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108.鉄の妖精と一緒に

土の海底で土の妖精とお別れしたわたしは、土の妖精が開けた小さな穴を通ってリアンと別れたあの暗い部屋に向かっている。

・・・鉄の妖精と一緒に。


「土の妖精も心配性だよね。別にわたし1人でも帰れるし、ディル達と合流すれば心配なんていらないのに」

「寂しいこと言わないでよ。せっかく一緒に行動出来るんだから楽しもうよ」


鉄の妖精がそう言いながらわざとらしく眉を下げる。


「いや鉄の妖精と一緒なのが嫌なわけじゃないんだよ? ただ、わたしってそんなに頼りなく見えるのかなぁって」

「見えるよ」

「即答・・・」


 いや、別にいいんだけどね? 心配してもらえるのはありがたいし、一緒に来てくれる妖精がいるのも頼もしいし。ただ、わたしだって妖精としてそれなりに力があるわけだし・・・ね?


「だって雷の妖精はまだ生まれて10年も経ってないんでしょ? 土の妖精じゃなくたって心配するよ。まだ幼い子供だもん」

「わたし、幼い子供に見える?」

「うん。特に顔が」


 ・・・顔!? 童顔ってこと? もしかしてわたし、馬鹿にされてる? 鉄の妖精よりも身長高いんだよ? 高いんだよ!?

