11.さようならボトルさん
「よし!この鍵貰っていくね!」
やっとボトルから出られたわたしは、コンフィーヤ公爵から鍵の束をぶん取って地下牢へ向かって飛び出した。
「ぎゃー!」
アボンの横を通り過ぎようとした時、突然わたしはアボンに体をガシッと掴まれた。
掴むならもっと優しく!・・・というか、掴まないで!
「もう!せっかく自由になれたのに!放してよ!」
「クソッ・・・サム!馬を出すぞ、ついてこい!」
「は・・・はい!」
アボンは鍵の束を持ったわたしを持って、走りだそうとした。
「させると思いますか?止まりなさい」
コンフィーヤ公爵が赤い石をアボンに向けて構えて立ちふさがる。伯爵も使っていた、あの炎が出る石だ。
「魔石か・・・やれるものならやってみろよ!」
「え?ちょ、ちょっと!待って!」
魔石を構えるコンフィーヤ公爵に対して、アボンはわたしをコンフィーヤ公爵に向けて突き出した。
このままじゃ、わたしが燃えちゃうよ!
「くっ・・・」
「行かせてもらうぞ!」
悔しそうに魔石を持った手をおろしたコンフィーヤ公爵の横を通り過ぎて、お店の外へ出た。お店の横にあった小さい馬小屋からで餌を貪っていた2頭の馬にそれぞれ騎乗して、大通り目掛けて走り出す。アボンはわたしを片手で持ったまま馬を走らせている。
そして、大通りに出た。
今だ!
「誰か助けてーーー!悪い人に誘拐されるーー!」
わたしは叫んだ。助けを求めて。
「おい!黙れ!」
「うぐっ・・・苦しいから!やめて!」
アボンがわたしを握っている手に力を入れる。わたしはアボンの手を片手で必死にペシペシと叩くけど、気にするそぶりも見せない。
「旦那様・・・この後はどうしましょう?」
「この国を出る」
「しかし検問は・・・・」
「なんとかする。最悪、このまま勢いで・・・」
ゴツン!
「ヒヒーン!」
「なんだ!どうした!?」
何か鈍い音がしたあと、アボンが乗っていた馬が暴れだした。アボンは片手で手綱を掴んでいたのもあり、簡単に落馬する。そして、わたしはアボンの手から解放された。わたしは未だに鍵の束を持ったままだ。
やった! 自由だ!
「旦那様!無事ですか!?」
「何が起きたの?」
わたしはとりあえずアボンの手の届かない位置まで飛び上がって、何が起きたのか確認するために辺りを見回す。わたしの足元ではサムが馬から降りてアボンの元へ駆け寄っていて、アボンはヨロヨロとと立ち上がってわたしと同じように辺りを見回していた。
「妖精さん!」
何故かディルの声が聞こえた。
「ディル!?どこ!?怪我は大丈夫なの!?」
声が聞こえた方へ視線をやると、額から血を流したままのディルが後ろから走って来ていた。どうやら、わたしが魚に食べられそうになった時みたいに石を投げて馬に当てたようだ。
「妖精さんこそ大丈夫か?怪我とかしてないか?」
ディルが「ハァハァ」と息を切らしながら心配そうにわたしを見上げる。わたしはディルの目の前まで降りて、ディルの頭の傷をそっと撫でた。
「わたしは大丈夫だけど・・・ディル、その怪我早く治療しないと・・・」
「俺も大丈夫だ!少しふらふらするけど、こんなのただのかすり傷だ」
かすり傷でふらふらするわけないでしょう!?
「何事だ!!」
近くで見回りをしていたっぽい兵士さん達が騒ぎを聞きつけて様子を見に来る。いつの間にかわたし達の周りには人だかりが出来ていた。
「あ、兵士さん!この人、わたしに酷いことするの!捕まえてよ!」
ビシッとアボンを指差してそう訴えると、兵士は警戒した顔でアボンを見た後、バッと視線を戻して驚いた顔でわたしをもう一度見た。
「酷いことって・・・・え!? 妖精!?」
「そういうのいいから!」
もう、そういうリアクションは飽きたよ! 今はそれどころじゃないんだから!
