オーガ
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新しい金等級が誕生したらしい。
金等級に上がったのはザザも顔だけは知っている男だ。
アリクス王都冒険者ギルドでは良くも悪くも有名な男。
ザザとしてはその男に何かを思う事はない。
何と言っても交流がないのだから。
王都ギルドには多くの冒険者が所属しているが、件の男と交流を持っている者といえば限られてくる。
ザザはその限られた一人ではなかった。
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リリスを抱きに行く金がない。
いや、正確にいえば、リリスを抱きに行けば宿代はおろか飯代すらも無くなる。
オーク数匹ではその程度だ。
リリスは高いのだ。
ザザはため息をついた。
仕事の気分じゃないが先立つものが無いなら仕方ないとザザはギルドへ向かう。
依頼掲示板を見る。
手頃な依頼があった。
オーガだ。
四つ足ともオークとも比較にもならない怪物。
だが、ザザにとっては難しい相手ではない。
依頼票を剥がし、受付へ持っていく。
「ザザ様、お一人ですか?」
受付嬢が言う。
あくまで確認…といった口調。
ザザの実力を受付嬢は疑っては居ない。
何と言ってもザザは金等級なのだ。
「ああ」
ザザは短く答え、手続きを終えるとギルドを出て行った。
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ザザは荒地へ向かう。
オーガと言えばそこだ。
連中は乾燥地帯を好む。
以前は荒地は極めて危険な場所だった。
赤角と呼ばれる怪物が居たからだ。
しかしザザなら殺せた。
依頼を受けなかったのは、楽勝とは行かないだろうと思ったからだ。
戦わざるを得ない強敵は戦って殺す。
しかし、戦わなくていい強敵とは戦わない。
ザザの数少ないポリシーだ。
赤角は強敵だ。ザザから見ても。
だが只のオーガなら強敵ではない。
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ザザは首尾よくオーガを見つけた。
オーガは鼻が利く。
近寄ってくるザザをすぐに見つけてしまった。
オーガとザザが向かい合う。
(コソコソとした奇襲はしない)
(正面から奇襲をする)
ザザがゆらりと体を揺らす。
体の揺れは大きくなり、やがてはどういった理屈かザザの体自体が分かれていった。
ザザは2人に増え、3人に増えた。
身体強化の細かなオンオフ。それにより生まれる緩急を利用した足運び。
細かな身体制御と魔力制御が合一した時、その身はあたかも分身したかのように仮初のザザを敵手の目へ映し出す。
オーガの視点はあちらへ行ったりこちらへ行ったり定まらない。
当たり前だ、目の前の敵がいきなり増えたら誰だって混乱する。
そして混乱したオーガの首をザザが切り裂いた。
秘剣・幻踏殺景。
勿論この秘剣の名を知るものはザザ1人だ。
彼は自分で勝手に技名を付けて満足しているだけなのだから。
ザザはオーガをあっさり殺した。
報酬もそれなりにもらえるだろう。
その金は女を抱き、酒を飲む事に使ってしまうだろうが。