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105.よかったね!アホ!

扉を開けた見知らぬ男性は、リアンを見ながら一歩部屋に入ったあと、わたしを見て動きを止めた。一見、人が良さそうに見える貴族っぽい服を着た茶髪の背が高い男性だけど、背の高さや肌の色が土の地方の人間じゃない。他の地方の人だ。


 なんだか分かんないけど、リアンはわたしが守る!


男性をポカーンと見上げているリアンの前に庇うように出て、男性を睨む。


「あなた誰!?」


わたしの問いに男性は答えない。代わりにわたしから目を離さずに懐から緑の魔石を取り出した。


 魔石!? 何をするつもりか知らないけど危険な感じがする!


「リアン! 逃げて! ネリィかジェイク・・・ううん、ディルの所に助けを求めて!」


男性から目を離さずにそう叫ぶ。でもリアンは一向に動こうとしない。


「ソニアさんはどうするの!? 一緒に逃げようよ!」

「わたしは大丈夫! だって妖精だから! こんな人間ポポイのポイだよ!」


前を向きながら後ろのディルに向かって親指を立てる。


 ・・・ポポイのポイって何!? 自分で言ってて訳が分からないよ!


「う、うん! ソニアさん妖精さんだもんね! 分かった! すぐにディルの兄貴に知らせてくる!」


リアンが男性の横を走って通り抜ける。男性はリアンには目もくれず、わたしから目を離さないで魔石を持つ手を上げた。


 何をしようとしてるのか知らんけど、先手必勝だよ!


「ビリビリアターック!」


わたしは体に電気を纏わせて切り込み回転しながら男性の顔面目掛けてタックルする。男性は「うおっ!」と驚き声を上げながら魔石を持ってる手を振り上げた。


ゴツン!


「きゃあ!」


 いったぁ!?


横から何か硬い物でぶたれた。男性の顔面にぶつかるはずだったわたしの体は、ベシッと勢い良く床に叩き落された。わたしは朦朧とする意識の中、男性を見上げる。


・・・・なに? もしかして、魔石で殴られたの? そんなハエを落とすみたいに・・・。わたし汚くないよ。だって妖精だから・・・。


何故か殴った張本人が「マジか」と魔石と床に転がるわたしを交互に見て驚いている。


「ソニアさん!!」


悲痛な叫び声を上げながらこちらに駆け寄ってくるリアンの姿を最後に、わたしは意識を手放した。




「もう・・・ディルったら、わたしは食べ物じゃないよ~・・・・・・八ッ!」


 ここは・・・どこ?


キョロキョロと周囲を見渡す。真っ暗闇・・・でもない。微かに光っている物がある。わたしの背中で羽がキラキラと光っているお陰で、周囲がちょっぴり見える。ボトルの中に閉じ込められていた。


 またボトルの中かぁ。素材はガラスで、上には鉄のキャップが付いている。うん。とりあえず体を電気にすれば普通に出られそうだ。


「ソニアさん・・・」


リアンの心配そうな声が聞こえる。わたしはボトルの中でバチバチと強い電気を流して明かりを作る。ボトルのガラスが豆電球のようにいい感じに光を広げてくれる。


「リアン、どこに・・・うわぁ!?」


色んな人に囲まれていた。ボロ服を着た男性が3人と、服はそのまんまのリアンがわたしが入っているボトルを座って囲んでいる。足には枷が付いていて、そのまま壁に繋がれていた。


 この人達もわたしとリアンみたいに攫われてきたのかな? ここは牢屋だよね?


床も壁も土で出来ていて、隅に空気甲らしき穴と鉄で出来た扉が見える。


「凄い、部屋が明るくなった」


リアンが部屋を見渡しながら感心したように言う。


「ねぇ、リアン。なんとなく想像出来るけど、あれから何があったの?」


ガラスをコンコンと叩きながらリアンに話しかける。リアンは心配そうにわたしの体を見たあと、少し頭を下げてわたしと視線を合わせてから話してくれる。


「あのあと、ソニアさんが意識を失ったのが視界に入って急いで助けに行こうとしたんだけど、緑の魔石から出てきた蔦でグルグル巻きにされちゃって、そのまま大きな革袋に入れられたと思ったら、気付いたらここにいたよ」


