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110.いてくれて助かった!

「やったね! 悪者を捕まえたよ!」

「うん、やったね。捕まえたよ」


状況はよく分からないけど、リアンを蹴ってネリィを傷つけようとした悪い騎士を檻の中に閉じ込めた。


「妖精・・・あなたがソニアですか。それに、妖精が2人なんて聞いてないですよ」


騎士は檻の中で全てを諦めたように力無く座り込んだ。すると、それをネリィの腕の中で見ていたリアンがハッとして「ソニアさん!」と叫びながらわたしの下まで駆け寄ってくる。


「リアン! ごめんねほったらかしにしちゃって! 怖かったよね! もう大丈夫だよ!」


わたしはリアンの頭にしがみついて両手でガシガシと撫でた。リアンが「やめてよ~」と嬉しそうに言う。


「ソニアちゃん、ごめんなさい。あたしが仕事に夢中で全然ソニアちゃん達を見てなかったから・・・」


ネリィが唇を噛みながら悔しそうな顔でわたしに頭を下げる。


「何言ってるの! ネリィは悪くないよ! 悪いのはこいつらだよ!」


檻の中にいる騎士をビシッと指差す。ついでに軽く電撃も浴びせる。


バチン!


「ぐっ・・・!」


 さっきの会話からして、こいつは闇市場の人間に違いない! 人を傷つける悪い人間は許せない! 裁きの電撃!


バチン!


「ぐぉっ!」


心情的には思いっ切り電撃を浴びせてやりたいけど、そこはキチンと手加減している。わたし、成長したね。


「そんなことよりソニア。その男は誰なんだ?」


傷だらけのディルが不満そうな顔でわたしと鉄の妖精を交互に見る。


「そうだ! そんなことよりディル! その傷どうしたの!? 誰にやられたの!? こいつ? こいつなんでしょう!」


バチバチン!!


