109.【ディル】その男は・・・
ガシャン!
城門前で見張りをしていた兵士を蹴り飛ばす。兵士は城壁にもたれ掛かって力無く気を失った。
ウィックが「応援を呼ばれる前に倒せばバレてないのと一緒だ」って言ってたけど、本当にその通りだと思う。流石だ。強いし頭も良い。俺の師匠はデンガだけど、ウィックはデンガが教えられないことを色々と教えてくれる。特殊な戦い方から、色んな豆知識まで。お陰で目標に少し近づいた気がする。
「よしっ、これでバレずに潜入出来るっすね」
「そうだな。早く行こう!」
俺とウィックは倒れた兵士を見下ろしながら頷き合う。
「いや、思いっきりバレてたと思うんだけど・・・」
ネリィが後ろで何か言ってるけど、無視して城に入る。
「全然人がいないな~」
普通、お城って色んな人が働いてて、色んな人が出入りしてるものなんだと思うけど・・・ほとんど人の気配がない。
「言ったでしょ? 行方不明者が続出して、お城で働く人がどんどん減っていってるの。きっとリアンとソニアちゃんみたいに攫われたのよ」
「その姉御とリアンはどこにいるんすかね?」
「まぁ普通に考えれば地下牢とかだよな。前も地下牢だったし」
グリューン王国でもそうだったし、オードム王国ではコルトを助けに自分から突っ込んでいってたからな。その可能性は高いと思う。
「誰か来るっす」
ウィックが曲がり角を警戒しながら立ち止まり、俺達に止まるよう片手で合図する。俺もウィックに続いて戦闘態勢に入る。ゴクリとネリィが唾を吞んだ音が聞こえたその瞬間、見つめる先に姿を現したのはメイドだった。
「やるっす」
「ウィック待って! あの人は大丈夫!」
ウィックが短剣を手にメイドに向かって走り出そうとするのを、ネリィが慌てて止める。
「エリザさん!」
ネリィがメイドに向かってそう言うと、エリザと呼ばれたメイドは「あっ」と口を開けて静かに駆け寄ってくる。
「ネリィ! ソニアさんとリアン君は見つかりましたか!?」
「ううん。まだ見つかってないんです・・・」
ネリィの先輩メイドさん・・・なのか?
「ネリィ、この人は誰っすか?」
ウィックが自然な動きでネリィとメイドの間に入る。
「あっ、紹介するわね。この人はメイド長のエリザさんで、あたし達の事情を知ってる人よ。信用出来るわ」
ネリィに紹介されたエリザさんが、綺麗な所作で頭を下げる。
「初めまして、メイド長のエリザです。あなた方のことは前にネリィから聞いています。今はソニアさんとリアン君を探してるんですよね?」
「うん。俺はディルだ。本当ならゆっくり自己紹介したいところなんだけど・・・」
「分かっています、時間が惜しいですよね。なので、私の推測を簡単にお話します」
エリザさんはそう言って、一度深呼吸してから一層真面目な顔を作って口を開く。
「ネリィが凄い勢いでお城から飛び出していったあと、私もあの2人を探していたのですけど、ソニアさんとリアン君は四階か、すでに場外に連れ出されたかのどちらかだと思います」
さすが、例え人手不足だったとしても若くしてメイド長になっただけはある。・・・でも、そのエリザさんの言う通りだとすれば、何で四階なんだ?
「俺はてっきり地下牢とかかと思ってたんだけど・・・」
「このお城に地下なんて無いんです。私はメイド長として一階から三階のすべての部屋を掃除して回ったことがありますが、一階より下に続く階段なんて見たことがありません。そして、人を監禁できるような鍵のかかった部屋は二階の個人部屋か、四階の私の立ち入ったことの無い部屋だけなんです」
「そういえば、お城の中を案内してもらった時に入ったことの無い部屋があるって言ってたわよね」
ネリィが納得の表情を見せる。
お城の中を片っ端から探すつもりだったけど、エリザさんのお陰で予想よりもだいぶ早く見つけられそうだ。・・・外に連れ出されて無ければだけど。
「じゃあ、そうと分かれば早速四階に行くっすよ。また向こうの角から誰か来そうっすから!」
「そうね! 案内はあたしに任せなさい! ・・・エリザさんも危険を冒してまで協力してくれてありがとうございます」
「いえ、私はただソニアさんやリアン君みたいな小さくて可愛いものが好きなんです」
「はい! そんな気がしてました!」
エリザさんがニコリと微笑みながら手を振ってくれる。俺達はエリザさんにお礼を言って、駆け足で二階三階と階段を登っていく。
「そいえば、今更だけどジェイクさんは合流しなくてもいいの?」
階段を登る俺達の後ろで、ネリィが汗を拭いながら聞いてくる。
「合流はまだしないっす。いざという時の為に1人は別の場所にいた方が助かるっすから・・・ねっ!」
ウィックが言いながらすれ違った兵士の頭を殴って気絶させる。そうやってウィックと俺で見られた人を気絶させながら四階に向かう。
ごめん! 何にも知らない人は可哀想だけど、ソニアとリアンを助けるためだ。我慢してくれ!
