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118.【ジェイク/ネリィ】笑って

それは30年くらい前・・・姉ちゃんが亡くなったのは俺がまだ5歳の頃だった。



「姉ちゃん! 待ってよ姉ちゃん!」


見慣れたいつもの景色が燃えている。唯一燃えていない姉ちゃんの背中を、燃えるように熱い肺を押さえながら必死に追いかける。


「ジェイク急いで! 早くこの国を出なきゃ全部燃えて無くなっちゃうわ!」


前を走っていた姉ちゃんが振り返って手を引っ張る。


「ハァ・・・ハァ・・・姉ちゃん・・・どこ向かってるの?」

「ジェイク、走りながらでいいから後ろの上を見てごらん」


姉ちゃんの言う通り、体を捻って後ろを見てみる。・・・赤く染まる雲の下、無数のドラゴンが炎を吐いて暴れていた。


「あのドラゴンとは反対方向に逃げるのよ」

「なんでドラゴンさんは暴れてるの?」

「分からないわ・・・でもきっと、戦争なんて馬鹿な事をする人間に火の大妖精様が怒ったのよ」


ガシャーン!


目の前の道が崩壊した家で塞がれた。高く燃え上がる炎が俺と姉ちゃんの行く先を塞ぐ。


「ハァ・・・ハァ・・・どうしよぉ。ここしかもう道は無いのに・・・」


手を握る姉ちゃんの手が震えている。今にも泣きそうな姉ちゃんを安心させたくて、ギュッと握る手に力を込めた。


「ジェイク・・・そうね。お姉ちゃん覚悟を決めたわ。子供の私達なら通れる隙間が見えるでしょ? あそこを行きましょう!」


姉ちゃんは俺の手を引いて燃える瓦礫の隙間を慎重に通っていく。


 熱い・・・肺が苦しい・・・。


姉ちゃんが先を進んでくれるお陰で、少しは熱風から守られてるけど・・・姉ちゃんは?


「だ、大丈夫なの? 姉ちゃん」

「このネックレスの御守りのお陰でちょっとくらいの火と煙は退けられるから・・・ジェイクは私から離れないでね」


姉ちゃんが首から下げている火の魔石を片手で握りながら震える声で言う。10歳の誕生日に貰える御守りで火災時に自分の身を守ってくれる物だ。


「ハァ・・・フゥ・・・もうすぐ抜けるわ。頑張ってジェイク」


瓦礫の狭い隙間から、先に進む道が見えた。


 やっと抜け出せる!


そう思った直後、ドガシャーン!と後ろの瓦礫が崩れて炎が増す。


「・・・ジェイク!!」


急に姉ちゃんにグイっと前に引っ張られたと思ったら、そのまま瓦礫の外に投げ出された。突然のことで頭が追い付かない。気が付くと、さっきまで手を繋いでいたハズの姉ちゃんが瓦礫の下敷きになっていた。


「姉ちゃん? ・・・っ姉ちゃん!!」


御守りのお陰で姉ちゃんの周りの瓦礫は燃えてはいないけど、それでも重い瓦礫は姉ちゃんの体に深くめり込んでいる。


「うぅっ・・・ハァ・・・ハァ・・・ジェ、ジェイク逃げて」


姉ちゃんは最後の力を振り絞るかのようなか細い声でそう言った。


「姉ちゃん! 姉ちゃん!」


俺は必死に姉ちゃんの手を持って引っ張る。


 大丈夫、姉ちゃんは助かる。姉ちゃんがいない未来なんてありえない!


「いっ・・・ジェイク! 止めて! いいから逃げて!」

「でも・・・!」


 このままじゃ・・・姉ちゃんが・・・!


「わっ、私なら・・・御守りを持ってるから大丈夫よ! お姉ちゃんを・・・ハァ・・・助けたいなら・・・早く逃げて助けを呼んできて!」

「う、うん!」


涙でぐしゃぐしゃになった顔でそう叫んだ姉ちゃんは、まるで最後のお別れみたいな切ない目で笑った。


「笑って・・・どんなに辛くても笑って生きていくのよ!・・・ジェイク!」


俺は、一層熱くなる熱気を背に、必死に走った。泣きながら、叫びながら・・・姉ちゃんと過ごした日々を思い出しながら。


どれだけ走ったのか・・・靴底が無くなっていつの間にか裸足になっていたことに気付いた頃、周囲の景色は燃える瓦礫から避難民が集まる避難壕に変わっていた。


「誰か! 誰か姉ちゃんを助けてください! まだ向こうにいるんです!」


必死に助けを求めるけど、大人は誰も助けてくれない。


「向こうって・・・あのドラゴンのいる方だろ?」「可哀想に・・・」「もう無理だよ坊ちゃん」


 なんで誰も助けてくれないんだ! 早く助けに行かないと・・・姉ちゃんが!