 いたよ・・・ってリアンは落ち着きすぎだよ。普通の五歳の子供なら泣きわめいてもおかしくない状況だと思うんだけど。少なくとも人間だった頃のわたしなら確実に泣いてる。

 ・・・というか三年前は似た状況で泣いてた気がする。


「それよりも、僕がこの部屋に入れられた時には既にソニアさんはその中に入ってたんだけど・・・大丈夫なの? 凄い勢いで床に叩きつけられてたけど。びたーんってなってたよ」


 びたーんってなってたのか・・・。


わたしはボトルの中でぴょんぴょんと跳ねたり屈伸運動をしてみたりする。


 むぅ・・・ずっと飛んでたりだらだらしてたせいか体が鈍って動かしにくい・・・けど、それ以外は別に何とも無いと思う。あの時は凄く痛かった・・・気がしたんだけど、そうでもなかったのかな?


「わたしは元気だよ! モーマンタイ!」

「モーマンタイ? よく分からないけど、大丈夫なんだよね?」

「うん!」

「そっか、よかった!」


リアンがニコリと微笑む。わたしもニコリと微笑み返す。


 はい可愛い。・・・可愛いけど、やっぱりおかしくない? リアンがいつもより元気な気がする。


「なんかご機嫌だね? リアン」

「うん。お父さんに会えたから」

「そっか、それはよかったね」

「うん。よかった!」


 なんだ、それでこんな状況なのに元気なんだね。納得だよ・・・・・・え? お父さん?


「お父さん!? どこで会ったの!?」

「ここにいるよ」


そう言って、リアンは隣に座っている男性を見上げる。


「ど、どうも。父のカーネです。娘と息子が世話になったみたいで・・・」


白髪交じりの茶髪で、少しタレ目の温厚そうな男性がペコペコと頭を下げる。


 おおぉ・・・確かに、言われてみればリアンに似てるかもしれない。雰囲気とか目元とか。

 そして何よりも・・・生きてたんだね。よかった。心からよかった。


「お父さんにはソニアさんのこととか、海賊さんのこととか話したんだけど・・・ダメだった?」

「それは別にいいんだけど・・・カーネはどうしてこんなところに? 掴まっちゃったの?」

「その通りですよ。戦場で誘拐されて、売れ残ったんですよ」


カーネは自虐気味に笑いながら言う。


「容姿の良い人間や、何か秀でた能力がある人間は次々と連れて行かれました。・・・俺はただの居酒屋の一店員で、何の取り柄も無いおじさんだったので・・・」


 やっぱり闇市場が関わってるんだよね。カーネは何故か落ち込んでるようだけど、こうして息子のリアンと再開出来たんだからよかったじゃんね。隣に座っているリアンはニコニコだもん。


「取り柄の無いおじさんでよかったね!」

「うっ・・・はい」


元気付ける為に言ったんだけど、カーネは笑顔を引き攣らせるだけだった。言葉選びを間違えちゃった。


わたしが「テヘッ」と笑って誤魔化すと、カーネは軽く目を見張って隣に座っているリアンを抱き寄せる。


「リアンが言うんです。こんな状況だけどソニアさんがいれば大丈夫だと、だってソニアさんは妖精だからと、それに、頼もしいお兄さん達がたくさんいるからお姉ちゃんもきっと大丈夫だと」


 リアンからわたし達はそう見えてるんだね。なんだか嬉しすぎて泣きそうだよ。もっとしっかりしなきゃっ。


「俺がいない間にネリィとリアンが妖精と友達になってたことすらこの目で見ても信じがたいのに・・・本当に大丈夫なんですか? この状況からでも助かりますか?」

「うん! ここが何処かも分からないし、あれからどのくらい経ったのかもディル達が何をしてるのかも分からないけど、大丈夫だよ!」


グッと親指を立ててカーネを見上げる。


 正直、わたしも不安が無いわけじゃないけど、リアンの前でそんな弱気なわたしを見せれるわけがない。


未だに少し不安そうな顔をしているカーネに、リアンが声を掛ける。


「大丈夫だよお父さん。・・・それと、さっきカチカチのパンが運ばれてきたばっかりだから今はお昼くらいだと思うよ」


 何この子。可愛いし賢いし、ちょっとわたしとキャラ被っちゃってるよ。


「そんな賢いリアン君に聞きたいんだけど、このボトル、開けられないの?」


 別に自力で出られるんだけど、会話に参加しようとずっと口を開け閉めしている他の男性2人含め、リアンもカーネも両手が自由なのに、誰も開けてくれなさそうな雰囲気だったから気になっちゃって。