心の中で謝りながら進む。ネリィが「倒れた人ってこのまま放置していいの? 絶対バレるでしょ」とか言ってたけど、無視して進む。そんなのんびりしてらんないからな。
四階に着いた途端、ネリィに後ろから肩を叩かれた。そして周囲を気にしながら口を開く。
「ここからはあたしも一回しか来たことないし、貴族がたくさんいるらしいから慎重に行くわよ」
「おう!」
「ちょっと! 声デカいわよ!」
「二人ともデカいっすよ・・・もう遅いっすけど」
「え? 遅いって・・・」
ウィックが廊下の奥を指差す。視線を向けると、5人くらいの貴族っぽい人達が歩いて来ていた。一人騎士も混じっている。俺とウィックがバレる前に気絶させようとすかさずその集団に向かって走り出そうとした瞬間、ネリィが「噓でしょまた!?」と驚きの声をあげた。
「あれ王様よ!」
ネリィが指差す先。集団の先頭を歩く、頭に王冠を乗せて豪華な衣服にたくさんの黒い魔石を付けた黒髪の若い男。その首元にはひと際大きな闇の魔石がぶら下がっていた。
あれが王様か・・・。色々と悪い噂を聞いたせいか、それともソニア達が攫われたせいか、俺には王様が悪人にしか見えない。
「おいメイド、王に向かって指を差すな。不敬が過ぎるぞ」
王様がこちらに近付きながら、ネリィと、それから俺とウィックを睨む。ウィックが腰に下げている二本の短剣の内一本を俺にそっと渡した。
「丁度いいっす。今あのデカい魔石を壊すっす」
ジェイクから聞いた呪いの魔石。あのデカい魔石は人間の精神に悪影響を及ぼす闇の魔石である可能性が高いらしい。
それを壊したところで戦争が終わるかは分からないけど、状況は一気に良くなるハズだ。言われてみれば、王様は呪われてそうな顔をしてる・・・かもしれない。でも、良くない雰囲気は確かに感じる。
「確か、騎士と兵士以外の出入りを禁止しているハズの正門から、先日不審者が入国したと聞いていたが・・・お前達か?」
王様が威圧感たっぷりにそう言うと、ネリィが拳を振るわあせながら前に出た。
「そ、そうよ! それより、リアンとソニアちゃんはどこなのよ! 正直に答えたんだから、ア、アンタも答えなさいよ!」
「・・・」
ずかずかと無言で近付いてくる王様に、俺はネリィを庇うように前に出て短剣を構える。
「答えろ! ソニア達はどこだ!」
「・・・知らんな」
王様が後ろの貴族達に「下がっていろ」と命令する。貴族達は俺達の様子を窺いながらそそくさと立ち去っていった。残ったのは王様と、隣にいる一見人が良さそうに見える騎士だけだ。
「俺は今急いでんだよ。用件がそれだけならさっさと拘束されろ」
後ろの貴族が居なくなった途端に王様の雰囲気が一気に変わった。俺達を鋭く睨み、拳をポキポキと鳴らす。
「陛下。陛下が出るまでもありません。ここは私が・・・」
「うるせえ。俺はまだお前も、闇市場の奴らも信用してねぇんだよ。・・・ったく、他人の城で好き勝手やりやがって」
闇市場!? やっぱり関りがあったのか!
