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102.すれ違った人

「どうかしら? 似合う?」


メイド服に身を包んだネリィが、少し恥ずかしそうにクルッと回る。


「うん! 似合ってる! 可愛いよ!」


グッと親指を立ててウィンクする。


「ありがとう、ソニアちゃん。でも、こんな長いスカート履いたことないから転んじゃいそうだわ」

「大丈夫ですよ。今日はゆっくりと歩きながらお城の案内をしますので」


エリザが微笑ましそうにネリィを見ている。もしかしたら、エリザも最初の頃は似たような経験をしたのかもしれない。


「あたしは大丈夫かもしれないですけど、エリザさんは大丈夫なんですか? その・・・仕事的にあたしに教える時間あるんですか?」

「ハハハ・・・じゃあ、さっそく行きましょうか」


 目が笑ってないよ・・・。


わたしはネリィのメイド服のエプロンに付いているポケットに入った。なんだかおさまりが良い。ぴょこっと顔を出してみる。リアンと目が合ったので、ニコッとお互い微笑んでおいた。


「リアン君も一緒に行きますか?」

「いいんですか? お姉ちゃんの邪魔になりませんか?」

「さすがに仕事中に同行することは出来ませんが、今日は案内だけなので大丈夫ですよ」

「じゃあ一緒に行きたいです」


上機嫌のリアンも一緒に皆で部屋から出て、エリザが扉を閉める。


「あ、そうです。先にこれを渡しときますね」


エリザが鉄で出来た鍵のような物をネリィに渡す。


「この部屋の鍵です。一応予備がもう一つ私の部屋にありますが、失くさないようにしてくださいね。怒られちゃいますから。・・・私が」

「わ、分かりました!」


そう言いながら、ネリィは鍵をポケットに仕舞う。


ゴツン


「あいたっ!」

「あっ、ごめんなさいソニアちゃん! すっかり忘れ・・・あ、いや、こっちのポケットに仕舞うわね」


 今、忘れてたって言いかけたよね? そのうち、わたしがポケットにいるのにわたしを探したりしそうだよ。やめてよね、ネリィはまだ若いんだから。


部屋の扉にガチャリと鍵を掛けて、エリザメイド長のお城案内がスタートした。まずは階段を降りて一階から。


「一階は騎士様方の訓練場と客室、洗濯部屋など・・・それから食堂になってます。食堂のメニューは日替わり・・・だったのですが、今は訳あって毎日カレーうどんです」

「え、それは流石に嫌ね」

「うん、飽きそうです」

「わたしは三日が限界かも」


 せめて、たまにカレーライスを挟んで欲しいよね。わたしはお城ではあんまり食事をしなさそうだな。食事が不要な体で良かった。毎日カレーうどんなんて食べたら体がカレー色になっちゃうよ。


一階の廊下を歩いている途中で、ジェイクとすれ違った。お城の人に案内されているようだ。わたしはスッとポケットの中に潜ってお城の人から姿を隠す。


「あっ、エリザじゃない! 後ろのが昨日言ってた新人メイドちゃん?」


 ジェイクの案内をしていた人の声・・・だよね。明るい女の子の声だ。


「そうですよ。ネリィさんと、その弟さんのリアン君、それから・・・」

「それから?」

「いえ、何でもないです」


どうやら、ジェイクの案内係の少女はエリザの知り合いみたいだ。


「そちらの・・・大きな彼は?」

「ジェイクさんよ。新しく入る予定の料理人で、何でも大人数の料理を作り慣れてるそうなのよ。それになんと! 他の地方の出身よ!」

「それは良かったですね。速くカレーうどん地獄から抜け出してほしいですね」

「本当にね。毎日カレーうどんを食べたせいで肌がカレー色になっちゃったわ」

「・・・元から出ですよね。つまんない冗談を言ってないで仕事に戻ってください」


 え、つまんないかなぁ? わたしは思わず吹き出しそうになっちゃったけど。


ポケットの中で必死に笑うのを堪えながら震えてたら、ネリィにポケットの上から軽く押さえられた。


「それじゃあ私は案内に戻るから、またお昼に食堂でね。ちなみに今日のメニューはカレーうどんよ」

「知ってますよ」


一階の案内が終わり、階段を上がる。わたしはポケットから顔を出して周囲を見渡す。またリアンと目が合った。ニコッと笑い合う。可愛い。


「ジェイクいたね」

「そうね。色々と気になることはあったけど、カレーうどんとか、カレーうどんとか・・・。でも、とりあえず、無事にお城に侵入出来たみたいで良かったわ」


わたしとネリィのそんな会話にエリザが首を傾げる。


「うん? あの料理人の方、お仲間なんですか?」

「そんな感じです」

「そうなんですか。・・・一緒の部屋にすることも可能ですけど、どうしますか?」


 それは助かるかも!