それでも諦めずに助けを求めながら避難壕の奥に進む。


「どうしたお前、姉ちゃんを助けたいのか?」


そう俺の頭の上から声を掛けてきたのは、姉ちゃんより一回り歳上に見える青い髪の少女だった。


「助けたい! でも・・・大人は皆助けてくれないんだ!」

「そうか・・・なら俺が助けてやるよ」


自分のことを「俺」と言う少女は、「任せときな」と勝気に笑ったあと、軽々と俺を背に乗っけて走り出す。


「お前の姉ちゃんはどこにいるんだ?」

「えっと・・・分かんない・・・」


 がむしゃらに走ってたせいで道を覚えてない。


「仕方ない、じゃあ片っ端から火を消していくか!」


少女は一旦俺を降ろして、水の魔石を口に咥えた。


「ほへへよひ! ひほぉほ!」

「え?」


少女は訳の分からないことを言ったあと、俺をもう一度背に乗っけて走る。口から物凄い量の水を吐き出しながら。


 姉ちゃん、待ってて! 今この変なお姉ちゃんと一緒に助けに行くから!


それから、少女は目に見える人を片っ端から助けながら走った。上空にいたドラゴンがどこかに去っていった頃。燃えていた景色は無くなって、焦げて灰になった何かと、上空に見える赤い雲だけになった。


「姉ちゃん・・・見付からなかった」

「・・・すまんな。俺の力不足だ」


少女が悔しそうに顔を顰めながら俺の頭に手をポンポンと置いた。


「違う、あの時姉ちゃんを置いて行った俺のせいだ。結局助けられてばっかりで・・・」


涙を堪えながら少女の手を払う。それでも少女は俺の頭に手を乗せる。


「・・・よしっ! 探すぞ! なんでもいいからお前の姉ちゃんが残したものを見つけるぞ!」


何かをしていないと壊れそうだった。俺は少女と一緒に姉ちゃんを探した。・・・でも、何も見つけられなかった。


「うっ・・・うわああああん!」


 戦争なんて・・・大人なんて・・・っ!


ずっと堪えていた涙が止まらない。


「結局、お前の姉ちゃんが残したものは一つしかなかったな」

「・・・え?」


少女を見上げると、優しい笑みで俺を見下ろしていた。


「だって、姉ちゃんはお前を残しただろ? 姉ちゃんの残したもの・・・大事に守れよ?」

「姉ちゃんが俺を・・・?」


『笑って・・・どんなに辛くても笑って生きていくのよ!・・・ジェイク!』


姉ちゃんの最後の言葉が脳裏をよぎる。


「ハ・・・ハハハ!」

「うわっ、どうした壊れたか!?」


突然笑い出した俺に、少女が驚きつつも心配そうに見てくる。


「ううん、姉ちゃんが最後に言ってたんだ。笑って生きてって・・・」

「そうか、立派な姉ちゃんだな。じゃあ・・・笑うか! だっはっは!!」

「なにそれ変な笑い方」

「・・・っうるさい! 一緒に笑うぞ!」


少女がベシッと俺の背中を叩く。そして一緒に笑った。


「「だっはっは!」」


赤い雲の下、2人の大きな笑い声が響く。2人で笑って、1人で泣いて、笑って・・・そして翌日、俺は避難豪から抜け出してもう一度瓦礫だらけの国に戻ってきていた。


「よう、何してんだ?」

「あ、昨日の・・・お墓を作ってるんだ。ほらここ、姉ちゃんの名前」

「ジェシー・・・それがお前の姉ちゃんの名前か」

「うん。それと俺はジェイクだ。ジェシー姉ちゃんの弟のジェイクだ」

「そうか! 俺はダリアだ。今日から姉御と呼びな!」




「今頃、ダリア船長はどうしてんだろうな・・・だっはっは」


俺は薄暗い部屋の中で、足元に転がっている自分の右腕だった物を眺めながら笑う。


 姉ちゃん・・・最近ちっちゃな姉御を見て思うんだ。やっぱり無理矢理笑うより自然に笑えた方がいいよなって。・・・あの笑顔は守らかきゃいけないものだって。




【ネリィ】_________________________


ソニアちゃんと土の妖精とコルトが戦場に行き、ディルとウィックがお城に向かった。鍛冶工房に残ったのはあたしとゴーレムで暴れる弟のリアンと鍛冶工房の息子のユータだけになった。