王様が騎士から剣を奪い、俺、ウィック、ネリィの順番で見る。俺は左手に持っていた闇の魔石に魔気を流して身体強化をして王様を注視する。
「お前からだ」
そう言い放ったあと王様は、姿を消した。その瞬間、ウィックが「ネリィ!」と叫ぶ。
「きゃあ!!」
いつの間にか王様はネリィに向かって剣を振り下ろしていた。すぐにウィックがネリィの前に出て剣を受け止める。
は!? ・・・なんだあの速さ! 人間の動きじゃないぞ・・・。っていうか真っ先に戦えないネリィを狙うかよ!
「くっ・・・なんて力っすか!」
くそっ! ボケっとそてる場合じゃないぞ俺!
俺はウィックと鍔迫り合いをしている王様目掛けて、鞘に収まったままの短剣を振り上げる。
「は? 舐めてんの?」
王様がそう言いながらウィックを素早く蹴り飛ばして、短剣を持ってる俺の右腕を掴む。
「お前、剣の抜き方知ってる? 鞘に収まったままだぞ・・・っと!」
言いながら俺の腹を殴る。
「ぐっ・・・はぁ!」
「ディル!」
ネリィの叫び声のお陰で辛うじて意識を手放さずに済んだ。
なんだこいつ! 速さも力もまるで化け物だ・・・!
「ディルを放せっす!」
ウィックが王様に蹴りを入れる。俺がギリギリ反応出来るくらいのスピードだ。でも、王様はそれを俺を持つ反対の手で軽々と受け止めた。
まずい! これで俺もウィックも王様に掴まれた状態で身動きが取れない!
「ネリィ! 一旦逃げ・・・ぐふぅっ!」
今度は腹を蹴られた。
・・・意識が飛びそうだ。
「お前らふざけてんの? 片方は剣を抜かないし、もう片方は明らかに急所を外して攻撃してくるし・・・やる気あんのかよ」
「ないよ・・・ソニアは自分が関わったことで人が死ぬのが嫌いなんだ。だから俺はお前を殺さない・・・っぐはぁ!」
また腹を蹴られた。
ダメだ、もう意識が・・・。
(助けてディル~~~!!)
!?
突如、頭の中でソニアの声が響いた。この感覚は知っている。ソニアが言うところのテレパシーだ。過去に何度か経験している。
なんだそのマリに揉みくちゃにして可愛がられてた時みたいな『助けて』の声は!
そうやって全く同じトーンの『助けてディル』を村に居た頃に聞いた覚えがある。
なんにせよ。ソニアが俺に助けを求めてるんだ。なら、こんな奴にボコボコされてる暇は無い!
「放せハゲーー!!」
俺は掴まれている手を思いっきり噛んだ。
「いってぇ! なにすんだ! 俺はハゲてねえ!」
王様が一瞬手の力を緩めたのを逃さず、俺は王様から脱出する。そして短剣を鞘から抜いた。
「ウィック!」
「分かってるっすよ!」
俺が何を言うまでもなく、ウィックが王様を羽交い絞めにする。でも、きっとすぐに解かれるだろう。
・・・でも、その一瞬さえあれば!
ガキン!!
・・・は?
俺は鞘から抜いた短剣で、全力の力で王様の胸元にある大きな闇の魔石を切る・・・ハズだった。けど、実際はまったく刃が通らない。まるで剣で剣を斬ろうとしてるみたいだ。
「邪魔だ!」
王様がそう叫びながらウィックを投げ飛ばす。
「やっと鞘から抜いたと思ったら、どこ狙ってんだよ! おらぁ!」
ゴッ!
鈍い音と共に視界が赤く染まっていく。どうやら頭を蹴り飛ばされたみたいだ。
「ディル! しっかりして!」
ネリィが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫だ。まだ・・・立てる・・・!」
ネリィの肩を借りてフラフラになりながらも、意識を振り絞って立つ。その瞬間、目の前にウィックが飛ばされてきた。
「ぐっ・・・」
「きゃ!」
俺、ネリィ、ウィックが床に転がる。
「陛下。そろそろ時間では?」
今まで黙って見ていた騎士が窓の外を見て淡々とした口調で言った。
「ちっ、仕方ない。こいつらはお前に任せる。俺は厨房に寄ってから会ってくる」
「了解です」
赤く染まった視界の端で、王様が騎士に剣を返したのが見えた。騎士がこちらに向かってくる。
やばい・・・俺もウィックも満身創痍だ。せめてネリィだけでも・・・!