・・・と、思ったわたしと違って、ネリィはしっかり乙女していた。


「一緒の部屋はちょと・・・まだそこまでの仲じゃないし・・・」

「あ、いえ、すみません。誤解を招く言い方でしたね。先程、リアン君のお部屋だと紹介した所です」

「ああ、あの続き部屋になってる所ですか。それなら、ありがたいです」

「では、適当に理由を付けて部屋を変えさせますね」

「ありがとうございます」


 ・・・ん? 待って、今ネリィまだそこまでの仲じゃないって言った? まだ? ネリィの中ではそのうち一緒の部屋で寝るような関係になるご予定が!?


ポケットの中からネリィを見上げて一人でドキドキしているわたしを他所に、ネリィ達は段数の多い階段を上り、次は二階の案内だ。


「二階は、西側が私達使用人のお部屋になっていて、東側が騎士様のお部屋になっています。中央には大きな浴場がありますが、ほとんどの時間が男性専用になっているので、お部屋にあるシャワーを使った方がいいですね」


 ふむふむ、浴場は騎士専用みたいな感じなんだね。間違って入って筋肉達に囲まれないようにしないと。


「ソニアちゃん? 何でそんなニヤニヤしてるの?」


 え? してないけど?


わたしは首を傾げた。


「三階は、お貴族様の執務室、会議室、資料室、等々で、詳しいことは明日の仕事中に教えますね。・・・あ、それと、もし廊下でお貴族様とすれ違った時は端に寄って頭を下げてください。これはネリィさんだけでなく、リアン君もですよ」

「は、はい! 分かりました!」

「いいお返事ですね」


エリザが屈んでリアンの頭を撫でる。


 いいなぁ。わたしも人間サイズだったら、絶対にリアンの頭を撫でまわしてたのに・・・。


その後、何人かの貴族とすれ違う度にわたしがポケットに潜って、ネリィ達が頭を下げながら四階の最上階に向かう。


「四階は、王族のお部屋と、謁見室、それから、王の執務室、あとは私にも分からない部屋が何部屋かあります。一応案内しましたが、ネリィさんが来ることは滅多に無いと思いますよ」


四階の廊下を歩いていると、わたし達の進行方向から何人かが歩いてくるのが見えた。わたしはポケットの中に潜る。エリザが少し強張った声で「国王陛下です」と呟いた。


 王様? これって戦争のことを聞き出すチャンスなのでは!?


ポケットから飛び出そうとしたら、ネリィに慌てて頭を押さえられて、ポケットに押し込まれる。


コツコツコツ・・・


複数の足音がこちらに近付いてくる。


「む? そこのメイド・・・いや、今はメイド長だったか? 何故ここに子供がいる?」


 この偉そうな喋り方からしてたぶん王様だよね。子供ってリアンのことかな? リアンに何かしたら電撃パンチをお見舞いしてやろう。


「はい、陛下。この子は新しくメイドになった者の弟で、今は城内の案内をしていました」

「そうか、あまり子供を連れて城内をウロウロするな」

「申し訳ございません。以後、気を付けます」


コツコツコツ・・・


複数の足音が遠ざかっていく。ポンポンとネリィに軽く叩かれた。わたしはポケットから顔を出す。リアンと目が合った。ニコッと微笑んだけど、リアンは微笑み返してくれなかった。どこか怯えたような顔をしている。


「リアン、どうしたの?」

「あ、ごめんなさいソニアさん。何でもないです」


一瞬だけ笑ってくれたけど、すぐに笑顔が消える。


「ダメよ、リアン。お姉ちゃんの前で隠し事はしないの」


ネリィがリアンの頭に手を置く。


「ちょっと、視線が怖くて・・・」

「視線って、王様の?」

「ううん、その周りの人たちの」

「あ~、確かにあの目は気色悪かったわね。何人か別の地方の人もいたし。エリザさん、あの人たちって何なんですか?」

「話せることは、そう多くないですが・・・」


エリザが周囲に視線を向ける。


「このお話は、お部屋に戻ってからにしましょう」

「そうですね」


エリザと一緒に二階の部屋まで戻る。扉の前でエリザは立ち止まった。


「私はこれから仕事に戻りますが、ネリィさん達は今日はお部屋で休んでいてください」

「え、大丈夫なんですか? あたしも働きますよ」

「いえいえ、お気遣いなく。先ほどのお話は仕事がひと段落したあとにお部屋に向かうので、その時にでもしましょう」

「やっぱりあたしも・・・」


それでも食い下がろうとするネリィに、エリザが仕方なさそうに微笑む。


「正直なところ、今日はもうネリィさんにお仕事を教える余裕が無いんです」

「あ、分かりました。明日から頑張ります・・・」

「そうしてくれると助かります。あ、食堂は何時でも使えますからね。二階まで持ってきてお部屋で食べることも出来ます。詳しくは食堂にいる料理人に聞いてください」


そう言って、エリザは早足で立ち去っていった。わたし達は部屋の中に入って各々寛ぎ始める。


「ぷはーっ! 何か疲れたね~。気疲れ? みたいな感じで!」


ポケットから飛ぼ出してベッドの枕の上にダイブしたら、ネリィにガシッと掴まれて膝の上に乗せられた。


「ソニアちゃんはずっとポケットの中に入ってただけじゃない」

「妖精には妖精の悩みがあるんだよ」

「適当なこと言って~」


ウリウリと頭を撫でられる。


 なんか扱いが小動物みたいになってない?・・・なってないよね? 気のせいだよね。


その後、暫く使われていなかったのか少し埃っぽいお部屋を3人で掃除したり、ネリィが食堂から持って来たカレーうどんを食べたりしながら過ごしていた。窓から夕陽が見え始めた頃、隣の部屋からゴソゴソと物音が聞こえて来た。


