・間に合ったっすよね?」


ウィックが返り血を手で拭いながら首を傾げる。


「あ、ああ・・・それより、その・・・アバンは・・・」

「見ての通り、死んだっす」


ウィックは何でもないようにそう言った。


「本当は姉御の言う通り殺しはしたくなかったんすけど・・・しょうがないっすよ。俺じゃあ魔石を破壊出来ないっすから使用者を殺すしかなかったっす」


 アバン村長は俺がちっちゃい頃から知ってる人で、よく家に遊びに行ってたりもしてた。前は村想いの良い人で、決して悪い人では無かった。なのに・・・どうして・・・。


「知り合いだったっすか?」

「・・・俺の村の村長だったんだ。昔はよく遊んで貰ってた」

「それは辛いっすね」

「ああ・・・でも、こうなるしか無かったんだ。そう割り切って前に進むよ。ありがとなウィック、助けてくれて、俺の大切なものを守ってくれて」

「弟子の為っすからね!」


俺は地面に転がっている呪いの魔石を破壊して、ウィックと一緒にアバンを地面に埋める。


「あ、ディル。見るっすあれ」


ウィックが土の海の方を指差す。浮いていた鉄の円盤が消え、くっ付いていた武器が土の海に落下していっている。


「おっ、ソニアだ」

「え? どこっすか?」


土の妖精の横でフワフワと浮いている小さな岩の上で、ヘニャリと座って目を回しているソニアが見える。俺達に気付いたソニアが笑いながらこっちに手を振っている。


「ソニアには内緒にしてくれないか? あの笑顔が曇るのは嫌なんだ」

「いいっすよ。こういう役回りには慣れてるっすから・・・でも、ディルは大丈夫なんすか? 1人で抱え込んだりして」

「ソニアの為ならどんな闇だって飲み込む。そう決めたんだ。さっきのウィックを見て」

「・・・そうっすか。ディルがそう決めたんなら何も言わないっす」


 まぁ・・・今回みたいなことがそう何度も起こるわけ無いと思うけど。一応覚悟だけはする。

読んでくださりありがとうございます。さらっと新事実を聞き流すディルでした。

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