 穴から出たら背比べでもしてやろうかな。・・・いや、それこそ子供っぽい行動な気がするし、やめとこ。


「それにしても、雷の妖精は羽がキラキラしてて綺麗だね」

「え、そう?」


わたしの真後ろに鉄の妖精がついてきている状態だからか、鉄の妖精からわたしの羽はよく見えるんだと思うけど、マジマジと見られてると思うとちょっぴり恥ずかしい。


「今まで羽がキラキラしてる妖精なんて見たことないよ。暗くても見失わないから便利だ」

「見失うって・・・手繋いでるし、こんな狭い一本道の穴の中で見失う訳無いでしょ」

「確かにそうだね。・・・あ、そろそろ穴を抜けるよ」

「へ?・・・あっ、いったい!」


部屋の天井に頭をぶつけた。リアンと別れた暗い部屋に着いたみたいだ。


「もう! こういう時こそ手を繋いだままわたしを引っ張って助けてよ! 肝心なところで手を放すんだから・・・って。どこにいるの?」


 暗くて部屋の様子が分からないよ。


「俺ならここにいるよ?」

「ひゃあ!」


耳元で鉄の妖精の声がした。


「確かに暗いよね。どこかに明かりを作れそうなものは無いかな?」


 そんな小学校の教科書の問題みたいな言い方で言われても・・・あ、そういえば床のどこかにガラスのボトルが落ちてたよね。


「ちょっと来て! 確かここら辺にあったはず・・・」


わたしは鉄の妖精と手を繋いで床の近くを飛んでボトルを探す。キラキラと光るわたしの羽のお陰で近くは辛うじて見える。


「ここにありますよ」


鉄の妖精とは違う男性の声が聞こえたと同時に、わたしの目の前にボトルが置かれた。


「そうそう、これこれ! 誰か分からないけどありがとう!」


 よし、前と同じようにデンキをながして明かりを・・・。


・・・っと思ったところで、隣にわたしと手を繋いでいる鉄の妖精がいることに気が付いた。


「そうだ! 鉄の妖精に作って欲しいものがあるんだけど・・・」


鉄の妖精にお願いして、ボトルの中に細長い鉄線を作って貰った。フタを下にしたらまるで大きな豆電球みたいだ。


「言われた通り作ったけど、これをどうするの?」

「まあ見ててよ!」


わたしはフタから強い電気を流す。一瞬凄く明るくなったけど作って貰った鉄線が直ぐに熱で溶けて消えてしまった。


「ちょっと、もっと頑丈なの作ってよ! 溶けちゃったよ!」

「え~、無茶言うなぁ・・・」

「出来ないの!?」

「出来るけど・・・溶けないようにすればいいんだね?」

「うん!」


もう一度、鉄の妖精に細長い鉄線を作って貰う。そこに電気を通すと豆電球のように光って、部屋が凄く明るくなった。溶けることもない。


「明るくなったね」

「うん! 明るくなった!」


鉄の妖精と「やったね」と微笑み合ったあと、わたしは部屋の中を改めて見渡す。


「あれ? リアンとカーネは?」


リアンとカーネを合わせて4人いたはずなんだけど、今は2人しかいない。


「妖精さん。・・・あの2人は連れていかれちゃいました」


男性が同情を含んだ声でそう言う。サーっと血の気が引いた。


「う、売られちゃったの!?」

「分からないです。カーネは妖精さんがいなくなったあと直ぐに貴族のような格好をした人に、リアン君はついさっき騎士の人に連れていかれました」

「貴族っぽい人に、騎士の人? 2人は別の人に連れていかれたの?」


 てっきり一緒に連れていかれたんだと思ったけど・・・。


「はい。貴族っぽい人はカーネに『三日後までに体を整えろ』と言っていたので、多分どこかのお金持ちか貴族に売られたんじゃないかと思うんですけど、リアン君は何も・・・」


 少なくともカーネは三日は大丈夫って考えていいんだよね。そして、リアンはさっき連れていかれたんならまだ間に合うかもしれない!


「鉄の妖精! 今すぐリアンを追おう! あの鉄の扉を開けて!」

「もう、妖精使いが荒いなぁ」


言いながらも鉄の妖精は、鉄の扉に大きな穴を開けてくれる。

・・・と言っても、わたしが通れるくらいの穴なので、人間からしたら小さな穴だ。


「ありがとね! 知らない人! あとで絶対に助けるから待っててね!」


色々と教えてくれた男性に手を振ったあと、鉄の妖精の手を掴んで部屋から飛び出す。

部屋の外はたくさんの鉄の扉が並ぶ廊下だった。壁に篝火があってそこそこ明るい。


「リアンはどこに連れていかれたんだろう?」

「そんなの俺が知るわけないよ。でも、ここの出口はあっちみたいだよ」


鉄の妖精が指差した方向を見てみるけど、別に出口らしいところが見えるわけでもない。


「なんで分かるの?」

「地面を見て? 人間の足跡があるでしょ?」

「うん。鉄の妖精が指差した方に行くにつれて多くなってる・・・・・・あっそっか!凄い! 頭いいね!」


わたしは鉄の妖精の頭をぐりぐりと撫でる。


「やめてよ。雷の妖精よりもずっと長く生きてるんだから当たり前だよ。ほら、さっさと行くよ」


唇を尖らせた鉄の妖精はわたしの手を取って、出口に向かって飛んで行く。心なしかわたしの手を握る力がさっきよりも強い気がした。


「これは・・・エレベーター?」


廊下の進んだ先、行き止まりにはエレベーターがあった。ただ、わたしの知ってるエレベーターと違って、扉が無いしボタンも無い。エレベーターの中に土の魔石が付いているだけだ。


「この土の魔石を発動させて、地面の土を盛り上げさせて上に行くみたいだね」

「そうなんだ・・・わたし魔石なんて使えないよ?」

「大丈夫だよ。こんな鉄の箱くらい俺が浮かせられるから」


わたしの手を引っ張ってエレベーターの中に入った鉄の妖精は、エレベーターの床に触れる。ゴゴゴ・・・と土と鉄が擦れるような音と共にエレベーターが浮き上がる。


「浮いてるね!」

「うん、浮いたよ」


ガコン!


エレベーターが天井にぶつかる音がした。鉄の妖精と手を繋いだまま外に出ると、そこは綺麗で小さな部屋だった。壁とか床の感じが諸にお城だ。


「お城の中のどこかの部屋みたいだね」

「そうだね。それよりも、俺のお陰で上までこれたんだけど?」

「うん、ありがとう! 助かったよ!」


ニッコリとお礼を言う。何故か鉄の妖精がジーっとわたしを見つめながら距離を詰めてくる。


 え、なになに? 何でそんなに顔を近づけてくるの?


「さっきみたいにしてよ」


鉄の妖精が不満そうなに唇を尖らせる。


 え、さっき? もしかして頭を撫でて欲しいの?


恐る恐ると鉄の妖精の頭に手を乗せて、ぐりぐりと撫でる。


 これで、いいのかな?