「ジェイクかな?」

「そういえば、エリザさんが適当に理由を付けてジェイクさんの部屋を隣にするって言ってたわね」

「わたし見てくるね!」

「リアン、扉を開けてあげて」


扉に近いところにいたリアンがキィィと扉を開けてくれる。わたしは扉が開ききる前に狭い隙間を通って部屋に入る。


「ジェイク~?」

「あ、姉御!?」


ジェイクはパンツ一丁だった。見事な筋肉美がわたしの視界に飛び込んでくる。


「あっ・・・ありがとう! じゃなくて、ごめん!」


どうやら着替え中だったみたいだ。片手で服を持っている。背中に大きな火傷の痕があるのが気になるけど、それも含めて綺麗な筋肉だった。


 とりあえず、良い筋肉でした。眼福です!


わたしはビシッと腰を九十度に曲げて、そのまま後ろ向きに飛んでススス・・・っと元の部屋に戻った。


「どうしたのソニアちゃん。ジェイクさんは?」

「うん、いたよ。着替え中だった」

「あら」


少し時間が経って、コンコンとノックをしてからジェイクが部屋に入ってきた。


「姉御、さっきは見苦しい物を見せてしまってすみません」

「いえいえ、見苦しいなんて・・・とんでもないです」

「何ですかその口調」

「気にしないで」


ジェイクは頭にクエスチョンマークを浮かべながら、窓際の椅子にドカリと腰を下ろす。


「まさか初日から働かされるとは思わなかったよ・・・。あっ、ネリィちゃん。メイド長から伝言で、『今日は仕事が片付かないのでネリィさんの部屋に向かえません』だって」

「そう・・・。なんだか申し訳ないわね。明日からは頑張んないと。お仕事も、情報収集も」


そう言ったネリィを、ジェイクがじっと見つめる。


「なぁ、ネリィちゃん」

「なに?」

「メイド長に俺のことなんて話したんだ?」

「え? えーっと、仲間? みたいな感じって言ったわよ」

「そうか、そうだよな」


ジェイクがこめかみを抑えて「はぁ」と溜息を吐いた。


「何さジェイク。わたし達と仲間じゃ不満なの?」


「むぅ」と唇を尖らせて、ジェイクの顔を覗き込む。


「いや、そうじゃないんですけど。メイド長とサリアさん・・・今朝に城を案内してくれた料理人の会話を聞いていたんですけど、どうやら俺とネリィちゃんが好き同士で、恋人同士だと思われているみたいなんです」

「え!? ジェイクとネリィって付き合ってたの!?」


 まさか既にそんなに進んでたなんて!


目を丸くして二人を交互に見るわたしに、ネリィが慌てて首を振る。


「いや、違うわよソニアちゃん! きっとジェイクさんが隣の部屋を使っても違和感が無いように、エリザさんがそう言ったんだわ!」


ネリィがうっすらと顔を赤く染めて、やや早口でそう言った。


「ごめんなさいジェイクさん。あたしが気軽にエリザさんに頼んだせいで・・・」

「いや・・・実際、部屋が隣同士になって助かるからな。ナイス判断だぞ」


ネリィは嬉しそうにはにかんだ。


それから、ジェイクは一度部屋から出て食堂に向かい、三人分のカレーうどんを持って来てくれた。皆でテーブルを囲んでカレーうどんをすする。わたしはその周囲をふわふわと浮いて寛ぐ。


「そういえばジェイクさん。今日、案内中に王様を見たのよ」

「ごほっ、ごほっ、ど、どこで!?」


ジェイクが驚きのあまり吹き出した。危なくわたしにカレーの汁がかかるところだった。


「最上階の案内中にすれ違ったんだけど、結構若かったわ。それと、闇の魔石が付いたアクセサリーを大量に身に付けてたわね。胸元には心臓くらいの大きさのでっかい闇の魔石が付いたネックレスをしてたのよ。あれがおしゃれだとでも思ってるのかしら?」

「でっかい闇の魔石・・・?」


テーブルに箸を置いたジェイクが、思案顔でポツリと呟く。


「呪いの魔石か?」


 うわ・・・すっごい嫌なワード!

読んでくださりありがとうございます。料理人のジェイク、メイドのネリィ、みんなの可愛い弟リアン、癒し担当のソニアでした。

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