「リアン! そろそろ宿に戻るわよ!」


あたしがゴーレムに向かってそう叫ぶと、ガコンとゴーレムの背中が開き、満足そうな顔をしているリアンが出てくきた。


「楽しかった~!」

「そうなの。あたしには何が楽しいのか分からないけど、リアンが満足したなら良かったわ。・・・じゃあユータ君、あたし達も行くわね。それと、工房を滅茶苦茶にしたのはリアンじゃなくてゴーレムだからね」

「え・・・ああぁ! 鍛冶工房が穴だらけにーーー!!」


ユータ君の悲痛な叫びを無視して、あたしとリアンは宿に戻る。


「そういえば、ソニアちゃん達は大丈夫だと思うけど、ディルとウィックは昼食を食べないで行っちゃったわね」

「兄貴とウィックさんなら大丈夫だよ。カレンさんから軽食を貰ってたから」

「そうなんだ・・・いつの間に」


パクパクと2人で駄弁りながら昼食を食べていると、部屋の外からカレンの叫び声が聞こえてきた。


「ちょっとあなた誰ですか! ・・・え!?メイド!?」

「すみません! ここにネリィさんとリアンさんがいると聞いたんですが!」

「2人は俺の娘と息子だ!」


部屋の外から聞こえてきたのは、カレンちゃんと城のメイド長エリザさん・・・それからあたし達のお父さんの声だった。


 ・・・お、お父さん!?


あたしとリアンは顔を見合わせて、すぐに部屋から飛び出して声の聞こえる一階の玄関まで転びそうになりながら走る。


 お父さん! お父さん! お父さん!


慌てて一階に降りると、エリザさんと血だらけになったお父さんがカレンちゃんと対峙していた。


「お父さん!! 良かった生きてて・・・ってどうしたのその大量の血!? なんで生きてるの!?」

「え!? この人ネリィさんのお父さんなんですか? 早く手当てしないと!」


カレンちゃんが驚くのも無理はない。お父さんは全身血だらけでエリザさんに肩を貸して貰っていた。


「ネリィ! リアン! 会いたかった・・・ジェイクさんのお陰でお父さんは無事に帰ってこれたんだ」


お父さんが涙ながらにわたしとリアンを交互に見るけど、それどころじゃないわ。


「どう見ても無事じゃないでしょ! どうしたのよ!?」

「あ・・・いやこれは俺の血じゃないんだ。俺は足を挫いただけで・・・」

「じゃあ、誰の血なの・・・」


言いかけたところで嫌な予感がした。お父さんを無事に帰すと言ってくれたジェイクさんの姿が無い。


「ジェイクさんは?」


リアンがお父さんとエリザさんを見上げて尋ねる。


 どうか違って・・・!


「この血はジェイクさんのものなんだ・・・足を挫いた俺を庇って・・・」


ヒュッと一瞬呼吸が乱れた。


「ち、違うんです! ネリィさんのお父様は逃げる途中で人質にされそうになった私を庇って・・・それをジェイクさんが・・・」

「庇ったんだ・・・じゃあ今ジェイクさんはどこに?」


あたしがそう尋ねると、エリザさんが言い難そうに口を開いた。


「大怪我をして・・・船に連れて行かれました」

「そんな・・・」


 ジェイクさんの力になりたいって・・・そう思ってたのに結局あたしは何の力にもなれなかった。


「助けなきゃ・・・」


リアンがポツリと呟いた。


「残念ですが・・・きっともう船は出てると思います。いつも最低限の時間しか停まってませんから・・・それにあの怪我では・・・」


エリザさんがフルフルと首を振る。そして、隣にいるお父さんが頭を下げた。


「すまない・・・俺のせいで・・・」

「ううん、お父さんのせいじゃないわよ。あたしはお父さんとまたこうして会えて嬉しいよ」

「お姉ちゃん・・・」


リアンがあたしの手をギュッと握って、真っ直ぐと芯の通った目であたしを見上げる。


「まだ諦めるのは早いよ、お姉ちゃん。助けに行こう」

「リアン?」

「思い出して、ソニアさん達が戦場に行く前に土の妖精が言ってたこと」


 土の妖精が? ・・・・・・あっ!


『船はもう運び終わったよ。あとは向こうの国まで帰すだけだけど、少しくらい遅れても大丈夫だよ』


「まだ間に合うかもしれないわ!」

「うん! 助けに行こう! きっと兄貴ならそうする!」

「そうね! ソニアちゃんもそうするわ!」


あたしの脳裏にニコニコと笑うソニアちゃんがよぎる。自然と笑みが零れた。


 あんなにちっちゃいソニアちゃんが戦場で頑張ってるんだもの。あたしも頑張らないと!


