最終話
「リア、花壇に水やりしてきてくれる?」
「わかった。あ、今日のお昼ご飯はなぁに?ルピィ」
「パン屋の奥さんからもらったライ麦パンと、ブルーベリージャムが戸棚にあったはずだからそれにしましょう」
「はーい。じゃあ用意よろしくね」
パタパタと駆けていくリアトリスを見送ると、ルピナスはパンをカットしトースターで軽く焼き、戸棚からジャムを取り出してそれぞれテーブルに置いた。
そして花瓶をテーブルの真ん中に置くと、魔法で赤いゼラニウムを出して生けた。
「よし、今日も綺麗な食卓だわ」
「ルピィー、終わったよー」
「こっちもちょうど用意が終わったところよ。手を洗ってきて、ご飯にしましょう」
パタパタと軽い足音と共に、リアトリスが歩いてきて、テーブルの花を見て微笑んだ。
「赤いゼラニウムだ。花言葉は確か…」
「『君ありて幸福』よ」
「僕もルピィといて幸せだよ」
「私も幸せよ」
2人で席につき、パンにジャムを塗りながら他愛ない話をする。
「リア、一人称『僕』ってあざとすぎない?」
「えー?でも敬語はやめようって言ったのはルピィだよね?敬語やめたのに一人称が『私』だとなんか見た目と合わなくない?」
「だとしても『僕』はどうかと思うけど」
パンを1口かじりながら、ルピナスは首を傾げる。
「うーん。でもしっくりくる一人称が無いよ。見た目が成長するまでは『僕』のままでいく」
元王族らしくないワイルドな食べ方でパンを口につっこみながら、リアトリスは笑った。
「ならあと10年くらいは『僕』のままね」
「10年なんてすぐだよ」
「そうね。人間は歳取るの、早いものね」
少し寂しそうにするルピナスに、リアトリスは大丈夫だと微笑んだ。
「僕はそんなすぐに死なないよ。今ルピィの本で古代魔法を勉強してるんだけど、肉体年齢を止める魔法があって、きっとそれを身につけてみせるから!」
ルピナスは若干の呆れを声に乗せながら言った。
「古代魔法って、あのアホみたいな魔力量でゴリ押す魔法?無茶しないの。あれは普通の魔力量しか持たない人には扱えないわ」
でもリアトリスは自信ありげに胸を叩いた。
「普通の人にはでしょ?僕、これでも元王族だよ。魔力量は歴代最高に匹敵するとも言われてた潤沢な魔力量なら、できると思わない?」
やれやれとため息を吐き、ルピナスはリアトリスの額を指で弾いた。
「いっったぁぁあ!」
「まったく、すぐ突っ走るんだから。そんな危ない真似しなくても大丈夫よ。あなたが死ぬ時は、私も消えるわ 」
「でもルピィは、生きようと思ったらずっと生きられるのに…」
「あら。あなたが死んで生まれ変わって私を思い出すのに250年もかかってるのに、また私を待たせるつもり?言ったでしょう、私、もう待つのは懲り懲りなの。だからもう次はいらないの。あなたが最後の恋人よ」
ルピナスはリアトリスを抱き締めた。
リアトリスはなんとも言えない表情だ。
「喜んでいいのこれ??」
「勿論よ。私が最後に見つけたのは、250年越しの初恋の人なんだから」
リアトリスはボンッと音がしそうな勢いで顔を真っ赤にして慌てだした。
「はつ!?え、ぼ、僕が!?ルピィのはつ、はつ、初恋!?」
「そうよ。そんなに動揺すること?」
「だだだだだって知らなかったから!」
「そりゃあわざわざ言わないでしょ。私だって照れちゃって恥ずかしいわ」
ふふふっと笑うルピナスは魔女らしい魅力で。
リアトリスはぷしゅうと音をもらして気絶した。
「え、リア?ちょっとリアー?」
ルピナスは気絶してしまったリアトリスをベッドに運び、ちょっと申し訳なくなった。
「まさか気絶するとは思わなかったわ」
うーんと呻くリアトリスの頭を撫でながら、ルピナスは呟いた。
「……癖って、魂にくっついて来るのかしら?」
まあいいかと、すやすや眠る恋人を優しく見つめる。
「どんな性格でも、どんな姿になっても、最後まで愛を送るわ。花言葉を添えて、ね」
ルピナスは魔法でブルースターを出すと、そっとリアトリスの枕元に添えた。
ブルースターの花言葉は『幸福な愛』
2人の終わりがどうなるかはまだ先だが、どうかこの花言葉のように、幸福な愛に溢れた日々が続きますように。
―魔女はもう、泣かなかった―
END
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。