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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第3章 回る妖精とよわよわ鍛冶師

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114.魔剣完成、皆で作ったからだね!

「ハァ・・・なんで寝相が悪いだけで怒られきゃいけないんだ」

「本当っすよ」


朝から寝相の悪さをネリィに怒られていた2人が部屋の隅っこで情けなく縮こまって何かブツブツと言っている。


「アンタ達の寝相はそれだけ危険なのよ! 危うくリアンとソニアちゃんが潰れるとこだったんだから」


 わたしは寝てたらから知らないけど、どうやら夜中にわたしは潰されるところだったらしい。とても恐ろしいことだ。


「はいはい悪かったって、じゃ、そういうことで俺もう行くわ」

「あ、じゃあ俺も行くっす」

「ちょっとまだ終わってないよわよ!」


ディルとウィックが逃げるように部屋から出て行く。テーブルの上で欠伸を嚙み殺していたわたしもディルに掴まれて連れていかれる。


 どこに行くんだろう?


「そろそろ魔剣完成してるかな?」


ディルがわたしを肩に乗せながら弾むような声で言う。


「あ、鍛冶工房に向かってるんだ。ネリィから逃げただけかと思ってた」

「俺もっす」

「失敬な! 逃げたけど逃げただけじゃない!」

「逃げてんじゃん」


魔剣が楽しみでしょうがないルンルンなディルに連れられて、鍛冶工房に到着。中ではコルトと鉄の妖精とユータが鉄くずの上に座って何やら話していた。


「コルト~、魔剣は出来たか~?」

「コルトお疲れ様~!」


ディルが手を挙げながら言ったので、わたしも真似して手を挙げながら声を掛ける。


「あ、ソニアさん達! ちょうどさっき完成したところですよ」

「本当か! どこにあるんだ!?」


コルトは立ち上がって、「待っててね」とわたし達に言って奥の部屋に行った。そしてすぐに戻ってきてディルに一本の黒い鞘に収まった剣を渡す。


「はいこれ。魔剣」

「おお! カッコイイ鞘だ!」


ディルが鞘を舐めるように見て感嘆の息を吐く。すると、隣でソワソワしていたユータがここぞとばかりに立ち上がった。


「鞘のデザインは俺が考えたんだぞ!」

「お前センスあるな! 最高だ!」


ガシッと手を握るディルとユータ。


 なんかこういうのいいね。絵面が青春っぽい。


「とりあえず鞘から抜いてみてよ」

「お、おう」


コルトに急かされて、ディルがそーっと剣を鞘から抜く。


「あれ? 刃が片方にしか無いぞ?」

「魔石の質量が思ったより少なかったから片刃にしたんだ。大昔の人はそれを刀って呼んでたらしいよ」

「カッコイイ! 普通の剣よりこっちの方がなんかカッコイイ!」


ディルが凄く嬉しそうに刀を見ているので、わたしも気になってきた。


「わたしにもよく見せてよ!」


ディルが持つ刀の近くに行って見てみる。雷のマークが入った黒い鞘に黒い柄、刀身の真ん中に黄色い線が入っている。たぶんそれが雷の魔石だと思う。


「へぇ~・・・カッコイイかは分かんないけど、わたしとディルの色が入った良いデザインだね!」

「俺とソニアの色・・・か。コルト、本当にありがとう! コルトに頼んで良かったよ! 最高の魔剣だ!」

「うん。そう言ってくれると思ってたよ。でも一応それ魔剣だから、試し斬りしてからもう一回言ってよ」


工房から出て、近くの空き地に移動する。ここでいつもディルとウィックは修行してるらしい。


「それじゃあ魔剣の使い方を説明するね。・・・と言っても難しいことは何もないけど」

「魔気を流すだけじゃないのか?」

「それだけだよ。魔剣に魔気を流すと魔石が発動して柄の部分に格納されてる砂鉄が刀身に纏う仕組み。あとは昨日みたいにディルが砂鉄を振動させれば何でも斬れると思うよ」


 何でも斬れるんだ。もしかしてダイヤモンドでも斬れたりするのかな? ・・・なんて、我ながら発想が子供っぽい気がする。


「じゃあ、俺がディルに魔石を投げるっすから。ディルはそれを切るっす」