「ぐあぁ!!」


また騎士に電撃を浴びせる。さっきよりも若干強めで。


「いや別にそいつにやられたわけじゃないんだけど・・・」

「なんでそんな平然としてるの! 服もボロボロだし・・・頭からも血、血が出てる・・・っし・・・」

「な、泣くな泣くな! 本当に大丈夫だから!」


ディルがそっと指でわたしの頭を撫でる。


「とりあえず場所を変えようぜ。ここじゃ落ち着いて話も出来ない。・・・そうだな、宿に戻ろう。コルトも心配してるだろうし・・・な?」

「・・・うん」


わたしは涙をゴシゴシと拭って、檻の中の騎士を見る。


「こいつ、どうしよっか?」

「こういう時はお城に引き渡すのが普通なんだろうけど・・・お城がこんな状況じゃあなぁ・・・・」


ディルが腕を組んで難しい顔をする。わたしも真似てディルの横で腕を組んで難しい顔をしてみる。・・・ネリィとリアンに笑われた。


「冒険者ギルドに引き渡せばいいんじゃないっすか? あそこは特定の国に属したりはしてないっすから、しかるべき対応をしてくれるっすよ」

「冒険者ギルドなんてあるんだ?」


 なんか・・・ワクワクする単語だよね。冒険者ギルド。


「冒険者ギルドは各地方に1つずつあるっす。土の地方ではこのセイピア王国っすね」

「へぇ~、じゃあ丁度いいね・・・」

「姉御? なんすか? じっと俺を見つめて。俺、姉御のことは好きっすけど恋愛的には・・・」


ウィックが胸元で手を交差させて身を捩らせる。普通に気持ち悪い。殴ろうかな。


「その動きやめて。ウィックも傷だらけだなぁって思っただけだから」

「え? 俺のことも心配してくれるっすか?」

「うん。さっきまでしてた。・・・じゃあ、ウィックはこいつを冒険者ギルドまで連れて行ってね。わたし達は宿に戻ってるから」


 早く宿に戻ってディルに休んでほしいし、わたしもやることがあるからね。


「え!? ディルの時と対応が違い過ぎないっすか!? ・・・いや、まぁこの中で冒険者登録してるの俺だけっすからしょうがないんすけど・・・」

「は? ウィック海賊だろ? 冒険者登録してるのかよ?」


ディルが「そんなんでいいのかよ」とウィックを見て目を丸くする。


 確かに、海賊なのか冒険者なのかハッキリして欲しいよね。


「こう見えても一流冒険者っすよ」

「誰でもなれるのかよ・・・」

「誰でもじゃないっす。ちゃんと試験があるっす」

「はいはい、その話は落ち着いてからにしましょう。さっさと宿に戻るわよ」


ネリィがリアンの背中を押して客室から出て行く。

鉄の妖精に檻を消してもらい、簀巻きにした騎士をウィックが抱えて窓から出て行く。わたし達は普通にお城から出る。すれ違った人や門番はわたしが電撃で気絶させた。


 ごめんね。ディルが「騒ぎになる前に倒せばバレてないのと一緒だ」とか馬鹿なこと言うから・・・。


「じゃあ、こっからはお願いね。鉄の妖精」

「うん。任せてよ」


わたしは鉄の妖精と手を繋ぐ。


「うわっ、本当に姿が見えなくなった!・・・いるんだよな? ここに」


ディルがわたしの目の前でキョロキョロとする。


 いるよ! ちゃんといるよ!


「妖精ってそんなことが出来たのね」

「本当にな。ずっと一緒にいたのに知らなかった」


 うん。だってわたしも知らなかったからね。


よろよろと歩く傷だらけのディルを心配しながら、わたし達は宿に戻る。


「あれ? 宿から兵士が出てきたぞ?」


わたし達が泊まっている宿の玄関扉から真面目そうな顔をした兵士数人が出てきたのが遠くから見えた。


「ま、まずいわ! きっとあたし達を捕まえにきたのよ! 隠れるわよ!ほらリアン! こっち来て!」


兵士達は宿で働く少女に何か言うと、立ち去っていく。


「行ったみたいね。・・・あたし達宿に戻って大丈夫かしら?」

「戻るしかないだろ。コルトがまだ宿にいるんだし。荷物も置きっぱなしだ」

「そ、そうよね」


ディル達は周りを警戒しながら宿に入っていく。わたしと鉄の妖精もそれに続く。

さっきまで兵士達と話していた少女がディル達に気が付いて、駆け寄って来た。


「あ、コルトさんのお仲間達!・・・ってボロボロじゃないですか! やっぱり・・・」

「やっぱり?」

「い、いえ。ちょっとお部屋でお話したいことがあるので・・・」


そう言って少女は部屋に行くよう促す。


 あ、怪しい・・・罠とかじゃないよね?


全員が警戒するように部屋の中に入り、少女が扉を閉める。部屋の中ではコルトが夕飯を食べてる最中だった。


 全然罠とかじゃなかったや。


「あ、ディル! ・・・にリアン! 良かった!見付けられたんだ! ・・・ってうわあ! 頭から血出てる! ・・・あれ? ソニアさんは?」


コルトコロコロと表情を変えながらディルの肩を掴んで揺さぶる。


「わたしはここだよ~! 心配させてごめんね~!!」


わたしは鉄の妖精から手を離して、コルトの元へ飛ぶ。


「あ、おいソニア!」

「え!? 妖精!?」


ディルが慌ててわたしを捕まえる。


 しまった! まだ宿の少女がいたんだった!


「え、えっと・・・わたしソニア! 妖精のソニアだよ! 初めまして☆」


誤魔化しのウィンクだ。わたしはディルの手から飛び出して少女の前で挨拶する。


「あの・・・、コルトさんこれって・・・」


少女が震える手でわたしを指差しながら、何故かコルトに説明を求める。


「そのまんま、妖精のソニアさんだよ。僕達の仲間」

「仲間・・・妖精が?」

「そ、それより話ってなんだ? 何か俺達に話があるんだろ?」


ディルが慌てたように話題を変える。


「え、あっ、はい。えっとですね・・・」


少女はわたしのことをチラチラと見ながら話し始める。初めて見る妖精が気になって落ち着かないんだろうけど、少女にチラチラと見られるわたしも落ち着かない。


「先ほど兵士さんから聞いたんですけど、コルトさん達はオードム王国から来たんですか? そしてお城に攻め込んだんですか?」

「は!?」

「え!?」


ディルが椅子に座りかけていた腰をあげて少女を警戒して、ネリィがリアンを抱き寄せる。コルトが持っていたスプーンを落とした。


「あっ、だ、大丈夫です! 兵士さん達には言ってませんし、言うつもりもないです!」


少女がブンブンと首を振りながら言う。


「・・・兵士はなんて言ってたんだ?」

「えっと、ディルさんとコルトさんの似顔絵を見せてきて、オードム王国からの侵入者で城に攻め入った疑いがあるって・・・」


 ディルとコルトの似顔絵? ちょっと見てみたい。 ・・・っていうか、わたしがいない間にディル達は何をしてたんだろう?


