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だから魔女は泣いたのだ  作者: kurogane
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ルドベキア王国。

自然豊かで平和で穏やかな国に、千年もの時を生きる魔女がいた。

腰まである薄紫色の髪、若草色の瞳を持ち、常にカラスのような黒い帽子とローブを纏い、森の奥に独りでひっそりと暮らしていた。


魔女は草花に魔力を込めることで薬を作る。

傷薬に熱冷まし、鎮痛薬、日常で必要になるものなら大抵は作ることができた。


人々は魔女の薬を求めて森にくる。

街に行けば医者はいるが、診療代や薬代がとても高く、余程重い病でない限りそちらに行くことは無かった。

魔女が薬の対価に要求するのはいつだって花。

道端のたんぽぽ1本でも喜んで受け取った。


ある日、グレートボアと戦い負傷したという男が魔女を訪ねてきた。金色の短髪に青い瞳を持つ男は名をスイセンと言った。


「花を対価に薬を作ってくれるというのは貴女ですか?」


「えぇ、そうよ。花ならなんでもいいわ」


「良かった。花が気に入らないと断られることは無さそうで安心しました」


男が魔女に渡したのは紫色の縦に長い花だった。


「ルピナスね。私と同じ名前の花だわ」


「へぇ、魔女様はルピナス様というのですか」


「えぇ。みんな私の名前なんて聞いてこないから、名乗ったことはないけれど」


「こんなに美しい名前なのに知ろうとしないとは、なんとも勿体ないことをしますね」


男が真面目くさった顔でそんな事を言うものだから、魔女は花に魔力を込めながら小さく笑ってしまった。


多めの傷薬を男に渡し、魔女はひらひらと手を振った。


「さぁ、もう用は済んだでしょう。さようなら」


「また来てもいいですか?」


「薬が入り用ならいつでもどうぞ。ただし、対価を忘れないように」


「わかりました。ではまた来ます、ルピナス様」


男は綻ぶように微笑むと森を出ていった。

魔女は首を傾げるだけで特に気に留めず、日課の花壇への水やりをするのだった。



3日後―



森の奥には再び男の姿があった。


「ルピナス様、こんにちは。今日は化膿止めを下さい。あ、これ、今日の対価です」


男が差し出したのは紫色のライラックだった。


「ありがとう。そこの椅子に掛けて少し待っていてちょうだい」


仄かな明かりと共に魔女の手から魔力が零れ、草花が薬に変わる。


「はい、化膿止め。じゃあね」


「ありがとうございました、ルピナス様。それではまた」


何が嬉しいのか、男はニコニコと帰っていった。

魔女は首を傾げるばかりである。



それからひと月の間に男は10回以上魔女を訪ねてきた。頭痛腹痛腰痛の薬、目薬、抗炎症剤などなど。

男が求めるものは様々だった。

そして持ってくる花。赤いゼラニウム、紫のパンジー、紫のスミレ、リナリア。

魔女は花を愛するが故に花言葉にも詳しい。

どの花も恋に関連する花言葉を持つが、男が知っていて持ってきているとは思えない。

偶然だろうと片付け、魔女は花壇の雑草をぷちぷちむしっていく。

それでもちらりとリナリアを見てしまったのは、多少なりともあの男の事を気に入っているからだろうか。

魔女は思考を止めた。


(リナリアの花言葉は『この恋に気付いて』)

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