「おう! ・・・ソニア、そんな近くで浮いてたら真っ二つになっちゃうぞ」

「・・・そうだね。離れて見てるよ」


ディルはわたしがコルトの横に移動したのを確認してコクリと頷いてから抜刀して、そして魔気を流す。薄い灰色だった刀身が砂鉄の黒に染まっていくのが遠目からでも見える。


「行くっすよ!」

「いいぞ!」


短剣を逆手に構えたディル目掛けて、ウィックがブンッと勢いよく魔石を投げる。


「てやぁ!」


わたしには斬る瞬間はよく見えなかったけど、スパッと真っ二つになった魔石がディルの後ろに転がったのはバッチリ見えた。


「「斬れた!」」


ディルとコルトの声が重なった。2人が拳を突き合わせて喜んでいる。


「流石だよ世界一の鍛冶師!」

「大袈裟だよディル。僕はただ僕に作れる最高の魔剣を作っただけ。凄いのは古代の魔石とそれを使えるディル。それからソニアさんの笑顔だよ」


2人はいい笑顔でクルッと振り返ってわたしを見る。


「え、わたし!?」

「だな。ソニアの笑顔は世界一だ!」

「ちょ、やめてよ!!」


パタパタと勝手に動く背中の羽を必死に抑えようとするけど、上手くいかない。


 もう! 恥ずかしいよ!!


「用が済んだなら、さっさと戻るよ! 徹夜してたんでしょ? ユータなんてもう半分寝てるし、鉄の妖精に至ってはついてきてすらいないんだから! 早く休みなよ!」

「ハハハ、そうですね。ソニアさんの顔も真っ赤だし僕も眠いですから。でもその前にソニアさんに調理器具を渡してからですね」

「あっ、そうだったね」


皆で鍛冶工房に戻ると、鉄の妖精が既に調理器具を表に出して待っていた。そしてわたしを指差して口を開く。


「早くこれでカレーうどん作ってよ」


 まるでご飯が待ちきれない子供みたいだね。


「おお、凄いな本当に全部ちっちゃい」


ディルちっちゃな包丁を摘まんで感心したように見る。


「気を付けるっすよディル。あんまり乱暴に持つと壊れそうっす」

「大丈夫だよ。そんな簡単に壊れるような鉄じゃないよ」


そう言いながら鉄の妖精が調理器具を宙に浮かす。


「じゃあ、行こうよ。どこで作るの?」

「宿の厨房を貸して貰えることになってるんだけど・・・その前に・・・」


わたしは壁にもたれ掛かって完全に寝てしまっているユータのところへ飛んで近付く。


「ありがとね。大切に使わせて貰うよ」


そっと頭を撫でてあげる。いい子いい子。


 あとで起きたらちゃんとお礼を言わないとね。


「雷の妖精、俺には?」


鉄の妖精が物欲しげな顔でずいずいっとにじり寄ってくる。


「鉄の妖精もありがとうね!」


頭を撫でてあげる。背中の羽がパタパタと動いているのが犬みたいで可愛い。名前を付けるならポチだね。


宿に戻ると、早々にコルトが「寝ます」と一言だけ言って部屋に戻っていった。ディルとウィックは空き地に戻って魔剣の試し斬りを続けるみたいでこの場にはいない。宿の玄関に残ったのはわたしとカレーうどんが楽しみな鉄の妖精だけだ。


「鉄の妖精は寝なくて平気なの?」


ずっと起きてるらしい鉄の妖精の顔を覗きながら聞いてみる。


 顔色は変わらないみたいだけど・・・。


「え? 妖精に睡眠なんて必要ないでしょ?」


鉄の妖精がおかしな子を見るような目で見てくる。


「何言ってるの。昨日鉄の妖精もわたしと一緒に寝てたじゃん」

「寝るのは気持ちいいから好きなんだよ。でも寝なくても平気だよ」

「そうなの? わたしは平気じゃないんだけど・・・」


 普通に眠くなるし、寝ないと辛いよ。


「雷の妖精は思い込みが激しいんだよ」

「マジか・・・」


 妖精になって約八年目にして新発見というか、新事実だよ。


「あ、ソニアちゃんいた!」


上からネリィの声が聞こえた。見上げると、ネリィは「まだ作ってなかったのね」と言いながら二階から降りてくる。


「ネリィ! どうしたの?」

「コルトに今からカレーうどんを作るって聞いて、何かお手伝い出来ないかなって思って来たわよ」

「本当!? ありがとう! 助かるよ!」


 正直わたし1人じゃ不安だったんだよね! ネリィは女子力高そうだし助かる!


