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99.見えてきたもの

宿の部屋の隅にあるテーブルを囲んで、ディル、ウィック、ジェイクが座り、コルト、ネリィ、リアンがベッドに腰掛ける。わたしはテーブルのど真ん中に鎮座したけど、皆に見下ろされて居心地が悪い。早々に後悔。


「まずは、どんな情報が欲しいのか、その情報はどこで得られるのか、それを明確にした方がこの先の歩き方も自ずと分かってくるんじゃないですか?」


恐らくこの中で一番まともでしっかりした性格のジェイクが、これからの行動の指針を分かりやすく言ってくれる。


「そうだねジェイク。わたしも同じことを言おうと思ってたよ」


ビシッとジェイクを指差して、「よく言った」と褒めてあげる。嬉しかろう、嬉しかろう。ディルがわたしに疑いの目を向けてくるけど、本当に同じようなことを言おうと思ってた。いや、似たようなこと・・・そんな感じのニュアンスのことを言おうと思ってた。


「で、 どんな情報が知りたいんですか?」

「はいはい! 戦争を終わらせられるような情報が知りたいです!」

「そんな都合の良い情報はないっす」


テーブルのど真ん中で元気に挙手して発言したのに、ウィックに速攻で拒否された。悲しい。


「でも、それに繋がる情報なら得られるかもしれないっすよ」


ウィックが慰めるようにわたしの頭をツンツンと突きながら言う。力が強くて少し後ろによろめいた。ネリィがわたしを突くウィックの手をバシッと弾いて攻めるように見て口を開く。


「ソニアちゃんが可哀想でしょ! それと、もっと分かりやすく言いなさいよ」


手を弾かれたウィックが「意外と力強いっすね」と手を擦りながら、分かりやすく説明を始める。


「まず知りたいのが、戦争の発端・・・つまり原因っす」

「そして、その原因の中心にいる人物、あるいは引き起こした人物の特定ですね」

「そんなのどっちかの国の王様に決まってるだろ」


ディルが腕を組んで厳めしい顔をする。わたしもディルの真似をして厳めしい顔を作って、「ふんす」と息巻く。ネリィとリアンに「クスリ」と鼻で笑われた。解せぬ。


「ディルの言う通り、どちらかの王様の可能性が一番高いですけど、もしその判断で動いて、実は違ってたら取り返しがつかなくなるかもしれないですからね」


ジェイクの言葉に皆が神妙な顔付きになる。


「確かに。勘違いでしたすみません、で終わるわけないもんな。でもその戦争の発端を作った人物を特定した後はどうするんだよ? お説教でもするのか?」


王様を正座させてプンプンとお説教をするディルを想像して、思わず「クスリ」と笑ってしまう。慌てて表情を取り繕うけど、リアンとバッチリ目が合った。凄く見られてる。


「まぁ、その人物をどうするかは姉御とディルの兄貴にお任せしますよ。俺達は姉御の手足として動くんです。どうするかは姉御達が決めてください」

「うん。わたしが言い出したんだもん。そこはちゃんと考えるよ。逃げない、わたし!」


腰に手を当てて、胸を張る。何故かディルに指で頭をぐりぐりと撫でられた。ディルに撫でられるのがなんだか一番心が暖かくなる。


少し雰囲気が和んだところで、ウィックがまとめに入る。


「まとめると、知りたい情報は戦争の原因、その中心の人物、その人物の背景・・・の3つっすね」

「まずは戦争の原因から順番に探っていくのが妥当ですね。町での聞き込みとかですかね」

「そうっすね。それが一番簡単っす。ただ、あまり派手に動くと目立っちゃうんで、聞き込みは最低限に留めておいた方がいいっす。それに、聞き込みだけだと信憑性が薄いっすからね」


 なんか・・・ウィックが凄く頭よさそうに話してる! 普段からそうしてればちゃんとイケメンに見えるのに。残念イケメンだ。


「オードム王国の時みたいに、またディルとウィックがお城に忍び込むか? お城なら質の高い情報が得られるだろ?」

「そうしたいところっすけど、ディルはもう顔が割れてる上にこっちの城は城門の一件があって警備が厳しくなってるっすからね~」


ウィックがチラッとわたしを見る。わたしは首を横に振る。


「ダメだよ」


 オードム王国の時は先にわたしが王様に牽制してたお陰でディルは怪我をせずに済んだけど、こっちじゃあそうはいかないもん。


「・・・っていうことなんで、まずは俺とジェイクの二人で街中で聞き込みをして、それで何か糸口が見つかればいいんすけど、もし何も収穫が無かったらどうにかしてお城に忍び込むしかないっすね」