「うん。じゃ、行こっか」


目の前でニコッと破顔した鉄の妖精は、わたしの手を引っ張って部屋の出口に向かう。


 ちょ、ちょっとドキッとしちゃったよ! 目の前で美男子の笑顔は心臓に悪い。


「この扉は木で出来てるみたいだね。どうしよう?」


鉄の妖精が木材で出来た扉をコンッと叩きながら言う。


 鉄の妖精だから、鉄以外の物に干渉は出来ないもんね。


「鉄で隅っこの方にわたし達が通れるくらいの穴開けられない?」

「こう?」


ズボッ!


鉄の妖精が鉄の釘みたいなので扉の隅に穴を空けてくれる。


「そうそう! それくらいの!」


よしよしと鉄の妖精を撫でて、わたしは鉄の妖精が開けた穴に上半身を突っ込む。


 ・・・お城の廊下だ。でもここって・・・あ、人が来た!


スッと体を引っ込める。


「どうしたの? 雷の妖精」

「人通りが多くて出るタイミングが無いよ。それに、ここお城の四階だった」


 メイド長のエリザに一度案内して貰った時に見たけど、間違いなく四階だった。


「地下からだいぶ距離があったからね。というか、人間なんて無視して普通に出ていけばいいじゃん」

「向こうが無視してくれないよ!」


 ただでさえわたしは目立つ髪色してるんだから! たとえ体がちっちゃくてもバレちゃうよ!!

 ・・・いや、土の妖精が王様に妖精に手を出さないように釘を刺してたから大丈夫だと思うけど、騒ぎになってリアンが遠くに連れていかれたりしたら嫌だ。


「見られたくないなら姿を消せばいいんだよ」

「え?」


 そんなこと出来ませんけど?


「人間に見えないようにすればいい」

「簡単に言うけど・・・そんなこと出来るならとっくにやってるよ」

「雷の妖精は出来ないの?」


 そもそも妖精がそんなこと出来るなんて知らない。ミドリちゃんも水の妖精もやってないだけで実は出来るの? まぁ、あの2人は人の目なんて気にしなさそうだしね。


「どうやってやるの?」

「うーん、説明が難しいなぁ。・・・とりあえず今は僕から離れないでいてくれればそれで大丈夫だから、やり方は今度土の妖精か他の偉い妖精にでも教えてもらってよ」

「う、うん。分かった。今は鉄の妖精から離れない!」


ギュッと鉄の妖精の手を握る。そのまま手を繋いで部屋の外に出た。


「凄い! 皆わたし達のこと見えてない!」


すれ違う人間が皆わたし達を素通りしていく。


「それで、どこに向かおうか?」

「分かんない!・・・けど、とりあえず下の階に向かおう。ネリィとジェイクがどうしてるのか気になるし」


鉄の妖精と手を繋いで、三階に続く階段を降りる。すると、見覚えのある後ろ姿が見えた。


「あ、あそこにいるのリアンだ!」


二階に続く階段を降りるリアンが見えた。騎士っぽい人に連れられている。


「よしっ、後を付けてみよう!」

「いいの? なんだか分からないけど、あの大人の人間を殺せばリアンっていう人間は助けられるんじゃないの?」

「こ、殺すのはダメだよ! それに、リアンをどこに連れて行くのか気になるじゃん! もしかしたらカーネもそこにいるかもしれないよ」

「ああ、そういえば、土の妖精にも出来るだけ人間を殺さないようにって言われてるんだったよ」


「危ない危ない」と言いながら空中に出していた大きな槍を消した。


 言われてなかったらやっちゃってたの!?


暫くリアンと騎士をつけていると、一階の客室の前に着いた。騎士っぽい人が扉を開け、リアンを連れて客室の中に入る。わたしと鉄の妖精もすかさず後を追って扉の隙間から入る。


「連れて来たぞ」


騎士っぽい人がそう言いながらリアンの背中を雑にトンッと押した。リアンがよろめいたその先には、瞳を潤ませたネリィと傷だらけのディルとウィックがいた。


 な、何があったの!? どういう状況!?

読んでくださりありがとうございます。長生きな妖精、幼い子供の妖精に撫でられて喜ぶ。

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