「ねぇ雷の妖精。カレーうどんはどれくらいで出来る?」


鉄の妖精がわたしの肩を片手で揺らしながら聞いてくる。視界が揺れる。


「うーん。どれくらいだろう? そんなに遅くはならないと思うよ。たぶん昼くらいかな?」

「そっか。そしたら俺はその間に土の妖精を呼んでくるよ。土の妖精も出来立ての方がいいと思うからね」

「土の妖精って来れるの? なんかやることがあるから土の海から離れられないって言ってた気がするんだけど・・・」


 来てくれるなら嬉しいけどね・・・。


「ああ、人間のお願いで数日に一度土の海の向こうにある国から小麦粉とかを乗せた船を運んでるんだよ。でも確かそれは明日だったはずだから、今日は大丈夫」

「そうなんだ! そしたらよろしくね。土の妖精と一緒にまた来て!」

「うん、俺も土の妖精も雷の妖精と比べると飛ぶのが遅いから、もう行くよ。じゃあこれ、はい」


鉄の妖精がネリィに調理器具を渡して地面に潜っていった。


「わわっ、なにこれちっちゃい鍋にちっちゃい包丁! 可愛い!」


ネリィが「ちょっと持ってみてよ!」と興奮してるけど、敢えて無視する。


「よしっ、じゃあ厨房に行こう!」


厨房では、カレンがエプロンを付けてスタンバイしていた。


「待ってました!」

「・・・朝からずっと?」

「待ってました!」


朝からずっとスタンバイしていたカレンに一通り材料を出して貰う。ネリィが鼻歌まじりに小さな調理器具を台の上に並べてくれる。


「じゃあ、まずは麵からだね!」


ハンカチをエプロンみたいに結んで、わたしは気合を入れる。


「材料はこちらです!」

「ありがとう。カレン。準備がいいね!」


わたしはボウルに粉と水を入れて混ぜる。ネリィとカレンもそれぞれのボウルで混ぜる。


まぜまぜ・・・まぜまぜ・・・


 どうしよ・・・力が足りないせいでわたしのだけ全然生地にならないよぉ。・・・ちょっと泣きそう。


「だ、大丈夫よソニアちゃん! 頑張って混ぜれば生地になるわよ! ファイト!」


とっくに混ぜ終わったネリィがわたしの横で「頑張れ!」と応援してくれる。


まぜまぜ・・・まぜまぜ・・・


 やっぱり生地にならない・・・。


「あたしの生地少し分けるから! 泣かないでソニアちゃん!」

「・・・ありがと、ネリィ」


・・・次は生地を足で踏んでもみ込む。


ふみふみ・・・ふみふみ・・・


 全然生地が平らにならないんだけど・・・。


「ああ!ソニアさん! 私が代わりにもみますから泣き止んでください!」

「・・・あっ、ありがとカレン」


生地が出来たら少し休ませる。その間にわたしはある調味料を作る。人間だった頃よくお世話になった物だ。


・・・生地を休ませたあとは、伸ばして切るだけだ。


ぐっぐっぐっ・・・ぐっぐっぐっ・・・


 うん。これくらい伸ばせば十分でしょ。


「よしっ」とかいてない汗を腕で拭うと、上から2人の安堵の息が聞こえた。


「ふぅ・・・」

「ほっ・・・」


わたしが無事に生地を伸ばし終わったことに、何故かネリィとカレンが顔を見合わせてホッと胸を撫でおろしている。


 よしっ。あとは切るだけだね!


コトッコトッ・・・コトッコトッ・・・


ネリィとカレンに心配そうに見守られながら切っていく。


 うーん・・・ちょっといびつな形になっちゃったけど、許容範囲だよね! 人間からしたら素麵レベルの細さだけど、妖精のわたしからしたら立派にうどんだ。


「これで麵は完成だね! 次は具材を切っていこう!」


ネリィとカレンがわたしが切りやすいようにある程度の大きさまで具材を切ってくれる。それをわたしがさらに細かく切っていく。


 かなり小さくなっちゃったけど溶けないよね? 大丈夫だよね?


・・・次は切った具材を炒めていく。


「えっと、確かこのレバーを倒して、ここに電気を流せば火が付くんだよね」


ボゥ!


青い火が着いた。


「なにこれどういう仕組みなの!?」

「分かんないけど、鉄の妖精がこれが作るのに一番時間が掛かったって言ってたよ。これだけはコルトも手を貸したんだって」


 あとは炒めた具材に調味料と水と粉を入れて煮込めばスープの完成だね!


ネリィとカレンは2人で1つの大きな鍋を使って煮込むみたいだ。


 なんか煮込んだら具材が減った気がするけど気のせいだよね!


「ん~! 良い匂いね~! お腹が空いて来たわ!」

「そうですね!ちょっと味見してみましょう!」


ネリィとカレンが小皿でスープをすくって舐める。わたしもスプーンを使って味見してみる。


「甘すぎず辛すぎずイイ感じね! これならリアンも食べられそう!」

「なんでかいつものカレーうどんより美味しく感じます!」

「皆で作ったからだね!」


 あとはうどんを茹でてスープをかけたら完成だ! 楽しみ!

読んでくださりありがとうございます。すろこぎや箸や木皿などはユータが木を削って作りました。運ぶときは鍋に入ってました。

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