そう思って隣を見ると、一緒に床に倒れてたハズのネリィがいない。
「ね、ねぇ。騎士様。本当に・・・リアンとソニアちゃんを知らないの?」
いつの間にかネリィが俺とウィックの前に立って騎士に話しかけていた。
さっきの王様の対応見てただろ!? まともに取り合うわけがない!
「アンタ、最初にあたしとリアンのことをメイド長に知らせに行ってくれた騎士様よね?」
「・・・」
騎士は何かを探るようにネリィを見ている。
「あの時は初めてのお城でそれどころじゃなかったけど、こうやって改めて見て気が付いたわ。あたし、アンタの顔見覚えあるのよね」
「・・・」
騎士がピタリと歩みを止めた。
ネリィは何を言ってるんだ? でも、例えブラフだったとしても今はネリィに賭けるしかない。
「オードム王国の副騎士団長でしょ。子供の頃一度見たことあるのよ」
え・・・オードム王国の騎士? なんでセイピア王国にいるんだよ。
「・・・だったら何だと言うんですか?」
「何でもないわ。ただ口を利く気になって欲しかっただけ」
「いいでしょう、面白い。乗ってあげますよ。・・・では、私から1つあなた方に情報を教えましょう」
騎士が剣を鞘に納めた。
なんだか分からないけど、この騎士は話が分かる奴なのか? いや違うな。変わってるだけだ。
「リアンと言う幼子と金髪の妖精・・・恐らく彼女がソニアでしょう。その2人なら闇市場の者が攫いました」
・・・っ。
「やっぱり・・・! ア、アンタも闇市場の人間なの!?」
「私はただの仲介役ですよ。売り手と買い手、その間に入る闇市場。その闇市場と売り手買い手のさらに間に入るのが私みたいな仲介役ですよ」
「つまり、闇市場の窓口ってこと?」
騎士はニコリと笑う。ネリィは少し考えたあと、俺を一瞬チラッと見た。
「じゃあ、アンタを通せば、あたしがリアンとソニアちゃんを買うこともできるわけ?」
「自分の身体か金・・・どちらでお支払いしますか?」
まさか・・・ネリィがそんな大金持ってるハズがない! その選択は誰も幸せにはなれない!
「ネリィやめ・・・」
「金よ!!」
俺が止める間もなく、ネリィは言った。予想と反対のことを。
「ほう、あなたにそんな大金があるようには見えませんが?」
「ディルが持ってるわ!」
ネリィが床に横たわる俺をビシッと指差す。
「ディルは遠くの地の武の大会っていうので優勝した賞金を持ってるのよ!」
いや、準優勝なんだけど・・・まぁ、確かにお金は持ってるな。ソニア達を取り戻せるならいくらでも出す。
「だから、あたしに、あたし達にリアンとソニアちゃんを売って!」
「ふむ。いいでしょう・・・と言いたいところですが、お売りできるのはリアンだけです」
「え!? どうしてよ! 妖精だから!?」
「実はこれに関しては私からしても完全に予想外の出来事なのですが、先程牢に行った者から、妖精がいなくなったと報告を受けてるんです。完璧に逃げられないようにしていたのですがね。なにしろ相手は妖精ですから・・・はっはっは」
何を笑ってんだ!ふざけてんのか! ・・・ていうかソニアが逃げた!? じゃあ今はいったいどこにいるんだよ!? さっきの気の抜けた『助けてディル』はなんだったんだ!?