あたしがリアンと手を繋いで宿から出ようとすると、お父さんとエリザさんが慌てて止めに入ってきた。


「ネリィ! リアン!」

「ネリィさん!? 2人だけで無茶ですよ!」

「大丈夫よ! 考えがあるの! エリザさんはお父さんをお願い!」


それだけ言い残して、あたしはリアンを連れて鍛冶工房に走る。


「ユータ! ちょっとゴーレム借りるわよ!!」

「え!? 急になんですか!?」

「あとで返すわ! たぶん!」


ガコン!


あたしとリアンの2人でゴーレムの中に入る。


「前に入った時より狭いわね。この出っ張りはなに?」

「お姉ちゃんは隅に寄ってて、僕が操縦するから」


リアンが出っ張りに手を置く。その瞬間、ゴーレムが動き出した。同時にゴーレムの外の景色が見えるようになった。


「なにこれゴーレムが透明になってる・・・外からはあたし達のこと見えないのよね?」

「そうだよ。このまま僕が操縦するからお姉ちゃんは道案内をお願いね」


 リアン・・・いつの間にこんなに頼もしくなったのかしら。


リアンが動かすゴーレムは凄い速さで城門まで走る。周囲の目は気にせずに。


「お姉ちゃん! あれ見て! 空!」


リアンが戦場がある方向の空を指差す。そこには大きな鉄の円盤が浮いていた。


「ソニアちゃん、凄いわね・・・あたし達も頑張るわよ!! お城の中には入らなくていいわ。外を周ってお城の裏側に行くのよ!」

「うん、わかった!」」


先にお城に突入していったディルとウィックがやったのか、城門の見張りは気を失って倒れていたお陰で、ほとんど兵士や騎士とすれ違わずに土の海が見えるお城の裏側に着くことが出来た。


「アレじゃない!? あそこに大きな船があるわ!」


土の海に浮かぶ帆の無い大きな船。その周りに背の高い人達がたくさんいる。


 あの人達、なんか叫んでるわね・・・。


「何故船が動かない!!」

「いつもならすぐに土の海の流れが変わるはずなのに・・・」


 やっぱり土の妖精がいないと船を出せないのね!


「おい何だあのゴーレム。こんなとこになんでいるんだ?」


あっさりと見つかったけど、もとより見つからずに行けるなんて思ってない。


何人いようと関係ないわ!


「リアン! 突撃よ!」

「うん!」


リアンはゴーレムの手から岩を発射しながら船に向かう。


「なんだこいつ手から岩を撃ってくるぞ!」「変な円盤が浮いてるし、商品に逃げられるし、船は動かないし、なんなんだ今日は!」


暴れるリアンゴーレムに、周囲の人達は慌てて逃げ惑う。


「リアン!まとめて吹き飛ばしちゃえ!」

「お姉ちゃん・・・なんかソニアさんみたいだよ」


岩で人を吹き飛ばしながら、リアンゴーレムは船内に侵入する。


「ジェイクさんどこかしら?」


すれ違う人達をリアンゴーレムが殴り飛ばしていく。


 リアンがどんどん乱暴になっていくわ・・・あたしが言えたことじゃないかもしれないけど。


手当たり次第に船内を走り回る。


「船内でゴーレムが暴れてるぞ! こっちだ! 牢屋に追い込め!」


 ちょうどいいわ。牢屋まで案内してくれるみたいね。


「リアン、このまま誘導してもらいましょ」

「うん!」


どんどんと船の下の方へと追い込まれていく。辿り着いたのは真ん中に鉄格子がある薄暗い部屋だった。鉄格子の奥は壁が鉄で出来ていて、そこにジェイクさんの姿がある。


「お姉ちゃん! ジェイクさんだよ!」

「見えてるわ! 鉄格子壊せる!?」

「やってみる!」


ゴーレムの拳と鉄格子が衝突する。


ガシャーン!!


ゴーレムの片腕が壊れた。だけど、鉄格子も壊れた。


「リアン、少しの間あいつらをお願い!」


あたしはゴーレムの中から出て、動こうとしないジェイクさんの元に行く。


「ジェイクさん! 助けにきた・・・よ?」

「ハァ・・・ハァ・・・ネ、ネリィちゃん?」


ジェイクさんの片腕が無い。あるけど、足元に落ちている。サーっと血の気が引いた。


「ジェイクさん・・・う、腕・・・」

「あ、あ~・・・取れちまったな。だっはっは」

「わ、笑いごとじゃないわよ! 早くくっ付けなきゃ、あっ、いや逃げなきゃ・・・!」


あたしはジェイクさんに肩を貸して立ち上がらせて、背中開きっぱなしのゴーレムまで慎重に歩く。


「凄いな。ゴーレムを使って助けに来てくれたのか?」

「リアンが乗ってるの・・・」


ドカァン!!


