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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第1章 暇な妖精と忙しい少年

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9.そしてお店の外へ

「クソッ・・・あの子供か!どうやって来たんだ!!」


アボンは焦りを感じさせる声でそう言い、伯爵とわたしを交互に見る。


「邪魔が入ったようだな。対応はそちらに任せる。私は先に妖精を持ち帰らせてもらうぞ」

「ちょっ・・・お待ちください!!」

「心配するな、金なら後日届けさせる。それまでに面倒ごとは片付けておけ」

「・・・っ」


伯爵はわたしを持つ手とは反対の手で赤い石のような物を持ち、早歩きで1階へと続く階段を上り始めた。


「妖精さん!!どこだーー!返事してくれーーー!!」


ディルのそんな声が建物中に響く。


「なんなんだ、あの子供は!どこ行った!?」

「2階だ!2階に行ったぞ!」

「いや、3階にいる!」

「1階に戻ってきたぞ!」

「は!?正確な情報をよこせ!」


1階は混沌としていた。お店の人があちらこちらと走り回って、必死にディルを探している。

伯爵はチラッと辺りの様子を見て、1階に邪魔者がいないことを確認すると、玄関まで腕を振って走り出した。わたしを持ったまま腕を振って・・・


「痛い痛い!おじさん!わたしのこと忘れてない?両手で赤子を抱くようにボトルを持って走って!」

「誰がおじさんか!!私はまだ20代だぞ!!赤子など抱いたことないわ!」

「ディル!わたしはここにいるよ!気持ち悪いおじさんに連れていかれちゃうよー!!」

「この・・・妖精が・・・!」


伯爵は「黙れ」と言わんばかりにボトルを振り回してくる。


 うぅ・・・目が回るよ・・・


「妖精さん!ここか!?」


玄関目前まで来たところで、外から人が入って来た。誰かと思えばディルだった。


 え!?ディル?なんで外に?2階やら3階にいたんじゃ・・・?


「んな!何故外から!?」

「あ!妖精さん見っけた!!助けに来たぜ!」


ディルがわたしに向けてグッと親指を立てる。今わたしは伯爵に胸の前で持たれている状態なので、はたから見れば伯爵に親指を立てている風に見えるかもしれない。


「ディル!このおじさんに連れていかれそうなの!」

「おう!まかせておけ!妖精さんに酷いことするようなやつは俺がぶん殴ってやるよ!」


ディルが伯爵に向かって走り出す。


「このっ・・・平民の子供風情が調子に乗るな!」


伯爵が持っていた赤い石のような物をディルに向けた。


 さっきの赤い石?何かは分かんないけど、アレをディルに向けてる時点でなんとなく察しがつく。


「ディル!気をつけ・・・・」

「燃えろ!小僧が!」


案の定、赤い石から、昔ゲームやアニメなどで見たモンスターのブレス攻撃のような炎がディル目掛けて発射した。伯爵に向かって走っていたディルは、突然目の前に現れた炎に「なんだ!?これ!?」と叫びながら、直撃を避けるために急ブレーキをかけて横に飛んで、転がった。


「・・・いってぇ」

「ふん、まぁいい、その足じゃあ追ってこれまい」


避けた時に足を痛めたのか、手で足を押さえたまま立ち上がれないでいる。


「この場にいる全員でその子供を抑え込め!」


後ろの方からアボンがお店の人達に命令を下す。1階まで追って来たみたいだ。

その場にいた5人くらいの大人達に上から抑えられたディルは、避けた時に足を痛めたのもあり、抵抗できず動きを封じられた。


「ぐっ!・・・どけろ!はなせ!」


ボトルのガラス越しに、顔を床にたたきつけれて額から血を流しているディルが見える。それでもわたしを助けようと必死に起き上がろうとしては押さえつけらている。 


 あぁ、駄目だ。このままじゃ、あの子が潰れてしまう。わたしを助けようとして。・・・村を復興させたら両親を探して連れて帰ると言っていた。わたしのせいであの子の未来を潰してしまうのは嫌だ。わたしのことを気にしなければ、足の怪我さえ回復すれば、きっとディルなら・・・ディル1人なら逃げだせるはず・・・。


「ディル!わたしは大丈夫だから!無理しないで!」

「そんな・・・こと・・言うなよ!!俺が・・・絶対、助けるから・・・っ!」


ディルは今にも泣きそうな顔でわたしを見て叫んだ。


「アボン、そこの子供はお前達に任せる。私は早々に国に帰らせてもらう。金のことは心配するな、必ず払う」


伯爵は早口で要件を言うと足早に玄関に向かう。


「あ、お待ちくだ・・・・」

「待て!おじさん!妖精さんを・・・・」

「わたしのことはいいから、ディルは頑張ってここから逃げて!」


わたしは伯爵の手によって、お店の外にでた。


「クソッ・・・俺は・・・・」


伯爵は狭い路地を駆け足で進んで、息を切らし始めた頃、大きな通りにでた。もう夕暮れ時だというのに、たくさんの馬車や人が行き交っている。

わたしと伯爵が出てきた路地の横には、ひと際大きな馬車が止まっていて、伯爵は周りから浮かないように「ふう・・・」と息を整えて、わたしを人の目に触れないように注意を払いながら、大きな馬車に向かってゆっくりと歩き出した。


「お早いお戻りで、ザリース伯爵様。」

「向こうで少々トラブルがあってな、急ぎで馬車を出してくれ。川下の門から出る」

「かしこまりました。」


馬車が走り出した。わたしは今、馬車の中で伯爵の対面の席に置かれて2人きりだ。


「ふへへ・・・」

「・・・」


伯爵は舐め回すようにわたしを見て、気持ち悪く笑う。


「ふっへっへっへ・・・」

「・・・」

「ぶふっへっへっへ・・・」

「・・・」

「ぶふぉ・・・」

「うるさい!!」

「うるさいとは何だ!この・・・」


ガコン


馬車の御者側に付いていた窓が開いた。


「ザリース伯爵様、検問です!」

「それがどうした?検問など私の名前を出せば問題ないだろう?」

「いえ、門の検問ではないのです」

「は?」

「国の騎士団が私たちの前後を塞ぎ、検問をすると言って馬車の行く手を塞いでいます。身動きが取れません」

「んな!?・・・アボンのやつが裏切ったか??」


 よく分かんないけど、たぶんわたしにとって好都合なことが起きてるに違いない!


「ふん!ざまぁみろ!!」


ベーっと舌を出して挑発する。けど、伯爵はそんなわたしに構ってる余裕はないみたいだ。


「いや・・・裏切ったにしても動きが早すぎる。では何故・・・?」

「どういたしましょう?」

「とりあえず私が出る」


伯爵はわたしを内ポケットに無理やり詰め込んで馬車の外に出た。


 やめて!わたしを服の内側に入れないで!なんかやだ!


「これはこれはザリース伯爵殿ではないですか、何やらお急ぎのようでしたが、どうなさいましたか?」

「コンフィーヤ公爵!?国王の側近である貴殿が何故?」


 え?この声に国王の側近って・・・もしかして最初に緑の森の前で村長とかと一緒に居た・・・?


読んでくださりありがとうございます。ディルは頑張ってます。ディル視点のお話も今後投稿する予定です。

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