「そっか、じゃあ行ってらっしゃい」

「え?」

「はい?」


バイバイと手を振るわたしを、ウィックとジェイクが口を開けてアホ面で見てくる。


「どうせ宿に居てもすることないんだから、今から行ってきなよ! ほら!」

「まだ見回りの兵士がたくさんいるんすけど・・・」

「少し休ませて欲しいんですけど・・・」


テーブルから飛び上がってウィックの背中を「うんしょっ」と押すと、二人はトボトボと部屋を出ていった。


「・・・珍しく人使いが荒いな。何かあるのか?」

「ん? 別に、ただ早く戦争を終わらせなきゃなって、あの戦場を見て思っただけだよ」

「だな、海賊達も頑張ってくれてるし、早めに解決したいな」

「うん!」


それから、部屋で皆で雑談したり、カードゲームをしたり、楽しく過ごしているうちにウィックとジェイクが帰ってきた。


「俺達が必死になって情報を集めてたってのに、あんたら何やってんすか」

「カードゲームだけど?」


 まぁ、わたしは体がちっちゃすぎて木で出来たカードを持てないから、ディルの頭の上に座って皆を眺めてただけだけど。


「姉御のキョトン顔を見れば悪気が無いのは分かるっす。分かるっすけど・・・」

「だって暇だったんだもの。ソニアちゃんの可愛さに免じて許しなさいよ」


ネリィがわたしの頬をぷにぷにと突きながらウィックを見上げる。


 可愛いだなんて・・・ネリィとリアンの方が可愛いよ。


「だっはっはっは、あんまり不貞腐れた顔すんなよウィック。部屋で陰鬱としてるよりは全然いいじゃねぇか!・・・それで、姉御。俺は今日の朝から働きっぱなしなんですけど、話は・・・」

「休む前に、先に話してね」

「・・・ですよね」


ジェイクがハハハと乾いた笑いを浮かべてドカッと椅子に腰掛ける。


「ごめんね。行く前もそうだけど、無理言っちゃって。話し終わったらゆっくり休んでね」

「気にしないでください。これくらい無理の内に入りませんよ」


ジェイクに続いて、ディルとウィックも椅子に座る。「ハァァァ」とおっさんみたいな息を漏らして。

そして、わたしがディルの頭の上からテーブルの真ん中に座ると、ウィックが報告を始める。


「色んな人に話を聞いたり、噂話に耳を傾けたりした結果、収穫はあったっす。・・・と言っても信憑性に欠けるものばっかりっすけど。その中でも俺が信じても大丈夫だと思ったものが3つあるっす」


ウィックが3本の指をビシッと立てる。


「1つは、戦争の原因っす。元はオードム王国の騎士団が砂漠を巡回中のセイピア王国の兵士に危害を加えたことが発端らしいっす」

「え、じゃあ、オードム王国の王様が始めた戦争ってことなのか!?」


ディルが「あの王様か!」と鼻息を荒くする。


「どうですかね。公にはそういうことになっているだけで、実際はセイピア王国側が張った罠の可能性もありますよ。オードム王国の現状から見て、俺はそっちの可能性の方が高いと思います」

「なるほどね。・・・2つ目は?」


ウィックが3本立てていた指の内、一本を折って話始める。


「そのセイピア王国の王様についてっす。数年前に先代の王が亡くなり、今はその息子のセルピスって言う王子が国王の座に座ってるんす」

「あたし知ってるわよ、その王様。とんでもない悪者だって噂が隣国のオードム王国まで流れてきてたわ」


ネリィがベッドの上で寝転がりながら、憤慨したように言う。


「いや・・・それが、その噂が流れるようになったのは戦争が始まる少し前くらいらしいんすよ。それまでは優しくて民想いの良い王様だったって皆が口を揃えて言ってたっす。国王に即位してからは定期的に民の前に姿を出してた王が、ある時を境にパッと姿を現さなくなったらしいっすよ」

「ある時ってどの時?」

「この国に他所の地域の人間が増え始めた頃・・・ですね」


 国に移住者が増えたことと、王様の闇落ちに何か関係があるのかな? それともたまたま? 分かんないや。


「うーん・・・考えても分かんないや。それで、3つ目は?」


 ウィックがもう一本の指を折って話始める。


「最後は前の2つに比べると重要度は低いかもしれないっすけど・・・たまに城門から大きな荷馬車が城に向かって走っていくらしいんすよ」

「・・・それだけ?」


首を傾げるわたしに、ウィックが「チッチッチッ」と指を振る。なんかイラッとした。


「まさか、問題はその中身っすよ」

「え・・・死体が入ってるとか?」


想像しただけでぶるっと震える。


「いや、兵士の遺体とかなら城に運ばれていくのもまだ分かるんすけど、その荷馬車の中から呻き声や物音が聞えてくることがあるらしいんすよ」

「え!? 死体が・・・動いて呻き声を!?」


 なんて恐ろしい! 町に聞き込みに行って、まさかそんなホラー話を聞かされることになるなんて思わなかったよ!