「じゃあ、兵士達は俺達のことをここら辺の人達に聞いて回ってるのか・・・」

「あっ、それは大丈夫だと思いますよ! 皆コルトさんにはお世話になってますから! 兵士達に話すような薄情者はいませんよ!」


 コルトにお世話になって? 本当にわたしが居ない間に何してたんだろう?


「それならいいんだけど・・・うっ!」

「ディル!?」


ディルが頭に手を当てて椅子にガタンッと腰を落とした。


「大丈夫!? ディル!?」

「だから・・・大丈夫だって。泣くなよ・・・」


 全然大丈夫そうに見えないよ!?


「わ、私お医者さん呼んできます!」

「あ、ちょっ・・・」


ディルが止めようとしたけど、少女は部屋から飛び出していってしまった。


「はぁ・・・、ちょっとくらっとしただけなんだけどな」

「そんな血だらけの顔で何言ってるのさ! ほら立てる? ベッドに横になって!」


ディルの背中を押すけどびくともしない。


 もう、変なとこで格好付けないでよ!


ガチャン!


勢いよく扉を開けて入って来たのは、知らないおじさんだった。コルトがそのおじさんに「あ、ドクさん」と声を掛ける。コルトの知り合いみたいだ。


「コルトさんのお仲間が倒れたと聞いたんじゃが!? わしは昔は医者だんたんじゃ!・・・って妖精がおる!!」


その昔は医者だったドクさんの後ろから、さらに人がやってくる。


「コルトさんのお仲間が死にそうだって聞いたんだけど! 私に何か出来ること・・・わぁ! 妖精がいる!」

「コルトさんのお仲間の頭がおかしくなったって聞いたんだけど・・・妖精!?」

「コルト師匠! 師匠のお仲間が死んだって聞いたんだけど・・・うわっ!ちっちゃいのがいる!!」


皆が「コルトのお仲間が」と言う。部屋の中はあっという間に人だらけになって賑やかになった。


「ちょっと!ちょっと! アンタ達なんなのよ! 騒いでないで誰かディルの治療してあげてよ!」


ネリィの一喝で、最初に来てくれたドクさんがディルの治療を始める。他の人達は何故か帰らずに部屋に居座っている。


 皆わたしを見てる。なんでわたしだけ・・・鉄の妖精はいつまで姿を消してるつもりなの? ずるいよ!


わたしはいつの間にかテーブルの上で寛いでいた鉄の妖精を睨んだあと、黙って夕食を食べ続けるコルトの元に飛んで行く。


「ねぇコルト。コルトはここで何をしてたの?」

「わっ、ソニアさん!? いつの間に・・・。ぼ、僕はただ壊れた物を直してただけですよ」

「壊れた物?」

「コルト師匠は皆の大事な物を無償で直してるんだ。大きな物から小さくて細かい物まで」


近くにいた少年が自慢げに答えてくれる。


「師匠って?」

「俺はコルト師匠の弟子・・・希望なんだ。師匠は認めてくれないけど」

「僕は弟子をとれるほど立派な鍛冶師じゃないからね」

「そんなことない! 皆感謝してるんだ。誰も直せなかった物、修理費が高すぎて直せなかった物、誰かの形見から日用品まで全部タダで直してくれたんだ! 師匠が立派じゃなかったら世界中の鍛冶師が立派じゃなくなる!」

「いや、僕はただ物を直したりするのが好きで・・・趣味みたいなものだから・・・」

「でも・・・」


少年が拳を握って、いかにコルトが凄いかを力説する。


 そっか、この人達はコルトのそんな人柄や鍛冶の腕前に惚れた人達なんだね。お陰でわたし達は拠点を失わずに済んだし、ディルも治療してもらえたんだ。


「コルト、ありがとう」


わたしがニコリと笑ってお礼を言うと、コルトが「へ?」と素っ頓狂な声を出して固まった。


「コルトのお陰でディルの治療が出来たから、お礼を言ったんだよ」

「ぼ、僕のお陰?」

「うん!コルトが皆に慕われてるお陰で、こうしてディルは安全なところで治療が出来たんだから。コルトのお陰だよ! ありがとう!」

「僕、ソニアさんの役に立てましたか?」


わたしはグッと親指を立ててニカッと笑う。


「コルトがいなかったら、かなり困ったことになってたよ! いてくれて助かった!」


わたしがそう言うと、コルトは泣くのを我慢するように眉間を寄せたあと、震える声で「食器を下げて来ます」と言って部屋から足早に出て行ってしまった。

読んでくださりありがとうございます。コルト、報われました。まだまだ活躍します。

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