入院食評論家
○○市の△△病院の特長は、作り置きが多く副食として続けて同じおかずが出る事があります。先月は夕食に三日連続で、温め直しの同じ煮物が出ています。また「ブロッコリー何トン仕入れたんだ!」と思う程同じ食材に味の変化を付けて使用する傾向があり、直売店などと特別な契約をして、コストダウンに役立てている様です。メインの魚料理は種類も多く、骨抜き等細かな仕事が丁寧、煮魚のソースも美味しい逸品です。
私の名前は杉田いずみ。数々の病院の入院食を評価し紹介している。私は幼い頃から強い痛みが身体中を包み普通の生活は出来ない。内科、外科はもちろん産科、皮膚科まであらゆる診療科に入院し、検索するが原因の特定は出来ず病院をたらい回しされている。そこで出る入院食をSNSで紹介したところ入院食評論家と呼ばれ、入院食=健康=ダイエットのめぐりで話題になってしまった。
そして実は私は杉田かえで、いずみの姉である。私達は一卵性双生児で、いずみは出産の時に何処かの神経を傷つけて障害を持ったと聞いている。私はいずみから毎日メールを受け取り、その情報を編集して、ガイドブックを作ったりレシピ集にまとめたり、時にはいずみの代わりに姿を隠してコメンテーターの様な仕事もしている。
今日は新しいレシピ集が仕上がりほっとしている。コンビニへ遅めの昼食を買いに行った帰り、ポストに封筒が入っていた。意外にも警察署からの封筒の中には『三年前お預かりしたいずみさんの私物を返却します』とあった。中には私といずみの写真が入ったペンダントと、子供の頃使っていた腕時計が入っていた。これは確かにいずみが大切にしていた物だった。これはいったい何なのか、封筒を送ってきた警察署に問い合わせると『それは三年前に▲▲病院の崖下で自殺なさったいずみさんが入院時に持っておられた私物で、担当者が返却し忘れていたものです』
との返事だった。どう考えても、いずみ、自殺、三年前、が直線上に並ばない。電話を前に座り込んでいる私の前にいずみが座っていた。
かえで「私はいずみじゃないよかえでだよ」
ひとみ「あなたがかえで、私が三年前自殺したいずみ?
」
かえで「そう。あなたは自分の身体を見捨てて自殺したの、私はもちろん悲しかったけど、あなたが解放されて嬉しくもあったの」
いずみ「私は三年間何をしていたの?具体的な事は何も覚えて無い」
かえで「あなたはずっとここにいたわ。私を見て自分が編集する気分を味わっていたみたい。私はこの部屋で何度もあなを見たよ」
いずみ「でも、私が居なくなって入院食の情報はどうやって入手しているの」
かえで「友人で保険関係の人がいて、入院患者の情報があると、その患者さんと電話で交渉してレポーターになってもらうの、データは今までどうりメールでやり取りしてる。あなたは入院食しか食べた事がないから意見が均一だったけど、一般の人は入院食と外食と比較しがちで、編集に苦労してるよ」
そういえば、あの激痛はもう感じない。自由に外を歩き、好きな本を読んだり、映画を見たり、私は解放されている。
私は姉の新しいレシピ集のタイトルを見て微笑んだ。
『ソーセージの幸せレシピ』