人間の敵
◇◇◇
「……という事があったんだ。荒削りだが末恐ろしい若者だよ」
ザザは仰向けになって寝ているリリスの胸の谷間の匂いを吸い込みながらボヤいた。ボヤきとは言うが別に不満があった訳では無い。
ルイゼ曰く、剣を見せるだけでも構わないとのことだったからだ。そうする事で本人が勝手に学んでいくだろうと。金等級は大体そんなものだと。
「…そうなんですね、お疲れ様でしたザザ様」
よしよしとザザの頭を撫でるリリス。
「ザザ様は魔族についてどう思いますか?」
不意にリリスがそんな事を聞いてきた。
ザザはぽやぽやした頭で考えるが、特に思う所はない。
「…そう言われてもな。ヒト種の天敵だとは言うが、同じ人間同士だって殺しあったり憎しみ合ったりしてるだろう。人種が違うだけじゃないのか、ああ、これは教会には言うなよ…」
そう、ザザにとっては人間も魔族も同じだ。
全て等しく価値が無い。
対人関係における価値とはその相手との関係性がどういうものかによる。
自分と関連の無い相手の価値など、人間も魔族も0だ。
ザザはそう考えている。
「例えばリリス、君が魔族だとする。そして俺の知らんどこかの国の何処かの人間が、俺に対してリリスという女は魔族だから殺せ、と言ってきたとする。俺はどうすると思う?」
どうするのですか、とリリスが問うと、ザザは鼻で笑った。
「その何処かの人間を斬り殺して仕舞いだ。君が俺に何か害を与えたか?与えていない。仮に過去、君が俺の知らない村1つなり滅ぼして、女子供も関係なく殺したとしよう。だが俺には関係ない話だ」
ザザがそういうと、リリスはザザの耳たぶをつまみながら口を開いた。
「ではザザ様、もし私が魔族だったとして、ザザ様のご友人を殺めたとしたらどうしますか?私を斬りますか」
ザザは再び鼻で笑った。
なぜならザザに友人などはいないからだ。
少なくともこの国には。
「今日はおかしな事ばかりを聞くなリリス。しかしその質問には答えられない。俺に友人が出来たら再び聞いてくれ…」
あら、とリリスは困り顔で苦笑した。
「1度しか言わない。俺はな、佐々 次郎という。極東の生まれさ。俺の生まれた国はもうない。魔族とやらではなく人間に滅ぼされたんだ。だから魔族が人間の天敵だとかいう言説は糞食らえだと思ってる。人間の敵は人間だ」
そういうとザザは腕を伸ばし、リリスのあれを自分の頭を挟むように位置修正し、その谷間に鼻を突っ込んでフガフガともがいていた。