「・・・あの!コンフィーヤコーシャクって人を呼んでくれ!」
わたしを見てオロオロとしている兵士に、ディルがそう叫んだ。
「俺はあのおじさんにここまで連れてきてもらったんだ、おじさんは人を誘拐とかしてる悪い奴を捕まえるために動いてるって言ってた」
「よく分からんが・・・おい!誰か城に確認しに行ってくれ!」
「はっ!」
まぁ、普通そうなるよね。でも、わざわざお城に確認しに行く必要はないよ。だって偉い人来たから。
人混みをかき分けてこちらに向かってきているコンフィーヤ公爵が見えた。
「ふぅ・・・待ちなさい。わたしはここにいる」
「コンフィーヤ公爵様!?」
「「おじさん!」」
肩を上下させて息を整えたコンフィーヤ公爵は、キッと鋭い目で兵士を見る。
「そこの兵士」
「は、はい!」
兵士はビシッと背筋を伸ばして敬礼する。可哀想なくらいコンフィーヤ公爵に恐縮している。
「城に行くなら、この手紙を門番に渡してください」
「はっ!」
コンフィーヤ公爵が一枚の紙を兵士に渡した。何が書いてあるんだろうと、渡された兵士の方へ飛ぼうとしたら、ディルに「邪魔しちゃダメだぞ」とそっと腕を摘ままれて止められてしまった。
「それと、そこの犯罪者2人を近くの留置所まで連行しておいてください」
「はっ!」
「あとは・・・」
コンフィーヤ公爵はテキパキと兵士達に指示を出していく。わたしとディルは指示を出し終わるまで邪魔をしないように静かにして待った。
「お待たせしました。それでは私たちはアボン商会のお店まで戻りましょうか」
「え、うん。でもその前にディルを休ませてあげたいんだけど」
こんな子供が頭からドバドバ血を流してるのに、悠長にお店まで戻ってらんないよ。
「包帯などの応急処置だけなら移動中に私が出来ます。申し訳ありませんが今はそれで我慢して頂きたいです。妖精さんが持っているその鍵で地下牢に捕らえられている人達を解放してあげなくてはなりませんし、お店の近くに城から向かいを寄越すよう先ほどの手紙に書いてあるのです」
わたしは両手で持っている鍵の束を見る。
途中で落としたりしなくて良かったぁ・・・
わたしとディルとコンフィーヤ公爵は歩きながらディルの手当をして、お店まで戻ってきた。
お店の中には誰も居らず、ガランとしている。
「誰もいないねー」
お店の中を上下左右にフワフワと飛び回りながら言うと、コンフィーヤ公爵が少し考え込んだあと「捕まる前に逃げたのでしょう」と結論を出した。
「それより、早くその地下牢ってとこに捕まってる人達を助けてあげようぜ!」
「そうだね、行こう」
そうして、地下牢に居た人達を解放している間に騎士団長が迎えに来た。
「玄関が破壊されていたのですぐに場所が分かりました」
「俺が壊したおかげだな!・・・・っとっと」
ディルがふらついて倒れそうになるのを騎士団長が「大丈夫ですか?」と支えた。
「コンフィーヤ公爵! 早くディルの治療をしなきゃ! もうこんな暗いし! 子供は寝る時間だよ!」
いつの間に外は暗くなり、空には綺麗な満月が顔を出していた。
「城で客室を用意させています。一度城まで一緒に来ていただけますか?」
「いいよ、早く行こう」
わたし達は騎士団長が自ら御者をする馬車でお城まで送ってもらった。
「でっけぇーー!」
大きな大きなお城を前に、馬車の中では眠そうだったディルが目を全開にしてお城を見上げる。完全に目が覚めてしまったようだ。
「ディル、あまり騒ぐと体に障るから・・・」
「では客室まで案内しますので、私の傍を離れないでください。迷子になりますよ」
客室はお城の入り口からすぐ近くのところにあった。こんな至近距離で迷子なんかにならないと思うけど・・・・もしかしてディルのことを気遣って入口付近の部屋を用意してくれたのかな?
「こちらが客室です。一緒の部屋で大丈夫ですか?」
「うん、わたしはいいよ」
「俺もそれでいいぞ」
室内には、ディルが寝るには大きすぎる立派なベッドと、その隣にフカフカそうなクッションが乗せてあるサイドテーブルが置かれていた。たぶん、わたし用のベッドだと思う。
「後ほど、医者と食事を向かわせます」
「ありがとう!」
「お腹すいたー!」
お医者さんと食事がくれば、やっとひと段落って感じかな?
「では、明日のお昼頃に私と国王様がそちらに向かうので、それまでゆっくりと休んでいてください。」
「うん、またね!・・・・って王様も?」
ガタン・・・
コンフィーヤ公爵はそれだけ言い残して扉を閉めてしまった。
読んでくださりありがとうございます。次話は【わたしの名前】です。