考えても分からないことだらけだ。血を流し過ぎたのか頭がボーっとしてきた。
「まぁ、どちらにしろ。大会の賞金程度じゃあ妖精は買えませんから」
「・・・じゃあ、こんなこと本当は聞きたくないんだけど、リアンはいくらなのよ?」
「そうですね~。金貨三枚・・・いや、あの容姿なら金貨五枚ですね」
「そう・・・。ディル、足りる? ・・・払ってくれる?」
ネリィが縋るような目で俺を見下ろす。
確か・・・武の大会の賞金が金貨五枚だった。・・・それからいくらか使ったけど、アンナさんから貰った分がある。・・・足りるな。
「大丈夫・・・足りる」
ダメだ・・・意識が・・・。
なんとかそれだけ伝えて、俺は意識を手放した。
夢を見た。王様が顔を青ざめさせてソニアに頭を下げている夢だ。
俺は願望交じりの夢から、頭を振って意識を切り替える。
「うぅ・・・ここは?」
「あ、ディル。ここはお城の客室よ」
ベッドに寝かされている。俺は起き上がって自分の身体を確認する。手当てをされてるわけじゃないけど、眠ってたお陰か少し楽になった。
「ディル、ごめんなさい」
椅子に座っていたネリィが立ち上がって、俺に頭を下げる。
「ソニアちゃんからディルが大会で賞金を貰ってたって聞いて・・・それで・・・」
「いいんすよネリィ。お金なんてただの金属っすから。いくら無くなっても懐が軽くなるだけっす」
「いや、それは俺のセリフだろ・・・っていうか何でウィックが俺の財布持ってるんだよ」
何故かウィックが俺の財布を持って笑っている。
「ディルが気を失ってる間に宿から取ってきたっす。ディルと違って俺はそんなにダメージ無いっすから。・・・・・・ディル、すまなかったっす。守ってあげれなくて・・・」
ウィックが財布を俺の胸に押し付けながら、いつもの笑顔を消して悔しそうな顔で俺を見る。
「別に、俺はウィックに守ってもらおうなんて思ってない。・・・でも、そう思ってくれるんならもっと厳しく俺を鍛えてくれよ」
「分かったっす。本気でいくっす」
ウィックが数歩引いて、ニカッと笑った。
キィィと扉が空いた。ノックもなしに入って来たのは、さっきの騎士と・・・涙を必死に堪えるリアンだった。ネリィが瞳を潤ませて一歩近付く。
「連れて来たぞ」
騎士がそう言ってリアンの背中を押す。
「リアン! 無事でよかったわ!」
「・・・お、お姉ちゃん!」
ネリィがリアンに駆け寄って抱こうとする・・・のを騎士が間に剣を入れて邪魔する。
「おっと、金が先ですよ」
「わ、分かってるわよ。・・・ディル」
「ほらよっ」
俺は財布から金貨を取って、騎士に一枚ずつ投げた。
「確かに金貨五枚ですね。では・・・」
騎士が剣を引っ込めて、リアンを俺達の方に蹴った。
「わぁっ!」
「リアン!? ・・・きゃあ!!」
まだ王様から受けたダメージが抜けきったいなかったせいで、咄嗟に体が動かなかった。騎士がネリィの手を引っ張り、抱き寄せる。そしてネリィの首元に剣の切っ先を当てた。
「え・・・なん・・・あたし、どうして?」
「・・・では、金貨五枚とネリィ自身のお支払いで、リアンを引き渡します」
「は!? 話が違うぞ!」
「おや? 私は一言も金貨のみなんて言ってませんよ? 確認不足ですね。ガキが、闇市場と取引するなんて身の丈に合わないん・・・」
バチン!!
「な、なんだ!?」
騎士の剣が何かに弾かれた。カシャンカシャンと剣が床に落下する。俺は慌ててネリィを呼ぶ。
「ネリィこっちに来い!」
「う、うん!」
ネリィが俺とウィックとリアンがいる方へ走り出す。
「くっ・・・待て!」
騎士がネリィの髪を掴もうとしたその時、ガコンッという音と共に鉄の檻が騎士の頭上から現れた。そして騎士は檻に閉じ込められる。
「は・・・?」
騎士が口を開けて檻の中で固まっている。それを見ている俺達も固まっている。そんな状況の中、場違いな明るい声が聞こえた。
「やったね! 悪者を捕まえたよ!」
「うん、やったね。捕まえたよ」
仲良く手を繋いで微笑み合う妖精2人が檻の前に現れた。1人は俺の良く知る妖精、そして俺が想う妖精、今は友達で相棒のソニアだ。そのソニアに頭を撫でられている褐色肌の男の妖精は知らない。
ソニア! 無事でよかった! よかったけど・・・その男は誰だあぁぁぁ!!
読んでくださりありがとうございます。少し長くなりました。前編後編に分けようかとも思ったのですが、切りどころが見付からなかったのでそのまま投稿しちゃいました。