「ソニアさんからは見えないかもしれないけど、このフタ鍵が掛かってるの」

「へ~、そんなボトルがあるんだー」

「あるんだねー」


「ねー」と微笑み合うわたしとリアンの横で、カーネがボソッと「いや、普通無いと思うけど」と呟いたけど、現にここにあるからね。


 ・・・こんなことしてないで早く脱出しないとね! だらだらとお喋りしてる場合じゃないよ。ディルに怒られちゃう!


そろそろボトルから出ようかな、と立ち上がったところで、今まで黙っていた男性がある一か所を指差しながら「なんだあれ?」と口を開いた。


男性が指差す方を皆が一斉に見る。そして一斉に声を出す。


「「毛?」」


土の地面からアホ毛が生えている。ぴょこぴょこと元気に跳ねながら、土の中を泳ぐようにスーッとリアンの方へ移動する。


「うわっ、こっちきた!」

「リアン避けろ!」


リアンが咄嗟に立ち上がって避けようとするけど、足枷のせいでつんのめってわたしの方に転がってくる。リアンの膝がボトルに当たって、わたしはボトルごとコロコロと床を転がった。


「わあああああ!」

「あああ! ソニアさん!」


回る視界の中で、リアンが慌ててボトルを拾おうとするのが見えた。


「リアン~! 触っちゃダメ~~!!」

「・・・え? あっつ!」


 今このボトルはわたしが大きな電流を流して豆電球みたいになってるから・・・触ったら熱いよって言っても理解できないよね・・・。ごめん!


コロコロと転がり終えたボトルから、体を電気にして外に出る。ボトルの中にはわたしが流した電流がまだ残っている。いつの間にそんな器用なことが出来るようになったのか自分でも分からないけど、部屋が明るいままで助かった。


「リアン大丈夫!? 火傷してない?」

「う、うん。ちょっとしか触ってなかったから。・・・それよりソニアさん、自力でボトルから出られたんだね」


そう言いながらも、リアンは部屋の中をうろちょろしているアホ毛を目で追う。


「ちょっと待っててね。今あのアホを捕まえるから。間違えた、アホ毛を」


わたしは地面を素早く動き回るアホ毛を、それ以上に素早く飛んで両手で掴む。


 むむむむむぅ・・・!


アホ毛がわたしの手から逃れようと地面に潜ろうとする。わたしは地面に足を付けて「むんっ!」と踏ん張る。


「こいつ・・・強いよ!」


 これはわたし一人じゃ厳しいかもしれない!


「ディル! ・・・じゃなかった。リアン! わたしを持ち上げて!」

「え? え? 持ち上げるって、どこを?」

「羽以外ならどこでもいいから早く! 逃げられちゃうよ!」


リアンがわたしの腰を指で掴んで持ち上げる。すると、案外簡単にスポッとアホ毛が抜けた。


 やば! 勢い余って手を放しちゃた!


ちっちゃな人がくっついているアホ毛が「ひゃああああ!!」と叫び声を上げながら宙を舞う。


「妖精だ・・・」


リアンがそのアホ毛を見ながら呟く。いや、妖精を見ながら。


なんというか、なんとなくそうじゃないかと思ったけど、案の定妖精だった。叫び声を上げながら宙を舞った妖精は、そのまま空中でピタリと止まる。わたし含め全員がその妖精を見上げるなか、褐色の肌で、茶色の目に薄茶色のショートヘアーの妖精は、頭上のアホ毛をぴょこぴょこと揺らしながら涙目でわたしを睨んで、口を開く。


「アホ!!」

読んでくださりありがとうございます。誰よりも現実を見ているカーネ。現実を見たうえで大丈夫だと言い切るリアン。現実は見てるけど、ちょっぴり視点がズレてるソニアでした。

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