「いや、そんなわけないだろソニア。死体じゃなくて、生きてる人間を運んでるってことだろ? ウィック」

「そうっす。死体が動いたり喋ったりなんてあるわけないっす」


 あ、そうですか。そうですよね。異世界だしゾンビみたいなのが居てもおかしくないと思ったんだけど、ありえないらしい。


「つまり、戦場から人間を拉致しているってことです」


ジェイクがそう言いながら、ベッドで仲良く寝転がっているネリィとリアンを見る。


「ん? なによ?」

「ネリィちゃん、リアン君、君達のお父さんを戦場では見つけられなかったと聞いた。もしかしたら、セイピア王国に攫われたんじゃないか、と思うんだ」


ネリィとリアンがバッと起き上がり、揺れる瞳でジェイクを見つめる。


「あまり期待を持たせるのも良くないと思ったんだけど、その可能性があるなら知らせた方がいいと判断したんだ。君達のお父さんのことだからね」

「ううん、知らせてくれてありがとう! ジェイクさん」

「ありがとうございます。ジェイクさん」


二人がぺこりと頭を下げる。


 うんうん、希望がある限り追いかけ続けなきゃね! わたしも全力で情報を集めよう!


「やっぱりお城に行かなきゃだね! わたし、今から行って・・・びゃん!!」


テーブルから飛び上がった瞬間、ディルに羽を掴まれた。


「ディル! 羽は掴まないでって言ったことあったよね!? 」


背中を気にしながら、涙目でディルを見上げて睨む。


「うっ・・・悪かったよ。でもソニアも悪いからな? 今、何をしようとしてた?」

「お城に行こうとしてました!」


ビシッと敬礼する。


「元気に変なポーズで言ってもダメなものはダメだからな!」

「だってぇ・・・」


 オードム王国のお城と違って、セイピア王国のお城は土で出来てるわけじゃないし、窓もちゃんとある。こっそり忍び込んで、危なそうだったらすぐ逃げれば何とかなるもしれない思ったんだけど・・・。


「確かにソニアなら大丈夫かもしれない。でも、だからってソニアを危険な目に合わせて良い理由にはならないんだ。・・・俺の中では」

「それには俺も賛成っす。色々と聞いた噂の中には、大妖精に関する噂も多々あったっす。どれもこれも信憑性に欠ける噂だったっすけど、火のない所に煙は立たないっすからね。さすがの姉御でも万が一があるかもしれないっす」


 ぐぅ・・・正論だよ。わたしは大人しくしていよう。


どうしようか、とテーブルを囲んで皆が思案顔になって黙る。すると、暫くわたし達の会話を聞いていたネリィが立ち上がった。皆の視線がネリィに集まる。


「ねぇ、あたしがお城に潜入するわ」

「お姉ちゃん!?」

「ネリィちゃん!?」

「「ネリィ!?」」


全員が鳩が豆鉄砲を食ったような顔でネリィを見る。


「ソニアちゃん、今日の朝出掛けた時にお城の近くまで行ったでしょう? その時、お城で働く人募集中っていう立札を見たじゃない?」

「見たけど・・・まさか」

「うん。あたしは顔が割れてないし、この地域の人間だから怪しまれないハズ。だからあたし、お城で働くわ!」


ネリィはグッと拳を握って、覚悟を決めた目でわたし達を見つめる。


「だって、もしかしたらお城にお父さんがいるかもしれないんでしょ? 他人事でなんていられないわ。何を言われてもあたしは動くわよ!」

「・・・そこまで言われちゃあ、何も言えないっすね。それに実際のところ、ネリィがそうしてくれると助かるっすから」

「でも、お姉ちゃんだけじゃ心配だよ。僕も行く」


リアンがきつく握られたネリィの拳をそっと両手で包む。


「リアンも一緒だとあたしも心強いけど、さすがにこんな小さな子を働かせてくれるとは思えないわよ」

「でも・・・」


リアンが瞳を潤ませてネリィを見上げる。


「うーん、そうね。さすがにあたしも一人じゃ心細いし・・・」


パチッとネリィと目が合った。


「ソニアちゃん、一緒について来てくれる? 今朝みたいにあたしの服の中に隠れたままでいいから。それならソニアちゃんも1人でお城に突入するよりは安全でしょ?」

「うん! いいよ! ・・・ね? ディル」

「・・・うぅ、うん」


ディルが眉間にしわを寄せて、難しい顔で曖昧な返事をする。


「いいんだよね!?」

「もう俺が何言っても行く気なんだろ? だったら今さら止めないよ。ソニアの好きにしたらいい」

「うん! ありがとうディル! そういう、なんだかんだとわたしを理解してくれてるところ、大好きだよ!!」


 パチッとウィンクする。いつもより笑顔マシマシで。


「お、おぉ!? そ、そうか。もう長い付き合いだからな! ハ、ハハハ・・・」


 もう、真っ赤になって照れちゃって! 褒められると、すぐに赤面するところは昔から変わんないよね!


ネリィが緊張が解けた柔らかいような、生暖かいような目でわたしとディルを見てくる。こんな現状でもいつも通り振舞えるネリィは凄いと思う。そして、何故かコルトが枕に突っ伏していた。

読んでくださりありがとうございます。赤面するディル、ニヤニヤが止まらないネリィ、心穏やかじゃないコルト、そんな3人の中心にいる能天気なソニアでした。

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