リアンゴーレムが岩を発射して、船員達を吹き飛ばす。


「こいつ! 船に穴開けやがった!」「くそ! 先にゴーレムから出て来た奴を盾にしろ!」


ゴーレムの横を素早く抜けてきた男があたし目掛けて手を伸ばす。


「ネリィちゃん俺のことはいいから先に・・・」

「お姉ちゃん! 危ない!」

「うお! ゴーレムからもう一匹ガキが出て来たぞ!」


リアンがゴーレムから飛び出して男を押し倒した。


 リアン!?


「リアン何してるの! 危険で・・・リアン!!」

「え?」


押し倒された男がリアン目掛けて剣を振り上げた。あたしは咄嗟にリアンの前に出て両手を広げて庇う。


「お姉ちゃん!?」


 し、死ぬぅ!


「ね・・・ちゃん!」


ジェイクさんに蹴られた。そう気付いた時には、男が剣を振り下ろす先にこちらを見て笑うジェイクさんがいた。


「ジェイクさん!!」


スコーン!!


「え・・・?」


剣を持っていた男が倒れる。その隣にカコンカコンと雷マークの黒い鞘が転がった。


 え、この鞘って・・・。


「遅くなった!! 無事・・・ではなさそうだな」

「ディル!!」

「兄貴!!」


いつの間にかゴーレムの周囲にいた船員達は皆倒れていて、それをやったであろうディルが剣を鞘に納めてジェイクさんに肩を貸す。


「腕・・・大丈夫か?」

「・・・大丈夫に見えるか?」

「だよな。生きてて良かったと考えようぜ。でも・・・ソニアには怒られるぞ。覚悟しておけよ」

「ハハハッ、それは幸せ者だな」

「そうやって自然に笑えるならまだ大丈夫そうだな。俺は走るから3人はゴーレムに乗ってくれ」


ディルに急かされて、あたしとリアン、それとジェイクさんが自分の右腕を持ってゴーレムに乗り込む。ディルはゴーレムの肩に乗った。


「俺の頭の上に乗ってるソニアっていつもこんな気持ちなのかな」


ディルがゴーレムの上でそうぼやく。


 こんな時に何を呑気なことを言ってるのよ。


船から出ると、1人の老人があたし達のことを待っていた。


「え・・・誰? 敵なの? 味方なの?」

「見たことない人だな。誰だ? ディルの兄貴は分かるか?」

「・・・俺の知ってる人だ。皆は先に行っててくれ」

「大丈夫なの?」

「心配しなくても俺は絶対にソニアの元に帰る」


 これ以上ないくらい説得力のある言葉ね・・・。


「じゃあ先に戻ってるわよ!」

「おう!」


ゴーレムから飛び降りたディルを置いて、リアンゴーレムは宿に向かう。あたしはゴーレムの中で服を一部破ってジェイクさんの止血をする。


「ジェイクさん・・・そのぉ、腕なんだけど・・・」

「気にしないでネリィちゃん。ディルの兄貴も言ってたけど、命があっただけ良かったんだよ。それに・・・」

「あたし! ジェイクさんが失くした腕の分、これから一生を掛けて支えるから!!」


 プ、プロポーズみたいになっちゃったけど、あたしは本気よ! ジェイクさんの為なら一生を捧げてもいいって思ってるんだから!


「ネ、ネリィちゃん? 大袈裟だよ。それに、腕を元に戻せる方法が全くない訳じゃないんだ」

「え、そうなの!?」

「うん。だからネリィちゃんがそこまで気にする必要はないし、俺自身もそこまで大きな怪我だと思ってないから」


そう言ってジェイクさんはニカッと笑う。


 は、恥ずかしい!! ・・・っていうかあたし、こんな状況で何を口走っちゃたんだろう!?


「ハハハッ、ネリィちゃんは可愛いね。さっきのセリフは将来好きになった人に言ってあげるといいよ」


 さっき好きな人に言ったんですけどーーー!?


顔が熱くなっているのが分かる。ジェイクさんをまともに見られなくて、プイッとゴーレムの外に視線を向けると、上空に大きなニッコリマークが浮いていた。土の海の方へと移動しているみたいだ。


 こっちの気も知らずに、何を笑ってるのよ! ジェイクさんも! ソニアちゃんも!

読んでくださりありがとうございます。二話に分けようかとも思ったのですが、2人はセットにしました。

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